「arrows」シリーズのスマートフォンを提供する強い富士通コネクテッドテクノロジーズ(FCNT)は、ここ最近スマートフォン型のローカル5G対応スマートデバイスを発表するなど、ローカル5Gへの取り組みを積極化している。得意とする通信デバイスを軸としながら、ネットワーク構築やソリューションの提供などへと事業領域を広げようとしているFCNTのローカル5G戦略を、同社の事業本部テクノロジーソリューション事業部ビジネス推進部長である山田竜太郎氏に聞いた。

●端末技術を生かして早期にローカル5G端末を提供

 FCNTといえば、NTTドコモ向けを中心として「arrows」シリーズのスマートフォンや、「らくらくスマートフォン」などコンシューマー向けを主体とした端末を提供していることで知られるメーカーだ。だがそのFCNTが、ここ最近ローカル5G事業への進出を本格化しようとしている。

 実際、同社は2020年10月16日に、ローカル5Gの周波数帯に対応したスマートフォン型の端末「ローカル5G対応スマートデバイス」の提供を発表。さらにそれらデバイスを起点として、ローカル5Gのネットワーク構築支援やソリューションなどをワンストップで提供するビジネスを目指すことも打ち出しているのだ。

 なぜコンシューマー向け端末を長年手掛けてきた同社が、ローカル5Gの市場に力を入れようとしているのか。山田氏は「コンシューマー市場一辺倒ではビジネスの幅を広げるのが難しい」と話し、同社がこれまで培ってきた5Gなどの無線技術を活用しながらも、ビジネス領域を広げる上で注目したのが産業領域での5G活用だったという。産業向けの5G活用は国内外で今後大きな伸びが見込めることから、産業用途での活用が見込まれているローカル5Gに着目したそうだ。

 しかもローカル5Gはまだ立ち上がりの段階であるため、多くの課題を抱えている。その1つがローカル5Gの周波数帯に対応したエッジデバイスが海外製のものしかなく、数も非常に少ないこと。そこにチャンスを見いだし、まずは得意とするデバイスでローカル5Gへの対応を進めることにより、市場を開拓するに至った。

 その際、FCNTが重視したのが「スピード感」だと山田氏は話す。実際ローカル5G対応スマートデバイスを見ると、外観や中身ともに同社の「arrows 5G」、ひいてはQualcommとの協業で開発した5Gスマートフォンのレファレンスデザインとほぼ同じ。中身もローカル5Gで必要とされる周波数帯を追加し、チューニングをしたという以外に大きな違いはないそうで、変更を最小限に抑えていち早く提供することを重視した様子がうかがえる。

 しかもスマートフォン型のローカル5Gデバイスは「調べている範囲ではあまり聞いたことがない」(山田氏)というくらい珍しいもの。産業用の通信デバイスといえば一般的にはWi-Fiルーターのような形状のものや、組み込んで利用するモジュール型のものが多いだけに、スマートフォン型のデバイスはオーバースペックであるようにも思えるのだが、逆にそれがメリットに働いている部分もあるようだ。

 というのもFCNTでは、ローカル5G対応スマートデバイス向けに「ネットワーク状態可視化ツール」を提供、端末上でローカル5Gの接続状況を確認できる環境も用意している。ローカル5Gはまだラボによる実証実験段階という企業も多く、そうした場面ではデバイス側からローカル5Gのネットワーク状態を可視化できることが大きなメリットとなっているようだ。

●実証実験フェーズの後を見越したデバイス開発も

 一方、FCNTではスマートフォン型以外のローカル5Gデバイスのラインアップも用意、または検討しているという。ローカル5G対応スマートデバイスはローカル5Gの立ち上げ期の検証用途には有効だが、商用利用が始まった段階では、より用途に特化したデバイスが求められるというのがその理由だ。

 実際、モジュールやCPE型などさまざまなデバイスの投入を検討しているという。中でも同社はカメラの映像をAI技術で解析する、無線AIカメラを活用したソリューションをローカル5Gのビジネス開拓領域の1つと位置付けている。実際、「スマートAIカメラ(仮称)」や「エッジAIキット(仮称)」など、カメラとエッジでのAI解析に特化したデバイスのラインアップが厚いようだ。

 ただ、そうしたデバイスは必ずしも全てをFCNTが開発するとは限らず、他社のレファレンスデザインを活用したり、他社の商品をFCNTで販売したりするものも含まれるという。現在はIoT関連でバイスを多く手掛けるサンダーコムとの協業を進めているが、商用サービス本格化後のニーズやトレンドに応じて、他の企業との連携も視野に入れているとのことだ。

 一方、山田氏は将来的にローカル5Gの利活用が進むに従って、専用デバイスだけでなくスマートフォン型デバイスのニーズも再び高まり、コンシューマー向けのデバイスにもローカル5Gへの対応が進められる可能性もあると話す。市場トレンドに合わせて幅広いデバイスを提供したいというのが同社の考えのようだ。

●ソリューション提供にまで踏み込む理由とは

 もっともFCNTにとって、ローカル5Gのデバイスは参入の足掛かりにすぎず、最終的なゴールはデバイスだけでなく、ネットワークの構築やソリューションも含めワンストップで提供することだという。同社は富士通の携帯電話事業が独立した企業であり、デバイスの技術は持ち合わせているが、基地局の整備や企業向けソリューションなどの開発・提供実績があるわけではない。なぜ、デバイス以外の領域にも進出しようとしているのだろうか。

 山田氏は「今の時点ではエッジデバイスの数が少ないので、ビジネスがそれなりに成立するが、市場が立ち上がるとコンシューマー市場と同様、エッジデバイスの数が増え価格も下落すると思う」と話す。コンシューマー向けのスマートフォン市場は既にレッドオーシャン化して価格競争も激しい状況にあり、FCNTもそうした市場環境に苦しんできた。それだけにローカル5Gでは、あくまでデバイスを起点としながらも、ソリューション提供まで一貫して提供できる体制を用意することで、より安定したビジネスに育てたいと考えがあるようだ。

 そこで強みになるのは「無線のエンジニアが多数在籍し、彼らのノウハウや知見が生かせる」ことだと山田氏は話す。同社ではエッジデバイスの無線技術に実績を持つことを生かし、ネットワーク整備時にもその安定性や品質の確保ができる信頼性を強みとして、サービス提供を進めていきたいという。

 ただ一方で、同社はネットワーク機器などを手掛けているわけではないので、そうした部分はパートナー企業との連携で環境整備を進めたいと山田氏は話す。実際、FCNTは2020年12月8日、そうしたパートナー企業の1つであるネットワーク機器メーカーのAPRESIA Systemsのローカル5Gネットワークと、ローカル5G対応スマートデバイス間の相互接続に成功したと発表。同社の機器を活用した環境整備も視野に入れている。

●中小企業にフォーカスしてすみ分けを図る

 ローカル5Gのソリューションをワンストップで提供するという企業は、同社と関係が深い富士通をはじめとして、多くの企業が目指しているものであり、今後急速な競争激化が予想される。FCNTは富士通のローカル5Gパートナーシッププログラムに名前を連ねている他、「もともとグループ会社であり、開発や営業などの部門で密接な連携ができる状態にある」(山田氏)など、密な連携をしている。しかしワンストップのソリューション提供という部分だけを見れば、ライバルにもなりかねない。

 それゆえ山田氏は、富士通などの大手企業とは「ある程度ターゲットとする顧客をずらしていくことが必要」と回答。ローカル5Gに参入する企業は大企業や自治体にフォーカスするところが多いが、同社ではリーズナブルな価格でのサービス提供で、中小企業向けの市場開拓に注力することを考えているようだ。

 現在は実証実験段階ということもあって、ローカル5Gへの取り組みを進める企業は大企業がほとんどだが、山田氏は実際の商用利用が進むタイミングは2023年となり、同社のソリューションビジネスが本格化するのもその頃からとみているという。ただ、それでも中小企業の市場開拓に向けては、大企業ではなくてもローカル5Gを活用できる何らかのアピールが必要と考えているようだ。

 そのために同社が推し進めているのが、同社のスマートフォンを製造しているジャパン・イー・エム・ソリューションズの工場内にローカル5G環境を構築すること。同社では他社のように5Gのオープンラボを設立する予定はないそうだが、同工場でのローカル5Gの活用で実績を作ることで、そのアピールにつなげていきたい考えのようだ。

 一方で、先に触れた富士通との関係と同じように、エッジデバイスを提供するベンダーの1つとして、他社と連携することにも力を入れていきたいと山田氏は話す。特定のビジネスに執着するのではなく、同社が持つ資産を生かしてローカル5G市場の中で幅広い領域に対応していくというのが、FCNTのローカル5G戦略の幹といえそうだ。

●取材を終えて:独自性の強いポジションに注目

 FCNTはスマートフォンメーカーからローカル5Gに参入するという、ある意味で異色の立ち位置を持つ企業でもある。それだけに、数の少なさが指摘されてきたローカル5Gのエッジデバイスをいち早く提供するなど、その立ち位置をうまく活用することで独自性を発揮し、幅広い企業と提携することで、市場での存在感を高められる可能性は十分ある。

 ただ黎明(れいめい)期が過ぎ、ローカル5Gの市場が本格的に立ち上がった後は、やはりワンストップソリューションという部分ではより大きな強みを持つ通信事業者や大手SIerとの競争にさらされることが懸念材料にもなる。そうした時期までに、デバイスを主体としながらもいかに市場での明確なポジショニングができるかが、成功には求められるといえそうだ。