企業やブランドが提供する「顧客体験」の価値を定量的に評価する「顧客体験価値(CX)ランキング2022」。最終回となる今回は、小売店ブランドを軸に顧客体験価値向上を実現するための方法を考察していく。

・ワークマン(本年度第8位)

・無印良品(本年度第11位)

・ニトリ(本年度第15位)

・ダイソー(本年度第27位)

・セリア(本年度第31位)

・ドン・キホーテ(本年度第49位)

 6ブランドの主力商品は異なるものの、回答者の自由回答からこれらのブランドに共通する体験価値は「コストパフォーマンスの良さ」だと分かった。しかし、コスパを評価される小売店なら他にも数多くあるだろう。6ブランドが持つコスパ以外の強みは何だろうか?

  まず「ダイソー」「セリア」「ドン・キホーテ」において、コスパに加わる体験価値を探ってみよう。回答者の自由回答から、ドン・キホーテには、顧客が心を掴まれる体験価値に「レジャー感」があることが見えてくる。

・変わったものやおもしろいものが多い(40代女性)

・雰囲気などから顧客を楽しませようという姿勢が伝わる(40代男性)

・買い物をするときにワクワクする(30代男性)

・おもしろく、目新しさがある(50代男性)

・掘り出し物を見つけるのが楽しい(40代女性)

 セリアには、「かわいい」という体験価値の声が多く集まった。

・安いしかわいい(50代女性)

・実用性とかわいさを兼ね備えた商品がそろっている(40代女性)

・かわいい雑貨や小物などが多い(30代女性)

・かわいいものが多い(20代女性)

 ダイソーの顧客は、その「アイデア」に体験価値を見い出していることが分かる。

・アイデア商品がすごい(40代女性)

・生活の気になることを解消できるようなアイデア商品を展開している(50代女性)

・生活に便利なアイデア商品や欲しいと思ったものが販売されていることが多いから(30代男性)

・安価で多岐にわたるジャンルの商品を販売しており、独自のアイデアを取り入れた付加価値のある商品が魅力(30代男性)

 「レジャー感」「かわいい」「アイデア」は、これら3ブランド固有に表れるものであり、それが、コスパを競争優位とするランキング外の他の小売店ブランドから、頭一つ分抜けて人々の心を掴む理由だと推測できる。

●「お、ねだん以上。」のニトリの戦略は?

 次に「ニトリ」をみてみよう。企業メッセージの「お、ねだん以上。」がコスパそのものを個性化し、人の心を掴んでいると言えそうだ。

・「お、ねだん以上。ニトリ」というキャッチフレーズ通り、リーズナブル(70代女性)

・「お、ねだん以上。ニトリ」というキャッチフレーズに忠実だと思う(40代女性)

・値段以上の価値があると思うから(20代女性)

・商品の品ぞろえが豊富で、しかも安い。家具もしっかりした作り、かつシンプルで機能的。まさに値段以上だから(50代女性)

 さらに、ニトリを評する声を見ていると、ブランドを強くするためのインナーブランディングの要ができていることに気付かされる。ここでいうインナーブランディングの要とは以下4つの切り口を指している。

 「キャッチフレーズ通り」「キャッチフレーズに忠実」「まさに値段以上」とブランドの評価軸としてキャッチフレーズが扱われていることは、顧客がその価値を強く実感していることの証明にほかならない。この状態は、社員へのキャッチフレーズの浸透やそれを体現したサービスを提供するという同社のインナーブランディングが生み出した結果と言えるだろう。

 キャッチフレーズ以外にも顧客がニトリを評価する理由がある。自由回答から、顧客の声を聴きニーズを捉える「共感力」と顧客の期待を超えるために迅速に動く「俊敏力」が評価されていることが分かる。

・顧客の要求・要望に沿った商品の展示(70代男性)

・不便だと潜在的に思っていたことを解消するような商品が多い(40代女性)

・家具だけでなく生活雑貨など、使いやすさを常に追求した商品開発をしていると感じる(30代女性)

・便利なものを次々発売しているから(20代女性)

 「お、ねだん以上。」は、体験価値を顕在化させる社員の原動力、ブランドを評価する顧客のチェック機能として社内外を結んでいる、それがニトリの強さである。

●ワークマンはなぜ愛されるのか?

 ここからは、小売りカテゴリーのトップ2である「無印良品」「ワークマン」を考察していく。まず、無印良品のコスパに付随する体験価値は「シンプル」だと言える。

・シンプルで機能的。無駄がないので使いやすい(50代女性)

・無駄を省いた品質の高い商品を低価格で販売している(60代女性)

・全ての商品が機能性抜群でシンプル、そして使いやすい(20代男性)

・商品の購入を無理強いすることなく、こちらが欲しい情報だけを即座に教えてくれる。まら、接客も嫌味がなく丁寧です(40代男性)

 特筆すべきは、「専門店」「日用品販売」「服飾雑貨・靴・鞄・アクセサリー・宝飾」の3つの業種で最高の顧客体験価値スコアを獲得している点だ。

・服、雑貨、家具、食品いろいろ扱っているが、どれも統一されたコンセプトを感じる(50代女性)

・全てにおいてシンプルかつこだわりがある。デザインや機能性が全てストライクゾーンに入ってくるすごさを感じる(60代女性)

 商品デザインだけでなく機能性や接客に至るまで無駄を省いた、「シンプル」という体験価値を複数の業種にまたがって提供している。ドン・キホーテやセリアなどの先述したブランドとの違いもここにある。

 最後はワークマンだ。男性の作業着ブランドから躍進したきっかけは、扱うアイテムをスタイリッシュなワークウェアに絞り、売り方や見せ方を変えた「WORKMAN Plus(ワークマンプラス)」という新ブランド店舗を立ち上げたことが大きい。顧客もコスパ以上の「プロが認める高い機能性」という同社が押し出したい体験価値を実感していることが自由回答からうかがえる。

・安全性の高い製品がそろっている。現場で働く作業員からの評判が高いイメージ(20代男性)

・前は安い作業着屋、または男性用の普通の洋服店だったが、今は女性用など仕事以外のシチュエーションでも使えるラインアップに代わってきた。もともと作業着屋だったこともあり、ポケットの配置など機能的価値がよく考えられている(50代男性)

・価格が安く機能の高い製品を販売しており、近年はさらにオシャレな女性向けの製品も販売するようになったから(20代女性)

・洋服の機能性・品質が高いにもかかわらず値段が安い(50代女性)

 無印良品とワークマンを語る際に欠かせないキーワードは「広がり」だ。これまでブランドは「ブランドが出したい商品を顧客が受容するか」という観点で商品を開発してきた。商品開発において、顧客の声をアクションに生かす動きは、顧客起点・顧客中心主義に類すると言える。ただし、今後ブランドをより拡大させていくためには「顧客が欲しい商品をブランドが許容するか?」という観点も不可欠だと考える。

 ワークマンは当時、自社のことを「仕事着ブランド」だと認識していた。しかし、実際の顧客の使用状況を調べたところ、アウトドアやスポーツのシーンで使用されていることが判明した。これがワークマンプラスのきっかけだという。まさに企業が意図しない用途で顧客自身がブランドの役割を広げた好事例と言える。

 無印良品に置き換えれば、業種を超えて顧客が求める「シンプル」という体験価値をブランドが許容し、取り込んできた結果が今の姿ということになる。

 本稿の冒頭で述べたドン・キホーテ、セリア、ダイソーの「レジャー感」「かわいい」「アイデア」という体験価値自体も広がりのポテンシャルを持つ。ブランドの体験価値を違う用途や業種に広げられないかを考えてみることが、ブランドの価値向上につながっていく。

●著者紹介:小牧功(こまきいさお)

インターブランドジャパン 戦略グループ シニア・ディレクター。コンサルティング会社を経て、2001年に参画。企業・ブランドの理念・パーパス策定から、社内外への浸透及び経営計画やガバナンス構築まで幅広い領域の経験・知見を有する。業界・業種、プロダクト・サービスやコーポレート及び企業グループの様々な対象で、経営層や現場に気づきを与えつつ巻き込み、ブランドをテコに共に変革を実現する支援を行う。セミナー講演・研修など講師活動を企業・大学等で活発に行っている。