決算書といえば投資やビジネス視点で見るイメージがあると思いますが、より一次情報に近い経済ニュースでもあります。「決算書で分かる日本経済」ということで、4回連続で地方銀行の決算を取り上げていきます。

1. 銀行は斜陽産業? 千葉銀行の業績を左右するポイント

2. 苦しいといわれる第二地銀の実態は? 福島銀行の業績ポイント

3. 利益倍増の琉球銀行、そのカラクリは?

4. シェアハウス不正融資で終わらない、スルガ銀行が抱えるもう1つの爆弾

 今回取り上げるのはスルガ銀行です。

 かつてはその収益性の高さから「地銀の優等生」と評された企業です。

 立地的には「静岡銀行」と「横浜銀行」という、国内では3大地銀と呼ばれる大手行に挟まれる中で、利回りの高い個人向けの融資に活路を見出すことで、高収益の企業となっていました。

 例えば2017年3月期の平均貸出金利は3%台と、他の地方銀行が1%台の中で圧倒的な水準です。

 直近の22年3月の段階でも、貸し出しに占める個人ローンの比率は86%となっています。ほかの多くの銀行が5割以下なのに対して、非常に高い比率です。

 さらに他行の場合は個人ローンの大半は住宅ローンです。住宅ローンでは競争も激化し低金利化が進んでいますから利回りの高い商品ではありません。スルガ銀行の場合は、直近の22年3月期で個人ローンに占める住宅ローンの比率は24.8%と低水準になっています。

●「かぼちゃの馬車問題」からはじまるシェアハウス向けの不正融資、その後

 ではどうやってスルガ銀行が高い利回りを実現していたのかというと、不動産投資への融資でした。しかしご存知の通り、18年初頭に「かぼちゃの馬車問題」からはじまるシェアハウス向けの不正融資が発覚します。

 スルガ銀行は不動産投資を行う個人に多額の貸出をすることで高い利回りを実現していたわけですが、その中には通常であれば審査が通らない債務者も多くいました。そういった債務者に、融資の審査資料の改ざんを行い、融資を実行することで高い利回りを実現していたわけです。

 シェアハウス関連の融資に関しては、代物弁済による返済で債務を帳消しという、これまでにはなかったような調停が認められたことでも大きな話題となりましたよね。

 また、不正の背景には過剰なノルマが存在した事もあり、その企業体質にも厳しい目が向けられる中でイメージの悪化も大きなものとなりました。業績が大きく傾く中で19年に家電量販店大手のノジマと資本業務提携を結んだものの、ノジマ側の提案を拒否し続け22年にはその提携も解消となるなど、そういった面からも話題が続いている企業でもあります。

●不正融資問題を受けて業績悪化続く

 今回は地方銀行編の最終回として、そんなスルガ銀行がどのような状況になっているのか見ていきましょう。

 まずはここ数年の業績から見ていきます。

 経常収益を見ていくと、不正融資問題が発覚した18年3月期をピークに下落傾向が続いています。

 利益面を見ると、不正融資問題が発覚して問題となり始めた18年3月期には大きな減益となり、その損失の計上が本格化した19年3月期には非常に大きな赤字となっています。

 その後は黒字転換したものの、業績は下落を続けています。売上・利益ともに不正融資問題の悪影響を受け、業績悪化が続いていたことが分かります。

 それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。

 今回見ていくのは2022年3月期の業績です。

・経常収益(売上高)は、7.7%減の920.7億円

・経常利益は、54.1%減の105.9億円

・純利益は、62.8%減の79.6億

 で大幅な減収減益となっており、業績の悪化は止まっていません。

 銀行は預金を預かって(1)貸出す(2)有価証券などで運用するというのがメインの収益源です。そのために銀行にとって重要な、預金残高の推移をみてみると、減少傾向が続いています。

 問題発覚前の17年3月期には4兆1054億円あった預金残高は、22年3月期には3兆3121億円まで減少してしまいました。個人預金・法人預金・公金とすべてが減少しています。

 個人でメインで使っている口座の場合は、例えば給与の振込口座や何らかの料金の引き落とし口座などに設定されていると切り替えの手間は大きいですし、法人でも振込先の変更など周知する必要があり、口座の切り替えには手間がかかります。

 そういった中でも減少傾向が続いているわけですから、信用を失った影響は大きかったということでしょう。

 また、コロナ直前の20年3月期の預金は3兆2108億円でしたから、22年3月期は3兆3121億円とコロナ禍で増加に転じていることが分かります。これまで見てきた他行と同様で、給付金、消費低迷などの影響の中で日本全体の預金残高自体が増加する中で好影響は受けていたようです。

●貸出先8割が個人、法人コロナ融資増加の影響小さく

 続いて貸出金の残高を見ていくと、不正融資問題が発覚した18年3月期以降は右肩下がりで減少を続けていて、17年3月期に3兆2537億円あった残高は22年3月期には2兆1385億円となっています。

 預金はコロナ禍で一定の回復を見せていましたが、貸出に関しては減少傾向が続いていますね。

 19年に調査対象となった投資用不動産融資の状況としては、4割の物件が融資残高がゼロとなり、5割が元本一部カットと対応が進んでいますから、そういった物件の残高減少も影響しているのでしょう。

 これまで取り上げてきた地方銀行では、法人へのコロナ支援として、無担保・保証協会付・利子補填のいわゆるゼロゼロ融資の影響もあり、貸出し残高は増加していました。しかし個人ローンが貸出しの86.9%と大半を占めているスルガ銀行においては、その影響も小さかったことが考えられます。

 また、減益となった要因を見ていくと貸出金利息減少による影響が大きく、残高減少による影響が51億円あった他にも、利回りの悪化による影響が25億円となっています。

 スルガ銀行としても、以前のような「大きなリスクを取って高利回り」という手法から、リスクを抑制しミドルリスク・ミドルリターンの事業モデルへの転換を行う中で新規ローンの実効レートが低下しているとしています。さらに以前に融資を行った高利回り融資も条件変更に伴う貸出金の利回り低下も起きているとしています。

 業績・預金残高・貸出・利回りと全て悪化が続いていることが分かります。

 とはいえ経常利益ベースで21年3月期は230億円、22年3月期は100億円以上の利益が出てはいます。

 問題の発覚したシェアハウス関連の貸し出しについては、19年3月期に損失を出していますが、不正融資問題は18年に発覚してからまだ4年ほどしか経っていません。貸出の多くはそれより長期のものが多いですから、過去の高利回りの貸し出しから一定の利益が出ているということです。

 長期的には貸し出し減少、利回り悪化の中で業績悪化が考えられますが、短期的には過去の利回りのいい融資の好影響を一定程度受けられるということですね。

●シェアハウス向けローンの貸倒引当金の戻り入れがプラスに

 続いて与信費用を見ていくと37億円増加しており、これも業績悪化に影響しています。

 ではこれは問題の起きたシェアハウス向けの影響なのかというと、そうではありません。むしろ貸倒引当金を大きく積んでいたシェアハウスローンを一括譲渡したことを要因に、202億円ほど利益へプラスの影響があったとしています。

 シェアハウス向けのローンに関しては、スルガ銀行が債権を第三者に売却し、借入を受けている物件オーナー側が第三者にシェアハウスを物納することで借り入れが帳消しになるという解決スキームが取られています。

 なので、スルガ銀行としては貸し倒れを積んでいたシェアハウス向けローンの譲渡が進む中でその戻り入れがあり、利益面では大きなプラスの影響があったということです。

 ではどうして与信費用が増加したのかというと、シェアハウスローン以外の投資用不動産ローンに対する予防的引き当てを361億円計上したためだとしています。貸倒引当金の総額を見てみると、債権譲渡が進むシェアハウス向けは257億円となる一方で、シェアハウス以外の投資用不動産のローンが919億円と非常に大きな額となっています。

●一方、一棟収益ローンに向けた貸倒引当金が多額に

 というのも実は、問題が大きく話題となったのはシェアハウス向けのローンでしたが、不正があったのはシェアハウスだけではなくアパート・マンション向け融資もだったからです。シェアハウス向けの融資の訴訟が決着を迎えたこともあり、21年からスルガ銀行はこのアパート・マンション向けのローンでも提訴されています。

 そしてこのアパート・マンション向けのローンは規模が非常に大きいのです。特に大きいのが、一棟収益ローンというアパートやマンションを一棟まるまる購入するためのローンで、個人向けの貸出金1兆8385億円のうち1兆177億円と55.3%を占めています。

 そしてその一棟収益ローンの状況を見てみると、合計1兆177億円の内正常先としている債権は2399億円しかないことが分かります。8割弱の物件が問題が起きる可能性があると判断しているということです。

 現状は返済に延滞はないが、確定申告書が受理できない、融資先物件のキャッシュフローがマイナスの状況であるということで、要注意先に指定されている物件が5681億円と特に多額です。

 1棟収益ローンの物件の入居率は、21年度時点では87.4%となっています。これだけ入居率があってもキャッシュフローがマイナスになっている顧客が多いわけですから、かなり割高で物件を買いローンを組成していたことが分かります。

 今後の訴訟の結果次第で、シェアハウスと同様に債務免除のようなことが起きれば、その流れに乗る可能性が高い物件は多いと考えられますね。

 ちなみにシェアハウスのローンは、不正融資が発覚する以前の段階で2000億円ほどでした。それに対して一棟収益ローンの残高は1兆円以上、さらに正常先としているのは2399億円しかないことから考えても、不動産投資向けのローンの問題が本格化すると、非常に大規模な損失につながる可能性が高いことが分かります。

 訴訟の状況次第では、さらなる貸倒引当金の積み増しによる損失の増加の可能性がありますので、その点は注意が必要そうです。

●まだまだ続く業績悪化

 そういった中で23年3月期は、減収減益でまだまだ業績悪化が続く見通しとなっています。

 貸出金の利息減少に伴い、業務粗利益も63億円の減少となる見通しです。

 貸出の減少が続き、以前の高利回りの融資に関しても返済や条件変更、訴訟が進む中で貸出の利息の減少は止まらないようです。さらにシェアハウス以外の不動産投資ローンでは、組織的な交渉の状況を勘案し、予防的引き当てによって、40億円ほど引き当てを積み増すとしています。

 シェアハウス関連の債権譲渡による貸倒引当金の戻り入れの好影響は、まだ20億円ほどあるようですが、これでシェアハウス関連の債権譲渡は現状抱えている訴訟の中では最終だとしています。ということは、来期以降はその好影響が無くなります。

 今期の業績では、シェアハウス向けの債権譲渡による貸倒引当金の戻り入れの影響が業績に大きな好影響を与えていましたから、24年3月期以降は不動産投資ローンの貸し倒れの積み増しが進むとさらに大きな損失を計上することになる可能性がありそうです。

●貸倒引当金の戻入がなくなり、アパート・マンション向けのローンの訴訟が

 改めて全体を振り返ってみると、現在は以前の利回りの高かった時点の融資が残っており、一定の利益は出ています。

 しかし、不正融資の問題が表面化して以降は貸出残高の減少が続き、利回りも悪化しており業績の悪化が続いています。

 また、シェアハウスのローンに関しては訴訟が終わり代物弁済が進んでいますが、それ以上に規模の大きいアパート・マンション向けのローンが提訴され、要注意先としている債権が大幅に増加しています。

 今後はこのアパート・マンション向けのローンの訴訟の動向によって、大きく業績が左右される状況にあり、非常に大きなリスクを抱えていると考えられます。

 そして現在の業績は、このアパート・マンション向けローンによる貸倒の大きな積み増しを、シェアハウス向けローンの債権譲渡による貸倒引当金の戻入という特殊要因によって相殺している部分がありますが、この債権譲渡による好影響は23年の3月期を最後になくなります。

 ということで24年3月期以降の業績悪化はさらに大きなものになる可能性がありそうです。

(筆者プロフィール:妄想する決算)