一律200円の補償対応で一応の矛を収めた携帯電話キャリアKDDI(au)の大規模通信障害ですが、稀にみる大きな社会問題としてあらめて検証する必要があると感じています。

 本件は通話、データ通信利用はもとより、同社の通信網を利用する運輸インフラを始め、銀行や医療機関にまで及んだ大障害ですが、個人的には障害の影響そのもの以上に、KDDIの対応のまずさには企業マネジメント上で大きな問題を孕んでいます。

 何よりもまずその端緒は、障害発生後の初動にみてとれます。障害発生からの流れをあらめて時系列で振り返り、KDDIの対応を検証していきましょう。

●障害発生の第一報は1時間40分後 Twitter投稿は16時間後

 障害発生は7月2日午前1時35分。しかしKDDIが自社サイトに第一報を掲載したのは、発生から1時間41分後の同日午前3時16分でした。夜中であったとしてもこれは遅い。

 近年はTwitterなどSNS経由で騒動が広がる傾向がありますが、KDDI広報(@kddipr)の公式アカウントへの投稿はさらに遅く、同日午後5時28分と、発生から16時間後のことでした。多方面に影響の大きい通信インフラ障害であれば最低でも発生から30分以内には、障害発生の第一報を流すべきでしょう。

●ユーザーへの情報発信に課題 総務相も苦言

 同社はその後、携帯利用が急増する午前8時以降はほぼ1時間に1回の頻度でメッセージを自社の公式Webサイト更新し始めたものの、利用者にとって最も知りたい普及見通しなどについての言及は全くなく、これを見かねた首相官邸が物言いをつけたと言います。

 翌3日に会見した金子恭之総務相から「会見も周知もお客さま目線であるべきだと、官邸のほうから指示があった」との発言があり、KDDIの初動のまずさは如何ともしがたいと岸田首相自ら異例の苦言を呈したということが分かっています。

●「努力目標」に過ぎなかった復旧見込み時間

 この苦言を受けてのことだったのでしょう、同社は3日午前1時の掲載情報から「全国的にデータ通信を中心として徐々に回復してきています。西日本は7:15、東日本は9:30を目標として復旧活動に取り組んでいます」などと復旧見込みを公表しました。

 ところがこの後、同日午前11時に会見した高橋社長の発言で分かるのですが、この段階ではまだ原因が究明されたとは言える状況になく、西日本・東日本とも示された目標時間に何ら根拠はなく、政府に尻を叩かれ苦し紛れに表明した達成見込みのない「努力目標」に過ぎなかったのです。

●原因判明前の異例のトップ会見

 このグダグダな状況を打破すべく高橋社長が会見に臨んだわけなのですが、これは事故対応としては異例と言える原因判明前のトップ会見であり、これまた「総務省からのご意見もあり、影響範囲も大きいのでいち早く社長の私から伝えた方がいいというお話があった」(高橋社長)という、何とも主体性に欠けるものだったのです。

 この会見で高橋社長は「西日本は午前11時ごろに復旧作業終了、東日本も午後5時30分ごろ復旧作業終了予定」とあらためて「復旧見通し」を示したのですが、事態は見通し通りの収拾に向かうことなく3日中の回復を望む多くの利用者の期待をまたもや裏切ることになりました。

 翌7月4日に新たな問題(交換機から加入者データベースへの不要な過剰信号)が判明し(公表は復旧後)、復旧はさらに延びてKDDIが通信規制を解除し「概ね復旧」としたのは同日午後3時。さらに全面復旧は翌5日の午後3時36分でした。障害の発生から実に86時間後のことだったのです。

 金子総務相は5日の会見でKDDIの利用者対応について「通信事業者としての責任を十分に果たしたとはいえない」「内容、手段、頻度、いずれにしても利用者の不安を解消するために工夫の余地があった」とあらためて強い遺憾の意を示しています。

●KDDIとみずほ銀、顧客対応の遅さに類似点 

 このように一連のKDDIの事故対応を洗ってみると、事故対応のまずさという点で最近時どこかで似た出来事があったと思い当たるものがあります。それは、2021年に起きたみずほ銀行の大規模システム障害の対応です。

 当時、最も批判を浴びたのは、障害そのもの以上にみずほ銀行の顧客対応の遅さ、まずさでした。それでありながら、同行は過去のシステム障害発生時も含め「政府=監督者」のご機嫌うかがい対応には余念がない、と揶揄(やゆ)されてもいました。

 監督官庁の金融庁からも21年11月の行政処分に際し「言うべきことを言わない、言われたことしかしない」と、その組織風土を問題視するコメントまで出される始末だったのです。

 今回のKDDIも官邸、総務省からの要望に応えるべく、根拠のない復旧見通し情報を度々流し、あるいは新たな障害発生の公表が遅く、むしろ利用者を困惑させる結果となりました。

 最高責任者の社長は技術説明に長けたその会見が一部で絶賛されましたが、障害復旧を第一に考えて行動するのであれば、有事における不測の対応に対する最終決裁権者として現場指揮を優先し、原因判明前の経過説明会見はナンバー2以下に任せるという選択肢も必要だったかもしれません。

 こうした「政府=監督者」のご機嫌うかがい優先姿勢は、みずほ銀行のそれと同じものを感じさせます。業界は異なれども、危機対応姿勢に見える組織風土には同じ匂いを感じるのです。

●3社合併で「主導権者なき組織」にも共通項

 みずほ銀行とKDDIの共通点として、3社合併でかつ主導権者なき組織であることが挙げられます。みずほ銀行は、富士銀行、第一勧業銀行、日本興業銀行の3行が、KDDIは国際電信電話(KDD)、第二電電(DDI)、日本移動通信(IDO)の3社が、それぞれ合併して出来上がった合併企業です。

 このうち、KDDIは実質的には合併前3社の母体となっているトヨタ自動車(KDD=民営化時にトヨタが資本算入、IDO=トヨタ系携帯事業)と京セラ(DDI=京セラ系携帯事業)2社の寄り合い所帯であると言っていいでしょう。資本的には持株比率で京セラが若干上回っていますが、実質対等合併です。

 寄り合い所帯ゆえに勘定系システムの統合に失敗した、みずほ銀行の例が最も分かりやすい事例といえるでしょう。三菱UFJ銀行が日本IBM、三井住友銀行がNECと、合併に伴い各行の勘定系システムをそれぞれ統合し「シングルベンダー」体制に移行したのに対し、みずほ銀は合併前の各行のシステムの流れをくむ富士通(第一勧銀)、日立製作所(興銀)、日本IBM(富士銀)に、NTTデータを加えた4社からなる「マルチベンダー」を採用しました。

 それぞれにメリット・デメリットはありますが、異なるベンダーのシステムを共存させていることから、みずほ銀でシステム障害が多発する要因に、構造が複雑なマルチベンダーを指摘する声は少なくありません。みずほ銀に関しては、こうしたところを見ても、他行と比較して決断力の弱さが出ているといえるでしょう。

 2社合併でも3社合併でも確固たる主導権者なき合併は、経営のリーダーシップが弱く、平時には大きな問題はないのですが、有事になるとその弱さが如実に現れます。有事には平時とは比べ物にならない経営の決断力、けん引力が求められるわけで、これが弱いと対応の緩さや甘さが出てさまざまな弊害を生むことになるのです。

 同時に、自社の決断力、けん引力が弱ければ、外部の権威者に忖度する傾向が強くなり、結果的に監督官庁や政治的な力に動かされやすい状況に陥りがちにもなります。これが、今回のKDDIが「政府=監督官庁」に振り回され、顧客対応のまずさに至った大きな落とし穴であったと思われるのです。

●政府系由来組織との合併という点も酷似

 またKDDIは本来、合併3社の携帯電話事業で最大勢力であった旧DDIの経営母体である京セラが、合併当初からリーダーシップをとれば問題がなかったのですが、旧KDDが元政府系で国際電話事業を専業とする特殊法人であったが故に、人材的に優秀な人間が多く、京セラ勢が確固たるリーダーシップをとれなかったという恨みがその根底に存在しているようにも思います。

 この点は、みずほ銀行における政府系由来の政策金融機関でエリート人材が多い日本興業銀行の存在と酷似しているということも、付け加えておきます。

 余談ですが、世間の一部技術者を中心として7月3日の段階での高橋社長の会見が、社長自身が技術担当役員に頼ることなく専門用語を駆使して想定される障害発生のメカニズムを説明した「神会見」であったと評判になっていた点ですが、ある意味では同社のマネジメントの別の一面を映し出したとも言えます。

 技術系で専門知識に明るすぎる経営者は、むしろリーダーとしてのマネジメント力の弱さを疑ってしかるべき、と数多くの経営者を見てきた筆者個人の経験からは感じるところでもあるからです。

 このような組織風土のKDDIに、今後再び大障害が起きてしまったらどうなるのでしょう。みずほ銀行を見れば分かるように、確固たる主導権者不在の合併企業ゆえ「言うべきことを言わない、言われたことしかしない」組織は、何度同じことが起きても同じような結果が待っているのではないかと思わざるを得ないところです。

●リーダーには優れた決断力必要

 今回の件が引き金となり、高橋社長が結果的に退任を余儀なくされるのか否かは不明です。しかし、今後、KDDIがみずほ銀行と同じ轍を踏まないために、時期はともかく高橋社長の後任には、京セラ、トヨタに関わらず、あるいは技術的に優秀であるか否かに関わらず、確固たる経営の主導権を握って有事でもぶれない決断力に優れたリーダーを据えることに尽きるのではないでしょうか。

 KDDIで今後も主導権者不在のマネジメントが続き再び同じような大障害が起きるなら、契約者の奪い合いが続く携帯業界で同社は、一転して落ちこぼれ的存在になってしまうかもしれません。

 KDDIは通信障害の再発防止だけでなく、今回の組織風土に起因する有事対応のまずさについても、重大な危機感をもって再発防止に取り組む必要があるでしょう。

(書き手:大関暁夫)