紳士服4大チェーンで、「AOKI」を展開するAOKIホールディングスの業績が唯一、黒字転換。ひとり勝ちの情勢だ。

 「洋服の青山」を展開する青山商事は2022年3月期こそ黒字に転換したが、23年3月期中間決算では再び赤字に転落してしまった。両チェーンは、ロードサイドを中心に店舗を展開する、同業者であるにもかかわらず、どうして差がついてしまったのだろうか。

 また、「紳士服コナカ」のコナカにおける22年9月期も赤字。「はるやま」のはるやまホールディングスの22年3月期及び23年3月期中間決算も赤字だった。

 AOKIからは、「パジャマスーツ」というコロナ共存時代の在宅勤務者向け新商品が生まれた。また、別事業で子会社の快活フロンティアが経営するネットカフェ「快活CLUB」が、リモートワークの拠点として活用されて業績好調である。

 他の3社も、新しい生活様式に対応したビジネスモデルの構築を急いでいるが、一足先にAOKIが抜けた。リモートワークの普及で通勤者が減少する紳士服業界で、何が起こっているのか。

 業界2位のAOKIホールディングスの22年3月期決算は、売上高1549億円(前年同期比8.2%増)、経常利益44億円(前年は66億円の損失)、最終利益も26億円(前年は119億円の損失)と、黒字転換を果たし、コロナ禍の低迷から脱している。

 23年3月期中間決算も、売上高756億円(前年同期比21.2%増)、経常利益17億円(前年は34億円の損失)、最終利益6億円(前年は38億円の損失)と、引き続き好調だ。

 コロナ前の19年3月期は、売上高1939億円、経常利益119億円、最終利益46億円だった。そこにはまだ届いていないが、現状はV字回復に向かって復調している。

●パジャマスーツがヒット

 AOKIが復調した要因を、もう少し詳しく見ていこう。

 19年3月末の総店舗数は1209店。そのうちAOKI中心のファッションは697店、快活CLUB中心のエンターテインメントが499店となっていた。

 22年9月末には、総店舗数は1457店。そのうちファッションは597店と100店の大幅減、エンターテインメントが850店と351店増の大幅増で、コロナ禍のうちにエンターテインメントの店舗数が、ファッションを上回った。これは、22年6月に、ネットカフェ「自遊空間」を運営するランシステムを子会社化した増加分も含まれている。ランシステムの店舗数は132店(うちFC63店)。

 ただし売り上げの比率は、23年3月期中間決算の時点では、ファッションの362億円が、エンターテインメントの346億円を、まだわずかに上回っている。しかし、快活クラブがAOKIに代わって、会社のメイン事業に昇格するのは時間の問題と思われる。

 とはいえ、ファッションのほうも、今年4〜9月では前年比18.9%増と順調に推移。2億円の営業利益も出ている。行動制限の緩和により、既存店客数が2桁増の15.5%増となったのが、好調の要因。冠婚葬祭が再開されたために、フォーマルの需要が増大。また、夏場はクールビス関連のアイテムが売れた。

 20年11月の発売以来、累計販売着数が18万枚を突破したパジャマスーツは、コロナ禍での数少ないアパレルのヒット商品となった。これは、ニューノーマル時代のリモートワークに対応。パジャマの快適さと、スーツのフォーマルさを兼ね備えたセットアップアイテムとして、開発された。1日中着ていられる部屋着のリラックス感があり、オンライン会議や通勤にも耐えられる新感覚のビジネス服だ。

 ノーカラーの上着も多いが、今秋冬は出社の機会増大のため、襟付きを前年の約5倍に増やして展開している。

 他の今秋冬の商品では、毛織物世界三大産地の1つとされる「尾州」(愛知県、岐阜県)で編まれた上質な「尾州ウールブレンドニットジャケット」が、全国旅行支援開始に伴う旅行ニーズの拡大を受けて前年比で2.5倍の売り上げとなっている。18年の発売以来、累計4万着を突破する人気商品だが、今年は色柄を4色から6色に強化している。価格は2万6290円。

 また、6月に発売して1週間で完売した、疲労回復ウェア「リカバリーケアプラス」を11月からAOKI全店で本格展開。これは、着るだけで血行が促進されて疲労回復効果が見込めるという、一般医療機器へ届け出をした機能商品。

 さらに、太陽光に含まれる近赤外線を吸収して、外に出るとすぐに暖かくなるという新素材「CWO」を用いた、高機能コート「ソーラーヒートコート」を、11月に発売した。

 このようにAOKIならでは特長を備えた意欲的な商品を続々と投入している。

●快活クラブの飛躍

 それ以上のインパクトを与えているのが、快活クラブの飛躍だ。近年のネットカフェは、漫画が読めるだけでなく、ビリヤード、ダーツ、カラオケなどもできる複合カフェに進化している。

 また、コロナ禍で個室のニーズが増大しており、快活クラブは完全防音の鍵付き個室の設置を推進。家でリモートワークに集中できない人のための仕事場として、重宝されている。音が外に漏れないので、声を出してリモート会議もできる。途中外出も可能だから、利用時間中にコンビニなどにも行ける。

 快活クラブの店舗数は、19年3月末には366店だったが、22年3月末には504店にまで増えた。コロナ禍で約140店もの大量出店を敢行した。AOKIからの業態転換が多く、複合店も増えている。スーツの販売とリモートワークの場所提供は、シナジー効果も見込め、これまで別々に見えた紳士服とネットカフェの事業の顧客が重なってきた。

 パジャマスーツを購入した顧客が、鍵付き個室でリラックスしてリモートワークをするという新しい働き方を、ストーリーとして具体的に示した。それが、快活クラブがヒットした要因だ。

 ネットカフェ業界で、店舗数1位が快活クラブ、2位が自遊空間だ。その自遊空間もAOKIの傘下に入った。AOKIはネットカフェでの圧倒的な勝者となった。

●青山商事の多角化

 一方、業界首位の青山商事は、22年3月期こそ売上高1660億円(前年同期比2.8%増)、経常利益52億円(前年は114億円の損失)、最終利益14億円(前年は389億円の損失)と、いったんはコロナを克服して黒字転換を果たした。

 ところが、23年3月期中間決算では、売上高768億円(前年同期比14.4%増)、経常損失4億円(前年は62億円の損失)、最終損失25億円(前年は76億円の損失)と、売り上げは上がっているが赤字に戻ってしまった(損失額はかなり改善している)。

 22年9月末の同社の中核、ビジネスウェア事業の店舗数は国内759店。そのうち「洋服の青山」が699店、「THE SUIT COMPANY」が45店となっている。19年3月末には891店、そのうち洋服の青山が809店、THE SUIT COMPANYが60店あった。

 コロナ禍で約130店も大量閉店。その影響の大きさがうかがえる。

 なぜ、再び赤字になったのか。決算書によれば、中核のビジネスウェア事業が売上高490億円(前年同期比20.1%増)と伸びたが、セグメント損失34億円に終わったのが響いた。

 同社も行動制限緩和による需要の回復が追い風となって、メンズスーツ、フォーマルウェアが好調に売れた。しかし、20年9月期に売上高が前年同期比45.6%減と、半減近くとなった傷は激烈だ。元の売り上げにはほど遠い現状で、強力なヒット商品がほしいところだ。

 今冬は、洋服の青山から、温度・湿度を自動調節する機能を備えた、オリジナルの吸湿速乾素材「コントロールα」を使用した、ステンカラーコートとフーデッドコートを発売。また、オフィスの節電対策に対応した、20秒で衣服内を暖めるカーボンヒーター(モバイルバッテリー付き)を内蔵したハイネックベスト、「暖ONベスト」という着るコタツのような新商品も販売している。機能からの差別化でヒットを狙う。

 また、9月には「スーツの青山」から「ビジネスウェアの青山」に向けて本格始動。ビジカジの新ブランドとして、メンズは「アクティビズ」、レディスはリブランドした「アンカーウーマン」を投入した。アクティビズはビジネスの新しいスタンダードを目指し、セットアップスーツ、ジャケット、スラックス、シャツ、ニット、カットソーなどをラインアップ。トレンドを意識したややゆとりのあるシルエットで、リラックス感ある着心地を追求している。

 青山の本業、紳士服を中心としたビジネスウェアの売り上げ比率は、年商の3分の2ほどで、残りの3分の1は他の事業で稼いでいる。

 年商100億円程度の事業が幾つかある。22年3月期で、100円ショップ「ダイソー」の雑貨販売事業は160億円、15年に完全子会社化した総合リペアサービス事業の「ミスターミニット」は102億円、物語コーポレーションの「焼肉きんぐ」や「ゆず庵」といった飲食店FCなどを経営するフランチャイジー事業は110億円といったところが、目を引くところだ。

 店舗数は、雑貨販売114店(22年2月末)、総合リペアサービス278店(国内・22年3月末)、FCは「焼肉きんぐ」39店・「ゆず庵」13店(22年3月末)などとなっている。

 しかし、AOKIの多角化に比べれば、紳士服への比重が高過ぎる点で差がついた。

●コナカとサマンサタバサ

 業界3位のコナカはどうか。コナカの22年9月決算は、売上高632億円(前年同期比7.8%増)、経常損失22億円(前年は65億円の損失)、最終損失32億円(前年は19億円の損失)だった。

 なお、前年とは会計処理の基準が異なるため、決算書には売上高増減のパーセンテージは記されていない。

 しかし、紳士服コナカ個別の既存店売上高を見ると通期で19.4%増。売り上げが回復基調にあることは間違いない。

 22年3月末の店舗数は、「コナカ/フタタ」192店、「SUIT SELECT」188店、「DIFFERENCE」54店となっている。なお、20年1月にコナカとフタタは合併した。

 決算書によれば、オーダースーツのDIFFERENCEが百貨店への出店を進めると共に、高級生地の取り扱いを増やした。また、コナカ、フタタ、SUIT SELECTといった量販店では、冠婚葬祭、各種イベントの再開でフォーマルウェアが好調に売り上げたとのこと。

 コナカ、フタタでは10月22日、創業70周年を記念して1着で7通りの着こなし(スーツ、スリーピース、ビジカジ、ビジカジドレスアップ、セレモニー、ディレクターズ、ジャケットの各スタイル)が可能な「ULTLA MOVE 7WAY SUIT」を新提案。価格は8万7890円とかなり高額。伸縮性が全方位のオールストレッチ仕様、4ピーススーツで、動きやすさも魅力だ。

 同社公式Webサイトによれば、21年9月期で、コナカ単体の売上高は287億円とのことで、グループ全体の売り上げのおよそ5割である。多角化が進んでいる。

 コナカの連結子会社には、19年に傘下入りしたバッグ・ジュエリー「サマンサタバサ」のサマンサタバサジャパンリミテッド、とんかつ「かつや」やから揚げ「からやま」などのFC事業を行うコナカエンタープライズ、洋服リフォーム「お直しピット」などを展開するアイステッチがある。さらに海外事業のKONAKA(THAILAND)もある。

 飲食業に進出しているのは、青山、AOKIと同様で、コロナ禍でも強い和風ファストフード、アークランドサービスホールディングスの「かつや」「からやま」のFC店を中心に事業を進めている。売り上げは前年とほぼ横這いの17億円。

 さて、サマンサは個別に決算を発表していて、22年2月期の売上高254億円(前年同期比12.3%増)、経常損失25億円(前年は36億円の損失)、最終損失42億円(前年は100億円の損失)となっている。

 コナカに関しては、買収した婦人物のサマンサの不振が足を引っ張って赤字になっている。

 サマンサは22年2月末で、バッグと関連会社のアパレルを合わせて262店となっている。

 19年2月末には292店あったから、コロナ禍で30店減となった。

 サマンサの店舗は、主に大都市中心部の百貨店やファッションビルにあり、コロナ禍での外出自粛が大きな足かせとなった。

 サマンサは1994年に1号店を渋谷パルコに出店。2000年代は若い女性に絶大な人気があった。ヒルトン姉妹をCMに起用していた。しかし、近年は飽きられ低迷していた。

●紳士服店一筋のはるやま

 業界4位、はるやまホールディングスの22年3月期決算は、売上高367億円(前年同期比4.0%減)、経常損失23億円(前年は30億円の損失)、最終損失79億円(前年は49億円の損失)に終わった。

 大手4社で21年より22年の売上高が減ったのは、はるやまだけである。4社の中では唯一、紳士服店一筋の王道を貫いている。そのためコロナ禍の影響が長引いている。

 店舗数は、21年3月末には445店あったが、22年3月末には411店と、1年で34店の不採算店を閉めた。コロナ前の19年3月末は474店あったから、3年間で63店減っている。およそ14%の店がコロナ禍で失われた。

 しかし、スリム化した効果は出てきている。23年3月期中間決算では、売上高147億円(前年同期比10.9%増)、経常損失9億円(前年は34億円の損失)、最終損失12億円(前年は35億円の損失)と、赤字が縮小した。

 今秋の新作から1つ挙げると、10月に同社オリジナルのブランド「TOKYO RUN」より、撥水・撥油加工生地を使用、汚れにくい機能性を追求した「ビジカジスーツ」を発売している。

 ビジネスのオンでもオフでも着られる、高ストレッチの仕様。パンツはウエストシャーリングとなっており、スポーツウェアのような楽な着心地を追求したという。ウォッシャブルで、家庭で洗濯できるので、クリーニング代が節約できる利点もある。価格は2万1780円(オンラインショップの価格、9月21日時点)。

 もう少しそそる商品名を付けて欲しいところだが、爆発的ヒットを期待したい。

●求められるスピード感とイノベーション

 以上、紳士服業界はコロナ禍でリモートワークが推進され、ビジネスパーソンがスーツを着用して通勤する機会が減ったため、大きな打撃を受けた。現状は、通勤ラッシュも復活しているが、リモートワークも一定程度は定着して、コロナ前までの市場規模に戻りそうにない。

 そこで、ビジネス服の概念が変わったと判断し、青山とはるやまはビジカジに舵を切り、コナカは着回せる7WAYスーツを考案。AOKIは部屋着の延長でビジネスに対応できる、パジャマスーツの開発に至った。カジュアル寄りのビジネス服は、コロナ禍で注目され、AOKIが先行しているが、ヒット商品1つで業界の勢力図が一変する可能性がある。

 小島健輔・小島ファッションマーケティング代表によれば、19年の紳士スーツの国内市場は、2250億円を割り込むくらいだったという。ピーク時の1992年には7750億円があったから、3割程度にまで激減している(出所:商業界オンライン『紳士スーツ市場の変貌はもう止まらない』19年8月9日付)。もともと、厳しい環境に置かれていた。

 それゆえに、はるやまを除く3社は、危機感を持って多角化を進めてきた。最も成功したのが快活クラブで、リモートワークの場所を提供したAOKIだった。

 青山、コナカも勢いのある外食のFCに加盟するなど、狙いは悪くない。間もなく黒字転換するだろうが、スピード感とイノベーションが欲しい。

 AOKIは6月に社長に就任したばかりの東英和氏が、12月6日で副社長に降格。代わりに副社長の田村春生氏が社長に就任した。健康上の理由とのこと。

 また、東京オリンピック・パラリンピックのスポンサー選定を巡り、青木拡憲前会長をはじめ3人が贈賄容疑で逮捕された。企業イメージの悪化は否めない。

 しかし、実践してきたポートフォリオ経営が揺るがなければ、乗り越えられるだろう。

(長浜淳之介)