大手3キャリアの料金値下げは、MVNOの経営に大きな打撃を与える可能性がある。20GB前後の中容量ではahamoやpovo、SoftBank on LINEより料金水準が高くなっている上に、MVNOが得意とする小容量プランも、UQ mobileやY!mobileの値下げにより、価格優位性がなくなりつつある。オンライン専用の20GBプランができたことで、玉突き的にサブブランドの料金が下がり、MVNOのすみ分けが難しくなった格好だ。

 これに対し、MVNO側は速やかな解決策を求めている。1月20日には、テレコムサービス協会MVNO委員会が総務省で開催された「接続料の算定等に関する研究会」で要望書を提出。大手キャリアと競争条件をそろえるよう、“緊急措置”を強力に要望した。総務省が2020年10月に発表したアクション・プランでは、3年間で接続料を半減する旨がうたわれていたが、実現までの長すぎるというわけだ。

 一方で、ahamoに対し即座に対抗した日本通信や、U-NEXTがセットになったシェアプランで値下げに打って出たy.u mobileのように、数は少ないながらも、対抗策を打ち出したMVNOも存在する。MVNOは、この先生き残れるのか。可能性を探った。

●苦戦を強いられていたMVNO、追い打ちをかける大手3キャリアの値下げ

 MVNOの伸びにブレーキがかかったと言われ始めたのは、2017年ごろのこと。相互接続の開放が早く、多くのMVNOを抱えていたドコモは2017年11月の決算説明会で純増数の予想を下方修正している。大手キャリアの流出防止策が功を奏した上に、UQ mobileやY!mobileといったサブブランドが勢いを増しているからだ。MVNO側の統廃合も進み、2017年には楽天モバイルがFREETELのMVNO事業を買収。MNO参入直前の19年には、DMM mobileの事業も継承している。

 大手キャリアに吸収されるMVNOも増えた。LINEモバイルは、2018年にソフトバンクと資本・業務提携を結び、傘下に入った。2017年にはKDDIがビッグローブを買収したのに伴い、MVNOのBIGLOBEモバイルもKDDIグループの一員になっている。調査会社・MM総研が2020年12月に発表した9月末時点でのシェアは、上からUQ mobile、楽天モバイル、IIJmio、OCN モバイル ONE、mineo、BIGLOBEモバイルの順に並ぶが、ほとんどが大手キャリア傘下だ。

 UQ mobileはKDDIが直接運営するMVNOになり、今後はMVNOのシェアから除外される見込み。楽天モバイルはMNOとしてサービスを開始したため、MVNOの新規受付を停止している。OCN モバイル ONEも、NTTコミュニケーションズやNTTレゾナントの再編で、ドコモの傘下に入る見込みだ。NTT資本が入るIIJのIIJmioは見方が分かれるところだが、独立系MVNOはIIJmioとmineoの2ブランドということになる。上位MVNOの大半が、純粋なMVNOとは呼べなくなってしまっている状況だ。

 ここに追い打ちをかけるのが、大手キャリアの料金値下げだ。12月3日発表されたドコモのahamoに端を発し、同月22日にはソフトバンクがSoftBank on LINE(仮)を、1月13日にはKDDIがpovoを対抗策として打ち出した。いずれもサービス開始は3月で、オンライン専用のただし書きはつくものの、料金はドコモとソフトバンクが2980円(税別、以下同)。KDDIは5分間の音声通話定額を外して2480円を実現した。10Mbpsあたりの帯域単位で回線を借りるビジネスモデルのMVNOは、ユーザーが帯域を占有しがちな大容量プランを得意としていなかったこともあり、現時点ではほとんどの会社が対抗策を発表できていない。

 そのため、20GB前後の大容量プランでは、MVNOよりMNOの方が低料金という逆転現象が起こっている。例えば、IIJmioはファミリーシェアプランが12GBで3260円。5分間の音声通話定額がつかない点で条件が同じになるKDDIのpovoより8GB容量が少なく、料金は780円高い。mineoも同様で、au回線を使うAプランは20GBで4590円。データ容量は同じだが、料金は2110円も高くなる。これでは、MVNOで大容量プランを選ぶユーザーがいなくなってしまう。

●玉突き現象でMVNOが得意とする小容量プランもピンチに?

 とはいえ、MVNOの主戦場は3GB前後の小容量プランだ。仮に大容量プランで勝負にならなくても、3GB前後の料金プランで安さを打ち出せていれば、データ通信を節約しながら使うユーザーには支持されるはずだ。ところが、オンライン専用の20GBプランに合わせる形で、KDDIはUQ mobileの、ソフトバンクはY!mobileの料金を値下げした。最もデータ容量の少ない3GBプランは、UQ mobileが1480円、Y!mobileが1980円だ。

 Y!mobileも固定回線とのセット割や家族割引を組み合わせると1480円まで料金は下がるが、1回線目から正価で1480円を打ち出したUQ mobileの新料金はインパクトが大きい。料金水準で言えば、MVNOと同じか、それ以上に安いからだ。先に挙げた例で見ると、IIJmioは3GBの「ミニマムスタートプラン」が1600円、mineoはau回線の3GBプランが1510円で、いずれもY!mobileの「シンプルS」よりは安いものの、UQ mobileより割高になる。

 しかも、UQ mobileとY!mobileは、大手キャリアが直接運営するMNO。MVNOとは異なり、帯域を借りているわけではないため、その幅がボトルネックになることもない。ありていに言えば、ユーザーが一斉に休憩を取って通信するお昼休みや、通勤、通学の時間帯に速度が低下しづらい。接続する帯域がボトルネックにならないため、メインブランドのauやソフトバンクと同条件であれば、速度も同じになる。MVNOの多くが苦しむ、帯域不足に悩まされる必要がないのは大きなアドバンテージだ。通信品質が高い方が料金が安いとなれば、あえてMVNOを契約する動機はなくなってしまう。

 冒頭で挙げたように、MVNO委員会が要望書を提出したのはそのためだ。詳細は別の記事に譲るが、MVNO委員会は、接続料の見直しや音声通話の卸料金値下げを、速やかに実施することを要求している。接続料の値下げは、アクション・プランにも規定されているが、3年間で5割減を目指している。ただ、3年間もかかっていては、その間に経営が立ち行かなくなるMVNOが次々と出てきてしまう。通話料の卸料金も30秒20円のまま。ドコモが提案していた、プレフィックスを交換機で付与する機能も、現時点では実現していない。こうした対応を早期に行うよう、アクション・プランを前倒しにしてほしいというのがMVNOの要望だ。

●いち早く値下げを打ち出し対抗する日本通信やy.u mobile

 ただし、全てのMVNOが対抗策を打ち出せていないわけではない。日本通信は、ahamo発表の翌日に、対抗プランの投入を予告。「合理的20GBプラン」として、12月10日にサービスを開始した。料金はahamoより1000円安い1980円。現時点でのデータ容量は16GBだが、ahamoのサービス開始に合わせ、20GBへと増量するという。日本通信の代表取締役社長、福田尚久氏によると、このプランはahamo以前から準備を進めていたという。最終的な金額やデータ容量はahamoの中身が判明してから修正したが、現状の条件で十分採算は取れるという。

 カギになるのが、総務大臣裁定で決まった音声通話の卸価格だ。福田氏は、「シンプルに、音声を原価ベースで調達できるか」と理由を語る。音声といっても、通話料ではなく、いわゆる基本使用料が値下がりする効果が大きいという。ドコモがMVNOに提供している標準的な音声通話の卸価格は30秒20円。回線数や契約数によって、この料金は30秒14円まで下がる。これとは別に、1486円の基本使用料が設定されている。こちらは666円まで割引されるものの、ユーザーに提示する料金の中に占める割合としては以上に大きく、「異様に高くなっている」(同)。

 「(料金の)トータルに占める音声部分の比率が高くなりすぎていて、最大のボトルネックになっている」(同)というのが日本通信の主張だ。本連載でも扱ったが、日本通信は総務大臣裁定を勝ち取り、ドコモに対しては値下げの指示が出ている。ドコモが期限通りに改定後の料金を提示せず、交渉は依然として継続中だが、福田氏は「大臣裁定が履行されないことはありえない。時間の問題はあるかもしれないが、原価ベースの料金が出ないことはない」との認識を示す。16GBのデータ容量は提供できているものの、「今の算定方式だと高すぎる」(同)と苦言を呈する。

 もう1社、対抗プランを打ち出したのがUSEN-NEXT HOLDINGS傘下のY.U-mobileだ。同社が2020年3月に立ち上げたy.u mobileは、3月1日に料金を値下げする。3GBのシングルプランは、データ容量を5GBに増量した上で、料金を1690円から1490円に引き下げる。もう1つのシェアプランは、20GBで5990円だったところを3980円に値下げする。価格だけを見ると、大手キャリアの20GBプランより高いが、シェアプランは2人まで同額で利用できるうえに、U-NEXTの月額プラン1990円がつくため、映像サービス込みで見ればリーズナブルだ。

 Y.U-mobileの代表取締役社長、鹿瀬島礼氏は、値下げの要因を「将来原価方式で1Mbpsあたりの接続料が8000円程度下がり、月額の基本料もある程度下がる見込みがある」と語る。次の3月でサービス開始から1年になるが、「ある程度のユーザー数が集まってきて、ボリュームも見えてきたので、時間帯別にこれだけあれば速度もご満足いただけるといった基礎データが見えてきた」のも、値下げに踏み切れた理由だ。MVNO委員会とは足並みをそろえるというが、やはり接続料がさらに下がれば、「料金を安くするのか、スピードをさらに上げるのかは方向性があるが、ユーザーに向き合う形になれる」(同)という。

 日本通信は、ドコモとの値下げ交渉に早くから着手していたことが功を奏した格好だ。現時点で福田氏の言う「原価」がドコモから提示されていないのは不安要素ではあるものの、いち早く値下げで対抗できたのはMVNO委員会の要望を先取りしていたからといえそうだ。対するY.U-mobileは、接続料の低減見込みを先行して料金に反映させつつ、大容量プランではグループ会社の強みを生かし、コンテンツをセットにすることで割安感を出してきた。とはいえ、全てのMVNOが同じことはできない。基本使用料や通話料、接続料を早急に見直さなければ、市場から退場するMVNOは出てきてしまうはずだ。

 もともと政府は、市場原理にのっとり、大手キャリアとMVNOとの競争を通じた料金値下げを実現する方針を打ち出していた。MVNOが低価格を打ち出し、ユーザーがそちらに流れるようであれば、大手キャリアも対抗値下げをせざるをえなくなる。アクション・プランは、そのために作られたものだ。ところが、ふたを開けてみると、実際に実行したのは、大手3キャリアへの値下げ要請で順番が逆だった。そのため、本来であれば競争を仕掛けるはずのMVNO側が、慌てて対抗策を打ち出しているようにも見える。競争環境をいびつな形にしてしまったという意味でも、大手3キャリアへの直接的な値下げ要請は禍根を残しそうだ。