2022年6月に登場したアパレル企業向けのAIモデルサービスが、業界でにわかに話題を呼んでいる。本物のモデルと見紛う(みまがう)ようなクオリティー、かつ50着15万円〜という破格のサービスであるためだ。

 従来のモデル撮影は、モデル、カメラマン、アシスタント、スタイリスト、ヘアメイクなど多くの人手が必要になり、コストや時間がかかってしまう。加えて、既存モデルでは独自の世界観を表現しづらい点も悩みといえる。

 同サービスを手掛けるAI model(AIモデル)社の谷口大季CEOは、「アパレルにおけるモデル撮影の負荷を軽減し、新たな価値を創出したい」と創業の目的を語る。AIモデルが広がれば、アパレル業界はどのように変化するのか。

●幅広い年代・人種のAIモデルを生成できる

 AIモデル社が提供するAIモデルは、そのクオリティーの高さに驚きの声が集まっている。アパレル販売を手掛けているという人物のTwitterを見ると、「これは全然あり」と評価するコメントとともにAIモデルが紹介されており、1万件の「いいね」が付いた。

 このAIモデルは、5歳前後〜60代までの幅広い年代、アジア人・欧米人など複数の人種に対応する。顔色、髪色、目の色などの細かい条件を指定したオリジナルのAIモデルを、最短で翌日までに生成できるという。

 これらのAIモデルに洋服を着せ、ポージングした画像を作成するにあたり、3つの方法があるという。1つめは、着用した状態の洋服を撮影して、そのデータをAIモデルに着用させる。2つめは、平面のパターンデータをAIに着用させる。3つめは、3DCGの洋服データをAIに着用させる。

 近年、効率化や廃棄物削減を目的として、洋服のサンプルをつくらず、3DCGの洋服データで代用する企業も出てきている。このような場合は、より素早くAIモデルの着用データを作成できるという。

 谷口氏は、06年創業のインターグルーブ(アパレルなどのクリエイティブ制作を行う)のCEOでもあり、17年近くアパレル関連のECサイトの構築やコンテンツマーケティングなどに携わっている。その知見と最先端のAI技術を活用して、膨大な人の特徴量を読み込んだ独自データからAIモデルを生成しているそうだ。

●AIモデルでABテストも容易になる

 このAIモデルを活用する第一のメリットは、コストと時間の大幅な削減だ。AIモデル社では、50着の衣装を着たモデル画像が15万円〜と、従来のモデル撮影と比較して破格の値段で提供できる。谷口氏によれば、従来50万円かかる1日の撮影コストが15万円に下がった実例があり、最大約70%のコストカットが見込めるとのこと。画像の納期は、膨大な量でなければ3〜4日だという。

 このほかにも、AIモデルならではの活用メリットが多くあると谷口氏は主張する。その1つが、年代や人種の異なるモデルによるABテストの実施が容易になることだ。

 すでにAIモデルを導入している企業の効果検証では、客層と年代が近い40代のモデルよりも、客層より若い30代のモデルを起用したときのほうが、ECサイトの売り上げが高かった。そこで、今ままでは客層にマッチする40代モデルを採用していたが、30代のモデルに切り替えることにした。同社は、次に人種の異なるAIモデルを活用してABテストを実施するという。

 国内で見つけづらい外国人モデルもAIなら自在に採用できる。外国人の入国が制限されていたコロナ禍では、より外国人モデルを使いづらい事情があったが、そういった課題も解消できる。

 とはいえ、AIモデルは知名度もなければファンもいない。リアルのモデルのようなブランディングやPR効果の創出は期待できない。この点について谷口氏は、「広報としてSNS発信をするなど、AIモデルが実在する人物のように振る舞うことで、知名度が向上したり、ファンが付いたりすることが考えられる」と話した。実際、AIモデルに広報のような役割を任せたいと考えている企業もあるそうだ。

●モノ画像と比較して、売り上げが2倍以上に

 AIモデル社では、AIモデルの生成や衣装着用のデータ作成のみならず、AIモデルの運用支援もサービスとして提供している。いかにAIモデルがブランディングや売上向上に効果をもたらすかについて同社が実施した実証実験(※)では、CTR(クリック率)や売り上げが分かりやすく向上した実例があったという。

 この実験では、モデルを使用しない洋服のみの画像とAIモデルが洋服を着用した画像を使ってABテストを実施した。その結果、AIモデルの着用画像を使った場合に、CTRが218%、売り上げが207%に増加した。

 あくまで一部の企業での結果であり、そのほかのブランドで同じ結果になるとはいえない。しかし、モデルが着用している画像のほうが洋服のイメージが伝わりやすい、洋服の印象が向上するといった効果は考えられる。

 AIモデル社では、AIモデルと掛け合わせることで売上向上を目指す「VIRTUAL DRESSING」(バーチャルドレッシング)も開発した。これは、AIモデルのコーディネートをワンクリックで着せ替えできる「仮想試着」だ。

 アパレル企業のスタッフが自由にコーディネートを組んで提案できるほか、Webサイトを訪れた消費者も自分好みにコーディネートを変えられる。同機能を使った実証実験(※)では、1〜2%だったコンバージョン率が8%弱まで向上した事例があったという。

●AIは既存モデルの仕事を奪うのか

 リリース後の反響を尋ねると、TwitterなどのSNSで注目されたこともあり、複数の大手企業から問い合わせがきているという。

 「カタログ通販やアイウェアの国内最大手企業さまからも問い合わせがあり、想像以上の反響です。AIモデルを使ってコストや時間を削減できれば、新たな販売チャネルのプロモーションを仕掛けるなど、今までできていなかった活動に手が回るようになります。引き続き、ファッション業界の発展につながるテクノロジーの開発、及び活用の提案をしていきます」(谷口氏)

 好意的な反響の一方で、SNSの投稿では「モデルの仕事を奪う」といったネガティブなコメントも複数見られる。確かに、モデル事務所やモデルにとっては十分な脅威になりえる。こういった反応に対して、谷口氏は「既存のモデルと共創するための取り組みも進めている」と話す。

 「例えば、実在するモデルをAIに取り込めば、そのモデルはAIモデルとして活動できます。モデルは30代で一旦仕事がグッと減る傾向があり、30代は“死の谷”とも呼ばれます。ですが、AIを活用すれば20代の姿をAIに取り込んで仕事をしたり、その場にいなくても仕事ができたりします」(谷口氏)

 一般企業では、リモートワークが当たり前になってきた現代。年齢や場所の壁を越えてモデル業ができることで活動の幅が広がれば、既存モデルに新たなビジネスチャンスが訪れることもあるかもしれない。

(小林香織)