決算書といえば投資やビジネス視点で見るイメージがあると思いますが、より一次情報に近い経済ニュースでもあります。「決算書で分かる日本経済」ということで、4回連続で地方銀行の決算を取り上げていきます。

1. 銀行は斜陽産業? 千葉銀行の業績を左右するポイント

2. 苦しいといわれる第二地銀の実態は? 福島銀行の業績ポイント

3. 利益倍増の琉球銀行、そのカラクリは?

 今回取り上げるのは琉球銀行です。琉球銀行が展開しているのはもちろん沖縄県です。

 沖縄といえば合計特殊出生率は日本最高で、コロナ以前は人口も増加が続き、経済も盛り上がりを見せていた地域です。一方で主力産業は観光業であり、最もコロナの影響を受けた地域の1つでもあります。そういった中で、実は人口も2021年をピークに下落していくとの見通しとなっています。

 今回はそんな観光業を主力としていて、大きくコロナの影響を受けてしまった沖縄を中心に展開している地方銀行はどのような状況になっているのかを見ていきましょう。

●出生率は高いが厳しい景気の沖縄

 まずは沖縄の状況から確認していきます。

 観光業の状況に関しては、観光客はコロナ前の半分以下という状況が多くの期間で続いています。ホテルの稼働率に関しては、22年3月の段階でも33.8%となっています。コロナ以前は80%弱程度あったことから考えると、大幅な悪化がまだまだ続いている状況です。

 そんな状況下で、有効求人倍率は0.85(22年3月末時点)と、1を切った状況となっており、国内平均の1.22と比較しても低水準です。失業率も21年の3月期には4.4%、22年の3月期でも3.4%と悪化した状況が続き、こちらもまた全国平均の2.6%と比べて低水準です。

●企業の状況は落ち着いているが観光が打撃

 一方で企業側では倒産件数は増加しているということもなく、政府や金融機関からの支援が活発化したことによって落ち着いた状況となっているとしています。

 また新築住宅着工戸数の状況を見ると、19年が1万5098戸あったのに対して、21年は9668戸と大きく減少してしまっています。

 特に大きく悪化したのが賃貸用の不動産となっていて、これが19年の9227戸→4399戸へと大幅に悪化しました。沖縄の主力産業である観光業が大きなダメージを受ける中で、不動産投資も縮小したということですね。投資用の不動産のローンは規模が大きいですから、影響は出ます。

 「日銀短観の業績状況DI」という、企業にざっくりと状況がいいか悪いか聞くという指標があるのですが、これが22年3月期の時点で全国平均がプラスマイナスゼロになる中で、沖縄はマイナス19と大きなかい離が見られています。状況が悪いと捉えている企業が、全国と比べて非常に多いということです。

 国内旅行に関しては、近隣の旅行を楽しむいわゆるマイクロツーリズムが好調です。コロナ前より活況となっているような観光地やホテルなどもあったりしますが、多くの方にとって地理的に遠い位置にある沖縄旅行は回復が遅いということでしょう。

●悪化傾向は続くが、直近は大幅増益?

 それではそういった状況下で、琉球銀行はどのような業績になっているのか見ていきましょう。

 経常収益(売上高)の近年の推移を見ていくと、20年3月期までは横ばいといった水準が続いており、21年3月期は8.7%減と悪化していてコロナの悪影響が出ていたことが分かります。

 続いて利益水運の推移を見ると、18年3月期をピークに下落傾向が続いていて、21年3月期も大幅な業績悪化となっています。利益面ではコロナ以前から悪化傾向となっていたようです。

 続いて直近の業績を見ていきましょう。今回見ていくのは22年3月期の通期の業績です。

・経常収益(売上高)は、0.5%減の570.1億円

・経常利益は、108.3%増の79.3億円

・純利益は、116.8%増の55.9億円

 と減収ながらも大幅増益となっています。売上面ではコロナの悪影響が続いているものの、利益面は好調だったようでコロナ以前の19年の3月期を上回る水準まで回復しています。

●与信コスト40億円減少が利益増に

 では、売上面の不調が続く中で、どうしてこれほど利益面は好調だったのでしょうか?

 その要因は、与信コストが40億円も減少した状況となっているからだと分かります。

 ではどうしてこれだけ与信コストが減少したのかというと、20年度にフォワードルッキングな引き当てを導入し、21年度には一部事業者の元金返済再開や景気指標の回復などにより、与信コストの戻入があったためだとしています。

 分かりにくい用語が出てきたと思いますので、何が起きていたのかをざっくりと説明します。

 21年度には「コロナの影響で観光業は大打撃を受けているから、今後貸し倒れが増えそうだぞ」ということで「貸し倒れを予測して先にその分の損失を計上しよう」と動きました。

 では22年3月期になって実際はどうだったのかというと、先ほど見たように政府や金融機関からの積極的な支援によって企業の倒産は落ち着いた状況となりました。なので「想定より貸し倒れが増えないぞ」という状況になります。そのため、過剰に出してしまった損失を取り消すために、その過剰な分を22年3月期の利益にしましたよ、ということで22年3月期は利益が増えたわけです。

 数字でいえば、21年3月期には「今後は貸倒で30億円損失が出そうだから30億円の損を先に出しておこう」としたものの、22年3月期には「どうやら貸倒は10億円で済みそうになったから20億円利益を出しておこう」みたいなことが起きたわけです。30億円の損失と20億円の利益が相殺されて、2年間の合計だと適切な10億円の損失になるよって話です。

 つまり前期の業績悪化も、今期の業績回復もコロナの特殊要因が大きいということです。21年3月期と22年3月期の経常利益を合計すると117.7億円ですから、これを2年間でならすと58.8億円ほどになります。

 コロナ以前の19年3月期の経常利益は61.0億円だったことを考えると、利益面ではほぼコロナ前と同水準だと考えてよさそうです。

 観光業を中心とする沖縄経済自体は大きな悪影響を受けたものの、行政からの支援もあり企業の倒産状況は落ち着いていましたから、経済が悪化する中でも銀行の業績に大きな悪影響が出ていたわけではないということですね。

●カードビジネスがけん引し、役務取引が好調

 続いてもう少し詳しく業績を見ていきましょう。

 大きく伸びているのは役務取引利益(手数料収入)で5.1億円(8.8%)増となっています。預貸金収支に関しては1.8億円(0.8%増)と微増で、有価証券運用の市場部門に関しては5.6億円のマイナスと不調です。

 また、経費面を見ていくと2.2%減となっています。

 経費が減少した要因としては人員削減も影響しています。人員削減はコロナ以前から積極的に進めていて、18年3月期には1801人いた人員は22年3月期には1571人まで減っています。

 窓口業務はもちろん与信管理など融資関連の業務、有価証券の運用業務でもテクノロジーの進歩で業務に必要な人員数というのは減っていっていますから、当然必要な銀行員の数も減らしていくわけです。

 売り上げの拡大だけではなく、業務効率化を通じた経費削減によって収益性を上げていくのも銀行にとっては重要な手法ですので、そこにも注目です。

 また、好調だった役務取引を見ると、伸びているのは住宅ローン手数料に加えて、カードビジネスです。

 このカードビジネスとは、デビットカードによるものです。近年は琉球銀行だけでなく、多くの銀行がデビットカードを積極的に展開しています。

 EC含めインターネット関連のサービスが普及し、オンライン上でも決済が容易なカードでの決済手段を持つことの必要性は以前より増しています。その一方でクレジットカードを作るのには信用が必要で、作りたくても作れない方もいます。

 そういった中でデビットカードやBNPLといわれる後払いのサービスなどが成長しています。デビットカード市場は今後も拡大が予想されていますから、今成長が期待できる事業の一つでしょう。

●預金は伸びたが貸し出しの伸びは限定的

 続いて微増だった預貸金関連も見ていきましょう。

 まず預金残高は大きく増加しています。その要因はやはりコロナによる一時金や補助金、消費の低迷でしょう。さらに事業性融資の歩留まりによっても増加しています。事業性融資の歩留まりとは、1億円貸したら5000万円しか使ってないから預金が5000万円増えたよ、みたいな話です。

 コロナが預金に好影響を与えているのは、以前取り上げた千葉銀行や福島銀行と同様の状況ですね。

 では続いて貸出金を見ていくと、こちらも増加が続いていて1.3%増となっています。観光産業が大きなダメージを受ける中で金融支援が必要な企業は増加しました。前回取り上げた千葉銀行や福島銀行と同様に、コロナ対策として無担保で保証協会付き、利子補給型(借入の利息が後ほど県から補填される融資)のいわゆるゼロゼロ融資(担保ゼロ・利息ゼロ)が行われていたことなども影響しているでしょう。

 とはいえ増加してはいるものの、琉球銀行の伸びは大きくありません。22年3月期の貸し出しの前期比をこれまで取り上げた2行と比べてみると千葉銀行が4.3%増、福島銀行が2.5%増に対して、琉球銀行は1.3%増にとどまります。

 住宅ローンや個人ローンは堅調に推移しているものの、事業性の貸出需要が低下している影響があり残高も減少したとしています。どうやら事業性の貸し出しが伸びていないことが、小幅な伸びにとどまった要因のようです。

 コロナの金融支援に関しても、経済活動再開とともに減少傾向となっています。現状の空気感を考えても、今後また大きな活動の制限がされるような状況になるとは考えにくいですから、コロナ対策としての貸し出し増加という傾向にはならないでしょう。

 当初見たように、不動産投資が縮小しているような状況が続いていましたから、観光再開によって沖縄への投資が増えることによって貸し出しなどが増えていくかが重要になりそうです。

●有価証券は売却損を出し、利回りの良い債券に乗り換え

 また、有価証券の運用に関しては業績悪化となっていましたが、その要因は金利上昇の中で債券利回りの改善のために損失確定を進めたためとしています。

 利上げが進むと既存の利回りの低い債券の価格は下落します。前回から何度も同じ説明になってしまいますが、今回もめちゃくちゃざっくり説明すると、同じ米国債で1億円で年利1%のモノと年利5%のモノがあれば当然みんな5%の方が欲しいわけです。

 なので金利が上がると金利が低かったころの債券を買う人がいなくなるので、債券自体の価格を下げて9500万円などにして実質利回りを合わせないと売れなくなってしまうということです。

 こうした背景の中、琉球銀行では、新しい利回りのいい債券を手に入れるために、価格の下落した債券を売却して損失を出しつつ、利回りのいい債券を買いなおしたということです。

 前回取り上げた福島銀行では損失を確定させず、満期まで保有するようでしたから運用方針にも違いが表れますね。

 債券価格が下落する中で含み損を抱えている債券もまだあるようですが、今後に関しては債券利回り上昇による運用損益の改善が進む可能性はありそうです。

●沖縄への投資が再開するかどうか

 琉球銀行では22年3月期は大幅な増益となっていましたが、それは引当金による一時的な要因で、好調といえる状況ではありません。

 とはいえ、観光業を中心とする沖縄経済自体は大きな悪影響を受けたものの、行政からの支援もあり企業の倒産状況は落ち着きを見せる中で安定した業績となっています。

 また、預金や貸出金は増加が続くものの事業性の貸し出しに関しては減少しており、今後は経済活動が再開する中で、減少していた不動産投資など沖縄への投資が回復することによる貸し出しが増加するかが重要になりそうです。

 また、有価証券関連は業績は悪化しているものの損失を確定させつつ債権の入れ替えを進めているとしていますから金利上昇による収益性の改善は考えられます。

(筆者プロフィール:妄想する決算)