総務省は現在進めている有識者会議で、SIMロックを原則禁止とする方針を打ち出している。だが、そもそもなぜSIMロックが存在し、なぜ問題視されてきたのか。そしてSIMロックが原則禁止となることで、市場にはどのような影響が出ると考えられるだろうか。これまでの経緯を振り返りながら確認していこう。

●SIMロックと密接な関係にある端末値引き

 特定の通信会社のSIMを挿入したときしか通信ができないよう、端末にロックをかける「SIMロック」。日本ではかつて、SIMロックがかかっていることが一般的だったが、今後SIMロックは原則禁止となる。

 それは総務省の有識者会議「電気通信市場検証会議」の中に設置された「競争ルールの検証に関するWG」の「スイッチング円滑化タスクフォース」での議論の末、その報告書に盛り込まれたもの。このタスクフォースではキャリア(携帯電話事業者)の乗り換えをより円滑にする取り組みに関する議論がなされており、そのテーマの1つとなっていたのが「SIMロック解除の一層の推進」である。

 そして総務省2021年5月28日に公開された同タスクフォースの報告書で、SIMロックは購入者の利便性を損ない、他社への乗り換え、ひいては事業者間競争を阻害する効果を有するとして、キャリアがSIMロックをかけることを原則禁止することが適当と結論付けたのである。

 SIMロックはユーザーから見た場合、他社のSIMを挿入しても利用できず、キャリアを変える度に端末を変える必要が出てくることから不便な存在であることは確かだ。にもかかわらず、なぜSIMロックが存在し、キャリアはその解除に難色を示してきたのかというと、その主な理由は端末値引きにある。

 携帯各社はかつて、スマートフォンなどの端末価格を実質0円、1円といった非常に安価な価格で販売して新規契約者を獲得し、毎月の通信料金からその割引分を回収するというビジネスモデルを展開していた。それゆえ、契約してすぐ解約されてしまうと値引き分の原資が回収できなくなってしまう上、割賦を組んで購入した端末の場合、その支払いまでもが踏み倒されてしまうリスクがあることから、SIMロックをかけて他社のSIMで利用できないようにすることにより、リスクを回避していたわけだ。

●SIMロック解除は強制せず、各社に委ねていた時代

 だがSIMロック、ひいてはキャリアのビジネスモデルそのものを問題視していたのが総務省だ。実際、SIMロック解除に関する議論は、内閣総理大臣の菅義偉氏が総務大臣だった2007年に実施された総務省の有識者会議「モバイルビジネス研究会」の頃から出ていたものであり、今回の原則禁止という結論に至るまでの約14年間、総務省は大手キャリアにSIMロック解除を要求し続けてきたのである。

 最初の大きな動きとなったのは2010年、総務省が「携帯電話のSIMロックの在り方に関する公開ヒアリング」を実施し、その結果を受けて「SIMロック解除に関するガイドライン」を出したことにある。だがこの頃はまだ3Gが主流でありキャリア間で通信方式が異なるなど、同じ端末を使って他キャリアに乗り換えるには、SIMロック以外にもいくつかのハードルが存在していた。

 そうしたことから、ガイドラインでは、各社の意見をくみ取りSIMロック解除の強制はせず、各社に委ねるという形に落ち着いている。その結果、もともとSIMロック解除に前向きだったイー・モバイル(イー・アクセス、2012年にソフトバンクが買収)に加え、NTTドコモが2011年にSIMロックを解除できる仕組みを備えた機種を提供するなど前向きな姿勢を見せた一方、ソフトバンクは限定的な対応にとどまり、KDDIは対応を見送るなど、各社の対応には差があった。

●2014年を境に強硬な姿勢に出た総務省

 それが一転して、総務省がSIMロック解除に強硬な姿勢を取るようになったのは2014年のこと。同年に実施された有識者会議「ICTサービス安心・安全研究会」内の「消費者保護ルールの見直し・充実に関するWG」での議論を受け、同年にSIMロック解除に関するガイドラインが改訂されSIMロック解除が義務化、つまり一定のルールに基づき、利用者から申し出があった場合はSIMロック解除に応じることが求められたのである。

 なぜ総務省が急に強い措置を打ち出すに至ったのかというと、4Gへと移行し通信方式の統一が進んだこと、イー・アクセスやウィルコムがソフトバンクの傘下となり寡占が進んだことも大きいが、より大きな影響を与えたのは、その時期まで過熱していたキャリア間の顧客争奪戦であろう。

 実際、2014年春頃まで、各キャリアは他社から顧客を奪うべく、番号ポータビリティで他社から乗り換えた顧客に対して最新スマートフォンを0円で販売するどころか、数万円、条件によっては10万円を超えるキャッシュバックを提供するなど、度を超えた端末値引き合戦を繰り広げていた。その一方で、総務省が求めるSIMロック解除や、いわゆる“2年縛り”の緩和などには消極的な姿勢を取り続けていた。

 そうしたキャリアの姿勢に業を煮やした総務省は、この義務化を皮切りとして、SIMロックに関して強硬策を相次いで打ち出していくこととなる。2016年の「モバイルサービスの提供条件・端末に関するフォローアップ会合」の議論を受け、SIM端末分割払いの際にSIMロックを解除できるまでの期間が180日から100日に短縮された他、2018年の「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」では中古端末のSIMロック解除も義務付けられている。

 そして極め付きとなったのは、2018年から2020年にかけて実施された「モバイル市場の競争環境に関する研究会」だ。先にも触れた通り、キャリアがSIMロックをかける根拠は通信料を原資とした端末の値引きにあったのだが、この研究会の議論で総務省はその端末値引きのスキーム自体を禁止し、2019年の電気通信事業法改正によっていわゆる“通信と端末の分離”を義務化。SIMロックの根拠そのものを禁止することで、その後のSIMロック原則禁止の実現へとつなげていったわけだ。

●「SIMロック原則禁止」がもたらすデメリット

 では今後、SIMロックはどうなっていくのだろうか。SIMロック原則禁止を定めた「移動端末設備の円滑な流通・利用の確保に関するガイドライン」の改正案によると、その適用は2021年10月1日からとされている。

 このガイドラインが現状案のまま改正されれば、2021年10月1日以降に販売される端末は基本的にSIMロック解除された状態で販売されることになる。ただし割賦で端末を購入する際、支払いを継続できない可能性があると判断された人に端末を販売する場合に限り、総務省の確認を得てSIMロックをかけることが認められる。

 総務省はSIMロックをなくすことで、大手3社のメインブランドの高額なプランから、MVNOなどが提供する低価格の料金プランへと乗り換える際のハードルを減らし、通信料の低価格競争が一層促進されることを狙っている。それだけに一連の施策が、SIMのみでサービスを提供するMVNOや、「povo」「LINEMO」などのオンライン専用プランにとって有利に働くことは確かだろう。

 一方で、SIMロックの原則禁止が必ずしも全ての消費者のメリットになるとは限らないことも覚えておく必要がある。1つは、端末によって対応する周波数帯が違っているため、他社のSIMに変えることで端末本来の通信性能を発揮できなくなる可能性があることだ。

 そもそもキャリアはiPhoneなど一部の端末を除いて、自社ネットワークで快適に利用できるよう、自社が免許を持つ周波数帯だけに対応させていることが多い。それゆえ、他キャリアのSIMを挿入すると一部の周波数帯が対応しておらず、通信が利用できない場所が生じるといった問題が発生しやすい。

 そうしたことから携帯各社は、販売する端末の対応周波数帯をWebサイトに掲載するなどの対応を取ってはいるのだが、消費者がそうした知識を必ずしも持っているわけではない。それだけにこの点はトラブルのもととなりやすく、解決には消費者のリテラシー向上が求められるところだが、総務省からその具体的な策が打ち出されていないのは気になる。

 いくつかの総務省の有識者会議を傍聴していた所、この問題について有識者からは「キャリアが自社の周波数にしか対応させていないのが悪い。全キャリアの周波数帯に対応した端末を出すべきだ」といった旨の意見も出ていたように記憶している。だが多くの周波数帯に対応させるほど端末側のアンテナ構成が複雑になり、その分端末価格が上がってしまうことを忘れてはならないだろう。

 そしてもう1つは、総務省がSIMロックを前提とした端末値引きそのものを規制してしまったことで、スマートフォンを安く買えなくなってしまったことだ。SIMロックがあっても端末を安く買いたい人には明らかに不利な市場環境となってしまったというのはもちろんだが、5Gのように新しい通信方式に対応したスマートフォンをいち早く普及させる上でも弊害となっている。

 またSIMロックを前提とした値引きができなくなったことで、キャリアが端末値引きで在庫を一掃するといった措置を取れなくなってしまったことから、在庫リスクを恐れてキャリアが調達する端末が売れ筋のものに偏る傾向にある他、独自性のあるオリジナル端末のチャレンジも減少するなど、端末の魅力低下につながるという弊害も起きている。近年、携帯各社の端末発表イベントが縮小傾向にあることが、それを物語っているといえよう。

 これまでの総務省でのSIMロックに関する議論を振り返ると、国内市場の公正競争の追求に熱心なあまり、規制がもたらすデメリットについてはあまり議論されていない印象も受ける。SIMロックの原則禁止、そして端末値引き規制は5Gの普及阻害要因となり、国内の端末メーカーにも大きなダメージを与えるなど産業面では大きな影響を与えているだけに、通信産業の競争力強化という観点に立つならば、規制によるデメリットとその対処についても議論が必要ではないかと筆者は感じている。