MVNOのモバイル通信サービスは、データ通信量の大容量化や低廉化が年々進む一方、音声通話の料金やサービス内容にはあまり変化がない状況が長く続いていた。だが現在、その音声通話料金に関して大幅な見直しが進められており、MVNOでも専用アプリを使う必要なく、通話定額サービスを利用できることが一般的になる日もそう遠くないかもしれない。

【更新:2021年3月25日17時45分 初出時、タイトルを「MVNOで“専用アプリ不要の通話定額”はいつ実現するのか?」としていましたが、日本通信が既に実現していることから、「実現」→「定着」と訂正致しました】

●なぜMVNOの音声通話料金は下がらないのか

 携帯大手が相次いで投入した低価格な新料金プランに対抗すべく、MVNOも相次いで新料金プランを打ち出している。各社の発表内容を見ると、同じ通信量で料金が安くなっていたり、あるいは大容量通信ができるプランを従来の半値以下にしたりと、かなりの低価格化が進んでいる。

 一方で、音声通話に関してはほとんどのサービスが30秒20円(税別、以下同)の従量制と、従来と変わっていない。もちろん各社が提供するオプションサービスを契約することで、中継電話サービスを用いた5分、10分などの通話定額は利用できるのだが、そのためには電話をかける際にプレフィックス番号を付与するか、専用アプリを使って通話する必要がある。

 ただこの仕組みが意外と厄介に感じることもあり、とりわけそのことを実感するのが、着信履歴から折り返しの電話をかける場合だ。通話着信にはスマートフォン標準の通話アプリを使うため、着信通知から折り返し電話をする際に専用アプリを経由できず、通話が定額にならず損をしてしまうことが多いのだ。

 そもそもなぜ、MVMOのデータ通信は料金が大きく下がっているのに音声通話は料金が下がらないのかというと、携帯電話会社(MNO)からネットワークを借りる際、データ通信と音声通話とで料金が決まる仕組みが違っているからだ。多くのMVNOの場合、データ通信はMNOとMVNOの機器を相互に「接続」して通信するため、その料金は電気通信事業法で定められる所定の算定式で毎年算出された「接続料」で決まる仕組みとなっている。

 一方で音声は現状、データ通信とは異なり「卸役務」、要するにMNOのネットワークをそのまま借りているだけであることが多く、その場合MNOとMVNOとの交渉によって料金が決まる。つまり音声の卸料金は、データ通信の接続料とは違って毎年見直しがなされるとは限らないのだ。

 そしてMNO側が音声卸の料金を長年見直してこなかったことが、音声通話料金が高止まりする要因となっていたのである。だがここ最近、その音声卸料金を見直す動きが急速に進んでいる。

●卸料金の引き下げは基本料の引き下げに影響

 そのきっかけとなったのは、2019年11月に日本通信が申請した総務大臣裁定である。音声卸料金の高止まりでMNOと同じ音声通話定額サービスを提供できないことに不満を抱いていた同社は、NTTドコモに対して音声卸料金を「適正な原価に適正な利潤を加えた金額」にすることや、定額通話オプションを提供することなどを求め総務大臣裁定を仰いだのである。

 そして2020年6月に出た裁定の結果、前者の卸料金について日本通信側の主張が認められたことから、同社は月額2480円で音声通話がし放題になる「合理的かけほプラン」を2020年7月に提供開始。通話定額が認められたわけではないものの、この出来事を機として音声卸料金引き下げの機運が高まったことは確かだろう。

 実際、その後総務省は2020年10月27日に「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」を公表。その中で「音声卸料金の一層の低廉化」が明文化され、行政主導でMNOに音声卸料金の引き下げを求めていく方針を明確にしている。

 では実際のところ、一連の動きによって卸料金がどれくらい引き下がるとみられているのだろうか。金額を公表しているドコモを例に挙げると、2020年時点では、音声通話サービスの提供に必要な「卸タイプ5G」(5G向け)と「卸タイプXi」(4G向け)のいずれも、基本料金が月額1480円、通話料が20円/30秒。回線数に応じた割引を最大限適用することで基本料が55%引きの666円、通話料が30%引きの14円/30秒とされている。

 ここで注目したいのが基本料だ。この基本料がある意味でMVNOの音声通話プランとデータ通信プランの差となっている。例えば、IIJmioやmineoの従来プラン(ドコモ回線)を見ると、音声通話機能付きSIMはデータ通信専用SIMより700円高く、おおむね音声卸の基本料を上乗せした分だけ料金が高くなっている。

 だがmineoの新料金プラン「マイピタ」を見ると、音声通話機能付きSIMとデータ通信専用SIMの料金差が230円〜380円にまで下がっており、IIJmioの新料金「ギガプラン」に至っては料金差が100円だ。現時点では携帯各社の新しい卸料金が明らかになっておらず、各社とも今後の卸料金の値下がりを予測してこの料金差に設定したとしているにすぎないが、今後それくらい基本料が下がると見込まれていることは確かだろう。

●「プレフィックス番号自動付与」が通話定額の本命

 ただ先にも触れた通り、各社の新料金プランは通話料そのものは下がっておらず、20円/30秒のままとなっている。卸料金の基本料が下がることを見込んでいるのであれば、通話料も同様に大きく下げてもよさそうなものだが、日本通信に追随して通話料を引き下げたり、通話定額サービスを提供したりする動きはまだ見られない。

 それは今後、プレフィックス番号を自動付与する仕組みをMNO側が提供することを見込んでおり、そちらを活用した通話定額サービスを提供したい狙いがあるためと考えられる。これは総務省の有識者会議「接続料の算定等に関する研究会」の議論の中でドコモから提案があったもので、KDDI、ソフトバンクも同様の機能を提供するとしている。

 プレフィックス番号をネットワーク側で自動的に付与できるようになれば、MVNOが提供する音声定額サービスの利用に専用アプリを使う必要がなくなる。中継サービスを利用する点は変わらず、通話品質がVoLTE並みに向上するわけではないが、アプリなどが不要になれば先の着信履歴の“かけ間違い”のような問題が生じなくなるため、サービスの利便性が大幅に高まることは間違いない。

 ただこの場合、MNO側でプレフィックス番号を付与した後、中継電話サービスを提供する事業者の機器と相互に「接続」して音声通話を実現する形になることから、ネットワークの利用が卸役務から接続に変わってしまう。それに伴い契約をはじめさまざまな部分での変更が求められることから、導入するにしても一定の準備期間が必要と考えられる。

 だがMVNO側としては、ドコモの「ahamo」など2021年3月に投入されるMNOの低価格プランに急いで対抗しなければ競争力が失われてしまうという危機感があった。時間的にもプレフィックス番号付与の提供を待って新料金プランを提供するという選択肢を取れず、従来通り卸で新料金プランを組み立てるに至った結果、通話料が大きく変わるには至らなかったといえそうだ。

 ただ、既にフリービットが2021年2月25日に、ドコモにプレフィックス番号自動付与に関する相互接続の申し込みを完了し、同社のMVNO支援パッケージ「freebit MVNO Pack」に、それを活用した音声サービスを3月から提供する予定だと発表している。そうしたことから今後、プレフィックス番号自動付与の活用が拡大することで、MVNOでも不便なく音声通話定額が利用できることが一般的になっていくかもしれない。