「アルコール離れ」が加速している。国税庁によれば、成人1人当たりの酒類消費数量は1995年度に100リットルだったが、2020年度は75リットルまで減少。コロナ禍で外食や飲み会が減った影響も大きいようだ。

 一方で、顕著な伸びを見せているのが、アルコール度数が低い「低アル」やアルコールを含まない「ノンアル」の市場。近年、大手飲料メーカー各社がノンアル・低アルの新商品をこぞって発売し、“ほどよい飲み方”を推奨している。

 アサヒビールでは体質や気分、シーンに合わせて飲み方をスマートに選択できる「スマートドリンキング」の推進を20年12月に宣言。電通デジタルとの合弁会社としてスマドリ社を創業、アルコール度数を選べるノンアル・ローアルバー「スマドリバー渋谷」を22年6月にオープンした。

 なぜ、若者を中心にノンアル・低アル商品が好まれているのか。スマドリ社CMOの元田済氏、ブランドマネジャーの加藤寛康氏に聞いた。

●積極的に「飲まない」選択をする人が増加

 元田氏によれば、欧米では、あえてお酒を飲まない、あるいは少量しか飲まないライフスタイルを指す「ソバーキュリアス」が増えるなど、「シラフでいることがクール」といった価値観が広まりつつあるという。

 ソバーキュリアスというワードの生みの親であるルビー・ウォリントン氏の著書『飲まない生き方 ソバーキュリアス』によれば、ソバーキュリアスを選ぶと「ぐっすり眠れるようになる」「お金が貯まる」「生産性がアップする」などの変化があるそうだ。

 元田氏は「日本でもソバーキュリアスに近い価値観が広がりつつある」と話す。アサヒビールの調査によれば、20〜60代の人口約8000万人のうち、お酒を飲まない人(飲めない人+あえて飲まない人)が約4000万人にのぼるという。中でも20〜30代はこの傾向が強く、半数以上が「飲まない」そうだ。

 「実際に20〜30代の人と話して聞かれたのは、『酔っ払うのはカッコ悪い』とか『合理的じゃない』といった声です。この年代は、一昔前の飲み会カルチャーを受け継いでいないし、節度ある飲み方が浸透していますよね。仲間とのつながりは大事にするけれど、コミュニケーションは従来の飲み会じゃなくてもいい、と考えるようです」(加藤氏)

 さらに、コロナ禍で飲み会や外食が減ったり、ノンアル・低アル商品のラインアップが増えたりするなかで、「飲み分け」の需要も増えているようだ。

 「以前は、運転しなければいけないからノンアルでガマンするなど、ノンアル・低アルはネガティブな選択肢と考えられていた気がします。しかし、最近はコンディションを保つために平日はあえてノンアル、週末だけお酒を飲むといった飲み分けをする人が増えているのかなと。酔いたくないけれど、ジュースやお茶では物足りない。そういう人が積極的な選択としてノンアル・低アルを選ぶという新たな市場ができている印象です」(元田氏)

 「私がまさにこのタイプで、1日の終わりにリフレッシュしたい。けれども酔いたくないという考えから、あえてノンアルを選ぶようにしています」(加藤氏)

 アサヒビールでは、アルコール度数0.5%の低アル飲料として、21年3月に「アサヒ ビアリー」(ビール)を、9月に「アサヒ ハイボリー」(ハイボール)を発売。当初は共働き世代の30〜40代に好評で、その後も順調に伸びている。21年のアルコール度数1%未満のビールテイスト飲料は前年比で118.1%、カクテルテイスト飲料は同126.7%に伸長したそうだ。

●飲めない人と飲める人が、一緒に楽しめるバー

 このようなノンアル・低アルブームが見られるなか、6月30日にオープンしたスマドリバー渋谷。若者でにぎわう渋谷センター街に位置し、ビルは全面ガラス張りで開放感がある。バーというより、おしゃれなレストランやカフェに近い雰囲気だ。

 特徴は、100種類を超えるノンアル・低アルメニューを取り扱うノンアル・低アル専門店であるということ。ドリンクメニューの多くは、0〜3%までの3種類のアルコール度数から好みを選ぶことができる。

 アルコール離れが進む20〜30代をターゲットにしており、中でも「体質的にアルコールを飲めないが、飲みの場は好きな人」と「アルコールを飲めるが、自宅では飲まない。飲みの場は好きだけれど、あまり酔い過ぎたくない人」の2タイプが持つニーズを突き詰めたという。

 直近のデータでは、1日の平均来店者数は約164人。圧倒的に多い層は、来店者全体の約52%を占める20代女性だ。年代別で見ると、来店者全体の約70%が20代だという。

 アルコール度数の人気は、3%、0%、0.5%の順となる。元田氏は「来店者層や来店動機は、当初の想定どおりだ」と話す。

 「来店動機として多いのは、飲めない友だちと飲食を楽しみたい、SNSを見て来てみたくなった、仕事の合間のリフレッシュとして、友人から勧められた、などです。お客さまとのコミュニケーションはInstagramをメインにしていて、Insta経由での予約が目立ちます。当初から、飲める人と飲めない人が一緒に来れるバーにしたい狙いがあり、実際そのような動機で来店される方が多くいますね」(元田氏)

●完成された“映え”ではなく、“体験”を提供

 内装やメニューなどは、メインターゲットとなるZ世代のリアルな意見を取り入れた。加藤氏いわく、「Z世代が好む体験価値を反映させた」そうだ。

 「彼らとの対話を通して分かったのが、自分たちに主導権がある楽しい体験を求めているということ。“写真映えする商品”や“撮影スポット”として、完全につくり上げられたものではなく、メニューは自分で手を加えるなどして変化を楽しみたいし、それらを撮影する場所も自分たちで選びたいと。こういった声を生かしながら、メニューや内装をつくっていきました」(加藤氏)

 人気のドリンクを尋ねると、3位が「渋谷クラフトレモネード」、2位が「渋谷クラフトコーラ」、1位が「マーブリング レイン」とのこと。

 いくつか人気ドリンクを飲んでみたところ、炭酸水を注ぎ、かき混ぜる過程でドリンクの色が変化する「マーブリング レイン」は、気分が高揚するような楽しさがあった。それぞれの味わいにも、こだわりが感じられた。筆者の個人的な感想ではあるが、アルコール度数0%でも味が物足りないとは思わなかった。

 バニラビーンズ、シナモン、ジンジャー、ジュニパーベリーなど7種の香辛料を使用した「渋谷クラフトコーラ」は、複雑さがありノンアルらしからぬ味。「マーブリング レイン」は、いい意味で期待を裏切っていて、見た目のイメージとは異なってスッキリ感があった。

 内装は、ドリンクが映える壁の色や顧客が撮影しやすいライティングなどに配慮されている。実際にドリンクを撮影してみると、カメラの明るさなどを調整せずとも非常にキレイに撮影できた。

 訪れた人たちの多くは、メニューが到着してから10〜15分は撮影に費やすらしい。スマドリバー渋谷では、こういった一連の体験も含めて価値だと考えているそうだ。

●ノンアル・低アルの販売量構成比を20%に

 数年前から拡大している国内のノンアル・低アル市場について、アサヒビールは引き続き拡大傾向が続くと予想している。また、WHOが不適切飲酒の撲滅を掲げている現状などを踏まえ、同社は不適切飲酒を防止するための活動や適正飲酒の啓発に取り組み、アルコール起因の課題減少を目指すという。

 その一環として注力するのが、ノンアル・低アル商品を充実させ、多様な飲み方の選択肢を提案すること。25年までに、全商品に占めるアルコール分3.5%以下の低アルとノンアル商品の販売容量構成比を20%にすることだ。21年までに9%に到達しており、引き続きこのカテゴリーを推していく方針だ。

 直近の取り組みでは、渋谷区と共同で取り組む適正飲酒啓発の一貫として、この秋から渋谷区内の大学で「適正な飲み方」を学べるセミナーやワークショップの開催を予定している。単純にアルコールの危険性や課題を伝える内容ではなく、デジタルマーケティングの視点で適正飲酒の啓発を考えてもらうなど、大学生が興味を持って参加できるよう工夫するそうだ。

 ますます盛り上がりそうなノンアル・低アル市場。商品のクオリティーが上がり選択肢が増えている今、「あえて飲まない選択」は人々にとって合理的なのだろう。

(小林香織)