UQ mobileやY!mobileに押され、苦戦を強いられていたMVNO。政府の意向を受け、2020年12月から大手キャリアがさらなる値下げに打って出る中、価格差が縮まり、売りである“格安”が打ち出しにくくなっていた。苦境に立たされていた格好のMVNOの業界団体は、総務省の有識者会議に要望書を提出。大手キャリアから回線を借りる際の接続料や音声卸の価格、基本使用料などの緊急見直しを求めた。金額の算出が適正かどうかのチェックも、MVNO側の要望の1つだ。

 こうした動きと並行して、回線を貸し出す際の各種料金は値下げが進んでいる。音声卸の代わりに、交換機側でプレフィックスを自動で付与する接続方式を大手3キャリアが提供する他、将来原価として提示されているデータ通信の接続料を見ても、4月以降は一段下がる予定だ。2020年12月に新料金プランを発表した日本通信を皮切りに、2021年1月から大手MVNOも続々と新料金プランを発表している。オプテージのmineoや、KDDI傘下のBIGLOBEモバイル、J:COM MOBILEなどが、これまでより一段安い料金を打ち出した。

 そんな中、楽天モバイルのMVNOを除くと実質的なシェア1位となるIIJが、IIJmioの新料金プランである「ギガプラン」を発表した。ギガプランは2GBから20GBまで5段階に料金が分かれており、最安の2GBプランは音声通話付きで780円(税別、以下同)。大手キャリアはもちろん、他のMVNOの新料金プランを大きく下回る金額が話題を集めた。さらに、データ通信のみのeSIMだと、料金は2GBで400円まで下がる。では、なぜIIJがここまで低価格な料金を打ち出せたのか。その理由を読み解いていきたい。

●料金値下げしつつ容量も改定、前倒しで導入したギガプラン

 ギガプランと銘打たれたIIJmioの新料金プランは、単なる値下げではない。データ容量やデータシェアの仕組み、さらには速度制限時の通信速度や対応する通信方式の世代まで変わっており、全面改定と言っても過言ではない中身だ。現行の料金プランは、データ容量が3GBの「ミニマムスタートプラン」、6GBの「ライトスタートプラン」、12GBの「ファミリーシェアプラン」の3つ。これを、2GB、4GB、8GB、15GB、20GBの5段階に改める。

 音声通話付きの場合、2GBは先に挙げたように780円。4GBは980円、8GBは1380円、15GBは1680円、20GBは1880円とリーズナブルな料金を打ち出している。現行のミニマムスタートプランは3GBで1600円だが、ギガプランで4GBプランを選べば、データ容量が1GB増えるとの同時に、料金も620円安くなる。1つ上の8GBプランを選んでも、3GBのミニマムスタートプランより維持費が安くなるのは驚きだ。より安価なプランを選んで節約してもよし、近い金額のプランを選んで容量を増やしてもよしと、選択に迷ってしまいそうな料金体系になっている。

 大手キャリアやそのサブブランドはもちろん、直接的に競合する他のMVNOと比べても、IIJmioのギガプランは安い。例えば、2月に料金を改定したmineoの「マイピタ」は、音声通話付きの1GBプランが1180円で、IIJmioの2GBプランより容量が少なく価格が高い。5GBプランは1380円で、IIJmioの8GBプランと同額だが、データ容量が3GB少ない。中容量帯も同様で、全体の傾向としては、IIJmioの料金の方が安く、データ容量も多い。IIJ 執行役員 MVNO事業部長の矢吹重雄氏は、「来年、再来年にはMVNOの標準的な価格になっていると思うが、将来を予見して、積極的なプライシングができた」と自信をのぞかせる。

 現行プランとは、データ容量をシェアする仕組みも変更した。現状では、ミニマムスタートプランとライトスタートプランは最大2枚、ファミリーシェアプランは最大10枚のSIMカードを持つことができ、それぞれの料金プラン内でデータ容量をシェアできるが、ギガプランでは、SIMカード1枚につき1つのプランがひも付き、同一契約内でデータ容量を合算できるようになる。夫婦と子ども1人でそれぞれ8GB、8GB、2GBのプランを契約している場合、合計18GBを家族で利用できる。

 ギガプラン自体は4月に導入されるが、このデータ容量のシェアは、6月に提供が開始される予定だ。他のユーザーにデータ容量をプレゼントする機能や、5Gオプション、新アプリの導入、追加データ量の購入なども、全て6月を待つ必要がある。矢吹氏は「春商戦は意識したが、本来われわれのサービスは6月にリリースするという計画で、一部が4月に間に合わなかった」とその理由を打ち明ける。付加機能が2カ月強遅れるのではなく、ギガプランの導入を2カ月強前倒しにしたというわけだ。

 大手キャリアや他のMVNOも含め、値下げ競争が急激に激化しているのが、その背景だ。矢吹氏が「マーケットの事情や競合他社のことを考え、いち早く提供する必要があると判断し、この時期になった」と語っていることも、それを裏付ける。IIJmioと同様、オプテージのmineoも新料金の開始を前倒しにしたといい、MVNO各社が時計の針を早回しで進めざるを得なくなっていることがうかがえる。きっかけが、2020年12月に発表されたドコモのahamoだったことを踏まえると、“ahamoショック”が業界全体に波及したといえそうだ。

●普及を狙ってeSIMは超低価格に、ユーザーの2スロット目を奪えるか

 ギガプランは、音声通話付き以外にも、データ通信専用SIMやSMS対応SIM、さらにはフルMVNOのeSIMまで選択できる。価格は音声通話付きが最も高く、SMS対応は30円、データ通信のみは100円安い。この選択肢の多さは、ギガプランの魅力の1つ。音声通話のつかないデータ通信専用プランは大手キャリアが手薄になっているだけに、MVNOならではの攻め方といえる。

 特筆したいのが、eSIMだ。音声通話やSMSができないなど、機能はデータ通信専用SIMに近いが、価格は一段安い。2GBは400円、4GBは600円、8GBは1000円、15GBは1300円、20GBは1500円と、他のMVNOの追随を許さない低価格を打ち出している。「設備や運営にまつわるコストを削減し、お客さまに還元した」(MVNO事業部 コンシューマサービス部長 亀井正浩氏)というのが安さの理由の1つだ。

 この価格には、プロモーションの意味合いも込められている。亀井氏は「eSIMはとにかく使ってほしいので、あの価格で出した」と語る。対応端末はiPhoneやPixelなどに限定されるが、価格の安さゆえに、2回線目として維持しやすいため「サブ回線としてのニーズも大きい」(同)。eSIM対応端末の多くはデュアルSIMで利用できるため、他社ユーザーの“2スロット目”を奪いにきたともいえそうだ。

 一例を挙げると、楽天モバイルを1回線目として使いつつ、IIJmioのeSIMを使えば、楽天モバイル以上に料金が安くなる逆転現象が起こる。楽天モバイルが4月1日から導入する「UN-LIMIT VI」は、1GB以下の料金が0円で、「Rakuten Link」経由での通話も無料だ。一方で、1GBを超えると、3GBまでの料金は980円になる。これに対し、1GBを超えそうなときに、データ通信だけを2GBプランを契約したIIJmioのeSIMに切り替えれば、料金は2回線合わせても400円で済む。20GBの場合も、楽天モバイル単独で使うと1980円だが、IIJmioのeSIMを使えば1500円に下がる。

 亀井氏は「そこまで巧妙な狙いがあったわけではない」と笑うが、ユーザーのデータ通信だけを取りにいくのであれば、eSIMを低料金で投入するのは合理的な戦術だ。楽天モバイルとの組み合わせは極端なケースだが、1GBあたりの単価が非常に安く設定されているため、データ容量が微妙に足りないユーザーにとっても使い勝手がいい。毎月1GBなり2GBなりのデータ容量を追加する代わりに、IIJmioのeSIMを契約しておくという選択肢ができたというわけだ。

 eSIMは、いち早くフルMVNO事業を開始したIIJならではの独自性といえる。IIJmio以外でコンシューマー向けにeSIMのサービスを提供しているMVNOはなく、この分野では差別化が図れている。他のMVNOがIIJmioと同じような料金プランを出そうと思っても、大手キャリアからeSIMの機能を丸ごと借りられるようになるのを待たなければならず、時間がかかる。また卸でeSIMの機能を借りてしまうと、IIJmioのように大胆な料金プランを打ち出すのも難しくなる可能性がある。

●コスト低下をダイレクトに反映させた価格設定、他のMVNOに影響も?

 IIJの新料金プランは、先に挙げた矢吹氏のコメントにある通り、「将来を予見したもの」だ。MNOから回線を借りる際の基本使用料や音声通話料、データ通信の接続料が値下げされる見通しを受け、料金の改定に踏み切った格好だ。その要因を分解していくと、次の通りになる。

 まず、音声通話対応SIMの場合、現状では基本使用料が1回線につき666円かかる(ドコモ回線で割引適用後、以下同)。IIJも、音声通話対応SIMには700円の基本使用料を設定しているが、これはMNOからの仕入れ原価に基づいたものだ。差額はIIJ側の利益になるが、音声通話対応のためにかかる追加のコストを考えれば、ほぼ原価でユーザーに提供しているといえる。音声通話が30秒20円なのは、卸価格として30秒14円をMNOに支払っているからだ。

 この基本使用料や卸価格は、大手3キャリアとも大幅に値下げする方針。正式な価格はまだ開示されていないが、「音声通話とデータ通信の基本使用料の値差は、かなり縮まってきている」(MVNO事業部 ビジネス開発部 担当部長 佐々木太志氏)。音声通話対応プランとデータ通信専用プランの価格差は100円で、「これがそのまま仕入れ値というわけではないが、社会情勢に鑑みながら予測値を出した」(亀井氏)という。この時点で、600円程度の値下げが実現する。現行のライトスタートプランをそのまま値下げしたと仮定すると、料金は3GBで1000円になる。

 一方で、ギガプランは音声通話対応で4GB、980円。MNOから回線を借りる際の基本料が値下がりしただけでは、この価格で提供できない。1GB、データ量が増えているからだ。データ容量には、接続料の値下げが反映されているとみていいだろう。ドコモが開示している接続料は、2020年度が10Mbpsあたり41万4368円。将来原価方式で予測値も記載されるようになり、2021年度はこれが33万2114円、2022年度は27万9247円に下がる見通しも示されている。2020年度から2021年度にかけては、2割程度接続料が下がるというわけだ。2020年度と2022年度の比較では、3割強になる。

 値下がりした分IIJが帯域を増強すれば、今の品質を維持したまま、ユーザーに付与するデータ容量を増やせることになる。ただ、2割程度、接続料が下がっただけだと、データ容量を増やしてトラフィックが増えた分は吸収できない。そのため、IIJでは「現在の競争環境や接続料を巡る社会情勢を考え、私たちなりの価格を設定した」(亀井氏)という。「MNOから提示される接続料を待った上で考えたいところはあったが、それを待つと、プランの検討が遅くなりすぎる」(同)からだ。確度の高い予想を立てることで、見切り発車したというわけだ。

 ただし、音声通話料や音声通話の仕組みは従来のままで、通話料は30秒20円。中継電話サービスの「みおふぉんダイアル」を使うと、30秒10円まで下がるものの、専用アプリで発信する必要がある。音声通話定額もみおふぉんダイアル経由のみで、3分600円と10分830円の2種類。完全通話定額は提供されていない。「音声(卸)は見直しが検討されているが、そちらを反映したものではない」(亀井氏)といい、今後の導入が待たれる。

 予測を交えながらコスト低下分をダイレクトに料金プランへと反映させた格好で、大手キャリアとの価格差もしっかりついている。混雑時に極端な品質が低下するようなことがなければ、ユーザーの支持を集めそうだ。大手MVNOでは、NTTコミュニケーションズのOCN モバイル ONEや、ソニーネットワークコミュニケーションズのnuroモバイルが、まだ料金を改定していない。価格のインパクトが大きかっただけに、既に新料金を導入済みのmineoなども含め、他のMVNOの出方にも影響を与えそうだ。