何年も前から「DX」や「デジタル化」といわれ続けているけれど、最新技術はどこまで進化しているのか? 人流解析や購買データで得た膨大な顧客データを分析して、どんなことが分かってきたのか?

 そんな疑問を持つ人に向けて、米・カリフォルニア州に本社を構えるMODE, Inc.(モード)が主催するDXのイベント「MODE Robot & Sensor DX/IoT Showcaseー近未来の身近なロボット・センサーのある社会を考えるー」が11月10日に開催された。

 本イベントでは、DXの先駆者たちから最新事例や成功の秘けつが語られた。成功例として名前が出たのは、「ワークマン」「カインズ」「トライアルホールディングス」などリテールDXが中心だった。このような企業で実施されている「王道のDX」とは――。

●「4倍速」で改善すれば、劇的に変化する

 同イベントを主催したモードは、IoT技術をパッケージ化することで、容易に使えるクラウド・プラットフォームを提供する。共同創業者、兼CEOの上田学氏は、01年から21年間米国で暮らし、グーグルやツイッターなどのテック企業でエンジニアリングに携わってきた人物だ。

 米・カリフォルニア州と東京に拠点を持つ同社のサービスは、ニチレイ・ロジスティクスエンジニアリングやパナソニックといった大企業でも活用されている。

 そんな上田氏が、セミナー「リアル世界におけるビジネスのデジタル化ーDX/IoTの乗り越え方ー」で強調したのは、「4倍速の業務改善」だ。

 「DXに求められるのはカルチャーチェンジです。スピードを4倍に速めるだけで劇的に物事が改善します。同じことをするなら、速くやった人が勝つんです」(上田氏)

 高速の業務改善事例として、上田氏はツイッターをあげた。約10年前と最新のUIを比較すると、9カ所が変更されている。その背景には不採用になった改善策が膨大にあり、効果検証を続けた結果、9つの変更が採用されたという。最近メディアを騒がせているように、イーロン・マスク氏に買収されてからは、より大胆な機能変更が相次いでいる。

 スペースXやテスラもまた、型破りのスピードで業務改善を図っているそうだ。例えばテスラの自動運転のソフトウェアは、22年中に47回アップデートされている。1年間は52週なので、ほぼ毎週改善されていることになる。

●4倍速の改善は、どう実現するべき?

 続いて、上田氏は「どうやって4倍速の業務改善を実現するか」の方法に言及。前提として、データを活用するためには、リアルな現場やプロダクトをインターネットに接続、いわゆるIoT化してデータを吸い上げる必要がある。そのうえで、システムを運用しながら高速でPDCAを回すことが求められる。

 上田氏が推奨する「4倍速を実現する方法」は、以下のとおりだ。

(1)現場をデジタルにつなぐのに時間をかけない

 例えば現場の人流、空調や温度、設備の稼働状況などをチェックする場合、センサーやカメラなどの設置が求められるが、最短でできる方法を選ぶのがいい。時間を買うような感覚を持とう。

(2)クラウド構築も時間をかけない

 自前でつくるのではなく、できあがっている状態のサービスを活用する。上田氏いわく、既存のIoT化プロジェクトはAWSを使ってシステムを構築するのが主流だが、時間がかかるし簡単にはいかない。

(3)システム運用をアウトソースする

 システム運用は、セキュリティアップデート、データ運用・スケールなど、やらなければいけない作業が多く発生する。自社でコストと時間をかけるより、専門業者の力を借りてしまったほうがコストもかからず、かつ速い。

(4)最新のセンサーやAIをどんどん取り込む

 おもしろそうなセンサーやAIを見つけたら、素早く取り込んで短いサイクルでテストを行い、効果検証をするといい。

 「4倍速という目標は簡単ではないが、不可能ではない。いま世の中にあるサービスをうまく使えば達成できる」と上田氏は主張した。

●トライアル、ワークマン。優秀企業の事例

 続くセミナーで登場したのは、ソフトウェアによるプロダクト開発支援、および開発に関する研修を提供するTably(テーブリー)社の及川卓也社長だ。書籍『プロダクトマネジメントのすべて 事業戦略・IT開発・UXデザイン・マーケティングからチーム・組織運営まで』(翔泳社)などを執筆し、アドビ社のエグゼクティブフェロー(顧問)も務める人物だ。

 及川氏は、多くの日本企業は「DX(デジタル・トランスフォーメーション)のはるか前段階にいる」と指摘する。

 「ペーパーワークをデジタル化するといった既存業務の効率化は、デジタライゼーションであってDXとはいえません。既存事業を大きく変革させる、あるいは新規事業でデジタル技術を武器として使いこなせる状態になってこそDXになります」(及川氏)

 では、どのような事例がDXに当たるのか。及川氏は、リテールDXで先進的なトライアルホールディングス、ワークマン、カインズをあげた。

 1981年創業のトライアルホールディングスは、ソフトウェア開発の事業会社としてスタートした。92年に小売業に進出し、22年現在は自社のIT技術を駆使したスマートストアやディスカウントストアを274店舗運営する。酒類販売時の年齢確認を不要とする日本初の「24時間顔認証決済」などが話題を集め、メディアに多く露出している。

 新業態店「WORKMAN Plus」が大ヒット、10年連続で過去最高益の達成と好調な話題が絶えないワークマンは、「エクセル経営」が功を奏した。その変革を指揮したのが、12年に入社した現専務取締役の土屋哲雄氏だ。

 エクセル経営に舵(かじ)を切るにあたり、社内でエクセル研修を実施。全社員の35%が分析ツールをつくれるようになり、全社員が分析されたデータを活用できる状態を目指した。すると、デジタライゼーションさえできていなかった同社で、社員発の分析ツールが多数生まれ、社員が自ら業務改善の提案をするように。5〜6年で文化が様変わりしたという。

●DXを成功させている企業の共通点は?

 及川氏いわく、従来型の企業がDXに取り組むとき、王道の2つのやり方があるという。

 1つめは、「人材の育成」である。社員を教育してDXに必要なスキルセットを備え、マインドセットを変えることが重要だ。前述したワークマンでは、丸1日かけたエクセル研修を月に1回、6回実施、課題を与えて自ら考える力も養えるようにした。また、拒否反応が出ないようカルチャーチェンジを少しずつ行う工夫も取り入れている。

 2つめは、「トップ及び、重要な人材を外部から登用する」こと。この戦略を実施して成果をあげているのが、ワークマンやカインズだ。

 カインズでは、16年に池照直樹氏を迎えてデジタル戦略本部を立ち上げた。そこから、カード会員より年間購入額が高いデジタル会員の獲得にフォーカス、オウンドメディアを使った顧客の嗜好(しこう)分析、自社アプリを便利にする改善、業務改善アプリケーションの導入などを矢継ぎ早に実施。データを活用して施策を進めたところ、ここ数年で約400億円も売り上げを伸ばしている。

 「いずれもDX推進に効果的だが、特に外部人材の起用はキモになるだろう」と及川氏は付け加えた。同じ環境にいると人はなかなか変われない。だからこそ外部から人材を呼び込むことが組織の空気を変え、人を変え、やがて大きな変革につながるようだ。

●会場で見つけた最新センサー

 最後に、会場で見つけた最新のセンサーをピックアップして紹介する。

 アシックスでは、スポーツデータ統合システムTUNEGRID(チューングリッド)を開発している。シューズに内蔵できる小型BLEセンサー「TUNEGRID-Cube」(チューングリッドキューブ)を使えば、スマートフォンを使わずに、運動量を測定してクラウドにデータをためられる。それらは、工場内のスタッフの業務改善などに役立てられるそうだ。

 画像やコンテンツ認識に強みを持つゼータ・ブリッジ社では、目視で行う異物混入やパーツ・具材の過不足を自動判定する画像認識エンジン「フォトナビ」を提供。食品や自動車部品メーカーでコスト削減や見逃し防止に役立てられている。記録した画像をクレーム対応時に活用している事例もあった。

 リコーは、次世代の太陽電池を搭載し、屋内の温度・湿度・照度・気圧といった環境情報を電池交換レス・配線レスで取得できる環境センシングデバイスを多数展示していた。室内光を新電力として有効活用でき、コストや手間を省くほかSDGsにも貢献する。

 DX推進においては、多くの失敗があって然るべき。だからこそ失敗しても人を責めない。失敗の原因は施策にあると考え、失敗しやすい文化を醸成することが大事ではないかと上田氏は話していた。諸外国と比較して日本社会は失敗を恐れる傾向が強いともいわれるが、失敗をいとわずに「まずやってみよう」の精神でDXに取り組むべきなのだろう。

(小林香織)