スマートフォン市場が踊り場を迎え、大手メーカーの出荷台数が軒並み減少する中、中国のシャオミ(小米科技、Xiaomi)が8月11日に折りたたみスマートフォンなど新製品を一挙に発表した。

 2021年にスマートフォンのシェアを大きく伸ばし、EV(電気自動車)への進出も宣言したシャオミだが、昨年の快走は、ライバルであるファーウェイ(華為技術)の失速という“漁夫の利”感が強かった。

 スマートフォン、EVという強力な競合がひしめく業界で勢いを継続できるのか、今年から来年にかけてが正念場となりそうだ。

●前日発表のサムスンより薄く、軽く、安い

 11日の発表会には創業者の雷軍CEOが登壇し、スマートフォン2機種、タブレット、スマート換気扇など多くの新製品を披露した。目玉は折りたたみスマートフォン「MIX Fold 2」だった。

 プロセッサにクアルコムの「Snapdragon 8+ Gen 1」を搭載、バッテリー容量は4500mAhで67ワットの急速充電にも対応する。

 メインカメラには、ライカブランドの5000万画素カメラを搭載し、ほかにも1300万画素超広角カメラや800万画素望遠カメラを採用している。

 ハイエンド端末にふさわしいスペックに加え、同機種の最大の特徴は、5.4ミリという本体の薄さだ。前日に発表された韓国サムスンの折りたたみスマートフォン「Galaxy Z Fold4」の6.3ミリよりも薄く、閉じたときの厚さも11.2ミリに抑えた。

 閉じるとヒンジが水滴のような形になり、折りたたむと隙間が出ない「水滴型ヒンジ」を採用して薄さを実現し、部品の数を28%減らすことで、重さも既存の折りたたみスマートフォンの中では最も軽い262グラムになった。

 メモリ12ギガバイト/ストレージ256ギガバイトモデルの価格は8999元(約18万円)で、前モデルより1000元(約2万円)価格を引き下げた。

 MIX Fold 2は今のところ中国のみでの展開だが、グローバル版の「Galaxy Z Fold 4」の1799.99ドル(約24万円)に比べるとさらに割安感を感じる(それでも高いが……)。

 シャオミは21年2月に初代折りたたみスマートフォン「MIX Fold」を発売した。

 サムスンやファーウェイが、先に折りたたみスマートフォンを発売していたので、「とりあえず発売する」ことを優先したのだろうが、差別化策を打ち出せず、ヒットしなかった。

 今回のMIX Fold 2は競合ブランドの製品を研究した上で、価格と厚さという折りたたみスマートフォンのボトルネックに切り込んだと評価できる。

●22年は総崩れの中国スマホメーカー

 いまやスマートフォンは消費者にとって必需品ともいえる消費財だが、22年に入って急ブレーキがかかっている。

 市場調査会社カウンターポイント・リサーチ(以下、カウンターポイント)によると22年4-6月の世界スマートフォン出荷台数は、前年同期比9%減の2億9500万台。上位5ブランドのうち成長したのはサムスンのみで、シャオミの下げ幅は最も大きい25%だった。

 ウクライナ戦争や新型コロナウイルスにより経済の不確実性が高まり、消費者心理にも悪影響を及ぼしていることが背景にあるが、特に上海が2カ月間封鎖されるなど、経済が大混乱した中国市場は大打撃を受けた。

 「コロナ禍でステイホームになってもECがある」と日本人は考えるだろうが、上海のロックダウン期間は市民は原則として家から出られず、店や役所は閉まり、物流も麻痺したため、車も売れなかったし、結婚も離婚もゼロ件になった。

 カウンターポイントによると22年4-6月の中国のスマートフォン販売台数は同14.2%減り、12年10-12月の水準まで落ちた。ちなみにこの数字はスマートフォンの売り上げがピークだった16年10-12月期の半分以下だ。

 カウンターポイントのアナリストは「消費者心理の低迷や新たなイノベーションの欠如により、下期の状況改善は非常に困難」とも分析している。

●HONORの猛追でシェア食われる

 21年に大きく業績を伸ばしたシャオミも、今年に入って苦しんでいる。

 同社の21年通期の売上高は前年比33.5%、純利益は同69.5%増え、4-6月にはスマートフォンのシェアが世界2位に浮上した。社員100人以上に1人3億円を超えるボーナスを支給したほど、絶好調だった。ボーナス支給については、過去の本連載で詳しく紹介しているので、参考にしてほしい。

【関連記事】シャオミが社員122人に「3億円」特別ボーナス、ファーウェイ失速で絶好調(21年7月15日の本連載)

 ただ、好調の最大の要因は、米政府の規制で半導体の調達を封じられたファーウェイが、スマートフォンを生産できなくなったことで、アップル、OPPO、vivoなど他のメーカーもそろって販売を伸ばしたことにある。

 シャオミは中国メーカーの中では海外進出が早かった分、グローバルでファーウェイからの買い替え需要をより多く取り込めた。

 22年はその“ファーウェイ効果”が薄れたことに加え、ファーウェイから分社したHONORが急成長し、他の中国メーカーのシェアを浸食し始めた。

 カウンターポイントは22年4-6月の出荷台数が同79%上昇し、世界6位に上昇したHONORを「中国メーカーの中で明確な勝者」と指摘している。

 シャオミはファーウェイが失った市場の多くを奪い取ったが、ハイエンド市場はアップルに跳ね返され思ったように食い込めなかった。さらにファーウェイから分かれたHONORの猛追を受けるようになった。ボーナスタイムは終わったのだ。

●アンドロイドの戦場は折りたたみスマホに

 ハイエンド市場でiPhoneの圧倒的優位を崩す存在として最も有望視されているのが、折りたたみスマートフォンだ。中国でしか展開されていない商品が多いため、日本では実感しにくいものの、同市場は急激に伸びている。

 カウンターポイントは世界の折りたたみスマートフォン市場での出荷台数が、21年の900万台から73%成長し、22年に1600万台、さらに23年には2600万台に達すると予測する。

 物価高やコロナ禍で経済がぐらついてもラグジュアリーブランドや高級マンションが売れまくっているように、スマートフォンでもプレミアム市場は経済の逆風の影響を受けにくいというのが、カウンターポイントの見立てだ。

 実際、8月10日、11日の2日間だけでサムスンのGalaxy Fold 4、Flip 4、シャオミのMIX Fold 2、レノボ傘下・モトローラのMoto razr 2022と折りたたみスマートフォン4機種が発表された。

 中国ではファーウェイやOPPOも折りたたみスマートフォンを出しており、アンドロイドスマートフォンの戦場の中心になりつつある。

 ただ、ここでもシャオミは存在感が薄い。19年に世界で初めて折りたたみスマートフォンを発表したサムスンが市場をリードしており、サムスンの力が弱い中国市場に限るとファーウェイがシェアの半分を握っている。

 シャオミは元々、アップルによる製品やマーケティングを巧みにローカライズして人気を博した企業で、マーケティングのうまさは誰もが認めるところだ。その反面、「イノベーション」のイメージを高められないことが、アップルやファーウェイとの差にもなっていた。

 24年のEV発売を目指している同社としては、スマートフォン事業で一層の弾みをつけたいところでもある。市場の地合いが悪く、iPhone14も近く発売される中、「MIX Fold 2」がどこまで健闘するか注目される。

●筆者:浦上 早苗

早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育などを行う。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。帰国して日本語教師と通訳案内士の資格も取得。最新刊は、「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。twitter:sanadi37。