ドコモの最新技術とサービスに関する数多くの展示、講演がオンラインで配信された「docomo Open House 2021」(2月4日から2月7日開催)。東京大学大学院 情報学環・学際情報学府の教授で、第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF) ネットワーク委員会委員長なども務める中尾彰宏氏が「Beyond 5G/6Gに向けた研究開発」というタイトルで講演し、同氏の研究内容を交えながらローカル5Gの現状と次の6Gに向けた取り組みを紹介した。

●広がりつつあるローカル5G

 5Gと同時に、一般の事業者や自治体、大学などが、自分たちの建物や敷地内で構築する5Gシステム「ローカル5G」も広がりつつある。2019年12月に総務省から「ローカル5G導入に関するガイドライン」が公表されて制度化。建設現場や農場などで5Gを自営網として使う活用例が出てきている。

 中尾氏は、こうした流れを「情報通信の民主化」と呼んでいる。情報通信の民主化により、一般事業者、自治体、大学などが最新の情報通信である5Gと6Gの運用主体となり、彼らのユースケースから革新が生まれることを期待。「一般事業者でも免許制の電波利用が可能になったことに大きな意義がある」と評価している。

 その一方で、「大手通信事業者が持つ技術を、普遍的なサービスに転換する必要がある」とも中尾氏は考えており、一般事業者と通信事業者の連携の重要性を説く。例えば、東京大学はNTTドコモと、臨場感ある遠隔教育通信を6Gに向けて広域に展開する「広域臨場感通信」に進化させる研究開発を共同で行っている。5Gの超大容量、超低遅延通信をドコモの「超カバレッジ」によって、誰でもどこでも使えるサービスに進化させる取り組みが必要だと語った。

 また、東京大学と東京都、NTT東日本は、産学官の連携でローカル5G推進を目指す連携協定を2019年10月に締結。翌2020年には都立産業技術センター内に、ローカル5Gの実証拠点である「DX推進センター」を開設した。都内の中小企業が利用でき、研究成果の報道発表も行っている。

●コストをはじめとするローカル5Gの課題

 ローカル5Gを普及させていこうとしている現在、最も懸念されているのがコストの問題だ。中尾氏が委員長を務めるローカル5Gの普及研究会でも、「一番多く質問されるのは、コストがどれくらいかかるか」だという。

 コストは機器の低廉化やオープン化とも深く関わってくる。さらにコストだけでなく、カスタマイズの要望に応えられる柔軟性、運用の容易化、大手キャリアが提供する公衆5Gと組み合わせることによるセキュリティの高度化、有線ネットワークを含めた展開など、ローカル5Gにはまだ多くの解決すべき課題がある。

●コストダウン、公衆5Gとの連携を実証

 こうした状況の中で、中尾氏が中心となって行っている取り組みが紹介された。

 まずは「Local 5G-In A Box」というプロジェクト。これは一般のPCでローカル5Gのスタンドアロン(SA)基地局を構成するというもの。コストの低廉化にチャレンジするプロジェクトだ。一般家庭にあるようなPCを使い、汎用(はんよう)CPUの上にソフトウェアの基地局、5Gコア装置を実現することで、一般家庭や大学、オフィスの中でも5Gの利用が進むことを目指している。

 一般のPCを使ってはいるが、通信事業者が使っている5Gのプロトコルを実装しており、無線機器をPCに接続することによって5G通信が可能となっている。2台のPC版ソフトウェア基地局を電波暗室に持ち込み、メディアにも実験を披露した。

 低廉化とともに、利用者の使い方に合わせたカスタマイズもローカル5Gでは重要になる。大手キャリアはダウンロードを中心に性能を高めているが、ローカル5Gではアップロード方向の通信帯域を広く求められるケースが多く、アップロードの実験も行っている。

 キャリアの公衆5Gとローカル5Gを連携させた実証実験も行っている。中尾氏は、これまであまり通信が活用されてこなかった1次産業、特に漁業に着目。人手不足や労働の負担軽減を目指し、養殖業や一般漁業への5G活用に取り組んでいる。

 その一例が、広島県江田島市のカキ養殖場で行われた、海中の高精細映像とドローン制御による養殖漁場の遠隔監視、低遅延通信による遠隔制御に関する実証実験だ。カキの育成状況を人力で確認するのは大きな負担となっている。それを解決する方法として水中ドローンを遠隔操作し、水中ドローンの先端に付けたカメラによって、カキの生育状況をモニタリングする実験を行った。

 前出のPCベースのソフトウェア基地局を駆使する一方、ドコモの5G技術も連携させて、「非常に近い周波数帯を使うが、互いに干渉せずに、得意なところ、不得意なところをカバーし合うプロジェクト」になっているという。

 中尾氏は、「ドコモさんとは十分に議論できていないが」と前置きしつつ、キャリアとの5G設備共用についても言及した。5G基地局のどの部分を共有化するかによってコストが変わってくる。全てキャリアの装置を使い、クラウドサービスのようにキャリアから設備を貸し出してもらう「いわゆるクラウド化によって、設備共用による価格破壊を起こしたい」との考えを語った。

●3Dキャプチャー技術とローカル5G

 さらに、東京都、東京大学、NTT東日本の3者連携では、臨場感のある遠隔教育「ローカル5G+VRによる遠隔コーチングの実現」という実験を行っている。こちらはローカル5Gのみの実験だ。

 臨場感ある遠隔会議、遠隔教育のためには、遠隔にいるユーザー同士が物理的に同じ空間に存在しているかのようにコミュニケーションできるようにしたい。そのためには人の3次元モデルを圧縮し、リアルタイムに伝送、再構築させる3Dキャプチャー技術が必要となる。中尾氏らは、これを遠隔コーチングで活用するために研究を続けている。

 深度カメラを使って3次元の映像をキャプチャーし、奥行きの情報を取得。3次元の点群データを送ると、受け取った先では映像をズームしたり動かしたりすることができるようになるという。

●Beyond 5G、6Gに向けて

 5Gのその先、6Gに向けた活動も紹介された。Beyond 5Gの戦略を検討する場として総務省が開催している「Beyond 5G推進戦略懇談会」は東京大学の総長である五神真氏が座長を務めており、6月に提言書を発行した。今後10年の情報通信の在り方を検討し始めている。

 Beyond 5Gに求められる機能は「5Gの大容量通信、低遅延通信、超多数同時接続を高める方向」だと中尾氏。それに「超低消費電力」「超安全・信頼性」「自律性」「拡張性」といった方向性も新たに加わるとしている。

 「コロナ禍でも認識されたが、Beyond 5G、6Gでも情報通信の果たす役割の重要性は疑う余地がない。最新の高度情報通信技術を、安価に、高度な度専門知識なく、自らの手で創ることで、情報通信の利活用のイノベーションを創出することを目指したい」と、中尾氏は情報通信の研究に対する熱意を語った。