コロナ禍を契機にリモートワークが拡大してからおよそ2年半が経過した。コロナが収束しない状態が続く中、リモートワークを継続している企業もあれば、社員に出社を促す企業もあり、企業の方針が分かれている。米テスラCEOのイーロン・マスク氏が「毎週、最低40時間オフィスで働くのが嫌だという者は、他の就職先を探すべきだ」と、社員に出社を促すメールをしたことも波紋を呼んだ。

 一つの企業内でも、リモート志向派と出社派に分かれることがある。

 現在週3日以上の在宅勤務を推奨しているサービス業の人事部長は「週2日程度出社している社員もいるが、テレワークだと社員の動きが見えないのでリアルで仕事をしたほうが成果も上がるという、イーロン・マスクのような考えの年配の管理職もいる。だが、現時点では経営陣は効率よく仕事ができれば在宅勤務でよいとの考えだ」と語る。

 出社派のマネジメント層の中には、対面時代に比べてコミュニケーションが少なくなり、仕事の効率や生産性が落ちるとの不満もある。

 しかし、会社がリモートワーク体制を維持する以上、リモート下のマネジメントによって仕事の効率を高め、生産性を高める必要がある。

 それができない管理職は失格だ──と語るのは、通信事業会社の人事担当役員だ。

 「コロナ前の対面の時代でもマネジメントがうまくできる人、できない人がいた。リモートワークになった以上、どうやって部下を納得させてマネジメントしていくのか、自分なりに真剣に考えなければいけない。対面時代もあまり考えていなかったが、リモートワークになったとたん、指導力のなさが露呈してしまった課長もいる。部下のパフォーマンスをどうすれば上げられるのか、管理職一人ひとりが真剣に考えて行動しない限り、管理職の役割を果たすことはできない」

●リモートワークならではの問題をどう解決するか?

 もちろん企業もコミュニケーション不足など、リモートワーク特有の問題に対応しようとしている。コミュニケーション不足の解決策としてWeb上の雑談を増やしたり、メンタル対策の強化を行っている企業もある。また、社員の働く姿が見えないという課題を解決するために人事評価制度の見直しに着手する企業もある。

 電子機器メーカーの人事担当者はコミュニケーション不足対策についてこう語る。

 「チームの生産性には、コミュニケーションが重要であることに気付き始めた現場もある。例えばオンラインによるランチ会をしたり、朝夕礼時に積極的に雑談したりと、あえてコミュニケーションの時間を確保しようとする取り組みもあり、会社としても推奨している。

 一方、コミュニケーションロスによる孤立感を訴える声も上がっている。マネジメントがそうした部下をケアするように全社として対応している。社内ポータルサイトにWellbeing(ウェルビーイング)特集を掲載するなどして、心理的安全性を確保するための仕組みづくりも行っている」

 しかし、会社がやることには限界がある。やはり問われるのは現場の管理職のマネジメント力だ。

●リモートワークで悩む管理職の多くは、もともと問題を抱えている

 化学会社の人事担当者はこう指摘する。

 「リモートワークをうまくマネジメントするには、管理する側がより積極的に情報を取りにいかなければならない。リモートワークになって仕事がうまく進まなくなったと言ってくるような人や部署には、新型コロナウイルス感染症の問題発生前から、もともとうまくいっていなかったようなところが多い。いわば、たまたま水が引いた結果、底が露呈したような状態だ。そうした相談がきたら、去年から始めた部下と管理職の1on1ミーティングの研修をするチャンスだと捉えている」

 確かに以前からコミュニケーション下手な管理職ほど、対面からオンラインに変わって仕事の進め方で悩んでいるという話をよく聞く。

 あるIT企業の人事部長は「以前から頻繁に部下とやりとりするなど、コミュニケーションがうまい管理職は、オンラインにもうまく対応している。ビジネスチャットや電話、あるいは対面など、ツールの選定を適切にやっている。そもそも仕事の明確な目標と達成するための計画を共有し、計画達成の進捗管理を定期的に実施していれば問題はないはずだ。目標や計画も明確ではないために進捗管理もうまくできない管理職ほどオンラインになって悩んでいる」と語る。

 1on1ミーティングなどのコミュニケーションやWeb会議を活性化するには当然ながらオンラインスキルも問われる。効率よく仕事をこなし、社内でも評価の高い人はオンラインスキルを使いこなしている人が多いと語るのは広告関連会社の人事部長だ。

 「オンラインスキルを熟知していることは断然有利。オンライン会議前に企画のプレゼン内容を整理して適切な資料を作成し、画面共有しながらさまざまな資料を駆使して分かりやすく伝えられる人ほど企画が通りやすい。また、お客さんとの商談でもオンラインスキルが高い人は成果に結び付きやすい」

 リモートワークの浸透でオンラインシステムなどデジタル技術も日々進化している。しかしサービス業の人事部長はオンラインスキルに関しては若い人に比べて年配者は見劣りすると言う。

 「いろんなセクションの社員が参加する部門横断のオンライン会議では、ZoomやTeamsを使い慣れていない人ほどミスする。例えば、画面共有に戸惑い、会議の時間を無駄に費やす年配社員も少なくない。あるいはオンライン研修ではグループ討議が可能な機能もある。講師に『グループごとに10分間議論し発表してください』と言われ、分かれたが、課長クラスのグループだけ20分経過しても戻ってこない。議論に熱中しているのか、操作に戸惑っているのか分からないが、講師によって強制的に呼び戻されたこともある。年配者はオンライン会議の苦手意識を捨て、積極的に学ばないと若い社員にバカにされるだろう」

●求められる「伝える力」

 オンラインスキルだけではない。コミュニケーションを円滑に進めるには「伝える力」も重要だ。研修教育会社の役員はこう指摘する。

 「オンライン上の会話ではリアルのときに話す熱や細かいニュアンスまでは伝えにくい。そのため全て言語化して伝えないといけないが、伝える側が言語化するだけのスキルを持っていないと伝わらない。部下の指導・育成においても言葉にする力、表現する力が高くないとしっかりと理解されることはない。おそらく日ごろからそうしたスキルを持ち合わせている人はオンラインでも伝えることができるし、そういう人ほどリモートワークでも評価は高いだろう」

 言葉にする力、伝える力はリモートマネジメントにおいてはますます重要になる。

 対面時代はオフィスやエレベーターですれ違う際に部下に声がけするなど、コミュニケーション下手な人でもなんとかなっていたが、オンラインに変わって部下指導がうまくできない人が炙り出される。

 どうやって部下をマネジメントするのか。真剣に考えないと管理職失格の烙印を押されるどころか、会社でも生き残れなくなるかもしれない。

●著者プロフィール

溝上憲文(みぞうえ のりふみ)

ジャーナリスト。1958年生まれ。明治大学政治経済学部卒業。月刊誌、週刊誌記者などを経て独立。新聞、雑誌などで経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。『非情の常時リストラ』で日本労働ペンクラブ賞受賞。