三井住友フィナンシャルグループ(以下SMBC)が、ネット証券最大手のSBIホールディングス(以下SBI)に約800億円を出資し、本格業務提携に動きだすという発表がありました。この発表は、単純に銀行、証券それぞれの業界をリードする企業同士の業務提携成立という事実にとどまらず、各業界内の序列や既存の提携関係にも影響を及ぼし再編につながる可能性をもはらむ激震レベルのニュースであると受け止めています。

 今回の資本・業務提携はまず何より、SMBCが後れを取っていたネット証券分野での顧客基盤強化を狙ったという目的が明確に見えます。というのも、ここに来ての銀行業務の大きな変革に伴って、国内のマスリテール分野はリアル店舗の大幅な統廃合と共にWeb誘導による低コストでの取引基盤拡大は大きな戦略テーマであり、当該顧客基盤を有するネット証券との提携は有力な対応策のひとつとなってきたからに他なりません。

●ネット証券でメガバンク2行に後れを取っていたSMBC

 他のメガバンク2行の状況を改めて見ておきましょう。三菱UFJフィナンシャルグループ(以下MUFG)はグループ内の三菱モルガンスタンレー証券とは別に、カブドットコム証券(現auカブドットコム証券)に出資し、みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)もグループ企業のみずほ証券がソフトバンクと共同出資してPayPay証券を運営しています。

 これに対し、SMBCはグループ内にSMBC日興証券を有してはいるものの、ネット証券の領域ではメガグループとして完全に後れを取っていたわけで、今回の提携によって念願のネット証券との太い連携を手に入れたと言えるでしょう。

 ネット証券におけるSBIの強さは言わずもがなです。契約口座数は850万件(3月末時点)を突破しそうな勢いにあり、auカブドットコム証券の同約140万件、PayPay証券の約30万件はその比ではありません。業務提携による相乗効果が生まれるならば、出遅れながらも形成逆転まで早期にありうる状況に一転したと言えます。

 いきなり出し抜かれた形のMUFG、みずほFGは穏やかではないでしょう。今後は、ネット証券第2位で約770万口座を有する楽天証券や、約220万口座のマネックス証券などのネット証券大手が一体どこと組むのか、このあたりの動きも一気に慌ただしくなるのは想像に難くないでしょう。

●SMBCからの出資、新生銀買収資金の補填に?

 一方、今回の提携で見え隠れするSBIのしたたかさは、一筋縄ではいかないものを感じさせます。当然SBIは今回の提携によってSMBCの分厚い顧客層への切り込みをメリットとして見込んでいるわけですが、それ以上に目先にあるメリットは財務面です。

 ここ最近のSBIは限界地銀複数行への出資に加えて、新生銀行の買収で約1000億円を投資しています。これは借入などによって賄ったわけで、今回の第三者割当によるSMBCからの約800億円はまさにその返済に充てられる予定と報じられています。

 関係筋に今回の出資に関する舞台裏を取材すると、証券業務での提携を狙うSMBCはSBI証券への出資を申し出たものの、SBIは持株会社への出資にこだわり、SMBC側の要求を頑なに受け付けなかったといいます。

 言ってみれば、SBIにとって今回の出資による財務内容の改善は譲れない狙いであり、目線を変えれば、新生銀行買収資金の大半をまんまと「SMBCから出させた」ことにもなるわけなのです。そのしたたかさには、敬服の念すら覚えます。

●SBIがSMBCと組む理由 みずほ銀のシステム障害が影響か

 尋常ならざるSBIのしたたかさを感じさせる点は、SBIのメインバンクがみずほ銀行でありながら、提携相手にSMBCを選んだ点に表れています。もちろんSBIはSMBCとも取引はあるのですが、常識的な銀行取引の判断からすれば、仮にSMBCから資本・業務提携の話が持ち掛けられたとしても、メインバンクであるみずほ銀行に相談し、同行との提携を優先して検討するのではないかと思うのです。

 報道によれば、今回の件に関して最初に動き出したのは北尾吉孝SBI社長の方だったというのですから、メインバンクの顔は丸つぶれだと言ってもいいでしょう。

 SMBCを選んだ理由は2つ考えられます。1つ目の理由は、みずほの相次ぐシステム障害が社会問題化して、金融庁から業務改善命令を受け、トップの総入れ替えを余儀なくされたという体たらくぶりに、SBIとしては銀行取引はともかくとしても業務提携を結ぶことのリスクを考えたであろうということです。

 業務提携となればシステム面での連携は当然の流れです。ネット証券のSBIからすればシステムの安定運用はサービスの命綱でもあるわけで、システム運用面で未だ信頼感を得られないみずほとの提携はおよそ考えられなかったと思われます。

●「営業の野村」出身の北尾氏と「営業の住友」のコラボ

 もう1つの理由は、企業風土の問題です。資本・業務提携は、単なる業務提携とは比較にならないほど両者が踏み込んだ提携関係になるものです。しかも今回SBIが求めたものは、SMBCが同社の筆頭株主になるというこの上ない太い関係づくりであり、企業風土的なものが合うか否かも提携に向けた大きな判断材料となるわけなのです。

 SBIは創業以来、北尾氏のワンマン経営であり、北尾氏は抜群の営業力で業界トップに君臨する野村證券の出身。北尾氏のこれまで各方面での強引ともいえるやり口は、まさに「営業の野村」を彷彿とさせるものです。

 SMBCはその名の通り、旧財閥系の三井銀行と住友銀行の2行が合併して誕生したメガバンクですが、今や経営の主導権は完全に住友にあり、組織風土も住友のそれに染まっています。住友は昔から「セブンイレブン・バンク」(行員が朝7時から夜11時まで働く銀行)と揶揄(やゆ)されるほど、銀行らしいスマートさとはかけ離れたモーレツ営業で知られた銀行です。

 北尾氏がSMBC太田純社長を称して「ケミカルが合う」と語っていたことは、「営業の野村」と「営業の住友」という共通の組織風土を象徴していました。三行合併のマイナス効果ばかりが目立つみずほは、この点からもおよそ候補にならず「蚊帳(かや)の外」に置かれたものと思われるのです。

●ネット分野で出遅れた日興、相場捜査事件でガバナンス不全露呈

 ただ、蚊帳の外に置かれた存在は、SMBC側にもあります。グループ証券会社のSMBC日興証券(以下日興)です。

 日興といえば、古くから野村、大和と並ぶ3大証券の一角を占める名門であり、一時は米シティバンクグループの傘下にあったものの、SMBCが09年にこれを買収。グループ銀証連携戦略における証券業務の中核に据えたのでした。

 日興は長い歴史に裏打ちされた分厚い顧客層を有しながらも、ネット分野への出遅れもあり、顧客層がやや高齢層に偏っており、若年層戦略が喫緊の課題となっていました。

 そうした中、3月に日興で19年から21年にかけての取引先株式の相場操作という不祥事が表面化し、会社と佐藤俊弘副社長はじめ6人が金融商品取引法違反(相場操作)で起訴されるという事件が発生しました。

 これは“氷山の一角”とも言われており、6月に公表された調査委員会の報告で「異常な状況」と断罪されるほどに腐った会社ぐるみの不祥事であり、昭和の「株屋」体質そのままのガバナンス不全が白日の下にさらされたのです。

 SMBCとしては、こんな日興にグループ証券業務の将来を託すわけにはいかない、という事情が今回の提携を急がせたと考えられ、日興は完全に「蚊帳の外」に置かれる形となりました。

●想起される過去の“やらかし” 大和・日興の幻の「メガ証券」構想

 この関連でSMBCの日興関連の話で思い出されるのは、09年のグループ傘下入りの際に起きた大事件です。もともとSMBCは1999年から大和証券と資本・業務提携してグループ内証券会社に据えていました。

 ところが09年の日興買収に際して、買収後に大和・日興を合併させ、業界ガリバーである野村証券に対抗できるメガ証券をグループ内に強引に作ろうとし、大和側から提携を解消されるという失態がありました。

 旧住友から引き継がれたSMBCの、力でねじ伏せる企業風土を如実に表す出来事であったと思います。今回もまた、SBIと日興を強引にくっ付けるような荒業が出ないとも限りません。SBIの言いなりのままホールディングスに出資した裏には、そんな策略が隠れていてもおかしくないのです。

●SBI・SMBC提携は一大パラダイムシフトの序章か

 このように今回の資本・業務提携は、「したたかなSBI」と「力技のSMBC」の表向き協力体制に見えるものの、その実態は“ぶつかり合い”でもありそうで、まだまだこの提携がこの先どうなるのか予断を許さない状況にあると思います。

 「蚊帳に外」に置かれたみずほ、日興の“負け組”の行方と共に、銀行、証券入り乱れて勢力地図が一気に書き換わるような「金融界の一大パラダイムシフト」の序章であるようにも思え、当面目が離せそうにありません。