ここ数年、スーツ姿にリュックを背負ったビジネスパーソンをよく目にする。在宅勤務も定着し、紳士服大手各社が苦戦している中、ビジネスリュックはウェアとは異なる流れがあるようだ。

 かばん製造販売大手のエース(東京都渋谷区)によると、かつてビジネスリュックの主流といえば、“手提げにもリュックにも肩掛けにもなる”といった3WAYタイプの商品だったが、現在はよりスマートでスタイリッシュなものが人気だという。特に同社が2018年から展開する「ガジェタブル」は好調で、22年6月時点でのシリーズ累計販売数は24万個を突破した。

 ガジェタブルの特徴はその薄さだ。幅が10センチ前後しかなく、電車内でも周囲に配慮した「マナー持ち」ができるという。7月には限定モデル「ガジェタブルEF」を発売している。

 コロナ禍前に比べ出勤する人は減っているが、なぜ同シリーズが支持されているのか。同社のマーケティング部広報PR担当の森川泉さんに話を聞いた。

●担当者に聞いてみた

――ビジネスリュック「ガジェタブル」が好調のようですね? いつからビジネスリュックに注力しているのでしょうか

森川 当社がビジネスリュックに注目し始めたのは、東京マラソンがスタートした2007年でした。健康志向ブームの高まりがあって、ビジネスパーソンも、一駅歩いて通勤する、お弁当を会社に持っていくというのがちょっとしたムーブメントになっていました。その流れから、今後はビジネスリュックが売れ出すのでは? と開発に力を入れ始めました。

 その後、東日本大震災の発生や環境省によるスーパークールビスの推奨、スマートフォンの普及などから、ビジネスリュックの需要が右肩上がりに伸びる状況になりました。

 そんな中、当社の営業があるお得意先と話をして話題にあがったのが、「リュックを持っている人が増えたが、電車に背負ったまま入ってくる人はすごく邪魔だよね」という声でした。であれば、そのまま満員電車に乗っても邪魔になりにくいリュックを開発したらいいのでは? と企画を進めたのが「ガジェタブル」シリーズです。薄型で、電車の中で邪魔にならない持ち方に対応したリュックとして開発しました。

 実際に日本民営鉄道協会が実施した「駅と電車内のマナーに関するアンケート」(2018年度)での1位は「荷物の持ち方・置き方」でした。その当時は「電車内でリュックを持ってる人が多いな、邪魔だな」と感じている人ははすごく多かったのかなと思います。

――なるほど。発売当初の反響はいかがでしたか?

森川 電車内で邪魔になりにくくするため、余計なものが飛び出していないデザインにこだわっています。通常のリュックとは異なり、設定した規格に収まるよう開発するという制限があり、その中で最大限効率的に物を詰められるよう開発していますので、お客さまからは『思っていた以上に荷物が入る』との声をいただいています。

 例えば、リュックのフォルムも余計な丸みを持たせず、パソコンなど四角いビジネスツールがきっちり入るシンプルなデザインとしています。ポケットの位置も少しずつすらして、1カ所が膨らんで他のポケットに入れられないということが起きないようにしています。

 当社のオンラインストアで購入されたお客さまのレビューを見ると、「コンパクトなのに荷物がたくさん収納できる」「電車内でかさばらず、持った時に見た目がすっきりして見える」「軽量で負担が少ない」との声をいただいています。

――7月には限定モデル「ガジェタブルEF」を発売していますが、これまでのシリーズと何が違うのでしょうか。

森川 ガジェタブルシリーズは18年から販売していますが、ガジェタブルEFは、“2022年のビジネスパーソンの通勤に寄り添えるリュック”を目指して開発しました。

 例えば、肩ベルトの一部をメッシュ素材に置き換え通気性を高めた新構造のベンチレーションハーネスを搭載しています。また、背面パッドには凹凸を設けて空気の通り道を確保しました。リュックは普通のカバンと違って体に当たる部分が多いので、肩や背中が蒸れてしまいます。また、コロナ禍で自転車通勤を始めた方も多かったので、涼しくなる機能を追加しています。

 あと、内装上部には「吊りポケット」を配置しています。リュックはどうしても下に物がたまり、上部はデッドスペースになってしまいます。その部分にポケットを設けることで、ケーブルやUSBなどを分けて入れられるようにしました。

 大きいサイズには、シリーズで初めてエキスパンド機能を搭載し、荷物の量に合わせて容量を増やせるようにしました。

 ガジェタブルシリーズではマチ幅を10センチ以内に収めるルールを設定していますが、一部のお客さまからは「もう少しマチ幅があったらいいな」とのお声もありました。そこで、同サイズでは、幅を12センチ、エキスパンド時は16センチに設定しています。

――コロナ禍で、働き方も変わりましたが需要の変化などはありましたか?

森川 緊急事態宣言が出たあたりから、当社の直営店にビジネスリュックを買いに来られるお客さまが増えました。理由を聞いてみると、「これまではリュックNGだったがテレワークになったので買いに来た」「パソコンを持ち運ぶ必要があるが、重くて大変」という方が結構いました。

 また、これまでは割と若い世代の購入が多かったのですが、ご年配のお客さまも増えるようになりました。「リュックの方が楽なんだろうなと思いつつ敬遠していたが、パソコンを持ち歩く必要があるし……ついに買いに来たんだよね」といった声もあるようです。コロナ禍を機に、新たにビジネスリュックを使い始めたという方は圧倒的に増えたと思います。

 震災以降からの流れではありますが、コロナ禍で働き方がすごく多様化し、ビジネスファッションがどんどんカジュアルになってきています。ビジネスリュックも、カジュアルになったビジネスファッションに合うデザインや、女性用アイテムの開発にも注力しています。

【記者メモ】

 森川さんによると、同シリーズは男性だけでなく女性や学生からも支持されているのだとか。薄さを意識しつつも、2022年のビジネスパーソンに寄り添った新商品は、そのニーズにどこまで対応できるだろうか。ガジェタブルEFは、「リュック小」(2万8600円)、「リュック中」(2万9700円)、「リュック大」(3万1900円)の3種類を用意している。