決算書といえば投資やビジネス視点で見るイメージがあると思いますが、より一次情報に近い経済ニュースでもあります。「決算書で分かる日本経済」ということで、4回連続で地方銀行の決算を取り上げていきます。

 地方銀行では、少子高齢化による人口減少、低金利といった状況が続き苦しい状況となっているところが多いですが、そんな地方銀行の現状と今後について考えていきましょう。

●転入超過が続き人口、世帯数ともに右肩上がりの千葉県

 今回取り上げるのは千葉銀行です。地方銀行はやはり地域の経済状況に左右されるので、まずは千葉銀行が地盤とする千葉県の状況から見ていきます。

 千葉県は人口規模は全国6位で、県民所得も全国6位、県内総生産も全国7位となっていて経済規模は大きい県です。

 そして人口に関しては転入超過が続いている数少ない県の1つです。人口、世帯数ともに右肩上がりで成長しています。

 そういった市場の成長もあり、千葉銀行の預金額、貸出金額も長期的にも増加が続いています。また、千葉銀行は、県内で預金では27.2%、貸出金では40.7%を占めて大きなシェアを獲得している第一地銀となっています。

 ということで初回の今回は、地銀の中でも、経済規模も大きな県で展開している大手がどうなのかを見ていきます。

●銀行は斜陽産業? 500億円前後の利益続く高収益企業

 まずはここ数年の業績の推移から見ていきましょう。

 経常収益(売上高)を見ていくと、コロナ以前の2020年3月期までは成長が続いていて、それが21年3月期には4.1%減と一定程度コロナの影響を受けていたことが分かります。

 一方で経常利益の推移を見てみると、18年3月期から20年3月期までは利益は減少していて、21年3月期には増益となっています。

 利益面に関してはコロナの影響を受けていたということではなさそうですね。

 また、銀行は斜陽産業のように語られることも多いですが、利益は500億円前後は出続けていて高収益の企業だということも分かります。

 多くの銀行の収益性は悪化していきますし、フィンテック企業の台頭など、市場環境も悪化し、成長産業ではないことは間違いありませんが、まだまだ大きな利益を出している銀行も多いです。

 銀行のネガティブな報道は多いですが、それは業績面だけではありません。テクノロジーの進歩で銀行業務に人の稼働が必要なくなっていくことによる人員削減が合わさって、よりネガティブな印象報道が増えている部分があります。「銀行が無くなる」と「銀行員がいなくなる」はきちんと分けて考える必要があるでしょう。

 それでは直近の業績を見ていきましょう。

●地方銀行の収益源とは?

 今回見ていくのは22年3月期の通期の業績です。

・経常収益(銀行の売上高)は1.3%増の2360.9億円

・経常利益は9.7%増の788.2億円

・純利益は9.7%増の544.9億円

 となっていて増収増益と好調です。

 ちなみに、そもそも「地方銀行の収益源とは何なのか?」ということを少しだけ説明しておくと、(1)貸し出し(2)有価証券運用(3)手数料収入となっています。

 お金を預金として預かって、(1)それを貸し出して利息をもらう、(2)有価証券などで運用して収益を得る、(3)アドバイザリー業務や金融商品の販売などを通じて手数料をもらうというのを主に行っているわけです。

 預金を預かり、それを貸し出したり運用したりするわけですから、預金残高は重要です。

 では預金残高を見てみると、4.8%増で14.7兆円となっていて、増加が続いています。

 新型コロナの影響で給付金があったことや、消費が低迷して貯蓄が増えたことなどがあり、日本全体の預金残高自体が増加していますので、預金面で考えるとコロナはプラスだったことが分かります。

●貸し出しが大きく伸びた理由

 貸出金に関しても4.3%増の1兆1691億円となっていて金額ベースで考えると伸びています。

 ちなみに貸出金全体のうち46.2%が中小企業向け、34.1%が住宅ローンとなっていて、この2つで計80%と大半を占めていています。

 中小企業向けの融資に関しては4.7%増となっていて特に大きく伸びていますね。

 そして中小企業融資に関しては、保証協会付の融資(貸倒時に保証協会の保証がある融資)が大きく伸びています。コロナ以前は3700億円ほどだったのが、6000億円前後まで増加しています。

 というのも、コロナ支援として行政からの後押しで、無担保で保証協会付き、利子補給型(借り入れの利息が後ほど県から補填される融資)のいわゆるゼロゼロ融資(担保ゼロ・利息ゼロ)が多く行われていました。

 保証協会が付いていて、利子補給型ということは、銀行側からすると取りっぱぐれのない融資になります。

 新型コロナで業績に悪影響が出た企業は多いわけですが、そういったところでは借り入れを必要としているものの信用不安があり、借り入れ自体が難しいわけです。

 しかし無担保で保証協会が付いている融資が受けられるため、銀行もノーリスクで貸し出せますから、業績悪化で借り入れを必要とする企業が増えたというのは銀行にとっては単純にプラスに働いているということです。

 また、これまでは資金的に余力があって借り入れの必要が無い財務的に余力の大きい企業でも、利子補給で実質無利息だからと借り入れをする企業があります。

 つまり利子補給や保証協会付きの融資は中小企業支援でもある一方で、銀行側へも非常に大きな支援となっているということです。

 そういった点から考えても、コロナは銀行業績にとっては追い風だったのでしょう。

●貸し出しは増加するも、収益増加は限定的

 また、住宅ローンを見てもローン残高はコロナ禍でも増加を続けています。

 千葉県自体が人口増加が続いているということもありますし、コロナによって在宅時間が増加し住環境への投資をする方が増えましたから、住宅ローンという側面でもコロナがプラスに働いているということです。

 とはいえ貸し出しの額は好調に増える一方で、利回りのほうは減少を続けていて、国内の平均利回りは0.89%にとどまります。

 結果として貸出金の残高は4.3%増となる中でも、国内の利息自体の増加額は1.2%増にとどまり、金融緩和で低金利が続く中で残高が増加したほどの好影響は受けれれていなかったわけです。

 日本の金利に関しては、長期金利は上昇しているものの、政策金利に関しては日銀の黒田東彦総裁の任期である23年4月までは利上げは行わないでしょうから、まだしばらくの間は低金利による影響は続きそうです。

 とはいえ長期的には政策金利の利上げの可能性も語られていますから、いつ金利上昇となるのかには注目ですね。

 また、これからはゼロゼロ融資の利息補填が期限を迎えてくるので、財務的な余力のある企業は一括返済に動くでしょうし、余力のない企業では貸し倒れが起き始める可能性がありあますので、貸出金が減少していく可能性は一定程度あるでしょう。

 とはいえ千葉は、転入超過が続き人口が増加している数少ない県ですから経済自体が成長すると考えると、そういった影響は比較的少なく済む県の1つではありそうです。

●有価証券配当は増加

 続いて主要な収益源の1つである有価証券の運用に関しても少し見ていきましょう。

 有価証券利息配当金に関しては、206億円→220億円へと増加しています。

 特に伸びたのが株式配当金で12億円増の97億円となっています、国内の上場企業の22年3月期の配当は過去最高を更新しており、株主還元を拡充させている企業も多く、そういった中で配当金が伸びていたことが考えられます。

 とはいえ銀行ですから、保有している有価証券の大半は債券となっていて、株式は全体の4.5%ほどです。投資信託の中の一部にも株式はありそうですが、基本的に債券メインの投資信託でしょうから、安全性の高い運用をしていることが分かりますね。

 また有価証券の総額に関しては増加が続いていて5.3%増で、債券の平均残存期間をみると大きく伸びていることが分かります。

 債券利息に関しては横ばいだったことを考えると、債券は期間が長い方が利回りが良くなります。そのため低金利による利回りの悪化が続く中で、収益性の高い期間の長い商品を増やしていたようです。

●金利上昇で債券は含み損に

 続いて有価証券の含み損益を表す有価証券評価損益を見てみると、前期比で341億円のマイナスで1481億円と減少してしまっています。

 国内では金融緩和が続くものの、欧米中心に海外では利上げが進み金利は上昇傾向にあるわけですから債券の評価額が減少していたということでしょう。ちなみに債券は利上げが進むと、既存の利回りの低い債券の価格は下落します。

 語弊を恐れずめちゃくちゃざっくり説明すると、同じ米国債で元本1億円で年利1%のモノと年利5%のモノがあれば当然5%の方が欲しいですよね。なので、金利が上がると金利が低かったころの債券を買う人がいなくなるので、元本の1億円部分の債券価格を下げて9500万円などにして実質利回りを合わせないと売れなくなってしまうという話です。

 長期の債券を多く保有しているということは、債券の組み換えが行われるモノも多いでしょうから、そういった面から運用損失が出る可能性がありそうです。

 金利上昇は長期的にはもちろん債券の利回りを増加させるものの、短期で見ると評価損、売却損という形での悪影響は考えられるということですね。

 ちなみに、外貨金利の上昇の悪影響としては概算ですが、10bp(ベーシスポイント、0.1%)の上昇でドル建て債券が9.2億円、株式が5.4億円、ユーロ建てで債券が3.7億円、株式が1.7億円ほどの悪影響が出るとしています。

●相続、キャッシュレス、シンジケートローンが成長

 続いて役務取引利益(手数料収入)についても見ていくと、こちらは過去最高を更新していて好調です。

 投資信託や保険などの金融商品の販売などの手数料は減少しています。金融リテラシーも上がっていますから、手数料が高いだけの銀行で金融商品を買おうという人は減っているのかもしれません。

 一方で伸びているのは法人関連に加えて、相続やキャッシュレス関連です。相続やキャッシュレスに関しては市場が成長していきますから、今後も成長が見込めそうです。

 また、伸びている法人関連で特に大きく伸びていて、最も大きな規模を占めるのがシンジゲートローンからの収益です。

 詳しくは説明しませんが、シンジゲートローンとは一人の顧客に対して、複数の金融機関が融資を行うというモノで、その取りまとめを行う手数料をもらっているということです。

 シンジゲートローンは、大型の借り入れであることが多いですから、これまで以上に大手企業とのつながりを強めていっていると考えられます。これは地方銀行でも大手の千葉銀行だからこそ伸ばしていける分野でしょうから、他の多くの地方銀行に比べて有利な部分ですね。

 またM&A仲介やビジネスマッチングに関しても伸びています。

 メガバンクのような大手企業との取引が中心の所では、地方の中小企業の情報が十分ではないケースが多く、そういった中で地方銀行でしかできない領域でもあり、多くの地方銀行が力を入れている分野です。

 大手銀行のようにシンジゲートローンを行いつつ、地方銀行としての強みも生かせるのは千葉銀行のような大手の地方銀行の優位性でしょう。

●大手地銀ならではの強み

 ということで改めて全体を振り返ってみると、貸し出しに関しては低金利が続くものの、新型コロナの影響によって、いわゆるゼロゼロ融資や住宅ローンが増加していて好影響を受けています。

 これからは利子補填が終わり、返済が始まる中で貸出先企業の業績悪化の可能性がありますからその点は注意が必要そうです。

 有価証券運用に関しては、低金利が続く中で長期債が増えているため、急激な金利上昇が起きると長期的にはプラスの影響があるものの短期的には悪影響が一定程度出てくる可能性はあります。

 金利上昇による収益の拡大という可能性はありつつも、一定のリスクはあるということで今後がどうなっていくかに注目です。

(筆者プロフィール:妄想する決算)