2000年に日本でネットスーパーが産声を上げた。インターネットの普及によりそのビジネスモデルが可能になると、大手スーパー各社はさらなる売上拡大を求め、次々にこの新市場へ参入した。同年に西友とイオン、翌年にイトーヨーカドーとイズミヤが相次いでサービスを開始。この00年代初頭の状況はネットスーパーブームと呼ばれている。

 その後もブームと呼ばれる時期が複数回訪れた。しかし、結論としては日本においてネットスーパーの定着はあまり進んでいない。その理由は、黒字化が困難なネットスーパーのコスト構造に起因するだろう。実際、08年に市場へ参入したサミットは14年に早期撤退を決めた。

 ネットスーパーの一般的なコスト構造を分解してみると、売上に対して商品の原価が70%、物流費が10%、人件費/施設費が15%、IT/宣伝費が5%となっており、本社の共通費なども配賦(はいふ)すると利益を生むことのできる余地がほとんど存在しない(図参照)。日本では配送料を支払うという価値観が十分に根付いておらず、なおさら黒字化を図ることが難しい状況だ。また、「生鮮食品は自分の目で見て買いたい」という需要も強く、ネットスーパーに懐疑的な視線を向ける消費者も多い。

 しかし、コロナ禍での生活を余儀なくされる中で、風向きの変化も期待できる。流通経済研究所が発表した調査によると、20年には首都圏のネットスーパーの利用者が前年同月比で約130〜160%に達したことが分かった。まさに今、「ネットスーパーブーム」が再来しており、各社の取り組みに注目が集まっている。アフターコロナにおいてビジネスとして定着し、黒字化を図ることができるか否かの正念場にあるといってもいいだろう。

●テクノロジーのイオン、配送料のUber

 19年にイオンがオカドと提携し、物流センターの建設をスタートしたことに象徴されるように、黒字化を狙う場合、効率化の追求によってコストカットを実現するという考え方は重要だ。イオンの巨大物流拠点においては、ロボットが24時間稼働し、50点の商品を約6分でピッキングから配送準備まで完了させられるという。

 楽天と西友が協働で運営する「楽天西友ネットスーパー」も専用物流倉庫を拡充する見込みであり、千葉県柏市、神奈川県横浜市の拠点に続き、千葉県松戸市にも新センターを構える動きだ。配送エリアの拡大、受注可能件数の増大に加え、大幅な省人化を企図する。以前からネットスーパー各社はセンター出荷型の採用や店舗バックヤードの効率化に取り組んできた。楽天西友ネットスーパーは20年1月、新たに設置する物流センターで約60%の省人化を図るとの方針を示している。

 Uber Eats Marketの存在にも注目が集まる。Uber Eatsの新しい食品・日用品専門店としてその第1号店「日本橋兜町店」が、 21年12月に営業を開始した。Uber Eatsの配達パートナーが、注文を受けた商品を自社の倉庫からピックアップし、指定の場所まで配達する仕組みだ。取扱商品は約1100点以上。食品、美容・衛生用品、日用雑貨に加え、生鮮食品や冷蔵・冷凍食品をそろえている。営業時間も午前7時〜午前0時までと長い。また、エリアを限定しているという理由が大きいものの、注文から最短30分程度で商品が届くという利便性も持ち合わせている。22年7月現在、日本橋兜町店に加え、世田谷赤提店、神宮前店と東京都内で配達網を拡大している。

 日本では配送料を支払う価値観が十分に根付いていないことが、大手ネットスーパー各社にとって黒字化を阻害する一要因になっている。しかし、Uber Eatsのプラットフォームを適用する以上、配送料に対する心的ハードルが低い若年顧客層を既に囲い込めているのは大きな強みといえるだろう。一方で中年層、高齢者層へのサービス普及が困難であることも予想される。一般的なネットスーパーの利用者に対して同じようなビジネスモデルが通用するわけではないというのは、注意が必要なポイントだろう。

 店舗でのオフライン購買でもなければ個別宅への配送でもない、「第3の買い方」を提唱し、ビジネスモデルの転換を図るのがクックパッドだ。コンビニ、マンションだけではなく、オフィスやカラオケなどにも設置された共同の「冷蔵庫」に商品を届ける生鮮食品ECを立ち上げた。アプリで注文した商品が各地に設置された「マートステーション」に配送される仕組みで、ユーザーは指定したマートステーションで商品を受け取る。個別宅への配送は配送網の整備という点で煩雑さを伴う。それを取り除くことで「配送料無料」を実現した。

 マイナビニュースが運営するTECH+の21年12月14日付けの記事によると、20年の1年間だけで利用者数は10倍以上に増加したという。

●海外で根付く新しい食品スーパーの形

 「配送料=有料」という考え方が一般的であり、同時に生鮮食品へのこだわりもそれほど強くない海外諸国では、かねてよりネットスーパーの利用割合も大きい。日本と比較して10倍以上の市場を持っている国も多く、米国、英国、中国などはネットスーパー先進国といえる。近年では消費形態の発展が進み、ネットとリアルが融合した買い物も根付きつつある。

 米国では車文化を背景に、ドライブスルー専用スーパーが台頭する。14年にウォルマートが「ウォルマート・ピックアップ・グローサリー」を、17年にはアマゾンが「Amazon Fresh Pickup」を立ち上げた。指定した時間にドライブスルーで前もってオンライン決済した商品を受け取ることができる仕組みだ。Amazon Fresh Pickupでは商品1点から注文が可能であり、普段の買い物と変わらない気軽さで利用できる。

 中国ではアリババがその圧倒的な物流網を生かし、次世代食品スーパー「盒馬鮮生(フーマ―フレッシュ)」を運営している。盒馬鮮生では、店頭に並ぶ商品の全てにバーコードがついており、アプリを通じてあたかもネット通販で買い物をするように配送を依頼することができる。注文から最短30分で自宅に届くため、その利便性は圧倒的であり、「生鮮食品は自分の目で見て選びたい」という消費者の要求も十分に満たす。アプリからの再注文も手軽であり、商品や配送の質に満足した消費者を囲い込むことで、オンラインでの購買にもつなげている。オンラインとオフラインを融合したOMOサービスの代表格といえるだろう。

●日本におけるネットスーパーの行く末は?

 先に挙げたように、日本の消費者の特徴として「生鮮食品の品質へのこだわりが強い」「配送料を支払う価値観が十分に根付いていない」ことが挙げられる。またミニスーパーや24時間営業のコンビニエンスストアが充実しており、いつでも好きなタイミングで購買ができる環境も整備されている。そもそものEC利用率も、欧米や中国に比べればまだまだ低い水準であり、ネットスーパーの定着は依然として困難である。

 もちろんイオン×オカドの例で示したように海外のノウハウを柔軟に取り入れることは重要だが、海外で成功したビジネスモデルを単純に転用すればいいという幻想は既に打ち砕かれており、市場の性質をしっかりと捉えることができなければ収益化は遠い。

 消費者の生活もある程度はコロナ以前に戻りつつある中で、ネットスーパーを単なる「ブーム」で終わらせないためには、オペレーションの効率化や付加価値の向上により、コロナ特需に頼らない形での黒字化を追求することが肝要である。各社の今後の取り組みに注目したい。

●著者紹介:畠山誉道

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 消費財・小売セクターマネージャー。2019年よりEYに参画し、主に製薬企業・食品メーカーを対象に中長期のビジネス戦略立案や新規事業立ち上げを支援。