「ドン・キホーテ」などを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)では、2022年3月から、店舗従業員の髪色の自由化を認めてきた。今年2月からは、国内グループ会社の管理部門でも髪色の自由化に踏み切った。服装ルールの見直しから1年が経過し、これまでにどのような効果があったのか。

 「一部の店舗ではアルバイトの応募件数が増えたほか、転職を思いとどまったという声も届きました」

 同社の広報担当者はこう話す。

 PPIHグループは、従業員の多様な個性を認め合うことで新たなサービスの創造につなげようと、22年3月にドン・キホーテなどの店舗における服装ルールを緩和。従業員の髪色自由化を認めた。社内外からのポジティブな反響を受け、同年11月には、スーパー「アピタ」「ピアゴ」を展開するグループ会社のユニー(愛知県稲沢市)も自由化に踏み切った。同社にはそれまで「従業員の髪色は黒か栗色」という服装規定があり、設立以来50年ぶりの見直しとなった。

 今回、管理部門にも適用を拡大。人事や法務、情報システム、広報など、バックオフィス業務に従事する社員も自由な髪色が認められるようになった。

●「本来の自分」取り戻した気持ち

 自由化の導入から1年が経過し、早速、効果も表れ始めた。学生など若者が多く住む地域に出店する店舗では、アルバイトの応募が増加した。ほかにも、従業員から次のような声が寄せられたという。

 「気分に合わせて髪色を変えたいと思ったが、服装ルールに違反するため難しく、転職も視野に入れるほどであったが、ルールが緩和されると聞いて、もう一度この会社で頑張ろうと思った」

 「(入社する前は染めていたこともあって、入社後も)好きな色に髪を染めたかったが、社内ルールがあるから我慢していた。ルール緩和され、さっそく髪色を変えたところ『本来の自分』を取り戻したように感じる」

●変わる服装ルールの最適解

 「服装や髪色のルール緩和は、“個”としての従業員の意思を尊重していることの裏返し。採用とリテンション(人材の維持・確保)の側面からも効果的な施策だ」

 こう話すのは、経営管理や人事責任者などを長年経験し、企業の内部事情に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎氏だ。

 服装ルールを緩和する企業はPPIHグループに限らず近年、増えている。コーヒーチェーン大手のスターバックスは21年8月、従業員の髪や服装の色を自由化し、デニムや一部の帽子着用も可能とした。三井住友銀行は19年9月から、前例に囚われず新しいことにチャレンジしやすい環境を作ることを目的に、TPOに合わせて服装を自由に選べる「ドレスコードフリー」を導入している。

 服装ルールの緩和に動く企業が増える理由について、川上氏は(1)時代の流れに合わせた対応(2)従業員のパフォーマンス向上が期待できること(3)採用とリテンション対策――の3点を挙げる。

 (1)について、川上氏は次のように話す。

 「昭和の時代は派手な服装や髪色は『素行が良くない』というイメージと重なり、『型にはめる』ことを重視する価値観が世間に浸透していた。一方で現在は、個性的な服装や髪色は『ファッション』として認識され、世の中の風潮は個性や自己表現として受け入れる方向に向かっている」

 パフォーマンス向上についても、次のように説明する。

 「仕事にはストレスがつきもの。従業員は組織の中ではみ出さないように気を使いながら、仕事のストレスと日々戦っている。服装や髪色の自由度が高まれば、前向きな気持ちを醸成するきっかけの一つになりえる」

 また、日本の労働市場は少子化で慢性的な人手不足にある。「人手不足が進むということは、会社が従業員を選ぶ側から、従業員に選ばれる側へと徐々に移ってきているということ。優秀な人材の採用はもちろん、既存の社員がずっと居続けたいと思える職場環境を構築する上で、服装規定の緩和は効果的な施策の一つになりうる」

 当然ながら、事業内容や勤務場所によっては、ふさわしくない髪色や服装もある。他方で、昨今は業種を問わず、従来の枠にとらわれない発想やアイデアが求められている。川上氏は「多くの会社に当てはまる普遍性を有しているだけに、服装や髪色などの個性を尊重するスタンスは、今後も広がっていくのではないか」と指摘する。

 時代の流れに応じて変化する、服装や髪色ルールの最適解。世の中の風潮を先取りするPPIHグループの取り組みは、多くの企業にとって参考となりそうだ。