「残業しただけなのに怒られるなんて思ってもみなかったです」――納得がいかないと愚痴をこぼすのは、とある出版社で営業をしている佐藤さん(仮名、30歳男性)です。

●残業って何?

 残業は時間外勤務や時間外労働と言う場合もありますが、いずれにしても意味は同じで、所定労働時間を超えて仕事をすることを指します。例えば、始業時刻が午前9時で終業時刻が午後6時の勤務であれば、午後6時以降に仕事をすると“残業”している状態になります。また、始業時刻である午前9時前に出社をして仕事をすると、仕事を始めた時刻から午前9時までの時間をいわゆる“早出残業”と言います。

 なお、残業は法定内残業と法定外残業に区分することがあります。法定内とは、労働基準法に定められている労働時間以内であること。一般的には1週間40時間、1日8時間の範囲内におさまる時間の残業のことを指します。例えば、始業時刻午前9時で終業時刻午後5時(休憩1時間)であれば、1日の所定労働時間は7時間です。この場合、午後6時までの残業であれば8時間以内なので法定内残業となるのです。そして、午後6時を超えて残業をするとそれ以降は法定外残業となるわけです。

●残業と割増賃金

 法定内残業と法定外残業を区分する理由は、割増賃金と関係があります。法律上、法定内残業であえば賃金を割増す必要はないのですが、法定外になれば最低でも2割5分増しで支払わなければいけません。例えば時給1000円の人が残業をした場合、法定内であればその時間は1000円ですが、法定外であれば最低でも1250円を支払う必要があるということです。

 このように、賃金計算を分かりやすくするために残業を区分して管理しているのです。ちなみに、「終業時刻を超えて労働した場合は2割5分増しの残業手当を支払う」という風に規定している就業規則をたまに見かけることがあります。このケースでは、例え1日の労働時間が8時間を超えていなくとも、終業時刻以降の残業には割増賃金を支払わなくてはならないのです。今一度、就業規則を確認してみましょう。

●働き方改革と残業

 働き方改革により、残業時間に上限が設けられたことはご存じでしょうか? 法定外残業を命じるには、事業場ごとに36協定を締結し届け出をする必要があります。そして、その協定の範囲内で残業を命じることができるのですが、働き方改革以前は、その範囲内について強制力のある上限が設けられていない状態でした。

 そこで、働き方改革により、2019年(中小企業は20年)に上限時間を罰則付きで規定したのです。具体的には、年720時間、単月で100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)となりました。この上限時間は法律で定められています。つまり、これに違反すると法律違反となり罰則を受ける可能性があるということです。「罰則があるから」といった単純な理由だけではありませんが、企業がより労働時間を意識するようになったのは間違いありません。

●佐藤さんがどやされたワケ

 佐藤さんが上司からどやされたのには訳があります。それは、社内のルールを無視して残業をしていたからです。佐藤さんはタイムカードを切った後、上司にも一切報告せずに残業をしていたそうです。実際には午後9時まで残業していたにもかかわらず、タイムカードは午後6時で打刻していたのです。

 これにキレたのは人事部です。経営層からの指示でサービス残業撲滅に取り組んでいたにもかかわらず、社員側から裏切られた格好となってしまったからです。「あなたの身勝手な行動で会社が法律違反を犯すことになってしまう、責任とれるのか」と。佐藤さんとしては「残業代ももらう気ないんだから好きにさせてほしい」「会社のためにやってるのになぜ文句を言われるんだ」と返したそうです。

 これは明らかに正しくない残業、いうなれば悪い残業の典型例といえるでしょう。会社は法律を守るためのルールを作る。そして、社員はそのルールに従って残業をすることが残業の大前提です。ちなみにですが、会社が残業のルールをしっかりとつくり、社員にも徹底して周知していた中で、上司に見つからないように勝手に残業していた場合は、結果として残業とは認められないことがあるので注意しましょう。その場合は、後になって「残業の不払い」を訴えても通用しないのです。

●悪い残業とは?

 ここまでは法律や社内ルールの話をしました。ここからはマネジメントの観点からお話をします。「必要だからやってるのに良い残業も悪い残業もないだろ!」そう思われる方も少なくないでしょう。そういう方は良い残業(正しい残業)をされているのでしょう。ここでいうところの「悪い残業」とは、言い方を変えると「必要のない残業」という意味です。

 誤解があるといけないのですが、ここで言っているのは必要のない仕事ではなく、必要のない残業ということです。会社が残業代を支払ってでもやってもらわなければならない仕事なのかどうか、ということです。つまり、残業する目的が誤っている人が一定数おり、ここではそういう残業を「悪い残業」としています。

 悪い残業の代表例を挙げてみましょう。

(1)暇つぶし残業

 これは若手社員に見られがちな傾向で、「合コンまでの時間つぶし」「デートの待ち合わせにはまだ早い」「部の飲み会が始まるまで」といったように、仕事の都合ではなくプライベートの都合に合わせてする残業です。

(2)先行き不安残業

 これはもはやその人の性格から来るのでしょう。本来であれば3日後の午前中や、もっと先だと1週間後までに着手すればよい仕事も「今のうちにやってしまいたい」と残業をしてしまうのです。「何かトラブルがあったらどうしよう」と本来は仕事に余裕を持たせるために始めたのですが、それがそもそも余裕をなくしてしまっているのです。

(3)帰れまテン残業

 何となく本人には気の毒なのですが、いまだに「自分だけ先に変えるのは申し訳ない」と言って意味なく会社に居残る残業です。上司のタイプや社風に影響されやすいのが特徴です。

●成果と直結し評価される残業をする

 残業時間が多いほど「あいつはやる気がある」とされていた時代は過去の話です。生産性の高い社員が評価される時代なのです。働き方に対する社会の認識は大きく変わってきたので、今後は、法令を順守しながらいかに生産性を高められるかがポイントとなっているのです。

 従って、法令を無視するような働き方がNGなのは言うまでもありません。そして、生産性が低下するような残業も当然ながら歓迎されません。まずは残業しなくとも成果があがる働き方を、そして、残業するのであれば成果と直結し評価される残業をしましょう。

著者紹介:大槻智之(社会保険労務士法人・大槻経営労務管理事務所 代表社員)