1月21日から中国の旧正月、春節の大型連休が始まった。3年ぶりに行動制限がない中で迎えた今年の春節だが、日中双方の制限により、日本の観光地への中国人観光客の客足は一部にとどまる見通しだ。一方でタイ国政府観光庁は「今年中に500万人の中国人観光客が訪れる」と予想する。なぜか――。

 中国の新型コロナウイルスの感染拡大を厳しく封じ込める「ゼロコロナ政策」が大幅緩和したことを受け、中国の海外旅行需要は活発化している。中国の大手オンライン旅行会社Trip.comの調査によると、春節期間中(1月21〜27日)の海外旅行予約件数は前年度比で540%に上昇している。特に中国本土から東南アジアへの旅行予約数は、前年同期比1026%だ。最も人気があるのはタイで、次いでシンガポール、マレーシアと続く。

 中国人観光客が日本にあまり訪れていない理由の一つは、日本側の水際対策強化によるものだ。日本政府は1月4日から、中国本土からの入国者に対して入国時のPCR検査、出国72時間前に受けた検査の陰性証明書の提出を義務付けた。直近の中国での新型コロナウイルス感染拡大を踏まえたものだ。

 また世論からも、インバウンド本格解禁を不安視する声が上がっている。コロナ禍前の国内の人気観光地では、外国人観光客が過剰に訪れたことによって地域住民や周辺環境に悪影響を及ぼしたケースがあるためだ。

●中国側の制限も 

 もう一つに、中国側の日本への海外旅行に対する制限も挙げられる。中国人は日本の大使館にビザを直接申請することはできず、必ず中国の代理店を通す必要がある。現在代理店は、一部の個人向け訪日観光ビザしか申請を受け付けていない。そのビザの取得には厳しい所得制限があるため、限られた富裕層しか日本に来れないのが実情だ。

 一方でタイでは、中国本土からの入国者に対して水際対策は実施していない。ビザ取得も日本と比較すれば容易だ。観光が主要な産業であるタイは、コロナ禍後のインバウンド需要の復活に国を挙げて取り組む。実際にタイには春節連休が開始してから、中国人を含む多くの外国人観光客が訪れている。タイ国政府観光庁は「今年中に500万人の中国人観光客がタイを訪れ、タイを訪れる外国人観光客の総数は2500万人になる」と予想する。

 タイは日本と並んで、中国人に人気の海外旅行先の一つだ。Trip.comの調査によると、2020年の春節で中国人の渡航先として最も多かったのは日本で、その次にタイが続いた。長らく海外旅行に行きたくても行けなかった中国人の「リベンジ旅行」需要は、ビザが取りにくい日本ではなく、タイに流れている。

 コロナ禍前である2019年、観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によると、中国人観光客は日本に950万人以上訪れ、約1.7兆円を落とす日本のインバウンドの“最大顧客”だった。その復活の時は訪れるだろうか。