コロナ禍当初、大きな社会問題となったマスク不足。感染防止のため人々はマスクを求めて行列を作り、小売店は「1人1点まで」など個数制限を行った。こうした事態を解消する一助となったのが、シャープによるマスクの生産・販売だ。アフター・コロナへシフトした現在、シャープのマスクはどうなっているのか。広報担当者に話を聞いた。
同社がマスクの生産を開始したのは2020年3月24日。初の緊急事態宣言が発出される約2週間前のことだ。「弊社の液晶工場にはもともと、洗浄な環境を作り出す部屋『クリーンルーム』があり、衛生製品の生産には適した環境でした。当時、三重の液晶工場の一角に、遊休となっていたクリーンルームがあったのですが、日本政府からそこでマスクを生産してほしいという要請を受けたのです」(同社広報担当者)
要請を受けるまで、同社は一度もマスクを生産したことはなかった。しかし、感染拡大とマスク不足という緊急事態から、20年2月28日にマスクの生産を決定。1カ月弱の短期間で、急ピッチで生産体制を整えたという。
20年3月31日に初出荷となったが、当初は日本政府向けに納品しており、個人への販売は行っていなかった。「初出荷から1カ月ほどでマスク不足が一段落したので、4月28日から個人向けへの販売を開始しました」(同社広報担当者)
最初に個人向けに販売したのは「不織布マスク(ホワイト)」で、1箱当たり50枚入り。販売数量は1日当たり3000箱(15万枚)としていた。当初は20年4月21日からのWeb販売を予定していたが、国産マスクへの注目度の高さや、家電メーカーであるシャープが生産したという話題性もあり、販売サイトへのアクセスが殺到。そのため抽選販売に変更した。
●累計販売数は4.3億枚を突破
長引くコロナ禍とともに続くマスク生活は、ある変化をもたらした。消費者は生活必需品となったマスクに対して、さらなる機能性や付け心地の良さ、デザインなどを求めるようになったのだ。
そこで同社は21年9月8日、新シリーズの「シャープクリスタルマスク」(5枚入り699円、15枚入り1980円)の販売を開始した。衛生意識への高まりを受けて、PM2.5や花粉、ウイルス飛沫、微粒子の侵入を99%以上カットする4層構成の不織布フィルターを採用。持ち運びやすさも考慮し、マスクを1枚ごとに個別包装にした。
また、6角形をベースとした立体構造を採用したことで、口元の空間を確保。長時間着用していても呼吸しやすくした他、マスクへの口紅の付着や化粧崩れなど、マスク生活ならではの不満を解消する工夫を行った。
高機能・高品質化にシフトし、消費者の支持を得たシャープのマスクは、これまでに累計4.3億枚超を売り上げている。マスク着用が任意となり、コロナが5類移行した現在でも販売は継続中だ。昨年12月には、シャープクリスタルマスクにベージュ系とピンク系の新色(いずれも15枚入り1980円)を追加。マスクには珍しい光沢感がありながら、季節を問わず普段使いしやすい淡めの色に仕上げている。
今年5月には、耳ひもとマスク本体の色が異なるバイカラーモデルを投入した。服装や気分に応じて使い分けられるよう、ベージュ系のマスクに、アイビーグリーンとワインレッドの耳ひも、ピンク系のマスクに、スカイグレーとワインレッドの耳ひもを組み合わせた(いずれも14枚入り1880円)。今後の詳しい商品計画は明かせないとしたものの、引き続き消費者のニーズに応じた商品開発を続けていくという。