2019年10月の改正電気通信事業法で携帯電話の割引が規制されるなどして、携帯電話の販売ランキングは買いやすいミドルレンジのスマートフォンが上位を占めるようになった。また、世界的に中古端末の注目度も上がっており、複数の調査会社が中古スマホ市場は今後も拡大を続けると予想している。

 日本では2020年に、中古通信端末市場の健全な発展と消費者保護を目的としてリユースモバイル・ジャパン(RMJ)が設立され、現在、20社以上の企業が会員として登録されている。RMJでは、安心・安全な機器の売買を行うための必要事項をガイドラインにまとめており、そのガイドラインに沿って運営している企業にお墨付きを与える「リユースモバイル事業者認証制度」を設けている。

 一方、RMJに参加せず、独自の基準を設けて中古スマホを提供している企業もある。中古端末販売サイト「にこスマ」を運営するBelong(ビロング)もその1社だ。今回はBelongの代表取締役社長 CEOである井上大輔氏にインタビュー。にこスマの成り立ちやサービス内容、こだわりについてうかがった。

●中古スマホはアングラなイメージだった

 にこスマを運営するBelongは、2019年2月に設立されたばかりの若い会社だ。伊藤忠商事の100%グループ会社で、社長の井上氏と副社長でCOOの清水剛志氏は伊藤忠商事の社員でもある。

 ふたりとも長年モバイル業界に携わってきたが、2014年頃から、ほぼ同時期に伊藤忠商事の社員として米国に駐在。そのときに中古スマホ市場の盛り上がりを目にし、伊藤忠グループでも取り組むべき事業ではないかと話し合ったという。しかし、当時は「iPhone 5s」や「iPhone 6」が販売されていた時代。端末の進化が速く、中古市場に出てくるような2世代前のモデルは、OSアップデートに対応できないという機能面の問題があった。

 「中古スマホはまだアングラなイメージで、日本人が本当に中古スマホを買うのか確信できなかった。清水と一緒にパイロットサイトを作りましたが、日本にはまだちょっと早いと思っていました」(井上氏)

 それが、2016年に井上氏、2018年に清水氏が帰国する頃には、フリマアプリの「メルカリ」が定着し、日本人のリユースに対する心の障壁が低くなっていた。また、スマホの進化も落ち着き、OSバージョンアップもiPhoneであれば4、5年対応可能になった。さらに、総務省の働きかけによって通信と端末の分離が行われ、中古スマホが流通しやすくなった。中古でも十分使える環境が日本でも整ってきた。

 「よくガソリンとクルマの話に例えて説明しています。ガソリンは『ahamo』や『povo』といった形で業界構造がぐるっと変わっていますが、クルマは2、3年に1回、若者から年配まで10万円の端末に買い換える。誰もが新車のBMWに乗る不思議なマーケットになっているようなものです。みんながリユース品に流れないにしても、『私は新車の軽自動車でいい』とか『私は中古のBMWがいい』という人はにこスマで買ってもらうような、デバイスの世界に多様なバリエーションを持ち寄りたいという思いでやっています」(井上氏)

●世界各国のチャネルを通じて端末を調達

 実際ににこスマが始まったのは2019年。最初は2人とも退職して会社を立ち上げようと考えていたが、当時の上司たちの理解を得て社内ベンチャーという形になった。1年後の2020年8月に正式に伊藤忠からプレスリリースが出ている。

 伊藤忠商事の100%グループ会社という立場は、端末調達に大きく貢献している。

 「世界各国に、携帯電話に精通した駐在員がいます。大きいところでは、米国や香港を中心としたアジア、最近は欧州やドバイを中心とした中東など、世界中にあるチャネルを利用して、日本の法令や基準に適した端末を調達し、それらを直接、最終消費者にWebサイトを通じて売っているのが大きな特徴です」(井上氏)

 アングラなプレイヤーも多いとされる中古市場で、日本の法令や基準に適した端末を調達するのは容易なことではない。いかに信頼できるパートナーと組めるかが重要と井上氏は語る。

 「生身の伊藤忠の人間が各国にいて、日々、調査して生の情報を得ています。初めて取引する場合は訪問して、実際のものを見るまで仕入れない。そういった商社の機能が非常に重要です。海外でも国内でも、ちゃんと信頼関係ができれば、日本のお客さまが望むクオリティーの端末はもちろんあります。ただ、信頼関係は一朝一夕にできるものではありません」(井上氏)

 にこスマの品質基準はパートナーにも理解されるようになり、仕入れは安定しているというが、技適のない端末が届いたこともあり、最初は大変だったと井上氏は振り返った。

 日本では「Belong買い取り」という名称で、一般ユーザーからの買い取りサービスも展開している。2020年4月にはインターネットイニシアティブのIIJmioモバイルサービスと連携。IIJmioユーザーは、IIJmioのサイトに貼られたリンクからBelong買い取りのページにアクセスできる。

●制限がなく外観がキレイな「3つ星スマホ」だけを販売

 日本のユーザーが望む端末といえばiPhone。にこスマではXperiaシリーズなど一部のAndroid端末も扱っており、今後はバリエーションを増やしていく予定だが、現在扱っている端末はほぼiPhoneだ。それも基本的に、にこスマが「3つ星スマホ」と銘打つ品質のものだけを販売する。「良いものだけを扱っている中古ショップ、ディーラーの認定が付いた中古車販売店みたいなものを作っていければ」(井上氏)と考えている。

 3つ星スマホの条件は3つ。(1)制限がなく、(2)外観がきれいで、(3)検査をクリアしたものだ。制限がないというのは、まずネットワーク利用制限がないもの。確認サイトでチェックして「○」になるものだけを販売しており、「×」は当然、利用が制限される可能性のある「△」の端末も扱っていない。また、全てSIMロックも解除済みになっているので、どのキャリアのSIMでも利用できる。

 外観については、画面割れや本体に欠けがないのはもちろんだが、全ての商品について正面、背面、両側面、先端部、ディスプレイ部分の写真を掲載し、購入前に細かい部分までチェックできるようにしている。写真は拡大して見ることができ、最後の1枚はあえてフラッシュを当て、ディスプレイ上のちょっとしたひっかき傷などが見えるようにしている。

 傷の状態やバッテリー容量の状態によってA、B、Cでグレード分けされている。特にバッテリーについて不安に感じるユーザーが多いことから、にこスマではバッテリー容量が80%以上のものだけを取り扱い、サイトでは、価格の安い順、高い順の他、バッテリー(状態の良いもの)順で並べ直して見ていくことができる。

 「バッテリー容量を開示している中古ショップは、まだ一部だけだと思います。よりシンプルに、日本のお客さまが欲しいと思っているものだけに特化して販売しているのが、にこスマのユニークな部分だと思っています」(井上氏)

 3つ星スマホの評価は高く、井上氏によると、2020年は2019年から売り上げが4倍から5倍に伸び、想定以上のニーズがあることが分かったという。

 「購入された方のレビューは想定以上に高評価の内容で、クレームも非常に少ない。それは、お客さまがまだ中古端末に対して怖い、不安だと思っているからこそ、いざ製品が届いてみたら予想以上に良かったというポジティブなサプライズがあるからでしょう。逆に言えば、購入に至るまでの不安を払拭(ふっしょく)しないことには、中古スマホの裾野はなかなか広がらないと思っています」(井上氏)

 調達したものの、にこスマの基準に達していない端末は、国内外の法人に販売される。

 「法人ユースでは、業務用なので多少傷があっても構わないというケースがあります。極端に言えば、とにかく安ければいいという場合もあります。伊藤忠グループには国内外に多様なお客さまがたくさんいらっしゃいます。にこスマはあくまで売り場の1つです」(井上氏)

●常時150人ほどのスタッフが入念に検査

 厳しい目を持つ日本のユーザーが満足する、高い品質を支えているのが検査だ。Belongは神奈川県座間市に中古端末の検査センターを有し、常時150人ほどの検査人員による詳細な端末検査と複数のソフトウェアを使ったデータ消去を実施している。

 例えば、国や端末の世代によって細かく異なる技適のある/なしも、検査センターでしっかりチェックを行っている。データ消去に関しては、複数のベンダーのソフトウェアを使って、eSIM情報も含めどんなモデルでも確実にデータ消去できる体制にしている。

 また、在庫管理のために独自の基幹システムを開発し、データ消去や検品のログなどを管理。不具合でやむを得ず返品を受け付けた際も、検査のログと突合することでツールの改善につなげているという。

 「弊社はテクノロジーへの投資に注力しています。CTOの福井達也は、もともとゴールドマン・サックスやグーグルの第一線で活躍していたエンジニア。中古端末の在庫管理は既存のシステムだとなかなかうまくできず、弊社はスクラッチで基幹システムを作っています。ここも弊社のユニークなところで、1つの強みだと思っています」(井上氏)

 にこスマでもiPhone 8はロングセラーの人気端末。FeliCaによる決済に対応し、防水仕様と、ユーザーの望む機能がそろっている他、コロナ禍でマスク装着のため、iPhone SE(第2世代)を除くと、指紋センサーを搭載した最後のiPhoneである点も支持されているという。

 Belongは、スマホの便利な使い方などを紹介する「にこスマ通信」というオウンドメディアを運営しており、その中で、フリマサイトやオークションサイト、中古スマホサイトの売買情報から導き出した価格の相場情報を紹介している。約2年間分のビッグデータを保有し、にこスマで販売されている端末の価格は、海外駐在員の情報と相場情報を連携させ、適正な価格を設定しているそうだ。

●サポートや補償サービスも充実、今後はリアル店舗も

 Belongという社名は、商品を売った後も寄り添うサービスでありたいという意味が込められているという。そのため、にこスマはサポートも充実しており、フリーダイヤルでつながるコールセンター、メールやチャットでのサポートを提供する。ただし、人によるサポートはコストに響く。そのため、チャットの問い合わせにはAIを導入し、自動化を進めている。

 「1年目は私と清水でチャットやメールに対応し、夜も寝られないときがありました(笑)。さらに改善させていく必要はありますが、現在はチャットをナレッジベースに連携させ、お客さまからの質問にある程度、自動で対応できるようにしています。売り上げは4、5倍になりましたが、問い合わせ数はそこまで増えていない。オンラインで自己解決できる人が非常に増えてきている印象があります」(井上氏)

 その他、30日間は基本的に無料で返品交換に対応し(30日間の無料返品保証)、月額500円(非課税、以下同)の「にこスマあんしん保険」も用意している。無料返品保証の期間は、近々1年間にすることを検討しているという。また、にこスマあんしん保険は、故障や盗難、水ぬれなど、自責の場合も、年間7万円まで回数制限なく、修理費用を補償する。中古iPhoneはAppleCare+に入ることができないので、万が一の故障に不安を感じる人にはうれしいサービス。端末の購入時に合わせて申し込むことができる。

 現在はWebサイトのみでの販売だが、今後はリアルな世界でユーザーとの接点を作ろうと計画している。本来は2020年中にポップアップストアを出す予定だったが、コロナ禍で延期せざるを得なかった。

 「どういう店舗にするかは検討中ですが、名前を表に出すことで、にこスマというものがあることに気づいてもらえるタッチポイントにしたい」(井上氏)

 にこスマの利用者は男女比が半々で、サイトのデザインもユニセックス。店舗もギーク向けではなく、「中古車みたいな誰もがアプローチできるマーケットにしたいので、ショップの場所も雰囲気も誰もが入りやすいように配慮したい」(井上氏)とのことだ。