電気自動車(EV)を急速充電しすぎたらバッテリーが故障した──こんな投稿がTwitterで注目を集めている。投稿者によると修理代として100万円が必要になったといい「これだからEVは選択肢としてない」「本来のEVの乗り方ではない」など賛否両論の意見が出ている。

 バッテリー事情に詳しい人にとっては、当然の反応だったようだが、それ以外の人にとっては驚きだったようだ。政府が温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」(CN)を2050年までに目指す方針を掲げる中、BEV(バッテリー式EV)はその切り札として期待されており、近年は一般用だけでなく、BEVを社用車・公用車として導入する企業・組織も増えている。利用する上での注意点と適切な充電方法を、日産自動車に聞いた。

●日産広報「できるだけ急速充電控えて」

 同社広報は取材に対し「できるだけ急速充電を控え、普通充電かV2H(充放電機)を使い、充電してほしい」と回答した。急速充電は高電圧の電流で従来の充電方法よりも充電時間を短縮できる一方で、車載バッテリー(リチウムイオンバッテリー)に負荷がかかるためだ。

 では、普通充電と急速充電はどの程度使い分ける方がいいのだろうか。同社は「具体的な回数は提示していない。できる限り普通充電を使用することを推奨する」と明言を避けた。急速充電の回数制限についても「保証については、急速充電の回数制限はない」と、こちらについても明言を避けた。移動中のバッテリー切れなど、やむを得ない場合は急速充電を使うことになるが、家庭用コンセントなどを使った普通充電が原則となるようだ。

 「必要以上の頻繁な充電を避けることで、リチウムイオンバッテリーを長持ちさせることができる。できるだけ急速充電を控え、できる限り普通充電を使用することを推奨する」(日産広報)

 同社はユーザーに対し「日産自動車の電気自動車は、安全には万全を期しているが、充電方法やリチウムイオンバッテリーの取り扱いについては、使用前に取扱説明書をよくお読みいただきたい」とコメントしている。

●BEV主要モデルの普通充電時間は半日〜1日

 日本で販売中の主要BEVの航続距離と普通充電時間はどの程度か。各社の公式Webサイトの情報を基にまとめると、代表格の「リーフ」「アリア」(ともに日産)が満充電までにかかる時間は、それぞれ最大23時間30分、25時間30分。1度の充電で走行可能な航続距離は最大550キロ、610キロだった。

 経済産業省や東京都の補助金を利用することで、実質200万円台で購入できるとして販売が好調な軽EV「SAKURA」(eKクロス EV)は最大8時間の充電で180キロ走行できるという。

 米テスラのように、公式サイトに航続距離や急速充電の情報を記載していても、普通充電にかかる時間を明確に記載していないケースも確認された。

●BEV普及の課題は航続距離、充電時間、充電場所

 東京都新宿区を起点に距離別にアクセス可能な場所を挙げると、利用方法や使用モードで前後する可能性があるものの、180キロで長野市(長野県)、300キロで仙台市(宮城県)、山形市(山形県)までアクセスでき、静岡市(静岡県)なら往復可能。500キロなら神戸市(兵庫県)、和歌山市(和歌山県)、盛岡市(岩手県)、鳥取市(鳥取県)などに1度の満充電でアクセスできるとみられる。

 日産は自社の公式Webサイトで充電スポットの検索サービスを提供しており、充電器の設置個所を3万基(2021年2月末時点)とPRしている。だが、この数値には急速充電の7950基を含んだ数値のため、バッテリー劣化を防ぐためには、ユーザー側で利用前に普通充電か、急速充電かを確認する必要がありそうだ。

 これらのことから、BEVが現在、抱える課題が見えてくる。それは長距離移動には適さないという点だ。急速充電を使用しない場合、現状ではフル充電に半日から1日近くかかる車種が多い。例えば、地方への旅行に使用した場合、夕方から充電を始めたとして、翌日利用するには満充電にならないまま、使用することになるケースが予想される。そうなった場合、頻繁に充電する必要があるが、地方は都市部ほど充電設備が充実しておらず、「充電難民」に陥る可能性が高い。

 トラックなど業務用にBEVを利用する場合も、現状では、近距離での輸送に限られ、長距離輸送への導入は難しいだろう。ECサイトの利用拡大で輸送ニーズが増加傾向にある輸送業界で、フル充電まで半日も車両を待機させておくのは現実的ではないからだ。急速充電を利用したとしても、バッテリーが劣化し、故障した場合は修理費用が別途必要になることから、事業者にとって負担となり、導入に二の足を踏ませる要因となる。

 BEVはガソリン車よりも高価なケースが多い。普及促進には充電時間の短縮、航続距離の拡大、地方での充電場所の拡充が今後の課題になるだろう。日本では火力発電がメインであることを考えると、BEV自体からは二酸化炭素(CO2)が排出されないとはいえ、動力源となる電力の発電時にCO2を排出している点や、ウクライナ情勢の悪化などで、今夏の電力需給がひっ迫した点も見逃せない。

 一般的に航続距離を伸ばす手法としては、車載バッテリーを大型化することが一例として考えられるが、大型化で車体の重量が増加するほか、フル充電までの待機時間もその分、長くなる傾向にある。このため、自動車各社には充電時間の短縮はもちろんのこと、事情によって急速充電を多用するユーザー向けの手厚いサポートも必要となる。

 これに加え、今回取材した日産は公式Webサイトに「外出先での充電には急速充電が便利」と記載しているのみで、急速充電の弊害を記載していない。自動車各社にはBEVを導入した法人ユーザーなどに対し、バッテリーの適切な充電方法を周知徹底することも今後、求められそうだ。