富士通は日本で初めてローカル5Gの商用無線局免許を獲得するなど、ローカル5Gの市場開拓に向けた取り組みに力を入れる企業の1つだ。ローカル5Gの事業化に向けては課題が多く存在するが、富士通ではそうした課題をクリアするため、どのような取り組みを進めているのだろうか。5G Vertical Service室 シニアマネージャーの宮本共殖氏に話を聞いた。

●28GHz帯と4.7GHz帯は場面に応じて使い分け

 通信事業をはじめ、幅広い事業を展開する富士通も、ローカル5Gに参入した企業の1つ。同社は2020年3月27日に国内初となる商用のローカル5G無線免許を取得し、「富士通新川崎テクノロジースクエア」でローカル5Gシステムの運用をいち早く開始するなど、ローカル5Gのビジネス活用に向け積極的な取り組みを見せている。

 富士通はもともと、総務省の「第5世代モバイル推進フォーラム」など、ローカル5Gの普及を後押しするための会合などに積極的に参加していた。そうしたことから国からの後押しもあり、ローカル5Gの制度化以前から参入に向けた準備を進めていた。

 また富士通は、通信事業以外にもさまざまなICT関連事業を手掛けており、多くの業界に関するノウハウを持っている。同社が持つ技術や知見が、ローカル5Gによる業務変革の実現に役立つということも、参入の狙いとしては大きいようだ。

 とはいえ、現在ローカル5Gに割り当てられているのは広範囲をカバーしにくいミリ波の28GHz帯のみで、4Gと一体で運用するノンスタンドアロン(NSA)運用が求められることから事業化のハードルが高いとの声も少なからず聞かれる。だが宮本氏によると、同社では既に28GHz帯を活用したビジネスを始めているというのだ。

 契約上の理由もあって具体的な事例を話すことはできないそうだが、「必ずしもSub-6でなくてもいい環境では利用シーンがあると考えている。特に帯域幅を広く取れ、高速大容量を実現しやすいという特徴を生かし、利用環境やユースケースを考慮した選択をしている」とのこと。高速大容量を生かした高精細映像の伝送と、映像のAI分析に関するニーズは高いことから、ローカル5Gの通信環境を用意した「FUJITSU コラボレーションラボ」で検証を重ね、ノウハウを蓄積しながらビジネスを進めているという。

 一方で、2020年内にはローカル5Gの本命とされるSub-6の帯域である4.7GHz帯の割り当てが決まる予定であり、割り当てに期待する声は非常に多い。富士通でも4.7GHz帯の免許獲得を視野に入れており、4.7GHz帯の基地局は自社開発を進めているという。

 ただ、4.7GHz帯のメリットは、エリアよりも5G単体での運用となるスタンドアロン(SA)構成になることの方が大きいという。SA構成であれば4Gの設備が不要になるため導入・維持コストを減らせるというのが、その大きな理由だ。

 もっとも顧客からしてみれば、ローカル5Gを導入して業務改善などやりたいことが実現できればよく、「NSAかSAかという構成にこだわることはない」(宮本氏)とのこと。それゆえ周波数帯や運用方式によらず、顧客のニーズに応じた最適なシステム構築を重視するとしている。

●パートナー企業との共創でユースケース開拓に注力

 では実際のところ、ローカル5Gにはどのような業種からの問い合わせが多いのだろうか。宮本氏によると、やはり工場のスマート化に対するニーズが高く、製造業からの問い合わせが多いとのことだ。

 製造業でのローカル5G活用は以前から注目されている分野の1つだが、富士通は栃木県小山市にある自社工場でローカル5Gを活用し、技能伝承や作業支援などの取り組みを進めているとのこと。コロナ禍以前より、少子高齢化による作業伝承の問題は大きな課題の1つとされていたことから、ローカル5Gと映像伝送、AIを活用して作業の省人化や最適化を進めたり、品質管理の自動化などを支援したりする取り組みを、自ら実践しようとしているようだ。

 一方で、製造業以外では農業、そして教育などの分野からも問い合わせがあるとのこと。教育にローカル5Gというのはあまりピンとこない部分もあるが、宮本氏によるとコロナ禍でのニューノーマル時代による変化として、デジタル教育や遠隔での授業、動画教材の活用などに対する要望が増えているとのこと。そこで5Gの高速大容量通信による高精細な映像伝送が注目され、ローカル5Gへの関心の高まりにつながっているようだ。

 ただ実際のところ、ローカル5Gのビジネスを推し進める上では「ローカル5Gを利活用するメリットがまだ見えづらい」こと、そして「導入コストに対する不安があること」の2つが、大きな課題になっている。前者に関しては、そもそもローカル5G、さらに言えば5G自体サービスが始まったばかりということもあって、確立したユースケースがあまり存在しないことが影響している。

 そこで富士通では2020年10月8日に「ローカル5Gパートナーシッププログラム」を打ち出した。これはデバイスやセンサー、プラットフォームやアプリケーションなどの技術を持つパートナー企業と、ローカル5Gを活用した具体的なユースケース創出とソリューション開発を進めるというものだ。

 宮本氏によると、「われわれはネットワークインフラを提供するが、それだけでは顧客がやりたいことを実現できない。パートナー企業が持つアセットを持ち寄って、共同でソリューションを作り上げる」のが、同プログラムの狙いになるという。現在参加しているパートナー企業は「10社弱くらい」(宮本氏)で、富士通からスピンアウトした富士通コネクテッドテクノロジーズも、パートナー企業の1つとして協力しているとのことだ。

 宮本氏はローカル5Gパートナーシッププログラムの実例として、日本マイクロソフトと共創した製造業向けのソリューションを挙げている。これはローカル5Gと、マイクロソフトのクラウド基盤「Microsoft Azure」「Azure IoT Edge」を活用し、カメラやセンサーの情報をエッジでAI解析するというもの。今後も宮本氏は「実際に動くものを多く、早く提供していきたい」と、このプログラムでのユースケース創出に力を入れていくとしている。

●ネットワーク導入のハードルを下げる取り組みも

 2つ目のコスト面での課題は、やはりローカル5GがWi-Fiなどと比べ機器が高いというだけでなく、電波免許の取得が必要であるなど導入や運用のハードルが高いことも大きく影響しているようだ。そこで富士通は、ローカル5Gの導入ハードルを下げるべく、10月8日に「プライベートワイヤレスマネージドサービス」と「プライベートワイヤレスクラウドサービス」という2つの取り組みも発表している。

 これらはいずれも、ローカル5Gをはじめとした自営無線システム環境の構築や運用、保守を富士通が請け負うサービスになる。前者は顧客が用意したネットワーク設備を富士通の技術者が直接サポートするというもので、「ネットワーク構築などに慣れていない顧客を支援するサービス」(宮本氏)になるとのことだ。

 一方後者は、基地局やコアネットワークなどをクラウドで提供することで、自営無線ネットワークを導入しやすくする月額制のサービスであり、初期導入コストを抑えられることが大きな特徴となる。こちらはSXGPや自営BWAなどのプライベートLTEからサービスを始め、その後ローカル5G向けに展開するとのことだ。

 ちなみにプライベートワイヤレスクラウドサービスは初期費用100万円とのことだが、実際にはアンテナや端末などを別途用意する必要があるため「純粋に100万円で全てを実現できるわけではない」と宮本氏は話す。だがコアネットワークや基地局などの用意や運用にかかる手間やコストを考えれば、導入しやすい仕組みであることは確かだろう。

●取材を終えて:各種プログラムでの安心感をいかにアピールできるか

 富士通は長年キャリア向けに通信機器やサービスを提供してきた実績もあるだけに、ネットワークからサービスまで、業種に応じた複合的な価値を垂直統合型で提供できることが、ローカル5Gでもやはり強みになっているといえよう。宮本氏は「従来のネットワークインフラビジネスの延長線ではないやり方やアプローチが必要」と話しており、ローカル5Gパートナーシッププログラムなどを活用し、ネットワーク構築だけにとどまらないビジネスを展開する考えを示している。

 一方で、ローカル5Gはまだコスト面の問題もあることから、実際に取り組んでいるのは大規模から中堅クラスまでの企業が多いという。これらの課題をクリアしていく上でも、4.7GHz帯やプライベートワイヤレスクラウドサービスなどの活用を積極化していきたいとも話していた。

 そうした傾向を考えると、やはり同社もローカル5Gのビジネスを本格化するのは4.7GHz帯の割り当てがなされた後の2021年以降になるといえそうだが、この時期になると他社も一斉にローカル5Gのビジネスを本格化し、競争が急速に激化すると考えられる。富士通はモバイル通信やICT技術への知見を多く持ち優位性が高いだけに、導入ハードルを下げる取り組みの強化でいかに顧客に安心感を与えられるかが、この市場で高い存在感を示す鍵になるといえそうだ。