コロナ禍以降、リモートワークやフレックスタイム、出社時の時差通勤など自由度の高い働き方が広がっている。ただし自由度が高いといっても、オフィス通勤が当たり前だった時代のように会社に残って夜遅くまでダラダラと残業することは許されなくなっている。

●強まる残業規制 「寸止め残業」のまん延も

 残業が減った直接の背景には、2019年4月から施行された働き方改革関連法の「時間外労働の罰則付き上限規制」も影響している。原則として残業の上限は月45時間、年間360時間。労使協定を締結すれば、年間720時間以内まで可能となる。

 建設関連会社の人事部長は以下のように話す。

 「残業時間の上限規制以降、厳しくチェックするようになっている。当社では月45時間の残業が6回を超えないこと、月80時間を超えて残業しないことを徹底している。実際には上限時間を超える社員はいないが、『寸止め残業』はまん延している。各部署から提出される残業報告書に決まって44.9時間、あるいは79.5時間と書いている。毎月そんな感じだと、本当はもっと残業しているのは明らか。人事からレッドカードを出し、部署の部長を呼んで注意喚起している」

 もちろん、残業時間チェックに注力しているのはリモートワークを採用している企業でも同じだ。

 週2日以上の在宅勤務を推奨している広告関連会社の人事部長は「出社している場合はPCのログイン・ログオフの時間をベースに残業代を支給している。しかし、在宅勤務時の残業は残業した理由を記入し、それを上司が承認しないと認めないことにしている。出社時と違い、就業時間中でも仕事をしているか分からないし、ましてや本当に残業しているか分からないので厳格に運用している」と語る。

 その結果、在宅勤務時の残業時間は大きく減少したという。在宅勤務であっても長時間労働による心身の疾患が発生すれば労災事案となり、会社にとってもリスクだ。

●8年間で、残業時間はどれだけ減ったか?

 実際、残業時間はコロナ禍以降減少している。20年を100とした所定外労働時間指数はコロナ禍前の18年は117.5、19年115.1だったが、21年は105.2、最新の22年7月も109.8。感染拡大が始まった20年が底であることには変わりないが、現在もコロナ禍前には戻っていない(厚労省の「毎月勤労統計調査」を参照)。

 また、オープンワークの調査(21年12月16日発表)によると、13年の月間平均残業時間は46時間だったが、以降徐々に減少し、21年は24時間。8年間で、22時間も減少している。ちなみに、仮に月給30万円の場合、46時間の残業代は10万7824円(160時間÷30万円×1.25)。それが24時間なると5万6256円。差し引き約5万2000円の減収となる。

●「残業=頑張っている」から「残業=無能」へ?

 近年では残業抑制策として「固定残業代」を支給する企業が増えている。固定残業代は、残業時間がゼロでも支給される。固定残業代の労働時間数より労働時間が少ないと、その分得をすることになる。もちろん想定残業時間を超えて残業した場合は超過分の残業代は支払われる。

 労務行政研究所の「人事労務諸制度の実施状況調査」(22年2〜5月)によると、「定額残業手当」を支給している企業は10年には7.7%にすぎなかったが、13年に10.7%、18年に12.5%と徐々に増加し、22年には23.3%に上昇している。

 また、固定残業代の時間数の設定では、最も多いのは30時間の37.7%となっている。10時間が6.6%、15時間が9.8%。20時間以内の企業が計31.2%も存在する。固定残業時間は会社が想定している残業時間と見なすことができ、それを超えて残業することは「無能」の烙印を押されかねない。

 以前のように遅くまで残業している人を「あいつは頑張っている」と評価される時代ではもはやなくなってきている。限られた労働時間内にいかに効率的に仕事をこなし、成果を出すかが大きく問われる時代になりつつある。

●「寝ていたのか?」 在宅勤務で効率が下がる社員が37.9%

 ただし、自由度の高い働き方といわれる在宅勤務にしても効率よく仕事をこなしているわけではない。日本生産性本部の「第10回働く人の意識に関する調査」(22年7月25日)によると、「自宅での勤務で効率が上がったか」の質問では、「効率が上がった」が18.2%、「やや上がった」が43.9%。計62.1%。一方「やや下がった」「効率が下がった」の合計は37.9%もいる。前回4月の調査でも39.7%と、効率が下がった人が約4割に上る。

 もちろん下がった理由は人それぞれだろうが、効率が下がると仕事の成果にも影響する。

 前出の広告関連会社の人事部長は「在宅勤務になって仕事もライフも絶好調だという社員もいれば、仕事がなかなかはかどらないという在宅勤務に不向きな社員もいる。おそらく仕事の進め方のタイムマネジメントを含めて自己管理ができているか、自律的な働き方ができているのかの違いもある。たまに電話すると、寝ていたのかボーッとした声で話す社員もいる。そういう社員に限って資料の提出期限を守らないことが多い」と語る。

●より一層求められる「タイムマネジメント」スキル

 限られた労働時間やリモートワーク下でタイムマネジメントの重要性は以前よりも増している。ラーニングエージェンシーの「組織・チームの在り方の変化に関する意識調査」(22年4月27日)によると「10年前に比べて特に重視されるようになった一般社員のスキル・知識」のベスト3のトップは「タイムマネジメント」(56.2%)。次いで「IT・デジタルに関するリテラシー」(54.5%)、「言語化する力(相手に合わせた表現で伝える力)」(48.3%)となっている。

 在宅勤務に限らない。出社してもフレックスタイムで出退社時間が各自異なる。さらにフリーアドレス制の企業も増えており、部下が社内のどこにいるかさえも分からなくなっている。社員の自律的な働き方が求められるニューノーマル時代では人事評価自体も大きく変わりつつある。

 従来の人事評価は行動評価と成果評価の2つが同じウエイトを占めていたが、行動評価が難しい中で目に見える成果評価のウエイトが高まっている──と説明するのは、IT関連企業の人事課長だ。

 「Web会議で自分の意見・提案をはっきりと分かるように言えるなど、目に見える成果が問われるようになっている。今後成果主義は、いや応なしに進むのは間違いない。確かに従来のように『彼は頑張っている』といった行動プロセスが見えにくくなり、ややもすると短期の成果だけに目を向けがちになる危険はある。そこはうまくやるしかないが、日本の企業はこれまであまりにも成果に注目するのが弱すぎたと思う。当社のようにリモートワーク中心の働き方ではより成果を重視する傾向が強まっている」

 コロナ禍で定着したニューノーマルな働き方は、たとえコロナが収束しても変わらないという企業もある。

 通信系企業の人事部長は「フリーアドレス、スーパーフレックス、リモートワークの3つの働き方を今後変えるつもりはない。会社としてはいろんな働き方のスタイルを提供するから、一人一人が自分に何が適しているかを考えて自分で選びなさいと終始一貫して言っている。ハイブリッド勤務であれ、自分で選ぶだけの話。自分で考えて自律的に仕事をする社員のほうが成果を出せるというのが当社の考え方。それに不向きな社員は正直言って必要ない」と言い切る。

 われわれがコロナ禍で得た自由度の高い働き方は一見、時間を自由に使えるように思える。しかし現実には、厳格な自己管理による自律的な働き方と成果が求められる厳しい世界が始まったと考えられる。

●著者プロフィール

溝上憲文(みぞうえ のりふみ)

ジャーナリスト。1958年生まれ。明治大学政治経済学部卒業。月刊誌、週刊誌記者などを経て独立。新聞、雑誌などで経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。『非情の常時リストラ』で日本労働ペンクラブ賞受賞。