焼肉のファストフード「焼肉ライク」で、コロナ禍を吹き飛ばす快進撃を続けるダイニングイノベーション(東京都渋谷区)。同社が低価格・高品質のハンバーガーに挑んだ「ブルースターバーガー」が7月31日に全店閉店した。

 ブルースターバーガーは、2020年11月10日、東京・中目黒の山手通り沿いに誕生。オープン当時は店の前に黒山の人だかりが連日できるほどのすさまじい人気。それが半年ほどは続いただろうか。目標とした全国2000店もすぐに達成できそうな勢いを感じた。

 しかし、店舗数は思ったように伸びず、今年になって次々に閉店。最後まで残っていた創業店の中目黒店も閉店してしまった。わずか2年足らずの短いブランドの命をあっけなく終えた。

 ブルースターバーガーは、ITを駆使した「超スマートモデル」が特徴。オーダー・決済・受け取りまで、全てを完全非接触で実現する、ニューノーマル時代にフィットしたテークアウト専門のプチグルメバーガーを標榜。オープン時の圧倒的なにぎわいから、日本発の世界ブランドを目指す、外食DX(デジタルトランスフォーメーション)の成功例ともてはやされた。

 店舗を「完全キャッシュレス化」と「テークアウト専門店」にすることで、家賃・内装投資・人件費といった経費を極限まで軽減。その分を商品原価に投資するモデルとした。

 通常のレストランだと30%程度の原価率であるところを、ブルースターバーガーは驚異の原価率68%を実現したという(当初、税別170円で提供された「ハンバーガー」の原価率)。

 開発者でダイニングイノベーション創業者の西山知義氏は、「牛角」創業者でもある。現在はコロワイド傘下に入っているレインズインターナショナルで、牛角の他にも「土間土間」「しゃぶしゃぶ 温野菜」などのヒット業態を手掛けてきた。

 それら幾つものヒット業態の仕掛け人、西山氏が外食人生の集大成として提案したのがブルースターバーガーであり、FC(フランチャイズ)に最適な業態としていた。しかし、実際には4店がオープンしただけだった。

 中目黒店に次ぐ2号店は、21年12月3日にオープンした神戸元町店で、関西初出店でもあった。同月22日にオープンした東京都立川市の立川北口店が3号店。

 4号店は渋谷センター街に22年1月、渋谷宇田川店をオープン。同店は「Gourmet113」と称して、1枚113グラムある大サイズのパティが売りの、コンセプトストアとした。従来の店舗と異なり店内に広い飲食スペースを用意。価格も「ハンバーガー113」が550円(税込)と、高めの設定だった。

 神戸元町店と立川北口店は、今年5月31日閉店。Gourmet113 渋谷宇田川店は、6月30日の閉店。半年しかもたなかった。

 なぜ、理論的に完璧に見え、実際に大繁盛していたブルースターバーガーは、フードテックを駆使しながら急速に顧客を失い、失敗してしまったのだろうか。

●テークアウト専門のハンバーガー店

 ブルースターバーガーのシステムを説明しよう。

 ダイニングイノベーションは完全キャッシュレスを実現するために、モバイルオーダー&ペイシステム分野で豊富な実績を持つ、Okage(東京都中央区)と共同で、独自のモバイルオーダーシステムを開発。

 オリジナルアプリまたは、店頭のタブレットで、商品を注文して決済すると、受け取り番号が発行される。そして、受け取り時間が来ると、店頭にあるピックアップ専用棚より、セルフで商品を受け取る仕組みになっていた。

 完全キャッシュレスなので、現金に触ったり、レジで待たされることもない(はずだ)。

 全てITで完結するテークアウト専門のハンバーガー店として、業界に革命を起こすとしていた。

 コストを削減した分だけ材料費に充てて、素材の鮮度と作り立てにこだわった、高品質なグルメバーガーを、カジュアルに楽しむことができる仕組みを構築した。

 また、無駄な在庫や廃棄を省き、常に新鮮な食材が利用できる、Limited Supply Style(メニューを絞り、売り切れ次第販売終了)を取ることで、フードロス削減にも取り組んだ。

 店内はテークアウトに特化した効率的なレイアウト。顧客はでき上がった商品をピックアップするだけなので、イートインスペースが不要。接客サービスも不要だ。

 店舗面積が小さくても経営ができるため、賃料が最低限で済み、初期投資が安く抑えられる。ファストフードとして確立されたハンバーガーなので、職人技も不要なアルバイトで現場を回せるモデル。アプリ上で在庫と連動しているので、店舗発注の手間も抑えられている。FC展開に有利な要素がそろっているとした。

 ちなみに西山氏は、中国で急成長するキャッシュレス決済のコーヒーショップ「ラッキンコーヒー」に行った体験により、ブルースターバーガーの着想を得たそうだ。

●タブレットの前に行列

 しかし、実際には、待ち時間ゼロどころか、オープンした頃は顧客が殺到。タッチパネルの前に行列ができて、注文した後も1〜2時間は優に待たされていた。

 それだけ反響が大きかったわけだが、ファストフードとして体をなしていなかった。

 それに、決済をキャッシュレスに全振りしたのも、現金決済が主流の日本ではハードルが高かった。Gourmet113 渋谷宇田川店では、最終的に現金払い専門のタッチパネルを店頭に設置していた。

 また、Gourmet113 渋谷宇田川店は55席を有し、1950年代アメリカンダイナーの雰囲気を構築して評判は悪くなかった。しかし、これだけの席数を用意したということは、不要に見えたイートインスペースが実は必須のものだったと認めたに等しく、真逆の修正を行った。

 テークアウト専門をうたった創業店の中目黒店も、当初は店内に立ち食いができるスペースを確保していただけだったが、最終的にはゆっくりくつろげるように座席を設けた。

 このように「完全キャッシュレス化」「テークアウト専門店」という、2つの前提が崩れると、家賃・内装投資・人件費といった経費を極限まで軽減して商品原価に投資するモデルが、成立しなくなってしまう。

 しかも、牛肉の値段が高騰。世界的なコロナ禍からの需要回復による供給不足や、牛の飼料となる穀物価格の高騰などが背景にあり、一企業の努力では対処できない。現にブルースターバーガーは今年4月に値上げした。一例を挙げれば、ハンバーガーの値段は210円(税込)と、200円を超える価格になった。

 そうした理由で、大けがをしない前に、早々にブルースターバーガーは撤退を決断したのではないだろうか。

 なお、ダイニングイノベーション傘下のブルースターバーガージャパン(東京都渋谷区)という事業会社が経営しており、西山氏の長男、西山泰生氏が社長を務めていた。

 泰生氏は、シンガポールと米国で高校生活を送り、起業に興味を持った。大学入学後は複数のIT企業でインターンを経験。ITを活用して、日本の外食の環境改善に役立てたいと考え、大学生ながらDXを駆使して、世界最大の外食市場であるハンバーガーショップの展開に打って出たとのこと(出所:大学生社長による神戸市の低価格バーガー、新規参入の策とは)。

●ハンバーガーに大手が相次いで参入

 コロナ禍に入ってから、テークアウトやデリバリーに強いハンバーガー業態は、外食が自粛を要請され、時短、休業を余儀なくされても例外的に好調に推移してきた。

 「マクドナルド」を経営する、日本マクドナルドホールディングスの20年12月期の売上高は前年同期比2.3%増、経常利益は同14.3%増。21年12月期の売上高は同10.2%増、経常利益は同7.0%増となった。

 「モスバーガー」を経営する、モスフードサービスの21年3月期の売上高は同4.3%増、経常利益は15.8%増。22年3月期の売上高は同9.0%増、経常利益は154.6%増となっている。

 このようなハンバーガーの好調ぶりが明らかになるにつれて、外食他業種からのハンバーガーへの進出が目立った。

 ブルースターバーガーもそうした動きの一環。ダイニングイノベーションはチキンバーガーの「ドゥーワップ」も立ち上げて21年7月、東京・代官山に1号店をオープンした。

 他にも、「鳥貴族」が21年8月、チキンバーガーの「トリキバーガー」1号店を東京・大井町にオープン。

 「ロイヤルホスト」のロイヤルホールディングスが21年5月、チキンバーガーの「ラッキー ロッキー チキン」1号店を東京・武蔵小山にオープン。

 「築地銀だこ」のホットランドは、群馬県桐生市の「ジューザバーガー」と提携して20年12月、東京1号店を東銀座にオープンした。

 しかし、ハンバーガーの競争激化で、21年度のハンバーガー店の倒産(負債1000万円以上)が前年度の1件から6件に急増。今年はさらに淘汰が進むと見られていた(東京商工リサーチ調べ)。

 外食大手の新規参入組で、真っ先に消滅したのがまさかのブルースターバーガーだった。

●プロはどう分析する?

 では、フードテックの専門家は、ブルースターバーガーの蹉跌(さてつ)をどう見ているか。

 一般社団法人レストランテック協会(東京都千代田区)の山澤修平代表理事は、「IT化とDXはよく混同されるが、ブルースターバーガーが行ったことはDXではなかった」と語る。

 山澤氏によれば、IT化とは、ITを使って組織の生産性を向上させること。一方で、DXはITを手段の1つとして、ビジネスモデル等を変革して競争上の優位を確立すること。ブルースターバーガーは、接客をITに置き換えて、料理に全振りの業態を構築したが、「IT化+α」の道半ばの状態。DXに到達する以前に、原材料の高騰などの想定外の外的環境変化の影響で、撤退を余儀なくされたと推察する。

 「同社のアプリは、AndroidとiOSを合わせて1万程度はインストールされている状態。そこから取得できるお客さま情報で、オンライン上でも、顧客体験を向上させることは可能だった」と、山澤氏は残念がる。

 接客面では、例えば「アマゾン・ドット・コム」をはじめとするECサイトのように、過去の注文データや性別、年齢から分析して、パーソナライズされたお勧めメニューが出せたはずだ。

 空間面では、例えば出身地データから、アプリ上に出身地域別のコミュニティーを立ち上げ、神戸牛、松阪牛など地域ブランド牛のフェアなどを企画して、生産者と交流を図ることができた。

 料理でも、パティの焼き方などの調理法をカスタマイズできれば、顧客満足度が向上した。また、大量のオーダーをさばく調理ロボットを導入すれば、従業員の負担が軽減できただろう。

 お店がオープンした頃、さばき切れない程の注文を受けて、ひたすら調理し続ける従業員の姿からは、悲壮感すら漂っていた。

 このようにITを活用しながらも、顧客と従業員の満足度を上げる発想にまで至らず、業務効率化の域に止まったのが、ブルースターバーガーがじり貧に終わった原因だと山澤氏は指摘した。

●接客不要の落とし穴

 また、飲食店向けオンライン予約システムのテーブルチェック(東京都中央区)代表取締役の谷口優氏は「ブルースターバーガーのような注文時に接客がない業態には、デメリットもある。何を注文すべきか悩んでいるお客さまにアドバイスができないし、顧客単価が上げにくい。リピート来店する動機も薄くなってしまい、新規顧客を獲得するために広告を投下し続けなければならない」と、接客不要のシステムには落とし穴があると警鐘を鳴らした。

 都内でサービスを拡大しつつある国内発のフードデリバリー「Chompy(チョンピー)」を立ち上げた、Chompy(東京都目黒区)代表取締役の大見周平氏は、コストを抑えて作ったアプリの基本的な性能に問題があったと指摘。「ブルースターバーガーは、リリース時のアプリに使いづらさが散見された。App Storeのスコアは2.0前後と低く、リニューアル後も1.3だった。限られた予算で開発したと聞いている」とした。

 「特にリリース初期には、一気通貫させるべき、業務オペレーションとユーザーが使用するソフトウェアの擦り合わせが不十分だったために、大幅な遅延が多発。その後も提供予想時間を遅めに設定せざるを得ず、ファストフードとしてのコアが失われがちだった」と、フードテックに十分な投資をしないうちに、店舗拡大を急いだことに敗因があったとしている。

 それではマクドナルドのようなIT活用も進んだ大手とは、勝負にならない。

 なお、Chompyはデリバリーに止まらず、イートイン、テークアウトも一括した顧客管理、顧客データ活用のトータルサポートで、同業他社と差別化している。

●その歴史的意義とは

 テーブルチェックやChompyのような、ITを活用して外食を支援する企業が登場した今日では、個人店でもやり方次第でDXが可能になってきた。ブルースターバーガーはその流れを示唆した点で、歴史的意義があった。

 谷口氏によれば、オンライン予約システム導入により24時間予約受付が可能となった。その効果として、閑散期のケーキの注文数が1.5倍になったパティスリー(神戸市「ラヴニュー」)や、ランチタイムの集客が2回転から3回転に上がった予約制豚カツ店(大阪市「とんかつ乃ぐち」)もあるという。

 電話がつながらずに取りこぼしていた顧客を、オンライン予約で拾えている。しかも、予約電話からの解放で店員が料理や接客に専念できる、働き方改革につながっているかが重要。ブルースターバーガーが残念だったのは、効率優先のため店員の労働が調理ロボット化し、顧客との接点もできず、疎外が進んだことだ。

 しかし、ブルースターバーガーは、まだ郊外のドライブスルーを試していなかった。また、どの店も家賃が高い駅前の一等地に店を構えていたが、テークアウトが中心ならば二等、三等立地で良かったのではないかとの疑点がある。キャッシュレス決済に慣れた外国人には受けたはずで、インバウンドが本格的に再開されていれば、結果は違っただろう。

 商品の評判は上々だったのだから、何度も上陸と撤退を繰り返してようやく軌道に乗った「バーガーキング」や「ウェンディーズ」のように、諦めず再チャレンジしてほしい。

(長浜淳之介)