店舗のキャッシュレス化を進めようとする中、課題の1つとして挙げられるのが決済端末の更新だ。これまで、現金のみのキャッシュレジスターだった店舗も、一部の電子マネーなどに対応していたレジの店も、キャッシュレス化を拡大しようとすると、それに応じた決済端末の導入が必要になる。

 特に個店のような小さな店舗の場合、レジ周りが狭く、複数決済に対応したリーダーを増設するようなスペースがない場合もあり、導入に対するハードルが高い。そうした現状に対して、より手軽にキャッシュレス化、特にクレジットカード対応を可能にする「Tap on Mobile」「Tap to Phone」などと呼ばれるソリューションが登場している。

 これは、スマートフォンをクレジットカードのリーダーとして扱い、タッチ決済に対応させるというもの。店側は対応スマートフォンさえあれば、手軽にクレジットカードのタッチ決済に対応できる。サービス提供者によって呼び名は多少異なるが、基本的には同じものだ。

 海外だとクレジットカードのタッチ決済対応のみだが、日本カードネットワーク(CARDNET)が3月末まで実証実験を行っていたTap on Mobileは、QUICPay、QUICPay+、nanaco、楽天Edy、WAONといった電子マネーをサポートしている点が特徴。Suicaというビッグプレイヤーは非対応だが、それでも国内の多くのキャッシュレスユーザーをカバーできる。

 スマートフォンを決済端末として使うことには、どんな可能性があるのだろうか。

●スマホが決済端末になるのでコストを削減できる

 国内では、Tap on Mobileのサービスが既に提供されている。JCBやGMOフィナンシャルゲート(GMO-FG)はマレーシアSoft SpaceのTap on Mobileを採用。JCBはまだ実証段階だが、GMO-FGは「Fasstap」サービスとして本格提供を行っている。

 続いて実証実験という形で2021年3月末まで実店舗でのサービス提供を行っていたのが日本カードネットワークだ。同社ではIBMやTFペイメントサービス(TFPS)と協業し、独自のTap on Mobileとして提供。国内のFeliCaによるタッチ決済に対応している点が特徴だ。

 使い方は、アプリをスマートフォンにインストールし、TFPSのクラウド型決済プラットフォームの「Thincacloud」に接続してスマホを決済の端末として利用する。決済時は、支払金額などを入力してスマートフォンのNFC読取り部を客側に提示。客側は自身のスマートフォンをかざすだけで決済が行われる。

 最大のメリットは、スマートフォンだけで決済が行えること。決済端末のスペースも不要で、テーブルでの決済も行えるハンディタイプの決済端末として利用できる。

 もともとCARDNETでは、2年ほど前からスマートフォンの決済端末化を検討してきたという。当時はまだ、クレジットカードのタッチ決済は海外でも一部を除いて主流というほどではなく、長期の検討課題として進めてきたそうだ。同社の加盟店にも使ってもらい、実用化に向けた課題などを洗い出していこうとしてきた中、Visaがタッチ決済という形で非接触決済に注力し始め、さらにコロナ禍の状況で非接触決済への期待が高まっていたことが、実用化の後押しをしたという。

 店舗が決済の非接触化を進めようとすると、どうしても決済端末の入れ替えが発生する。それにはコストがかかる点が課題となっていた。そうしたコスト課題に関して、手持ちのスマートフォンを利用できるTap on Mobileには大きなメリットがある。実際、Visaなどが海外で提供しているTap on Mobile(Tap to Phone)は、主に新興国向けに提供されており、決済端末に対するコストの削減を担っている。

 問題は、既存の仕組みだとNFCを使ったクレジットカードのタッチ決済にしか対応していないこと。普及が始まっているとはいえ、クレジットカードのみのサポートだと、日本の利用者が満足してもらえないとCARDNET側は判断した。

 そこでFeliCaへの対応を目指して各社と協力。Edy、QUICPayなどに対応した。Suicaに関しては、Suica検定が必要で現時点ではカバーできなかったが、プリペイドの電子マネーからポストペイドのQUICPayまでをサポートする形でTap on Mobileを実現した。

●セキュリティに配慮して、指定した場所だけで決済

 常時持ち歩くスマートフォンがレジとなるため、セキュリティのために事前に指定した場所だけで決済できるようなGPS連携機能を搭載。ただし、CARDNET側も「根本的な課題がある」と指摘。一般的な店舗のように場所が固定されていればともかく、移動販売や宅配での利用が難しくなってしまうからだ。実際、実証実験ではそうした店舗形態とのシナジーがあると判断しており、そうしたギャップも課題だという。

 もう1つの課題が、店舗の形態によっては決済のテンポが合わないという点だ。例えば食事のテークアウト店でレジに金額を入力して、客が決済をしている間にレジ店員が袋詰めする、という作業をしていた店がTap on Mobileを導入すると、スマートフォンを店員が手に持って客のスマートフォンとタッチするまで確認する必要が出てしまう。

 こうした課題に関しては実証実験段階では解決できず、「業種業態、店の規模などで、Tap on Mobileが合う、合わないという店がある」と同社では話している。

 では、「合う店」とはどんな店か。基本的にレジに長蛇の列が並ぶような店は向かないだろう。テーブル会計ができる飲食店は向いている。ハンディーのメリットを使って、店員側が客の方に行って決済する場合に一番便利だ。

 使い方によっては、並んでいる人の中で、対応電子マネーで支払いたい人のところに店員が行って支払いを済ませれば、レジ待ちの列をさばくこともできる。ただし、現状ではPOSレジとの連携ができていない点は課題だとしている。そのため、やはり小規模店との組み合わせが現実的だろう。

●実際に店舗でTap on Mobileを導入した結果

 実際に実証実験で利用した店舗では、どのような感想を持ったのか。東京・早稲田のビアバー「グランズー」で話を聞いた。同店は神田川のほとりにある小規模店で、醸造所が併設されてクラフトビールを提供している。

 店内はカウンターとテーブル席が1つというこぢんまりとした店。基本的にはカウンターでオリジナルのビールと軽食を楽しむのが主流だろう。もともと支払いにはクレジットカードと現金に対応していたが、Tap on Mobileを採用することで、FeliCaによる電子マネーに対応できるようになった。

 運営するジップザフューチャーズ代表取締役の横田典行氏は、「思ったより(Tap on Mobileの)利用者が多い」と話す。それまではもともと対応していなかったため、電子マネーで払おうという声は聞かれなかったが、対応したところ、想定以上の利用者が電子マネーを選択していたという。

 横田氏自身、電子マネーのニーズはないと思っていたが、対応したと知るとそちらを使う利用客も多かったという。取材時は実証実験を開始して1カ月ほどだったが、スマートフォンだけを持ってフラッと店に来て支払いをするという人もいたそうで、店側の想定以上にニーズはあったという認識だ。

 そのため、横田氏はTap on Mobileを「続けたい」と話す。取材時はコロナ禍ながら、まだ飲食店は感染対策の上で営業できていた頃だが、手軽に電子マネー対応できるCARDNETのTap on Mobileは、店のニーズを掘り起こした形だ。

●クレジットカードのタッチ決済も検討

 CARDNETの場合、他のTap on Mobileの仕組みとは異なり、NFCによるタッチ決済に対応していないというデメリットはある。実証実験ということで、FeliCaのサポートを優先したからで、今後はクレジットカード(NFCによるタッチ決済)への対応も検討するという。

 クレジットカードを挿入して支払うICへの対応が難しいが、NFCに対応すれば、タッチ決済化が遅れているMasterCardやJCB以外は、NFCへ対応することでカバーできる。それら2社も、タッチ対応に向けての取り組みを加速するとの話も聞こえてくる。

 スマートフォンにアプリをダウンロードすれば使い始められるという手軽さは、他の決済端末にはない簡便さで、FeliCaを読み取ってから決済が完了するまで1秒以内に完了するなど、性能面でも十分、というのがCARDNET側の判断だ。

 試してみると、店と客のスマートフォン同士でNFCアンテナを合わせるのが難しく、一般的なレジのリーダーにかざすよりも慎重な位置合わせが必要だが、読み取りさえ行われれば、すぐに決済は完了した。

 実証実験では端末を指定しており、ソニー、シャープ、Googleの2020年発売スマートフォンが該当する。実際に本サービス開始となれば、他の端末での検証は必要になるだろう。ただ、全ての端末でチェックすべきかどうかは今後の検討としている。

 CARDNETによれば、実証実験中に2カ月で1000件以上のトランザクション(決済の処理)があり、決済時間は1秒以内だったという。位置合わせが一発で済めば、特にストレスなく決済は完了する。個人的にはレシートが電子メールという点もよかった。店員からスマートフォンを受け取ってメールアドレスを入力する手間はあるが、紙のレシートよりは管理しやすい。

 スマートフォンを使うメリットは、アプリでの機能拡張が容易な点もある。コード決済と組み合わせてもいいし、加盟店が必要な業務アプリを提供することで、利便性をさらに高められる。

 日常で使うスマートフォンだと、決済中に電話がかかってしまうなどの問題もあるので、新たなスマートフォンが必要となる。専用にスマホを購入すると高くつくが、旧機種をTap on Mobileに使う、といったやり方も可能だろう。

 店舗からの評判もよく、CARDNET側では最短でも夏にはNFCへの対応を行い、商用化につなげたい考え。移動店舗への対応も図る意向だ。スマートフォンの決済端末化の有利な点は、従来よりも簡単にキャッシュレスを導入できる点だ。

 その反面、手軽ゆえに安定性や保守性、ハードウェア的な拡張性など、専用の決済端末に比べれば機能は劣る。逆に言えば、そうした拡張性をそれほど必要としない業種業態で、コストを抑えながらキャッシュレス化したい場合に向いている。CARDNETのTap on Mobileは、日本固有の電子マネーをサポートしている点が強みで、今後のクレジットカード対応とアプリケーションの提供次第では、個店を中心とした一定のニーズをカバーできそうなソリューションだ。