※本記事は、書籍『外資系1年目の教科書(著・山口畝誉、総合法令出版)』の中から一部抜粋し、転載したものです。

 エンプロイアビリティのベースとなるのが、ポータブルスキルです。エンプロイアビリティとは、Employ(雇用する)と Ability(能力)を組み合わせた言葉で、一言で言えば「雇用される能力」のことです。一般的には、ひとつの企業(特定の組織)で雇用され続けることと、さらに転職も含めて特定の組織に限らず組織の垣根を超えて雇用され続ける能力を意味します。

 つまり、一般的には企業(組織)に雇われる能力という意味で使いますが、ここでは Self-employment(自営)も含めての雇用という意味で捉えてください。

 これからのエンプロイアビリティは、従来のようにひとつの企業には限りません。ひとつの企業に所属しながら副業や兼業をしたり、自分で仕事を興したりすることもあるでしょう。つまり、エンプロイアビリティの維持向上のために、働く上で持ち運びができ、どこに行っても通用するスキル=ポータブルスキルという意味でここでは使わせていただきます。

 『LIFE SHIFT』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著、池村千秋訳/東洋経済新報社)で警鐘が鳴らされたことが、今や現実となっています。超高齢化が進む日本においては、とりわけ老後資金や年金の問題を含め、さまざまな課題が浮き彫りになっています。

 ひとつの企業で定年まで勤め上げて、その後は年金生活で悠々自適な暮らしをする、というシナリオは既に崩壊しつつあるのです。私たちの少し前の世代まではギリギリそれが可能でしたが、もはや絵に描いた餅。定年後に悠々自適な暮らしをしたいと願っても、年金の支給額は減少の一途をたどっているので、残念ながらできないのが現実です。また、多くの日本企業でも、年功序列に終身雇用といった従来の人事・雇用形態では耐えられなくなり、雇用システム全般の改革は待ったなしです。

●会社は自分が成長するためのプラットフォーム

 人生100年時代になり、長い人生において、どのように生きるのか、自分のキャリアを主体的にどのように選択していくのかという、欧米ではいたって当たり前の考え方が日本でも求められています。働くことに関する価値観も大きく変わってきています。

 そのため、転職をすることに対しても、以前に比べるとハードルが低くなってきているのをひしひしと感じます。テレビ広告でもさまざまな転職サイトのCMが流れています。ひと昔前までは想像がつかなかったことでしょう。

 外資系企業では、転職はある意味当たり前という考え方です。会社は自分が成長するためのプラットフォームという捉え方をしています。そして、転職をすることは、ステップアップすること、成長すること、という認識です。転職は、ひとつのプロジェクトを終えて次のまた別の新しいプロジェクトに携わる、という感覚です。とりわけ外資系のIT業界では、転職はひとつの部署から他部署への異動ぐらいのイメージです。

 さらに外資系では、明確なジョブ・ディスクリプション(職務記述書)があり、その職務に応じて賃金のグレードや幅があるため、大幅に給与を上げることを望むのであれば、希望の額を得られる他の会社にチャレンジする、ということになるわけです。そのため、社内のみならず社外に目を向けて、自分の市場価値がどのくらいあるのかを常に念頭に置くことになります。また、転職という企業に雇われる働き方ではなく、Self-employment、すなわち起業する、という選択をすることも自然な成り行きなのです。

 私がアップルにいた頃、アップルの日本法人は250人ほど社員がいました。社員はほとんどが中途採用で、とても優秀でありながらユニークな方がそろっていました。また、とても自由なカルチャーで、当時は夜中まで、まるで遊ぶように仕事をしていました。ちなみに、私は入社当時管理職ではありませんでしたが、Exempt で残業代は付きませんでした。

 補足すると、アメリカの雇用形態は Exempt と Non-Exempt に分かれています。Exempt は、日本語に訳すと「免除」という意味になります。Exempt の従業員は年俸制で、企業側は、残業代の支払いが免除されることになります。Exemptの従業員は与えられた役割をこなす能力を買われて採用され、時間を買われているわけではないからです。

●“ゆでガエル”になる可能性

 当時はまだインターネットが普及する前で、ある意味、アップルが最も混沌(こんとん)としていた時期でもありました。Windows95が発売されると、直感的で使いやすいMacOSのユーザーインターフェイスの優位性が相対的に下がり、アップルの株価も10ドルほどに落ち込みました。いつどこに身売りされるのか、といううわさが常に市場で流れていた時代です。

 その後、スティーブ・ジョブスがアップルに返り咲くと、iMacの大成功をきっかけに、その後はiPhoneが牽引(けんいん)してアップルの大躍進につながるわけですが、当時の同僚でいまだにアップルに残っているのは、バックオフィス系の方が2人だけです。つまり、ほとんどの社員が転職もしくは自分で会社を興しました。ご多分にもれず、私もアップル卒業後は外資系のIT業界を渡り歩くことになりました。

 それとは対照的に、従来型の日本企業では、年功序列の色彩が強いことから、いかにその組織にうまく適応、融合し、長く働けるか、ということに重点が置かれてきました。事実、昭和の時代では、ひとつの会社に忠誠を尽くすことが求められていたのではないでしょうか。

 優秀と言われる人ほど上手に組織に適合して、ひとつの組織の中でどれだけ上にいけるか、ということに意識が注がれていたのではないかと思います。それについては否定も肯定もするつもりはありませんが、その組織でしか通用しないような理論や慣習が脈々と受け継がれることも起こり得ます。いわゆるガラパゴス化です。

 ひとつの会社しか知らない場合、意識的に社外の人と関わり、外の世界に好奇心を持つなどして環境変化に敏感にならない限り、いわゆる“ゆでガエル”になる可能性が高まります。社内の常識が世の中の常識であると勘違いしてしまうのです。

 また、その会社では通用したとしても、社外では通用しない、または、時代遅れで、それほど市場価値がなかったということにもなりかねません。その会社の中だけで通用する共通言語が使われ、ひとたび外に出てみたら、その言葉の意味が通じないということも多々あるのです。

著者:山口畝誉(やまぐち・うねみ)