世界的なインフレの中、日本でも消費者物価が上がってきています。11月18日に発表された生鮮食品を除いた前年同月比の消費者物価指数は、+3.6%と1982年2月以来、40年8カ月ぶりの高い数字となっています。

 その一方で給料が上がらず、生活が苦しいという悲鳴が上がっています。なぜ、日本人の給料は上がらないのか。今回は、働き盛りの40代に焦点を当ててその理由を説明します。

●日本人の平均給与は下がり続けている

 国税庁が発表する2021年の給与所得者の平均年収は433万円です。30年前の1991年(約460万円)と比べて27万円も減っています。その要因として挙げられるのは、次の2つです。

・パート社員・嘱託社員などの非正規雇用として働く人が増えた

・DXの遅れにより、中小企業の生産性が低く利益率が悪いため、賃金アップに回す原資がない

 22年7〜9月の労働人口5706万人の中で、非正規労働者の割合は2120万人と割合が増加しています。女性の就業者が増加したことや年金支給開始年齢の後倒しに伴い、60歳以上でも働き続ける人が増えたことが背景にあります。あるいは、就職氷河期世代など正社員を希望しながらも非正規として働からなくてはいけない人も一定数いるでしょう。

●平均年収が上がらないよりも中高年の年収が下がってきたことが問題

 昨今では夫婦ともに働く共稼ぎ世帯が珍しくなくなりました。最低賃金のアップや同一労働同一賃金など国の施策により、パート社員や派遣社員の待遇は、少しずつ改善されています。そのため、平均年収が多少下がったとしても、世帯年収は以前より増えているかもしれません。

 世帯年収が増えるのは喜ばしいことですが、筆者は管理職ポストに就く人も多いであろう40代正社員の年収が減少傾向にあることは、深刻に捉えるべきだと考えます。

 国税庁の調査を見ると、一家の大黒柱である40代の平均年収の減少幅が大きくなっています。1997年と2021年を比較したところ、40〜44歳では645万円から584万円となって年間61万円減。45〜49歳も695万円から630万円となって年間65万円も減っています。

 世帯主が正社員として働き、配偶者が補助的に非正規社員として働く世帯では、配偶者の年収が上がっても世帯主の収入減を補てんできない状況になっている可能性もあります。

●日本の大半の企業は役職に就かないと上がらない

 では、なぜ中高年の平均年収が下がったのでしょうか? それは40代になっても課長以上の管理職になれない、あるいは係長や主任といった役職にも就けない平社員が増えたからです。労務行政研究所が21年、上場企業を中心に調査した職位別の賃金は次のようになっております。

・部長:1000万円台

・課長:800万円台

・係長:500万円台後半〜600万円台前半

・一般社員:300万円台後半〜400万円台前半

 部長の年収水準を100とすると一般社員は40程度に留まります。上場企業に勤務していたとしても、昇進しなければ十分な給料をもらえない人が多いのです。年功序列で一般社員にもある程度の賃金まで上げてくれる優しい会社もありますが少数でしょう。男女雇用機会均等法が施行されてから、長い時間が経つのに女性の賃金が男性と比べて低いのは、管理職に就く人が少ないからです。直近の調査によれば、管理職における女性の割合は、9.4%に留まっています。

 昭和や平成の初期の時代は、年功序列により誰しもが管理職に就けたのでしょうか? 正確にはそうでもありませんでした。管理職になるような人材は、実務能力以外のリーダーシップなど先天的な要素も必要なため、ある意味限られています。

 管理職の素質がない人でも「担当部長」「課長代理」「副部長」などいわゆる“部下なし管理職”の地位に就けました。部長か課長と比べて権限はないものの、管理職に準ずる給料をもらえていたのです。真面目に一つの会社に勤務していていれば、ある程度の給料はもらえていた恵まれた時代だったのです。

 競争力の激化に伴い意思決定のスピードアップを求められるようになったため、こうした部下なし管理職は減ってきて、その代わり40代、50代でも一般社員に留まる人が増えてきたのです。定年の延長に伴い60歳以上の社員にも原資を回す必要がでてきたなどの企業側の事情もあります。

●専門職に高い報酬を支払う制度が必要

 これから急務なのは、管理職コースとは別に、専門職コースのような「管理職にはなれないものの、高度な専門知識や実務能力を持っている人にも高い報酬を支払う」タイプの職務等級制度の設計です。特定の分野で専門的な知識や能力を評価することで管理職や役員と同じように評価され、昇給するという仕組みを指します。

 DXに関する技術力を持った人材や、特定の資格を有する人材が対象となります。すでに制度を導入している企業もありますが、大企業が中心で中小企業ではあまり浸透していない印象があります。

 なぜこうした制度を設ける必要があるのかというと、昨今、育成の重要性が叫ばれているDX人材はまさに専門職に該当するからです。プロデュサーなどの従来の管理職を踏襲する人もいますが、AIエンジニア、プログラマー、データサイエンティスト、UXデザイナー、アーキテクトといった専門家が中心です。こうした人達に管理職に準じる給与を支払わないとDX人材は育っていかないでしょう。

 中小企業では、DXが喫緊の課題とされています。社内のデジタル化を任された若手社員が、仕事だけ増えて評価も給料も上がらず、モチベーションが下がり辞めてしまうケースも聞きます。国や評論家が生産性向上のためにDX人材の育成が必要だと声高に叫んでも絵に描いた餅になってしまうのです。

 また職務等級制度がない中小企業では、DX人材を中途採用する際、一定の給与を支給するため管理職に任命することもありますが、本人のタイプや家庭の事情から管理職の業務量をこなすことが難しく、短期間で離職してしまう人もいます。管理職は難しくても専門職としてキャリアを積みたいと考える人のために選択肢を用意することが必要です。

●評価制度の導入が急務

 職務等級制度がない中小企業が多いのは、クライアントによって仕事量が左右されることが多いため、一つの仕事に専念できず雑務も含めてなんでも屋的に業務を求められる特有の事情もあります。

 加えて、評価制度が存在せず、職位によるざっくりとした賃金テーブルしかないことも要因です。専門職の評価は、その業務に精通した人でしかしにくいという意見もあります。ただこのような考えに固執していると、いつまで経っても評価制度は作れず、専門職制度を設けられません。業務について数値化できる要素を増やすなどして簡潔なものでよいので導入すべきです。作成にあたって専門家の支援を仰ぐのもよいでしょう。

 管理職としての昇進する以外にも給与が上がる道を作る。それが給与の底上げにつながり、DX人材の育成という課題にも対応できると考えます。