中東カタールで開催中のサッカーワールドカップ(W杯)で、出場国が連日熱戦を展開している。11月29日(現地時間)からは、グループステージ最終戦が順次行われ、決勝トーナメント進出国が決定する。2大会連続のベスト16進出をかけ、日本がスペインとの最終戦に臨む中、一風変わったユニホームを採用し、注目を集めているチームがある。デンマーク代表だ。同代表は、ユニホームサプライヤーの企業ロゴが目立たないデザインのユニホームを着用し、大会に臨んでいる。

●“栄光の歴史”への敬意を表現

 激戦の欧州予選を突破し、2大会連続6度目の出場を果たしたデンマーク代表は、ユニホームサプライヤーに、自国企業のヒュンメルを採用。同社はホーム・アウェイ・3rdの計3種のユニホームを提供している。

 世界での視聴数や大会を通じて動く巨額マネーから、夏季五輪を凌ぐとされるサッカーW杯。出場国のユニホームを手掛けることは、提供元企業にとっては、またとない自社のアピールチャンスとなる。

 例えば、日本代表やドイツ代表のユニホームを手掛ける独アディダス、米国代表やイングランド代表のユニホームを提供する米ナイキなどは、ユニホーム上に自社ロゴが目立つようなデザインをしている。

 そうした中、ヒュンメルはなぜ、企業ロゴを目立たないデザインを採用したのか。同社はその理由を、自社の公式WebサイトやSNSで説明している。理由は大きく2つあるという。過去のデンマーク代表の実績への敬意と、カタール政府への抗議だ。

●代理参加で欧州王者の快挙

 UEFA(欧州サッカー連盟)は1992年、欧州最強代表チームを決める「EURO」(欧州選手権)のスウェーデン大会直前、旧ユーゴスラビア代表の出場権を剥奪した。旧ユーゴ政府がクロアチアやボスニア・ヘルツェゴビナなどの連邦構成国との内戦に突入したためだ。国際連合(国連)の制裁決議に基づいた処分だった。

 元日本代表監督の故イビチャ・オシム氏が監督を務めた他、Jリーグ名古屋グランパスなどでプレーし、カタール大会に母国セルビア代表監督として出場中のドラガン・ストイコビッチ氏を中心に、欧州予選を1位で突破するなど優勝候補と目された旧ユーゴ代表。その代役として参加が決まったのが、同代表に予選で敗れていたデンマーク代表だった。

 大会直前の参加決定となったことで、バカンス休暇に入っていた一部の主力選手を召集できないなど、万全とは言えないチーム状況の中、デンマーク代表は強豪国を次々と撃破。快進撃を進め、最終的に欧州王者に輝いた。快挙を達成したチームが当時着用していたユニホームにインスパイアされたのが、カタール大会仕様のユニホームだという。

 同社のアラン・ヴァッド・ニールセンCEO(最高経営責任者)は、新ユニホームについて「かつてのレジェンドにノスタルジックな賞賛をおくりたいわけではない。ここ最近では最強とも言われるデンマーク代表チームが、カタールで新たな伝説をつくり出す未来を象徴するものだ。20〜30年後に、今回の代表チームが語り継がれるようになることを願っている」とコメントしている。

●人権問題巡るカタール政府への抗議も

 こうしたポジティブな意味合いの一方、政治的なメッセージも込められている。英ガーディアンなど欧州の各国メディアは開催決定から2020年までに、スタジアムなど大会関連施設の建設中、約6500人が死亡したと報道している。犠牲となった多くが、インドやバングラデシュなど南アジアから入国していた出稼ぎ労働者だったという。

 同社は、自社ロゴや、同社のトレードマークでもある「シェブロンライン」を含む、全ての色をトーンダウンすることで、カタール政府への抗議を表現。同社は公式Instagramアカウントで「数千人もの命を奪った大会期間中、自分たちの存在を目立たせたくない」との声明を発表している。

 「われわれはデンマーク代表チームを全面的に応援しているが、それは開催国であるカタールを応援することとは違う。われわれは、スポーツが人々を1つにするものであるべきだと信じている」(ヒュンメル)

 ただ、こうしたメッセージは、デンマークの本社が発信したものだ。同社日本法人は公式Webサイトで「スタジアム建設に携わった移民労働者に対する扱いについての詳細を知らないヒュンメルジャパンとしては、その是非について言及することはできない」とした上で「ヒュンメル本社の姿勢を支持し、日本においても、スポーツは人々を結び付けるものであると信じ、取り組みを続けていく」との方針を示している。

 複数の提供国を抱える競合のアディダスやナイキに対し、ヒュンメルのカタール大会での提供国はデンマーク代表のみ。だからこそ、他社と変わった取り組みをすることで、自社の存在が際立つ。各方面から問題を指摘されるカタール大会で、デンマーク代表はどこまで勝ち進むか。デンマーク代表はグループステージ突破をかけ、11月30日(現地時間)の最終戦でオーストラリア代表と対戦する。