傘下に、損害保険ジャパンといった保険企業をはじめ、介護事業、ヘルスケア事業、投資信託などを持つSOMPOホールディングスがグループをあげてDXを推進している。ルーツをたどると明治時代にさかのぼるほどのレガシー企業だけに、アナログ文化が根強く残っている。そのような企業が変容を遂げるのは簡単ではない。

 しかし、同社は「DX推進の要は人材にあり」と、トップの強いメッセージと共に、全社員を対象としたDX人材の育成を戦略的に実施している。デジタル・データ戦略部課長代理の有田芳子氏と人事部課長代理の須藤翔太氏に人材育成の取り組みについて話を聞いた。

●DX人材をスキル別に3つにカテゴライズ

 SOMPOホールディングスが進めるDX人材育成は、国内グループ全社員が対象だ。とはいうものの、連結対象企業の総従業員数は約6万3000人にも上り、老舗の保険会社として「紙」の扱いに慣れた社員が多い同社だけに、戦略的な育成計画を進める必要がある。

 「DXを推進するための必要な人材を役割とスキル別に、(1)DX企画人材、(2)DX専門人材、(3)DX活用人材の3つにカテゴライズしました」(有田氏)

 (1)DX企画人材は、グループ内各組織のデジタル化やDXを牽(けん)引する役割を担っており、重点育成対象の対象となる。例えば、グループの中核を成す保険事業会社の本社部門の社員がこれに該当する。

 その一方で、(3)DX活用人材は、営業部門などビジネス現場の領域に属する社員が対象だ。例えば、デジタルツールを導入した際には、抵抗なく使いこなすことができるようにするなど、文字通り「活用」を前提とした育成を目指している。

 全社員がこれらDX企画人材とDX活用人材のどちらかに属することになるそうだが、「現時点では、ざっくりと部門で振り分けしている状態で、双方の区分けを明確に定義しているわけではありません。今後社内で議論を深めて明確化していきます」(有田氏)

 ただし、(2)DX専門人材は、先の2つとは異なり役割は明確化している。「専門」の名が示す通りデータサイエンティスト、エンジニア、UI/UXデザイナーといった高度なデジタルスキルを有した人材が属している。ただ、このような人材は、育成に時間を有するため「当社専門人材の出向や外部からのキャリア採用を中心に構成しており、育成の対象外です」(有田氏)

●DXは一つ一つ地道な努力が必要

 前述のように、DX人材を3つにカテゴライズした意図はどこにあるのだろうか。

 「DXを推進するうえで、データサイエンティスト、エンジニア、UI/UXデザイナーといった専門性の高い人材が欠かせないことは自明の理です。しかし、DXとは、ビジネスの在り方をデジタルの力で変容することです。そうなると、トップから末端まで全社員が一定以上のデジタルスキルを身に付ける必要があります」(有田氏)

 「現場のビジネスを十分理解している社員が専門人材と会話できるデジタル知識を習得することで、ビジネスの課題を解決し変革を促すための原動力となり得ます。そのような人材を育成するのが狙いです」(有田氏)

 また、DXを牽引する役割を担う(1)DX企画人材を中心にデジタル化を推進するにしても、それを業務に活用する担当者のデジタルに対する意識が低ければ、DXは進まない。DX人材を役割別にカテゴライズしたうえで、全社員を育成対象とする背景には、アナログ文化に染まった現場のマインドを変える意味もありそうだ。

 「保険会社では多くの代理店と情報のやりとりが発生します。代理店のなかには、FAXを利用しているところも多く、相手に合わせて紙を中心にしたコミュニケーションになってしまうこともあります」(有田氏)

 保険業は裾野の広い業種だけに、ステークホルダー全体でデジタル化の足並みをそろえることの難しさはある。ただ、エンド・ツー・エンドでデジタルデータのやりとりが可能な体制を構築し、全体最適化を目指さなければDXの意味がない。

 「代理店向けに各業務に最適化されたアプリを提供するなど、一つ一つ地道な努力が必要です」(有田氏)

●DXにおける現代の「読み・書き・そろばん」とは

 同社ではDX人材の育成を「DXにおける現代の『読み・書き・そろばん:ABCD』」と定義し、「ABCD」の4つの領域に分けて実施している。「ABCD」はそれぞれ、

・AI:ビッグデータの解析による分析・識別・予測

・Big Data:リアルとデジタルの境界を問わないデータの蓄積

・CX Agile:ユーザー中心設計での柔軟かつスピーディーな開発

・Design:ビジネス課題の発掘による業務デザインの設計

の頭文字からきている。

 「研修は、入門編として位置付けた『基礎研修』を全員が受講した上で、A、B、C、Dの各専門的かつ実践的な研修プログラムに進む仕組みです。

 中でもB研修は、外部の研修会社に委託することはせず、各社事業会社の社員自身が内情に合わせたカリキュラムを通じてデータ分析の必要性やデジタルツールの使い方などを教える形です。実務レベルのスキルに直結する内容です」(有田氏)

 本格的な研修は、21年度から実施しているというが、どのようなKPIを設定しているのだろうか。

 「現状では、受講者の数をKPIとして設定しています。ただ、受講者数が増えても、実際のスキルが身につかなければ意味がありません。現状、各カテゴリーの人材において、どの程度のスキルレベルが求められるのか、身についたスキルを人事データベースに反映させるための仕組みづくりを議論している最中です」(有田氏)

●DX推進にはトップの本気度も大切

 これまでの研修において、一定の成果を実感しているという。データ分析を習得したB研修の受講者のなかには、自分が担当する業務のデータを分析することで効率化に結びついた事例もあるそうだ。

 また、D研修においては、社員がエンドユーザーの声に直接触れる機会を設けており、新商品の設計やユーザー体験の再構築に役立てているという。

 「保険会社の場合、商品販売のプロセスにおいて、代理店が間に入っています。そのためエンドユーザーの声に直接触れる機会は多くありません。しかし、ユーザーインタビューを経験することで、課題の発掘や新しい価値の提供といったことの重要性に気付き、専門人材であるUI/UXデザイナーなどと連携することで新しい価値の創造につながります」(有田氏)

 同社では、中期経営計画において、基本戦略に「働き方改革」を盛り込んでいる。その中でも「デジタルワークシフト(人材育成)」は重要な取り組みとして位置付けられており、本稿で紹介したDX人材育成もその一環だ。

 「社員一人一人が変わらないと、DXは実現できません。それを実現するための働き方改革であり、DX人材の育成です。また、トップの本気度も大切だと考えています。デジタル化がDXにとっていかに重要であるかを当社のトップは、機会があるごとにメッセージとしてグループ各社に向けて発信しています。それゆえに、グループ全体でDX人材育成の重要性を共有できているのだと感じています」(須藤氏)

 老舗企業グループがDXにより、今後どのような形で進化するのか目が離せない。