Doovというスマートフォンメーカーを知っているでしょうか? 中国メーカーは大手の寡占が年々進み、弱小メーカーは次々と消えていっています。Doovも中国ではもはや誰も知らないメーカーとなってしまいましたが、しぶとく製品を出しているのです。しかも5Gスマートフォンを中国で発売したというので、実機を入手してみました。

 筆者はITmedia Mobileで中国スマートフォンの連載記事「山根康宏の中国携帯最新事情」を2011年5月から執筆していますが、2013年に同社を取り上げています。Doovは2009年の創業以来、女性向けの携帯電話・スマートフォンを専業としており、スマートフォンはセルフィー用の美顔ソフト「魔境」を搭載。中国の女性に人気のメーカーでした。

 そのDoovの栄光は2014年に出した「i-Super 3」まで。同年にセルフィー特化のMeitu(美図)のスマートフォン「Meitu 2」が登場すると、SNSブームもあって「自撮りならMeitu」の時代が訪れます。しかしもともと「女性向けスマートフォン」という存在がニッチであったことから、Meituも2019年にXiaomiに吸収されてしまいました。

 Doovはその後、スマートフォンを出さずに美容家電を売るなどして存続していたようですが、2018年頃からOEM/ODMメーカーの製品を少しずつ展開し始めました。ちょうどそのころにIoT関連製品を手掛ける別会社が設立されており、その会社がスマートフォンを展開するようになったようです。とはいえ、価格重視の低スペック、大手メーカーとほぼ同じデザインの製品ばかりであり、Doovの名前は中国市場で忘れ去られていったのです。

 そのDoovが2020年冬に5Gスマートフォン「K10 Pro」をリリースしたという情報を中国のネットでつかんだものの、どうせ適当なデマだろうと思っていました。ところが中国の大手ECサイト「京東」を見ると、製品が売られています。しかもつい最近のユーザーレビューもあるのです。つまりK10 Proは実際に市場に存在する製品だったのです。筆者はDoovをはるか昔に追いかけていましたが、同社のスマートフォンは1台も買ったことがありません。こんなマイナーなメーカーが5Gスマートフォンを出した驚きもあって購入してみたのです。

 本体デザインは背面にグラデーションをかけた仕上げ。カメラが左上にまとめられているものの、第一印象は「2年位前のデザイン」。手で握ると指紋の跡もかなり目立ちます。とはいえ背面を指先で押しても「柔(やわ)」な感じはせず、安っぽくはないようです。ちなみにカメラは1600万画素+200万画素マクロ+30万画素モノクロ。ディスプレイは6.517型(720×1600ピクセル)、メモリ8GBにストレージ128GBという構成。価格は1399元(約2万3000円)でした。

 日本でも約2万円の5Gスマートフォンとして、Xiaomiの「Redmi Note 9T」が登場しましたが、安価な5G端末は低コストなプロセッサを使うことで実現できます。DoovのK10 ProはQualcommやMediaTekではなく、中国のチップメーカーであるUNISOCのT7150(UDS710)を採用することで価格を抑ええているのです。

 このT7510は中国国内で採用メーカーが増えており、HisenseやキャリアのChina Telecomの自社ブランド品、さらにDoovのようなマイナーメーカーがこぞって採用しています。またマイナーメーカーのT7510搭載5Gスマートフォンを見ると、このK10 Proとよく似たデザインになっています。

 恐らく既にODM(相手先ブランドで製品を開発製造する)メーカーがT7510を搭載した5Gスマートフォンのベースモデルを完成させているということなのでしょう。中国では既に「お金さえ払えば自社ブランドを付けた5Gスマートフォンを作ってくれる」時代になっていると思われます。

 K10 Proが中国市場でどのような層に売れるのかは分かりません。しかし中国では既に2億以上の5Gユーザーがおり、2021年はさらに億単位で加入者が増えると見られています。2021年は「5Gスマホを出せばとにかく売れるだろう」と考えたマイナーメーカーたちが、こぞってT7510搭載のODMメーカー品に自社ブランドをつけ中国市場に製品を出していくかもしれません。見たことも聞いたこともない5Gスマートフォンが売られるとは、それはそれで面白いことになりそうです。