1ドル140円を超える急激な円安で、日銀の異次元緩和政策が岐路に立たされている。

 9月13日には、8月の企業物価指数が前年同月比で9.0%も増加し、過去最高を更新した。日本の消費者物価指数(コアCPI)も、足元では年率2.0%の水準を超えている。いよいよ日銀も、「緩和の縮小」ないしは「利上げによる金融引き締め」へ舵取りをしていかなければならないタイミングになってきたといえる。

 金融緩和を縮小する金融政策には、「市中金利を高める」という効果がある。簡単にいえば、今後借金の金利が上がることになる。そんな局面では、大規模なローンを組んでいる者ほど割を喰らうことになる。

 では、企業を除いて最も大きな借金とは何だろうか。それは「住宅ローン」である。

●これから「3人に1人が破綻」する?

 3月に、筆者は金利上昇リスクの高まりによって現住宅ローン契約者の4人に1人が破たん予備軍となることを説明した。そして、9月の状況は当時の市況よりもさらに悪化している。

 2022年3月当時における日本の長期金利は、今の水準から2割ほど低い0.186%であった。さらに、米国の利上げターゲットとされている水準も、当時は2%程度であったが、今ではその倍の4%程度への利上げも視野に入ってきている状況だ。

 ここで、以前に紹介した金利上昇の到来によって破綻する可能性がある「4人に1人」はどのような根拠があったかをおさらいしたい。この「1人」に共通するのは、ある”危険な住宅ローンの組み方”をしていることだ。

 それは、「頭金が最小限で、固定金利だと借りられない金額を、変動金利では借りられるためにローンを組んだ」という人だ。

 固定金利は変動金利を上回るのが原則だ。そのため、借入可能額と毎月の支払額を一定とした場合、固定金利よりも変動金利の方が、総返済額に対する元本の割合が高くなる。そのため、変動金利を選んだ方がグレードの高い家に住めるようになるのだ。

 固定金利では立地、間取り、日当たりなどのさまざまな条件に目を瞑って、妥協した家を買うことになる。しかし、変動金利では妥協しない理想の家でも、(今の金利の想定では)ギリギリ返済できるというという想定で満額を借りてしまう人が4人のうちの1人の破綻予備軍に該当するのである。

 住宅金融支援機構によれば、金利上昇が始まる前の21年10月時点において「変動金利」を選択した顧客は67.4%と全体の3分の2以上であった。しかし、驚くべきことに、最新の調査結果では、目先で金利上昇が発生しているにもかかわらず「変動金利」を選択している契約者が73.9%まで増加しているのだ。

 それだけではない。変動型の融資を選択した顧客において48.5%が、物件価格に対する融資の割合が90%を超えているのだ。

 住宅ローン契約者で変動金利を選択した73.8%のうち、9割以上の融資率となっているのは44.8%である。つまり足元では、全住宅ローン契約者のうち33%、3人に1人が住宅ローンの破綻予備軍となっている。

●少しでも高級な物件を買うために……

 「変動金利で融資率が90%以上の分布が異様に突出している」という“歪み”からは、「固定金利だと借りられない金額を、変動金利では借りられるので、借りられるだけ借りる」という危険なローンの組み方が半ば当然かのように設定されている節もある。

 不動産会社としては、変動金利であれば固定金利よりも高額な物件を購入してもらえるため、目先の営業成果が最大化するというメリットがある。筆者が実際に目にした例では、自社リノベ物件を「頭金10万円」で、変動金利で目いっぱい借りさせ、買わせようとする例もあった。その担当者の「みんな変動(金利)です」といった発言があったことからも、この統計には説得力があると思われた。

 しかし変動金利の場合、金利上昇によって、場合によってはその時に固定金利を組んでいた場合よりも高い金利を支払わなければならないパターンに陥ることもある。「金利が上がれば固定に乗り換えればいい」という言説もSNSでは散見されるが、金利上昇局面で、変動金利から固定金利に乗り換えようとしても、今よりさらに高い金利で固定されてしまうため、あまり有効な手段とはいえない。

 そもそも、変動金利でギリギリの額を借りていたとしたら、今よりさらに高い金利の固定金利に乗り換えることは難しいのではないだろうか。このような住宅ローン破綻予備軍が金利上昇局面に備えてできることは「収入を増やす」か、「物件を売却する」か、はたまた「金利が下がるように祈る」といったものしかない。

 変動金利のローン商品は、金利の見直しが半年ごとであるため、足元では目立った変化こそ生じていない。しかし、足元の状況を踏まえれば、次回の見直しで変動金利で組んだローンの金利負担が増えてくる可能性は高い。

 また住宅ローンには5年ルールという、「毎月の返済額が5年毎にしか見直されない」というルールがあり、金利が上がってもしばらくは支払額は一定であるため、直ちに家計の負担を圧迫するとはいえない。

 しかし、金利が上がっても返済額が一定ということは、借入元本の返済ペースがスローダウンし、支払い総額を高めてしまうことにもつながる。金利上昇局面においてはやはり変動金利のデメリットを避けることはできない。

●本当に金利は上がるのか

 ここで気になるのが、目に見えない「金利」の上昇をどうやって事前に察知するかという点ではないだろうか。

 この点について、日本国債の利回りを確認することで、すでに将来の金利上昇を市場が織り込み始めていることを確認できる。一般的に「金利」として参照される日本の長期国債(10年物)利回りを確認すると、ここ1カ月でその利回りは年率0.160%程度から0.246%まで急騰している。

 日銀は「イールドカーブコントロール」という政策で、一定の価格で無限に日本国債を買い支えて、事実上の金利上限を0.25%に抑えようとしている。

 しかし、最近は0.25%の水準を突破してくる回数が増えてきた。これは、日銀の吸収スピードを上回るほどの国債売りが発生していることを表しており、市場は日銀の政策変更を見込んで大量に日本国債を売っているということになる。つまり、市場と日銀の攻防戦が繰り広げられているのである。

(古田拓也 カンバンクラウドCFO)