auのオンライン専用ブランド「povo」が、その内容を大幅に変え、「povo2.0」に生まれ変わる。サービスインは9月下旬を予定しており、間もなくスタートする見込みだ。同じpovoではあるが1.0と2.0では、ベースとなる考え方が大きく異なる。オンライン専用をうたいつつも、料金体系はこれまでの携帯電話と同じ月額課金だったpovo1.0に対し、povo2.0は売りであるトッピングを全面に押し出し、使う時だけお金を払う仕組みになる。高速データ通信を使わなければ、月額料金は1円もかからない

 総務省の後押しでeSIM対応端末が徐々に増え、大手キャリアも軒並みスマートフォン向けのeSIMサービスを開始したが、povo2.0の料金体系はその仕組みとも相性がよさそうだ。使いたいときだけ必要なデータ容量をトッピングする仕組みは定着するのか。povo2.0の料金の仕組みを解説しながら、KDDIの狙いや業界に与えたインパクトを読み解いていきたい。

●トッピングを主軸に据え、最低利用料金を0円に設定したpovo2.0

 オンライン専用の料金プランとしてスタートしたpovoだが、もともとKDDIは、デジタルネイティブ向けのMVNOとして新たなサービスを始める予定だった。シンガポールに拠点を置くCircles Asiaと協業し、KDDI Digital Lifeを設立したのも、そのためだ。アプリで簡単にデータ容量を追加できたり、オンラインとの相性がいいeSIMを主軸にしたりといった特徴を持ち、既存のサービスとは一線を画したMVNOに仕上げることがうたわれていた。

 一方で、2020年12月にはドコモがオンライン専用プランのahamoを発表。総務省が20GBでの料金値下げを要望していたこともあり、ふたを開けてみると、povoも他社と同じ“諸外国より安い20GBプラン”を実現するための料金プランになっていた。トッピングで24時間定額のようなワンショットのオプションを追加することができるのは他社との違いだが、ユーザー自身で最適な料金を組み立てるカスタマイズの幅が狭くなっていたのも事実だ。

 これに対し、povo2.0は当初掲げていたコンセプトに、より忠実になった印象を受ける。大手キャリアの打ち出す料金として非常に珍しいのが、月額料金を0円に設定していることだ。もちろん、0円のままでは128kbpsでしか通信できず、あくまでほぼ使わない場合に限定されるが、使いたい分だけをトッピングで付け足していくという仕組みは海外キャリアのプリペイドプランのようで面白い。複数のキャリアのプロファイルをインストールしておける、eSIMとも相性がいいサービスといえる。

 トッピングのデータ容量はそれぞれ1GB、3GB、20GB、60GB、150GB。料金は390円(税込み、以下同)、990円、2700円、6490円、1万2980円で、20GB一択だったpovo1.0から選択肢が一気に広がった格好だ。これらのデータ容量は月額料金ではなく、有効期限が設定されている点もプリペイド的だ。1GBは7日間、3GBと20GBは30日間、60GBは90日間、150GBは180日間と、データ容量が多いトッピングほど長期に渡って利用できる。急な出張でデータ容量が足りなくなったときに足したり、まとめてデータ容量を購入しておいて安く済ませたりといった組み立てを自由にできるのがこのトッピングのメリットだ。

 povo1.0で好評だった24時間のデータ使い放題も、330円で残っている。金額はやや高くなったが、24時間限定でデータ容量を気にせず使えるようになるため、特定の日にデータ通信が集中しそうな場合に活躍する。一方で、月額料金制をやめたため、有効期限が切れた場合は、トッピングを再度購入する必要がある。KDDIによると自動更新はなく、ユーザーの意思でトッピングをつける必要がある。ここを面倒と捉えるか、自由と捉えるかは価値観次第だが、少なくとも今までの携帯電話の料金とは“別物”に仕上がっていることは間違いない。

 これらに加えて、新たに「コンテンツトッピング」も用意。スポーツ番組に定評のある「DAZN」の使い放題パックは7日間760円、動画サービスの「smash.」は24時間220円で提供される。いずれのサービスもサブスクリプションサービスとして月額料金で提供されているが、povo2.0のトッピングに合わせて、短期間だけ使えるようになる。毎月見るわけではないため、月額料金を払うのをためらっていたユーザーにとってはうれしいトッピングと言えそうだ。

●アクティブユーザーをいかに増やすか、ギガ活でトッピングの促進も

 KDDIの代表取締役社長、高橋誠氏はpovo2.0でユーザー層が2つに分かれていくと予想する。1つは、60GBや150GBの大容量をまとめて買ったり、24時間使い放題のトッピングを都度追加したりする「アクティブに使う層」(同)。もう1つは、「eSIM(を取りあえずインストールしておく)だけのお客さま」だ。60GBのトッピングは有効期間が90日あるため、約1カ月でならすと料金は20GB、2163円になる。150GBも同額。現行のpovo1.0より20GBあたりの料金が安くなるため、ヘビーユーザーが増えるというわけだ。

 一方で、使わなければ料金は0円で維持できる。180日間の間にトッピングを最低1回つけるなど、契約を維持するための条件はあるものの、いざというときのためのサブ回線として契約する人もpovo1.0のときよりは確実に増えるはずだ。こうした使い方は、複数のプロファイルを端末内にインストールしておけるeSIMと相性がいい。月額料金がかからない料金プランは一定の人気があり、KDDI傘下のビッグローブが始めたdonedoneの「エントリープラン」は、一時SIMカードが不足するほど申し込みが殺到した。povo2.0でも、こうした使い方をするユーザーが増える可能性は高い。

 ただ、どちらのユーザーが増えても、KDDIにはプラスになる。1GBや3GBのトッピングは確かに現行のpovo1.0より安いが、一方で大容量のデータ通信を使うユーザーも集まりやすい立て付けなっているからだ。実際、高橋氏は「povo1.0はトッピングという形で始めたが、アクティブなユーザーのARPU(1ユーザーあたりからの平均収入)は結構高かった。povo2.0も契約をしたあとトッピングを盛り上げていくことで、結果的に多様な使い方をしていただければ、減益にはつながらない」と語っている。

 Circles Asiaが他国で提供しているサービスでも、同様の傾向があるようだ。同社との提携を決め、KDDI Digital Lifeの設立を発表した2020年10月の決算説明会では、「シンガポールの例を見ると、MVNOだから安いのではなく、MNOよりARPUが高いケースもある」(同)と語られていた。オンライン専用のため、ベースの料金は抑えられているが、使った分だけ支払うユーザーが増えれば、その分だけ収益を増やすことにつながる。

 サブ回線として使うユーザーは、もともと月額料金を払うユーザーとはバッティングしないため、契約者の上乗せになる上に、何らかのトリガーがあればアクティブユーザーに変わる可能性もある。そのきっかけになりそうなのが、povo2.0のスタートに合わせて展開する、「ギガ活」と銘打ったキャンペーンだ。これは、小売店やスタートアップ企業との協業で、買い物をしたり、特定のサービスを発見したりするだけでデータ容量をもらえる仕組みのこと。例えば、ウエルシアや丸亀製麺、ローソンでなどでau PAYを使って500円以上支払うと、3日間有効な300MBが付与される。

 他にも、シェアリングサービスを提供する各社と提携し、「FIND povo」と名付けた企画を展開。第1弾として、電動自転車や電動キックボードを提供するLUUPや、傘をシェアするアイカサ、モバイルバッテリーを貸し出すmochaと手を組む。こちらは、街中やバーチャル空間でpovoのキャラクターを見つけるとデータ容量がもらえるキャンペーンで、スタートアップ各社にとってはプロモーションを兼ねた仕組みといえる。

 こうしたキャンペーンを使って無料で手に入れたデータ容量を使い、povo2.0を使うようになれば、ゆくゆくはARPUの高いアクティブなユーザーに“化ける”かもしれない。また、データ容量を付与する形で店舗への送客ができるようになれば、KDDIにとって新たな収益源になる可能性もある。この手のマーケティングにはポイントプログラムが使われるのが定石だが、トッピングのデータ容量に置き換えたところはpovoならでは。ユーザーにどのように受け入られるのか、注目しておきたい取り組みだ。

●1年たたずに姿を大きく変えつつあるオンライン専用プラン、競争の構図にも変化が

 20GBでの料金値下げを実現するため、スタート時点では横並びになっていた各社のオンライン専用料金プランだが、LINEMOが3GBの「ミニプラン」を新設したり、povoがトッピングを前提にしたpovo2.0に鞍替えしたりすることで、一気にバリエーションが増し、各社の特徴が色濃く出るようになった。1プランでシンプルさを打ち出すドコモのahamoに対し、ソフトバンクのLINEMOは低容量プランを追加してMVNOユーザーを狙うが、povo2.0は料金体系そのものをガラッと変えてしまった。

 結果として、オンライン専用料金プランには、各社の置かれた立場が色濃く反映される形になった。ドコモは、Y!mobileやUQ mobileに対抗するブランドがなく、若年層の取りこぼしもあった。シンプルで料金の安いブランドが必要だったというわけだ。逆に、ソフトバンクはもともとY!mobileが好調な一方で、傘下に収めたLINEモバイルからユーザーを巻き取っていきつつ楽天モバイルやMVNOに対抗する必要もあり、3GBのミニプランが不可欠だったといえる。KDDIも低容量から中容量をカバーしたUQ mobileが急速に伸びているため、povoにはデータ容量だけでない差別化が求められていた。

 オンライン専用プランというカテゴリーでは今のところahamoが強く、契約者数も8月6日の決算説明会時点で180万を超えており、povo2.0発表時に約90万のユーザーを獲得しているpovoがこれに続く。ソフトバンクのLINEMOは2社にやや離されているが、前身のMVNOであるLINEモバイルとの合算では100万契約を超えているという。こうした状況の中、povoが料金プランを刷新し、LINEMOがミニプランを加えたことで、契約者数の追い上げが加速するのと同時に、競争の構図が変化しそうだ。2社ともいったんはARPUが下がる恐れは高く、いかにアクティブなユーザーを増やすかが課題になる。

 povo2.0が月額料金を課さない仕組みを採用したことで、新規参入の楽天モバイルに影響を与える可能性も出てきた。楽天モバイルはUN-LIMIT VIで1GB以下なら無料という低料金を打ち出して以降、ユーザー数は堅調に伸びている。povo2.0の場合、0円だと128kbpsでしか通信できない仕組みのため、横並びでは比較できないが、3GBの料金に関しては990円で、1GB超3GB以下が1078円の楽天モバイルより安い。また、povo2.0はトッピングを足すことで中容量や大容量にもしやすくなり、60GBや150GBをまとめ買いすれば、20GBでも楽天モバイルとほぼ同額になる。auのエリアの広さを考慮すれば、金額は非常に魅力的といえる。

 楽天モバイルはショップを構えているのが強みだが、もともとがネット企業なだけにオンラインに強く、リアルな店舗はあくまで販売拠点という位置付け。その意味で、直接的に競合するのは大手3キャリアのオンライン専用プランになる。LINEMOがミニプランを投入し、povoが1.0から2.0へとバージョンアップして料金的な優位性が徐々に失われているため、何らかの対抗策を打ち出してくる可能性もありそうだ。