労働人口減少による将来的な人手不足は企業共通の課題だ。だが一方、高齢者雇用を巡ってはコロナ禍の景気停滞もあり、消極的な企業と積極的な企業に二極化している。

●希望退職の募集、4割以上は黒字企業に

 コロナ禍で希望退職者を募る企業が相次いだ。上場企業の希望退職の募集企業・人数は2020年に93社、1万8635人、22年は84社、1万5892人。2年連続で80社を超え、2年間の募集人数は3万4527人と、リーマン・ショック直後の09〜10年計の3万5173人に迫る水準に達した。

 その中で、コロナ禍の影響などで直近本決算の当期損益が赤字だった企業は56.0%。製造業などを中心に4割以上は黒字企業だった。

 さらに22年上半期(1〜6月)に早期・希望退職者を募集した企業は25社であるが、約半数の12社は直近の通期損益が黒字だった。このように近年、黒字企業の人員削減が常態化している。

 60歳前の社員に限らず、再雇用者を含む60歳以降の社員も募集対象に加えている企業の存在も散見されている。

●黒字なのに人員削減のワケ 約5年後に迫る「深刻な問題」

 なぜ、黒字なのに人員削減をするのか。50歳以上の社員を対象に早期退職者募集を実施したサービス業の人事担当役員は次のように話す。

 「新規事業を含めた新しい分野に挑戦していく方針を掲げているが、50歳を過ぎた社員の多くは意欲に乏しく、新しい価値を生み出すとは思えない。当社の社員は40代以上が半数を占めるが、4年後には50代以上が30%を占める。今のうちに人口構成を正し、後輩世代に活躍の場を与えるなど新陳代謝を促すことが必要だ。加えて、これまで長く年功的賃金が続いてきたことで50歳以上は非管理職でも賃金が高い。この状態を続けていけば会社の体力が耐えられなくなるという不安もある」

 また、広告関連会社の人事部長はこう語る。

 「あと5年ぐらいで最大のボリュームゾーンであるバブル入社組が継続雇用に入るが、これはどの企業にとっても深刻な問題だ。当然それが分かっているからメーカーなどを中心に、3つの方法を使って人員を減らしている。1つ目は、実質55歳定年で関連会社に出向させること。2番目は取引先企業などに転籍させる、3番目がセカンドキャリア制度という早期退職制度を設けて『退職金を割増しするので辞めてください』と促すこと。3番目の選択肢は50歳前後にキャリアプラン研修を実施し、年金を含めた老後の生活設計を考えてもらい、独立や転職など社外で活躍する方法や、そのための資金を支援することを説明する。大企業の黒字企業ほど高額な退職割増金を出せる」

 大企業だけではない。中堅卸売業の人事部長は「40〜60歳の社員の人件費が全体の60%を占めている。今後新規事業に挑戦していくには中高年社員を戦力化していく必要があるが、中には気力・体力も落ち、モチベーションが低い社員も少なくない。事業成長のために優秀な人材を外部から採用し、中高年の社員を削り、その分の人件費を人材の確保や新規投資に回したい」と語る。

 バブル期入社世代の60歳到達が間近に迫る中で、高齢従業員を抱える負担を少しでも軽減したいという思いがあるのだ。

●高齢社員の削減&中途採用か、リスキリングか

 人員削減を行うと同時に中途採用を積極的に実施している企業も多い。コロナ禍のビジネス環境の変化やデジタル化推進を目的に外部から積極的に人材を調達する企業も増えている。

 こうした企業に共通する人員削減の理由は(1)50代以上の社員は新しい仕事への意欲に乏しい、(2)人口構成の修正による外部人材の獲得や若手の活性化、(3)コスト削減効果――の3つに要約できるだろう。

 一方で、中高年社員のモチベーションを喚起し、リスキリングによる戦力化を図ろうという企業も増えている。

 長年キャリア開発研修を手掛けるコンサルタントはこのように話す。

 「『生き生きチャレンジ制度』または『セカンドキャリア実現制度』といった名前で希望退職を募る企業の人事部から『辞めてほしい人が辞めないんです』という相談は以前からある。そんな中、最近は社員のモチベーションを高め、戦力化しようという会社が増えてきている。何らかの取り組みをしている企業が3〜4割、一方、モチベーションが上がらず困っていると言いながら何もしていない会社が6割程度ある」

 長期就労を見据えたシニア社員の戦力化の課題として、モチベーションの向上と並んで重要なのが「最新のビジネスに必要なスキルの修得」だ。

 しかし、ICT(情報通信技術)やデジタル化の進展によってビジネスモデルが激しく変化する時代にどんなスキルが必要となるのか本人はもちろん会社も予測できない。少なくとも50歳前後のシニアの段階から自らのキャリアを意識し、ビジネスの動きを見据え、新しいことを学ぶ習慣を身につける必要がある。

●「キャリアに対する意識が芽生える」 大手電機メーカーの事例

 ある大手電機メーカーでは、本人が能動的に動くための教育・研修の機会などを提供している。50歳以降のシニア社員のキャリア形成をサポートするプログラムだ。

 プログラムは、新たなスキル修得を含む経験や知見の広がりを支援する制度と、それらを下支えする意識改革などの研修の大きく2つで構成している。下支えの部分が、50歳以降のキャリアを自ら考えるワークショップ型研修とメンタリングだ。キャリア研修は50〜52歳と57歳時点の2回実施している。50歳時の研修受講者は1000人程度。

 最大の特徴は研修後に一人一人にメンターが張り付き、定期的にキャリア面談を行っている点だ。メンターは約30人。本業との兼任だが同じ部署の社員が付くことはなく、相談内容については人事部が一切関知することもない。

 その上で将来のキャリアを考え、新たな経験や知見を獲得する制度として「兼務案件公募」と、新たなスキル取得を金銭的に支援する制度を設けている。

 兼務案件公募は、応募して採用されると、現部署の仕事を継続しつつ、自分の労働時間の10〜20%程度を他の部署のプロジェクトなどの業務に携わるものだ。同社は「違う仕事を経験することで自分の市場価値に気付き、キャリアに対する意識も芽生え、新しいチャレンジをしてみようという動機付けにもなる」(人事担当者)ことを期待している。

 スキル取得支援制度は、50歳以上に限定し、将来のキャリアを見据えて保有スキルの向上や新たなスキルの獲得のための学びに自己投資をした場合、1回10万円まで補助する制度だ。今の仕事に関連するスキルだけではなく、新しいスキルも対象とし、将来の目指したいキャリアを広く捉えて学ぶことを推奨する。例えば中国語会話を勉強し、自分が携わるビジネスの範囲を国内から海外に拡大したいという社員もいれば、より深いPCスキルを修得するために利用している人もいる。

●給与が半減!? 緊張感を持たせる事例

 最近では50代以降の社員に緊張感を持って仕事をしてもらう施策を講じる企業も増えている。例えば、56〜60歳の5年間の人事評価で給与などの処遇を決め、上位ランクに位置付けられた人は60歳時点の給与を再雇用後も保障し、下のランクに位置付けられた社員は給与が半減する制度にした企業もある。

 ある情報機器メーカーでは、50代以降の社員と毎年面談し、仕事への奮起を促すとともに、60歳以降の再雇用については今までの仕事で得意とするスキルや分野を自ら提示し、その仕事に見合った賃金を支払う仕組みを検討している。

 同社の人事部長は「自分がやりたい仕事など得意分野で働いてもらう。スキルによって時給1500円、2000円、3000円と格付けする。ただし、スキルが生かせる部署があるとは限らないし、中には『あの人はちょっと勘弁してよ』と言う部署もある。うまくマッチングできなければ安い時給で働くことになる。60歳までのスキルや職場での信頼を勝ち得ているかが大きく問われることになる」と指摘する。

 60〜70歳までの10年間を会社の戦力として活躍してもらい、本人自身の職業人生を充実したものにするためには、60歳からの学び直しやリスキリングでは遅い。

 遅くとも50代からの自発的なキャリア形成を本人に促し、会社も支援していく必要がある。また、そうしなければたとえ会社に残ったとしても50代の社員にはさらに厳しい試練が待ち受けている。

 次回は、60歳以降の高齢社員が生き生きと働き、戦力化に取り組んでいる企業の人材活用の仕組みについて紹介したい。

●著者プロフィール

溝上憲文(みぞうえ のりふみ)

ジャーナリスト。1958年生まれ。明治大学政治経済学部卒業。月刊誌、週刊誌記者などを経て独立。新聞、雑誌などで経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。『非情の常時リストラ』で日本労働ペンクラブ賞受賞。