「あずきバーが発売当初より硬くなっているらしい」――SNS上でこんなつぶやきが話題になっている。例年夏になると「あずきバーに負ける人続出」「勝負を挑んで前歯を欠けさせる人は多いらしい」などと、その“硬さ”を取り沙汰されることが多いあずきバー。あずきバーを提供する井村屋の公式Twitterも「歯には気を付けて召し上がれ」とツイートしている。

 あずきバーは本当に硬くなっているのか? 同社の開発部冷菓チーム課長の嶋田孝弘さんに聞いた。

 「あずきバーが発売当初より硬くなっている、というのは本当です」(嶋田さん)

  数年前にあるテレビ番組の企画で、発売当時のレシピを再現してみたところ、今のあずきバーよりも柔らかいことが判明したのだという。

 もともと井村屋は1896年の創業以来、ようかんやゆであずき、ぜんざいを中心に事業を拡大。畑違いのアイス事業に参入したのは、東京オリンピック目前の1963年のことだった。しかし、当時のアイス市場は雪印や明治など乳業メーカーの独壇場、しかもフレーバーはバニラ一強であったため、後発かつ和菓子屋として認知されていた井村屋はヒット商品が出ず、苦戦を強いられていた。

 そこで、井村屋にしかないアイスを作ろうと方針を転換。そうはいっても、一体どんなアイスを作れば……? 悩む社員たちに創業者が言った「うちにはあずきがあるやろ」の一言をきっかけに、「井村屋が得意とするぜんざいを固めて、アイスにできないか」との発想が生まれたのだという。

●あずきバーが硬くなっている理由

 あずきバーを作る工程自体は、炊きたて熱々のあずきを0度以下に急速で冷やし、型に入れてマイナス10〜20度で凍らせるというシンプルなものだ。

 「炊きたてのあずきの香りを閉じ込めるため、いかに早く0度以下まで冷やすことができるかが最初の課題でした」(嶋田さん)。当時はこのような急速冷却機能を持った機械がなかったため、専用の機械を機械メーカーとともに一から共同開発したという。「この時開発した冷却機械はその後も改良を重ね、現在も活躍中です」(嶋田さん)

 型に入れて棒アイスにする過程では、液体より重いあずきの粒が沈んでしまうという問題が発生。試行錯誤の末、原材料である水あめやコーンスターチの配分を工夫した他、かき混ぜながら凍らせる製法にたどり着き、1本に約100粒のあずきが均等に入った「あずきバー」を作ることに成功。アイス事業への参入から10年後の1973年、あずきバーを発売した。

 このようにして作られるあずきバー。ではなぜ、発売当初より硬くなっているのだろうか? その理由は“甘さ”にある。

 「発売当時は甘いものが貴重だったこともあり、砂糖を多くしてかなり甘めに作っていました。しかし、現在は甘さ控えめで素材本来の味を味わえる商品が人気で、そのため砂糖の量を減らしています。砂糖の量が減れば、必然的にあずきや水などの他の原料の量が増え、その結果硬くなっているのです」(嶋田さん)。意図的に硬くしているのではなく、数〜10年のサイクルで実施するレシピ改良の結果、偶然にも硬くなっているというわけだ。

●2021年度の販売本数は3億本超え

 何かと”硬い”ことで注目されがちなあずきバーだが、2021年度の販売本数は3億本を突破。来年には発売50周年を迎え、アイスクリーム市場で確固たる地位を築いている。

 「今でこそあずき系アイスはさまざまな種類がありますが、あずきへのこだわりには自信があります」(嶋田さん)。あずきバーに使用するあずきは、指定農家から買い付けたもののうち、あずきバーに合う大きさのみを選別。あずきの大きさをそろえることは、かじった時の口当たりや食感の良さに直結するからだ。

 「あずきは農作物なので品質が安定しません。あずきバーの味や品質を一定に保つため、あずきの状態を見ながら、炊き時間や火力、砂糖の量、投入するタイミングに混ぜる力加減などを絶妙に調整しています。まさに熟練の職人技と言えますが、これは長年あずきを扱ってきた井村屋だからこそできることです」(嶋田さん)

 また、10年からは欧米やアジアなど世界各国に輸出を開始。21年9月からはマレーシアであずきバーの現地生産に着手した。「マレーシアは人口の約60%イスラム教徒で、ハラール認証のレベルが高いのです。マレーシアでハラール認証を取得したことは、他のASEAN諸国に輸出する上で大きなメリットと言えます」(嶋田さん)

 マレーシア向けでは味をローカライズし、「IMURAYA AZUKI BAR」など3種類を展開。アジア圏には甘い豆を食べるという食文化があるので受け入れられやすいのも狙いだという。

●あずきバーに次ぐ看板商品を作る

 ロングセラー商品として愛されるあずきバー。しかし、「普段あずきを食べない」「あずきの皮の食感が苦手」という理由から、若年層、特に子どもからの人気が低いという。「あずきバーはそのイメージ通り、年配の方からの人気に支えられています。実際に購買層を分析しても、50〜70代が圧倒的に多いのが現状です」(嶋田さん)

 そこで同社は子ども人気を獲得するため、幼稚園におやつとしてあずきバーの無料配布を行っている。「あずきバーは原材料に安定剤・着色料・香料を使っていないので、お子さまのおやつとしても安心・安全です。地道な取り組みではありますが、こうした食育を通して若年層のあずきバーファンを増やしていきたいと考えています」(嶋田さん)

 嶋田さんがチーム長を務める冷菓チームは、12人中9人が20代。同社でも屈指の若いチームだという。「目下の課題はあずきバーに次ぐ看板商品を生み出すことで、それには“井村屋=和”という固定概念がない若い世代の柔軟な発想が必要不可欠です」(嶋田さん)。嶋田さんが開発を担当し今年10周年を迎えた「やわもちアイス」シリーズや、若手社員のアイデアから生まれた「ごろろん果肉 アップルパイバー」は、あずきバーに次ぐヒット商品となっているという。

 「私たちは商品開発において、“不易流行”をモットーにしています。つまり、変えてはいけないところは変えず、変えるべきところは勇気を出して変える。あずきバーが今まで生き残ってきたのも、あずきのおいしさにこだわる姿勢は変えず、消費者の味の好みなどに柔軟に対応してきたからだと思います」(嶋田さん)。あずきバーの硬さの中には、井村屋の柔軟な姿勢が隠されていた。