総務省で電気通信市場検証会議の下部組織として設置されている「競争ルールの検証に関するWG」は7月19日、「競争ルールの検証に関する報告書 2022(案)」を公表した。

 このワーキンググループでは、通信料金と端末代金の完全分離、行き過ぎた囲い込みの禁止などを定めて2019年10月に施行された改正電気通信事業法の影響を評価・検証し、20年、21年にも報告書を公表している。

 今回の報告書でも、通信料金と端末代金の完全分離、行き過ぎた囲い込みが禁止されたモバイル市場を分析・検証するとともに、携帯端末の対応周波数、「一部ゼロ円」料金プランと価格圧搾の関係、いわゆる「転売ヤー」問題といった、21年の報告書公表以降、新たに指摘された課題についても、対策をまとめている。

●2万円規制の順守を徹底

 通信料金と端末代金の完全分離に関しては、端末割引の「上限2万円」規制の違反が指摘されている。覆面調査を実施した結果、改善傾向にはあるものの、現在でも違反と判断される事例が確認された。

 例えば、端末のみを求めるユーザーに対し、「(通信契約との)セット販売用の在庫であり、単体販売用の在庫はない」といった説明をする、などだ。販売拒否の手法が巧妙化していると指摘している。一方、他キャリアユーザーに対する端末購入プログラム提供拒否については、各社とも少数に留まっているとしている。

 上限2万円規制を徹底させる対策として、単体購入用とセット購入用での在庫区分や、区分を理由とした販売拒否を行わないこと、ユーザーが十分に認知できるように、店頭のポスターなどで、在庫が分かれていないこと、端末単体購入価格を明示することを求めている。

 またキャリアにも、販売店とそのスタッフに対して教育・研究・指導を徹底・強化すること、販売代理店に対する手数料・販売奨励金や評価指標が、上限2万円規制の違反を助長するような形となっていないか、継続的な見直しを実施することを求めている。

 上限2万円規制の違反を助長するような設定がされている場合は、「業務改善命令の対象となり得る旨を、ガイドラインにおいて明確化することが適当」とも指摘している。

 上限2万円の割引規制については、新しい通信規格への移行を促すために、ユーザーに新規格に対応した端末に買い換えてもらう場合(マイグレーション)、あるいは不良在庫を減らすためなど、2万円以上の割引を可能とする特例も設けられている。

 7月上旬にはこの特例を悪用した「マイグレ風」と呼ばれる詐欺事件も報じられた。今後もソフトバンクでは24年1月、ドコモでは26年3月末に3Gサービス終了が控えており、こうした事件が再び起こる可能性がある。報告書では、特例の適用状況についても確認を行っていくことが適当としている。

●端末の対応周波数についてはルール化せず

 MNOが端末メーカーから調達して販売する端末、いわゆるキャリア端末の中には、他のMNOに割り当てられた周波数に対応していないものがある。

 他のMNOに乗り換えた際に端末を継続して利用しようとしても、エリアが狭くなったり、通信速度が低下したりする場合がある。これがユーザーにとって乗り換えの障壁となるとの指摘があり、ワーキンググループで対応が検討された。

 しかし報告書では、「現時点で拙速にルール化・標準化を推し進めることは適当ではない」としている。

 その理由として、こうした問題に直面したことのあるユーザーが限定的であること。また、メーカー直販端末については、各MNOに割り当てられた周波数に対応しており、国内のどのMNOのネットワークにも対応できる端末が存在していることなどがある。

 むしろ、携帯電話の対応周波数の範囲を広げることで、開発費、部材費、認証費などによって製造コストが増加する可能性がある。それも、一般的に低価格帯端末の方が影響が大きく、高価格帯端末は複数周波数に対応した部品を活用することが多いため、コスト増加要因は限定的だという。対応周波数の範囲を広げることをルール化してしまうと、低価格帯の端末ニーズに沿えなくなる、利用者の選択肢を奪うことになるとの懸念が示された。

 また、複数の端末メーカーからは、ルール化しなくても、ユーザーのニーズが高まれば、自然と多くの周波数に対応した端末を開発するようになるという意見も出ている。そのため当面は端末メーカーの自主性に任せ、「可能な範囲で複数のMNOに対応した端末を開発・製造することを促していく」という提言に落ち着いたようだ。

 もちろん、MNOやメーカーは関連情報を充実させるとともに、ユーザーが端末を購入する際に、できるだけ分かりやすい形で情報を提供することが適当とされている。

●「転売ヤー」対策について

 端末の大幅な割引販売が行われている際に、通信サービスを利用することなく転売し、利益を得る、いわゆる「転売ヤー」の問題についてもまとめられている。

 転売ヤーが跋扈(ばっこ)することで、人気端末の買い占め、販売代理店スタッフの心理的な負担、転売の利益が反社会的な目的に利用される懸念、MNPの「踏み台」とされるMVNOの業績への影響などが問題とされている。

 ただ最近では、MNOや販売代理店の対策が効果を発揮してきているようだ。購入できる端末を1人1台にしたり、「一括○円」ではなく、端末購入サポートプログラムを組み合わせた「実質○円」という形で販売したり、会員情報に基づく購入履歴を確認したりといった対策が行われている。

 報告書では、転売ヤー対策のために端末単体販売拒否が行われてはならないとしており、今後も実効性のある転売ヤー対策を実施することが重要になる。

 なお、MNPによるユーザー獲得競争が激化しており、販売の現場では、自社ユーザーを一度他社に乗り換えさせた上で再度自社に乗り換えさせる、あるいは、複数キャリアの端末を扱う販売店で、ユーザーを事業者間で回すような形で乗り換えさせるなど、MNPの獲得件数を不適切な形で増やしている例も指摘されている。「『無意味な乗換え』を生まないような対策についても併せて検討・報告を求めることが適当」とされている。

●「完全分離」は道半ば

 報告書の最後には成果と各事案の検証結果がまとめられている。その中で、「行き過ぎた囲い込みの禁止」については、MNO3社で違約金が撤廃されるなど、改正法の目的は達成されつつあるとしている。しかし、「通信料金と端末代金の完全分離」については、現時点でも課題が存在し、「目標の達成に向けてはなお道半ばと言わざるを得ない」という評価だ。

 背景にあるのが、キャリア乗り換えのハードルがほぼなくなったことによる、ユーザーの乗り換えの活発化だ。

 キャリアは、端末の大幅値引きによって通信契約を獲得しようとしている。上限2万円規制によって、「数十万円キャッシュバック」というようなかつての極端な状況になることは抑制できているものの、報告書では「今なお、過度の端末値引き等による誘引力に頼った競争慣行から脱却できていない」と断じている。

 上限2万円規制を撤廃すると、以前の極端な状況にまで戻ってしまう懸念が払拭できないとし、当面は現行の上限2万円規制を維持し、その順守の徹底を図っていくことが適当としている。

 また極端な端末の値引きに対する各種懸念も指摘された。

・転売ヤー問題を生じさせる

・資金的に弱いMVNOが淘汰され、MNOによる寡占状態が強まる可能性がある

・端末を買い換えるユーザーだけが利益を享受する

・MNO間の消耗戦となって、ひいてはインフラ整備やサービス開発に向けた投資余力が削がれ、中長期的に電気通信市場全体の発達の阻害要因となり得る

・新品の端末が中古端末よりも安く販売されると、中古端末市場に影響を与えるなどの懸念

 これらの懸念を踏まえた適切な対応をMNO各社に求めている。

 このほかにも、MNPの際に移行先のみで手続きが完了する「MNPのワンストップ化」を23年春頃を目途に運用開始すること、povoのような「一部ゼロ円」料金プランについて、価格圧搾による不当な競争を引き起こすものでないかを検証する「モバイル・スタックテスト」の検討などについても言及されている。

 この報告書(案)は7月23日から8月26日までパブリックコメントにかけられている。

(房野麻子)