昨年末、大手百貨店そごう・西武がセブン&アイ・ホールディングスからヨドバシ・ホールディングスと連携する外資系不動産ファンドに売却されることが決定したとして話題になった。
西武池袋がヨドバシカメラを核店舗とした商業施設に替わるのではないかというニュースが報じられると、西武ホールディングスの社長や豊島区長が池袋がこれ以上、家電量販店激戦地となってもいかがなものかという意見を発信。これが話題となり、ついには売却期日の延期も発表されるなど紛糾している。
このことで、百貨店よりも、家電量販店の勢力図にまつわる関心が大きくなったと感じている。実際、池袋はヨドバシのライバルであるビックカメラの本拠地であり、他にも渋谷、横浜、千葉などの百貨店にヨドバシが出店するようになると、ビックの既存店との激突となるのは避けられず、業界シェアは大きく変動する可能性がある。
●家電量販店の業界地図 「カメラ系」「電器店系」とは
そもそも大手百貨店の再編問題に家電量販店が絡んでくるにしても、最大手ヤマダデンキではなく、ヨドバシ、ビックの名前が出てくるのは、家電量販店大手が主にカメラ系、電器店系に2分されていることによる。
名前の通りヨドバシ、ビックはカメラ系の勝ち組、ヤマダデンキ、ケーズデンキ、エディオンなどカメラ系以外の大手は地方の電器店系出身であり、その店舗スタイルや立地は、元来はかなり違っていた。
大都市の中心市街地やターミナルから発祥しているカメラ系は、都市部駅前などの繁華街に多層階の大型店舗を増やして成長した。一方、電器店系は郊外のロードサイドに2〜3階の低層型郊外大型店をチェーン展開することで成長した。
百貨店のような大都市ターミナル立地に家電量販店を展開するとなると、カメラ系の得意とするところなのである。こうした店舗スタイルの違いは、運営ノウハウでもあるようで、大都市ターミナルはカメラ系2社の実質独壇場となっている。そのため、今回のような百貨店に家電量販店が出店したり、百貨店跡地を転換したりする場合には、必然的にヨドバシかビックが絡んでくることになるのである。
●戦国時代の後、家電量販店業界はどうなるのか
2000年代以降、家電量販店業界は戦国時代のような激しい再編が行われた。10年代以降は、ヤマダデンキ、ビックカメラ、ヨドバシカメラ、エディオン、ケーズデンキ、エディオンなどが大手上位企業として生き残り、競い合ってはいるが、ある程度すみ分けているような状態が続いていた。
家電量販店の売り上げ上位企業のランキングを見ると、ヤマダが1兆6000億円とダントツの規模だ。ビック以下の各社が7000億円台で「2位グループ」を構成していることが分かる(ビックが7923億円、ヨドバシが7539億円、ケーズ7472億円、エディオンが7137億円)。
家電量販店の市場規模もPC、スマホなどの普及も一段落した10年代では大きな変動もなくおおむね横ばいであって、シェア競争を「仕掛ける」ような要素にも乏しかったといえる。20年度はコロナ禍による「巣ごもり需要」という追い風で拡大したが、21年度は巣ごもり一巡による反動落ちとなり、22年度もさらに落ち込むことが見込まれる。
そんな業界において、ヨドバシがそごう・西武という箱を活用して、百貨店クラスの超大型店を複数出店するということになれば、2000億〜3000億円の売り上げ増加となるという見方もあり、「2位グループ」の各社はヨドバシの後塵を拝することになる可能性が高い。
売り上げでずばぬけたトップのヤマダといえども、近年は家電売上の伸び悩みを買収した住宅事業や家具の売り上げで補う状況であって、家電売り上げ(デンキ事業売り上げ)は1兆3000億円ほどとなっており、ヨドバシが1兆円近くまで伸ばしてくれば、その差はかなり詰まる。
さらに言えば、ヤマダが店舗展開する地方、郊外の家電市場は人口の減少に伴って、成り行きでいけば徐々に縮小していく。ヤマダはこれまでもカメラ系が本拠地とする大都市ターミナルに大型店を出店して、その牙城に楔(くさび)を打とうとして来てはいるが、その成果が出ているとは言い難い。地方、郊外を制覇することで王者に君臨してきたヤマダにとっても、今回のヨドバシのそごう・西武への進出は大きな関心事であろう。
●ヤマダはどのようにして王座を手に入れたのか
ヤマダが地方、郊外を席巻してトップシェアを確保した手法は、ロードサイドに売場面積3000〜5000平方メートルというロードサイドでは最大級となる店舗を出店して、売場が相対的に小さい競合を品ぞろえで圧倒しつつ、規模による購買力でも価格競争に打ち勝つことで、相手を倒してしまうというものだった。
ヤマダの前にトップシェアとなっていたコジマもワンサイズ小さい店舗で全国展開して成長していたのだが、ヤマダの大型店攻勢の前にトップシェアを奪われ、その後ビックの傘下に入ることになった。この戦略によって、同時多発的に勃興していた地方量販店チェーンの大半が撃破され、ヤマダは圧倒的なトップ企業となったのだが、ケーズ、エディオンなど同じく郊外大型店を展開する大手企業が生き残って拮抗(きっこう)する時代に入る。
大手同士の戦いは、地方豪族を討伐するような訳にはいかず、大手の寡占化が進んだ時点で、ヤマダの成長フロンティアは消失した。それどころか、10年代以降は少しづつではあるが、郊外家電マーケットにおけるヤマダのシェアは押され気味になっていた。
図表2は郊外型家電量販店の売り上げ(ヤマダはデンキ事業売り上げ)の推移をみたものである。11年前後に比べて、ヤマダとケーズ、エディオンとの差が小さくなったことは一目瞭然であり、特にケーズは10年3.2倍の差が、1.75倍にまで縮小しており、着実に追い付いてきていることが分かる(外部配信先では、図表がご覧いただけない場合があります。その際は、「ITmedia ビジネスオンライン」の誌面からお読みください)。
これは両社の立地戦略の差も大きかったと考えられる。郊外で最大規模の品そろえを実現して地方量販店を駆逐してたころのヤマダの店舗は、郊外では最も集客力があるフォーマットを完成しており、これをロードサイドの適地を見つけてどんどん単独店舗で全国展開することで成功した。
後発勢力であったケーズは、同等の品そろえの店舗ながらトップ企業ヤマダに劣る知名度を補うため、超大型ショッピングモールや、食品スーパーを核店舗とする大型商業集積などの隣接地を選んで出店していった。家電量販としては集客力があるといわれるヤマダの単独店だが、大型ショッピングモールなどの商業集積と比べると、その人流集客力は比較にならない。業界内での競争力を頼んだヤマダの大型店はモールコバンザメ戦略をとったケーズに押されるようになっていった。
●このままでは危うい、ヤマダの王座 打開策はあるか?
ヤマダは集客力向上を目指して、生活雑貨を取り入れたり、住宅、家具を買収することで、リフォーム、家具など家周り需要に対応する店舗へと変わりつつある。だが、その成果が顕著に出ているとは言い難い。
3000〜5000平方メートルの売場面積は家電量販店としては大きいのであろうが、家電の品ぞろえを維持しつつ、生活雑貨、家具なども含めた家周り需要をフルにカバーするためには小さいのかもしれない。家周り雑貨をフルカバーするホームセンターはそれだけでも今や5000〜8000平方メートルは当たり前になっている。中途半端な品そろえでは、結局は来店につながるほどの魅力にはならないのである。
ヤマダは、大型ホームセンター運営のアークランズと店舗開発における業務提携を結んで、22年2月には1号店「テックランド ビバホーム一宮店」、9月には2号店「テックランド ビバホーム八王子多摩美大前店」を出店している。2号店は、売場面積1万2000平方メートル、加えて、2万3800平方メートルのショッピングセンターを併設して、食品スーパー、ヤオコーなどのテナントも充実している。
これまでどちらかと言えば、自前で品そろえの拡大を図って、中途半端な売場を作っていた印象があるヤマダが、ホームセンターと組んで、食品スーパーもある複合商業施設を作るというのは、柔軟性のある判断のようにみえる。各ジャンルの有力企業との連携による消費者ニーズの充足のほうが、現時点として効果を上げるということになるのだろう。
ヤマダの「自前」として大いに評価すべきは、リユースを軸とした環境事業の方かもしれない。買い替えにあたって引き取った家電製品を、徹底的に整備、洗浄してリユース製品として販売していきながら、その過程で出てくる廃棄物については自前の産業廃棄物処理部門で処理していくという取組なのだが、ここは他社の追随をゆるさない徹底ぶりだと言える。
リユース専用工場への本格的投資が行われ、最近では最終処分場をもった産廃事業者をM&Aで傘下に保有するまでになった。「売る責任を果たす」という取組を行いつつ、産業廃棄物処理事業として収益化も目指すという事業モデルは、そう遠くないうちにグループに収益貢献するようになる可能性がある。産業廃棄物処理事業は、きちんと先行投資していけば、収益化が計算できる事業なのである。
最近では、このリユース事業を、マスコミを通じて積極的に周知していこうとする姿勢も見えている。リユースを社会的に浸透させることで、社会的にも貢献しつつ、収益拡大につながることは大いに期待していいだろう。
最近10年ほどは、売り上げが伸び悩み、住宅事業や家具をM&Aによって傘下にいれることで、家周りの需要取込みを自前で実現するという方向で進んできたヤマダに対して、筆者は「自前への固執が成果につながらないのでは」という懸念を感じていた。
だが、他社との連携を前提とした「テックランド ビバホーム」は、その方向性の変化を感じさせる。総合スーパーが専門店チェーンに蚕食されて、今や消えつつあるような時代に、トップ企業ならまだしも、中途半端な企業買収による品そろえ、サービス拡張では、消費者は満足しない。
専門ジャンルにおいてレベルの高い企業がコラボすることで、付加価値を産み出そうというヤマダの方向転換に期待したい。
●著者プロフィール
中井彰人(なかい あきひと)
メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。