鉄道利用者には、同じ区間を頻繁に利用する人がいる。最たるものが通勤通学の利用者だ。そうした利用者に向けて、定期券が発売されている。リピーター向けのサービスとしては、最も分かりやすいものだろう。

 一方、長距離列車の利用者にもリピーターがいる。新幹線や特急で、週に1〜2回、同じ区間を行き来する利用者だ。最近は原則テレワーク、用事のあるときだけ出勤という体制を取っている企業も多い。例えば、会議や紙の書類の取り扱いなどで、会社に行かなくてはならない場合である。

 ヤフーやNTTグループなど、企業によってはどこに住んでも問題ない、交通費は負担するというところもある。普段はふるさとで暮らして、用事のある時だけ会社に出るという社員がいてもおかしくはない。

 そういった場合、新幹線や特急の同じ区間を何度も利用する、ということになる。

●回数券は消えていった上、意外な欠点もあった

 同じ区間を何度も利用するといえば、回数券の購入を考える人も多いだろう。しかし、新幹線や特急の回数券は、多くがネット予約に代わってしまった。

 回数券は安くて便利だった、という声も多い。しかしその声を発する人の中には、駅の近くにある格安チケットショップで回数券のばら売りを買い、安く済ませていた人もいるのではないだろうか。

 そのような人たちが使用する回数券には、「C制」「東C」などと券面に記されていたのかもしれない。「C」は「Credit Card」を意味する。チケット業者がまとめてクレジットカードで買い、ばら売りしていたのである。現金化業者が利用者に買わせていた可能性もある。

 本来想定されていた「何度も行き来する人が回数券を使用する」ことは、むしろ少なかったのではないか。回数券は先払いであるため、高くて買いにくいという問題がある。

●回数券は得ではなかった

 以前の時刻表には、新幹線や特急の回数券の案内を多く掲載していた。

 2011年3月号の『JTB時刻表』によると、東京都区内〜大阪市内で6枚つづりの「のぞみ指定席回数券」は8万2500円。有効期間は3カ月。しかし8万2500円は、一気に払うにはきついのではないだろうか。

 東京都区内〜名古屋市内の「新幹線回数券」(普通車指定席用)は、6万420円。なお、東京都区内〜大阪市内には「新幹線回数券20」があり、20枚つづり3カ月有効で、26万4800円。週に1回は東京と大阪を往復する人でないと、普通は購入しないと考えられる。

 東京都区内〜仙台市内では、6枚つづりの「新幹線回数券」は5万9100円である。こちらも3カ月有効だ。

 クレジットカードで買って分割すればいいじゃないか、という意見もあるかもしれない。しかし、クレジットカード会社は換金性の高いものを購入するのを嫌がる。換金性の高いものをよく買っていると、カード会社はチェックをする。それに分割払いをすれば手数料が上乗せされてかえって損である。

 前払いがしっかりできるような人でなければ、回数券で得をすることはできない。駅の窓口や指定席券売機で乗車券と特急券を購入するよりも、回数券をチケットショップで買って窓口などで席を指定するほうが安上がりだ。JRにとっては、これは苦々しい状況だろう。

 そこでJR各社が普及させたのは、ネット予約やチケットレスサービスである。

●ネット予約がリピーター向けサービスを向上させた

 いま、最も利用されている新幹線のネット予約&チケットレスサービスは、東海道、山陽、九州新幹線の「エクスプレス予約」である。年会費1100円こそかかるものの、回数券が使えなかった年末年始などにも割安な値段で乗車でき、チケットレスで利用でき、回数券のばら売りよりも安く乗車できることが多い。しかも年会費は、東京から新大阪まで往復利用すれば元が取れてしまう程度の額である。

 いつも利用する列車が決まっていれば、「EX早得」(3日前まで)や「EX早得21ワイド」(21日前まで)で安く利用できる。

 ちなみに、東京〜新大阪間で紙のきっぷなら1万4400円、「EX予約」は1万3620円、「EX早得21ワイド」は1万2370円となっている。

 「エクスプレス予約」にせよ「スマートEX」にせよ、登録が必要なサービスであり、何度も利用する人だからこそ得になるようにできている。また、「エクスプレス予約」のポイントの貯め方次第(JR東海、JR西日本、JR九州のクレジットカードを使用する)では、グリーン車に普通車指定席の料金で乗ることも可能だ。

 ネット予約の仕組みを整えることで、東海道、山陽、九州新幹線はリピーターに1回の乗車の負担でそれなりのお得感を示せるようになっている。何度も利用する人は、ネット予約とチケットレスサービスを利用するようになり、リピーターへのサービスを向上させてロイヤルティを高めることができる。同時に、紙のきっぷだと改札機に負担がかかるので、メンテナンス費用も削減できるメリットが鉄道会社側にもある。

 最初に結構な額を払わなくても、リピーターにはお得さを提供できることが、ネット予約とチケットレスサービスで可能になったのだ。

 東北・北陸新幹線などでも「えきねっと」の「新幹線eチケットサービス」があり、紙のきっぷよりも安く、「えきねっとトクだ値」も使用でき、「JRE POINT」も貯まりやすい。こういったサービスはリピーターだからこそ便利に使えるのだ。

 ネット予約とポイントサービスで、利用者を回数券の前払いのような負担なしに囲い込めるという戦略を実現している。さらには「JRE POINT」への囲い込みで、ポイントの経済圏に利用者を参入させるモチベーションをかき立てさせる。ネット予約とポイントサービスで、利用者を負担なく囲い込むという戦略を実現している。

●「JRE POINT」を利用したリピーター戦略

 JR東日本は、短距離の高頻度利用者に対してもリピーター戦略を提供している。従来の回数券が9月末をもって終了することになったものの、すでにSuicaを利用したリピーター向けサービスを提供している。

 テレワークでも、ときどきは出社しなくてはいけない人も多いだろう。そうした人向けに、「リピートポイントサービス」を提供している。同一運賃区間の利用が同じ月に10回で、運賃1回分の「JRE POINT」を還元している。月11回以上の利用で、1回ごとに運賃の10%が還元される。また、在来線の乗車でもポイントが貯まる。

 在来線特急でも、「えきねっとチケットレスサービス」では紙のきっぷより割安になり、Suicaの利用と組み合わせられる。在来線特急の高頻度利用者には、このサービスは便利だ。

 JRの特急や新幹線は、ネット予約を活用することで、利用者に前払いの負担がなくてお得なサービスをリピーターに提供でき、しかも回数券にあるような時期の制限などをなくすことができた。

 リピーターのロイヤルティを高めることで、鉄道事業の安定収入に貢献する。チケットレスとポイントサービスなどを組み合わせることで、コロナ禍でも利用者減少を克服するようなサービスを提供できている。

 紙のきっぷ時代にはできなかったことが、テクノロジーの発展で可能になったことがいくつかある。利用者への負担を減らして利便性を向上させることができれば、今後も戦略的にロイヤルティを高めることができるだろう。

(小林拓矢)