自動車メーカー各社の第1四半期決算が出揃った。という書き出しに反しているかもしれないが、実は第1四半期決算はあまり重要ではない。

 理由は簡単。3月末で締まり、5月に発表された本決算の見通しでは、滑り出しの4月の要素はそれなりに反映されているから、そこからたった2カ月で大きく予想を覆すようなことにはまずならない。むしろそこで何かあるなら大事件と言っていい。

 実際各社の決算を見ても、通期予測に関しては特に波乱はない。三菱自動車だけわずかに上方修正があったが、それ以外は全社期首予想を据え置きである。影響を与えたのは「部品供給不足」「原材料価格高騰」「円安」の3つで、それが分かれば概ね予想は付いてしまう。

●「部品供給不足」「原材料価格高騰」「円安」

 部品不足に関しては、サプライチェーンをどうコントロールできたかがほぼ全て。部品不足で製品の生産は不足しているにもかかわらず、需要は概ね好調なので、作れれば売れる。実際スバルはそのように発言している。なので、生産台数の推移を見れば、どのメーカーが調達力が高いのかが判断できる。

 原材料価格の高騰に関しては、各社ともほぼ打つ手がない。トヨタに至っては1兆7000億円もの原材料価格高騰に苦しめられている。ただし、先に触れたように、旺盛な需要に対してクルマの供給不足が続いているので、値引きが抑えられるし、クルマがなければ広告宣伝費も掛けようがないので、トータルで見れば原材料費高騰の埋め合わせはある程度できる。

 そして円安である。今回の円安では、海外での売り上げを円に換算すると十パーセント台後半レベルで利益が出る。この金額は巨額に上るので、先の値引き抑制や広告費の削減と合わせ、原材料費の価格高騰や部品不足に起因する生産台数の落ち込みをほぼ埋め合わせできている。メーカーごとの差があるとすれば、やはり国内生産が多いメーカーほど輸出での利益が増えている。裏返せば円高局面でリスク回避のために、現地生産を増やしたメーカーは儲(もう)け損なったところがある。

●中国と米国 エリアごとの見通し

 エリア別の話をすれば、中国に強いメーカーには逆風だ。言うまでもなく上海のロックダウンの影響で、販売が極度の不振に陥ったからだ。ただし、4〜5月でその影響は収まっており、すでに以前の水準に戻っているメーカーがほとんどだ。そうした状況を踏まえて、各社は年間販売台数を期首計画のまま、営業利益も据え置いている。まあ全体としてみれば、諸々の変化を差し引けばプラマイゼロと考えていい。

 第2四半期以降の不安要素としては、かなり濃厚になりつつある中国と米国の景気後退気配である。すでにそれを織り込んで(台湾問題の影響も含む)円安が底を打った可能性があることも大きい。長らく続いた荒れ相場に強い円に戻る可能性が高まりつつある。

 そのあたりは各社の長期計画にも影響を与えるので、注意深く見守って行く必要がある。常識的な見通しとしては、中国の景気後退は日本のバブル崩壊と構造が極めて似ている。過剰投資および資産価値縮小の調整が終わるまで先の展望が見えない。簿価変動の大きさからいって、一度崩れたら5年やそこらで回復するとは思えない。少なくとも10年以上は続く長い不景気のトンネルになりそうである。

 一方で米国はどうかといえば、短期的に大きく崩れる可能性はあるが、構造的問題をはらんでいるわけではなく、むしろ常識的な景気循環のサイクルだと見られる。中国発の大不況でよっぽど対応を誤らない限り、2年程度で戻る可能性が高い。

 という仮定をおいての話だが、推測通りに事が進むと、中国投資を進めてきたメーカーは厳しいことになるかもしれない。具体的にいえばホンダと日産である。逆に中国にも米国にも軸足のないスズキは、どちらの影響もほとんど受けない。ただし、日本のメーカーとしては珍しく欧州マーケットに強いので、どうしてもウクライナ情勢や、欧州のエネルギー政策の影響は強めに受ける。それでも真の軸足はインドであり、インドを足がかりに攻めに転じているアフリカマーケットで新たな成功を収めつつあるので、インドとアフリカの動向いかんによっては、欧州の影響は十分キャンセルできてしまうだろう。

 米国経済の影響を強く受ける会社は多い。トヨタ、ホンダ、日産、マツダ、スバルは影響甚大である。ただ先に触れたように、米国は周期的に不況が来るので、長期的には各社織り込み済みだし、リーマンショックを筆頭にその対応を経験済み。それほどの心配はしていない。

●部品供給の構造問題

 さて、そうした情勢の中で、そろそろ構造的に手を付けなくてはいけないのが、部品供給問題である。コロナ禍の発生以来、問題が表面化し、徐々に拡大していったサプライチェーンの毀損(きそん)は、そろそろ一時的問題とは言い切れない状態になってきた。

 自動車メーカーが自動車を作れないのだから大問題に決まっている。過去にも何度も書いてきたが、それはグローバルサプライチェーンの欠点が露見して来たことを意味する。

 耳にタコができている人もいるかもしれないが、この源流は、ベルリンの壁崩壊からスタートする旧東欧圏の工業化である。主にドイツの自動車メーカーが、人件費と地価が安く、教育水準が高い東欧に労働集約的部品の生産を任せ始めた。クルマは3万点ともいわれる多くの部品の集合体であり、その部品には高度で高コストな機材と技術が必要なものもあれば、何より安い労働力が必要とされる部品もある。それらを自由貿易協定(FTA)エリア内でうまく組み合わせて、トータルコストを抑えながら、高度な製品作りを行っていく方法だ。

 日本の自動車メーカーはこれに範を取り、ASEAN(東南アジア諸国連合)で同様の手法を取り始めた。工業水準と人件費の異なる国が一つの経済圏として固まっているASEANは、この取り組みにとってかけがえのないエリアだった。しかし、異なる経済力の国々があれば、コロナのような問題が発生した時、防疫力に大きな差が出る。その差によってロックダウンなどが発生する。国際分業によるローコスト化は、その構造がボトルネックとなって顕在化してしまった。

 問題発生直後は、「そう簡単に置き換えることが不可能」と考えていたメーカー各社も、そろそろ一定の頻度を覚悟すべきリスクと、その捉え方を変え始めた。

 では、どうするのか? そう簡単に適度な工業力差や人件費差があるFTAエリアはない。かといってこのまままた生産ストップを許容していくわけにもいかない。

●部品生産の国内回帰はあるか

 となると浮上するのは日本である。自動車メーカー各社は日本に最終組立ラインがあるので、日本がロックダウンになれば部品があっても作れない。それは日本だけというわけではないが、要するに最終組立ラインのある場所は、最終防衛ラインである。となると、分業している部品の一部を日本に生産に移管するという可能性が出てくる。

 先日トヨタの豊田章男社長にその可能性を質問したところ、日本への生産移管を検討し始めているという。考えてみれば、日本は長らく人件費水準が上がっていない。われわれはついこれまでの慣習で「日本の人件費は高い」と考えがちだが、中国も人件費が高騰している中で、もはや日本の人件費はそれほど高くなくなった。

 加えて、例えばトヨタならば、メーカー自ら技術者を派遣して、サプライヤーでのコストダウンを共同研究して、ものの作り方を変えることで、更なるコストダウンが可能かもしれない。カイゼンは遠隔地でやるより、日本国内での方がその精度は高められる可能性が高い。さらに、経済安保的側面で見ても、台湾問題に起因する地政学的リスクに関しても部品生産の日本回帰はメリットが大きい。

 もちろん根こそぎ日本へというのは無茶な話だが、選択的に上手く組み合わせれば、そこには十分に可能性がある。例えば、昨年大きな問題となったインドネシア生産のワイヤーハーネスを例に挙げよう。これを全部日本に回帰させるのは難しいだろうが、例えば20%だけ日本で生産すれば、インドネシアがロックダウンになっても、20%は生産可能になる。もし日本でその生産を請け負ったサプライヤーが、倍の生産量まで耐えられるのだとすれば40%を維持することが可能になる。

 仮に1個1000円のワイヤーハーネスを、1000個作ると100万円だ。80%は従来通り1000円のコストでインドネシアで作り、残り20%を2000円で日本で作ったとしても、1000個トータルのコストは120万円で済む。こういうやり方なら価格への影響は限定的だろう。価格差が縮むごとに日本生産の比率を高めていけばいい。

 こうした考え方をベースに置きつつ、さらに戦略的に考えれば、メーカーにはメーカーごとに会社の屋台骨を支える車種がある。こうしたクルマについて重点的に部品の二重調達化を進めるとしたら、リスクは大きく下げられる。

 そう考えると、今回の部品不足問題は、バブル期に一度空洞化が進んだ日本のものづくりを、海外生産から部分的に取り戻し、日本経済を復興させるきっかけになるかもしれない。

(池田直渡)