ソフトバンクは、双葉電子工業、東京工業大学 工学院 藤井輝也研究室とともに、災害時に土砂やがれきの下の遭難者などの救助に活用可能な「ドローン無線中継システムを用いた遭難者位置特定システム」を開発。双葉電子勝間ラジコン飛行場においてこのシステムを使用し、約70km離れた遠隔地からのドローンの手動操縦、GPS受信機能が搭載された携帯電話機の位置を特定する実証実験に成功した。

 この成果報告として、8月31日、有線給電ドローン無線中継システムと、ドローン無線中継システムを用いた遭難者の位置特定のデモンストレーションを報道陣に公開した。

●東日本大震災をきっかけに

 ソフトバンクは2011年の東日本大震災をきっかけに、迅速に広いエリアを復旧するシステムを検討し始めたという。当時は4000局近い基地局が倒壊などでシステムダウンし、最も長いもので復旧に1カ月近くかかった。災害で通信障害が発生した携帯電話サービスエリアを迅速に復旧させたい。それも短時間で広いエリアを復旧させたいという狙いから、プロジェクトはスタートした。

 そこで開発したのが「係留気球無線中継システム」だ。中継装置を載せた気球を100mほど上空に上げることで、広いサービスエリアを作ることができる。一般的な基地局はビルの屋上や鉄塔などで地上40mくらいにあるが、その2倍以上高く上げることで、最大半径10kmという非常に広い地域をカバーでき、一気にエリアを回復できるというものだ。

 このシステムは最寄りの携帯基地局に接続する無線中継局の親機と、気球に搭載された子機から構成される。気球は平らで、直径約5.5m、高さ約3m。風が吹いたときにも安定するような構造になっている。2016年4月の熊本地震では、実際にこの係留気球無線中継システムが運用された。

●気球をドローンに変えて運用

 今回、デモが公開された有線給電ドローン無線中継システムは、係留気球無線中継システムを改善したものだ。最近は台風や長雨による水害が頻繁に発生し、臨時中継システムを、より早く運用開始することが期待されている。しかし、係留気球無線中継システムは「ヘリウムガスを入れるのにかなり熟練した技術が必要」(藤井氏)で、設置するのに6時間から半日くらい時間がかかるという。

 その点、ドローンは設置が簡単だ。「ドローンはワンボックスカーで運ぶことができ、外に出して、操縦装置を押すだけで上がっていく。現場に到着後、1時間程度という短時間で運用開始できる簡易性を活用した」(藤井氏)

 無線中継局の親機と子機の関係は基本的に同じだが、ドローンに搭載するために軽量化を図った。ドローンも100mから150m程度まで一気に上げることができるので、気球と同等のエリアを作ることができる。ただ、一般的にドローンはバッテリーで動くため30分程度しか飛び続けることができない。これでは無線中継として厳しいので、下から電力を供給する有線給電にした。「24時間、1週間の連続中継を狙っている」(藤井氏)

 ドローンの運用が可能になったからといって、気球を使ったシステムを使わなくなるわけではなく、短期・中期の運用にはドローン、1カ月以上の長期間運用には気球を使っていくという。

●遭難者の位置特定にも活用

 3者は、ドローンを使った遭難者位置にも取り組んでいる。山で遭難した場合、サービスエリア外だと、実際は遭難者の持つ端末のGPS電波を受信して位置を特定できているにもかかわらず、位置情報を通知できないケースがある。ならば周囲を圏内にすればいいという考え方だ。

 圏外のエリアがあれば、そこに無線中継システムを搭載したドローンを飛ばすことで圏内をエリア化でき、GPS情報を伝えることができる。ただ、エリア化するだけでは位置を把握できないので、「位置情報取得システム」も合わせて開発。捜索者がサーバにアクセスすることによって地図上に端末の位置を特定できる。なお、このシステムで位置を把握するためには、遭難者の端末に専用アプリがインストールされている必要がある。

 この遭難者の位置特定システムは、ニセコスキー場で実証実験が行われ、約5mの雪の下に埋めた人形の胸ポケットに入れた端末の位置の特定に成功した。今回の実証実験は、これを土砂やがれきに応用したものだ。有線給電ドローンよりも小型のドローンを使い、バッテリーで飛行する。最大30分の連続飛行しかできないので、バッテリーを交換しつつ行うことになる。

 土砂やがれきは雪に比べて電波の浸透が非常に悪く、通信が困難だという。そこで、縦にも移動できるドローンの特徴を生かし、低空の高度10m付近を飛行。また、電波のビームをできるだけ絞り、電波がなるべく土砂やがれき内の深い場所に届くようにした。ただ、土砂やがれきの種類や水分量によって電波の浸透具合は異なるため、電波がどれくらい届くかは実験のデータしか得られないという。「いろいろなところで実験しているが、状況によって異なる」(藤井氏)

●遠隔運用システムでより素早く対応

 遭難現場でドローンの中継システムを運用するには、システムの運搬者、無線中継システムの運用者(携帯電話事業者)、ドローン操縦者の3者が現地に集合する必要があり、運用までに時間がかかっていた。

 そこで、より迅速に運用できるようにするため、中継運用者とドローン操縦者は作業を遠隔でできる遠隔運用システムを開発。現地にはシステムの運搬者のみが出向けばいいようになり、運用開始まで大幅な時間短縮が可能になるという。

 ドローンの遠隔操縦には、Raspberry Piで開発した携帯端末をコントローラーやドローンに搭載し、通常、Wi-Fiでやりとりしている情報をモバイル通信経由でやりとりする。なお、スマホでテザリングしてもいい。

 VPNサーバを介して認証し、ドローンとコントローラーの端末をペアリング。接続されたら、VPNの通信経路を通してドローン飛行制御信号が安全に送信される。遠隔操作は遅延が心配だが、ドローン制御信号は、通常のトラフィックより優先して通信でき、ほぼ現地にいてWi-Fiで接続して操作しているのと変わらないくらい、リアルタイムに操縦できるという。また、Wi-Fiから移動通信網を使った操縦、現地から遠隔操縦への切り替えなど、自在に操縦モードを切り替えることが可能になっている。

●電波法改正で商用運用が可能に

 携帯電話システムを運用するには無線局の免許が必要だ。これまで、気球やドローンを使った無線中継システムについて、電波法で規定がなかった。ソフトバンクは総務省と話し合いながら電波法の改正を働きかけてきたという。

 係留気球の無線中継システムについては、くしくも東日本大震災からちょうど5年後の2016年3月11日に、電波法関係審査基準が改正され、実用で使えるようになった。ただし、従来の基地局は地上に固定されたものではくてはいけないという決まりがあり、気球の無線中継システムについては、自然災害と利用訓練時にしか使えないという条件が付いた。

 ドローンの無線中継にかかる制度は2020年6月22日に、係留気球と同じ電波法関係審査基準が改正され、係留気球と同じ無線装置をドローンに載せて使うことができるようになった。ただ、耐風速が係留気球は25m/秒だが、ドローンは10m/秒になっている。