2020年も、残すところあとわずか。コロナ禍で激動の1年だった2020年だが、ことモバイル業界に関しては、ネガティブな影響が少なかった。逆に、リモートワークやオンライン授業などが進んだことで、サービス、ソリューション分野の利用や売り上げは大きく伸びている。通信は、文字通りリモートでのコミュニケーションを支えるための技術。“非接触”はモバイル業界の大前提だったということが改めて浮き彫りになった。

 コロナ以上にモバイル業界を振り回したのが、政府主導の「官製値下げ」だ。2020年は1年を通じて料金が話題を集めた。4月に楽天モバイルが本格参入したことに端を発し、5月にはKDDI傘下だったUQ mobileが対抗プランを用意。そのUQ mobileは、10月に入ってKDDI本体に統合された。その数週間前には、NTTがドコモの完全子会社化を発表。12月には、オンライン専用プランの「ahamo」を披露している。

 3月にMNOが3社そろって5Gのサービスを開始したのも、モバイル業界にとって大きな転換点だったと総括できる。コロナ禍やエリアの狭さ、端末バリエーションの少なさもあり、当初は低空飛行を続けていた3社の5Gだが、AndroidのミドルレンジモデルやiPhone 12シリーズの登場を機に、普及の勢いに弾みをつけている。そんな2020年最後の連載として、モバイル業界の1年を振り返っていきたい。

●2980円を巡る攻防、政府主導で進んだ料金値下げ

 振り返ってみると、2020年は、新たにサービスが始まった5G以上に、政府主導の料金値下げが取り沙汰されることが多い1年だった。9月に菅義偉新政権が誕生すると、その動きはさらに加速。料金に対して、直接的な指示とも取れる発言が増えている。20GBプランやメインブランドでの値下げといった形で、“指示”が具体化していった。一連の発言に呼応する形で、各社が20GBプランやブランド間の移行手数料の無料化を発表した。

 料金競争の引き金になると期待されていたのが、楽天モバイルの本格参入だ。同社は、2019年10月のサービスインを事実上延期し、無料サポータープログラムを開始。2020年1月には同プログラムの追加募集を行い、晴れて4月に本格サービスを開始した。低価格で打って出ることを宣言していただけに、どのような料金プランになるのかは高い注目を集めたが、結果として導入されたのが、2980円でデータ容量無制限の「UN-LIMIT」だった。

 一方で、楽天モバイルが順風満帆だったかというと、必ずしもそうではない。本格サービス開始直後には、自社ブランドを冠した主力モデルのRakuten Miniの周波数が、無断で変更されていたことが発覚。エリア展開が十分ではなく、auのローミングには1GBあたり約500円と高いコストが発生してしまうため、都市部以外への展開も限定的だった。年内の300万契約を目標に掲げていたが、11月時点での申し込み数が179万と、計画通りにユーザーの獲得が進んでいない。

 本来は、競争の促進で自然と値下げが進むことが期待されていたが、こうした状況に業を煮やしたのか、上記のように、政府の値下げ要請は徐々に露骨になっていった印象を受ける。これに対し、NTTによる完全子会社化を機に、料金競争を仕掛けてきたのがドコモだった。オンライン専用にすることでコストを削り、楽天モバイルと同額の2980円を実現。ソフトバンクも、対抗策としてLINEモバイルを完全子会社化し、「SoftBank on LINE」をコンセプトにした新ブランドを立ち上げる見込みだ。

●5Gはデータ容量無制限が主流に、エリアも年末から拡大傾向に

 料金値下げに注目が集まった1年だったが、3月にはドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社が5Gを導入。KDDIはauでデータ容量無制限の「データMAX」を導入済みだったが、ドコモも「5Gギガホ」でこれに対抗。終了期間を定めないキャンペーンで、データ容量無制限を打ち出している。サービス開始から約9カ月後の12月には、5Gギガホをさらに改定すると発表。2021年4月には、料金を1000円値下げしつつ、正式にデータ容量を無制限に上げた「5Gギガホ プレミア」を導入する。

 無制限化の流れはソフトバンクにも波及した。ソフトバンクも12月22日に「メリハリプラン」の改定を発表。料金水準をドコモと同等に合わせつつ、データ容量を無制限にした「メリハリ無制限」を3月にスタートさせる。高速・大容量が売りの5Gを訴求する手段として、データ容量無制限が定着していった格好だ。とはいえ、各社の持つ電波は有限だ。そのため、各社ともデータ容量無制限の打ち出しには慎重な姿勢を示していた。

 ドコモがキャンペーンでデータ容量無制限を導入したのも、そのためだ。当時、代表取締役社長を務めていた吉澤和弘氏(現・取締役 特命担当)は「ネットワーク設備等への影響を見定める必要があり、まずはキャンペーンでの提供にした」と語っている。ソフトバンクも、メリハリ無制限の導入にあたっては、動画やSNSなどにゼロレーティングを導入し「ユーザーのビヘイビアー(行動)を見て、気を付けなければいけない項目は何なのかを実地で勉強していた」(代表取締役副社長 執行役員兼COOの榛葉淳氏)という。

 ただ、5Gの普及は当初想定していた以上のスローペースだった。サービスイン直後に緊急事態宣言が発令され、ユーザーがショップで機種変更しづらい状況だったことや、エリアが狭く、あえて機種変更するようなメリットが少なかったことなどが、その理由だ。端末のラインアップも、サービスイン直後は10万円以上するハイエンドモデルが中心で、端末購入補助に厳しい制限がかかってしまった中、気軽に機種変更できなかった。

 こうした状況が徐々に変わり始めたのは、秋ごろのことだ。エリアに関してはKDDIやソフトバンクが、4Gの周波数の一部を5Gに転用する計画を明かし、総務省も開設計画を許可した。KDDIは12月に、3.5GHz帯での5Gを開始した他、エリアカバーがしやすい700MHz帯も5Gに転用していく。ソフトバンクも同様で、2022年3月までに人口カバー率90%を達成する計画を打ち出している。対するドコモは「瞬速5G」と銘打ち、5G用に割り当てられた新周波数での展開を強化。マクロ局などを活用することで、高速通信可能なエリアを広げていく方針を打ち出している。まだまだエリアは限定的ながら、拡大に向け、一歩前進した格好だ。

●約半年でミドルレンジモデルが一気に拡充、低価格が進む5Gスマートフォン

 5Gに対応したスマートフォンも、3月のサービスイン以降、そのバリエーションを広げている。中でも大きな注目を集めたのが、10月に発表されたAppleのiPhoneだ。5.4型のディスプレイを搭載したコンパクトサイズのiPhone 12 miniから、6.7型の大画面でカメラセンサーまで大判化したiPhone 12 Pro Maxまで、シリーズ4モデル全てが5Gに対応。デザイン面でもフルモデルチェンジを図り、ディスプレイも有機ELで統一した。

 日本では、iPhoneのシェアが諸外国と比べて特に高いこともあり、iPhone 12シリーズの登場で5Gの普及が加速。ドコモは年度内に250万契約を目指すが、「プロセスにおける数字としては、計画の上を行っている」(吉澤氏)という。KDDIも、年度内で200万契約を目標にしているが、12月時点で「順調に来ている」(代表取締役執行役員副社長の東海林崇氏)と自信をのぞかせた。一方で、5Gはミドルレンジモデルにも広がり始めている。

 先行したのは中国メーカーだ。KDDIは、Xiaomiの「Mi 10 Lite 5G」を同社の日本上陸からわずか約3カ月で導入することを発表。9月に、満を持して市場に投入した。比較的高いパフォーマンスを備えながら、約4万円という価格で、インパクトが大きい端末だった。ソフトバンクからは、OPPOのミドルレンジモデル「Reno3 5G」が7月に発売された。こちらは7万円を下回る価格で、おサイフケータイなどの日本向けローカライズも施されているのが特徴だ。

 こうした動きをにらみつつ、ドコモは冬春モデルとして、Samsungの「Galaxy A51 5G」、LGの「LG VELVET」、シャープの「AQUOS sense5G」、富士通コネクテッドテクノロジーズの「arrows NX9」と4製品をラインアップに追加。KDDIも冬春モデル以降、auブランドでは全機種を5G対応にする方針を打ち出している。ソフトバンクは、ミドルレンジモデルとしてリニューアルしたGoogleの「Pixel 5」や、廉価版の「Pixel 4a(5G)」を取り扱っている。

 徐々に広がり始めた5Gと5G対応スマートフォンだが、ミドルレンジモデルは4Gまでの端末と大きく特徴が変わらない矛盾もはらんでいる。ハイエンドモデルは、高精細なディスプレイや高画質のカメラで、高速・大容量を生かせるシーンもあるものの、フィーチャーフォンからスマートフォンに移行したときのようなインパクトがないのも事実だ。「Galaxy Z Fold2 5G」のようなフォルダブルスマートフォンや、LG VELVETのような2画面モデルには可能性を感じる一方で、価格はまだまだ高く、普及には時間がかかりそうだ。2021年には“5Gらしさ”をさらに追求したスマートフォンが登場することにも期待したい。