1年を通して携帯電話が一番売れる時期――それが“春商戦”です。最近はiPhoneの最新モデルが発売になる秋頃も大きな商戦期の1つとなっていますが、春商戦は特定の機種に限らずさまざまな機種の販売や、各種サービスの申し込みでごった返します。

 しかし、ここ2年ほどの春商戦はそうでもありませんでした。2020年は、改正電気通信事業法の影響で携帯電話端末の値引きが制限された影響で売り上げが減った所に、新型コロナウイルス感染症の影響で来客が減ってしまうという“ダブルパンチ”を受けてしまいました。2021年は2020年ほどではなかったものの、売り上げや来客という面では厳しいという販売店も少なくなかったようです。

 では2022年の春商戦はどんな様子なのでしょうか。関東地方において新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく「まん延防止等重点措置」が適用されていた1〜3月の様子を中心に、販売店のスタッフから話を聞きました。

●客が戻ってきた携帯電話売り場

 おととしや去年と比べたら、売り上げは好調です。販売台数も多くなっています。

 ある家電量販店の携帯電話コーナーに勤務するスタッフはこう語ります。他の量販店やキャリアショップに勤めるスタッフに聞いてみても、一部の店頭を除くと2020年や2021年よりはマシになったという共通認識があるようです。

 となると、その「売り上げ」は何が支えているのでしょうか。もうちょっと詳しく聞いてみると、客足が戻ったことが何より大きいようです。

 もう、(お客さまは)新型コロナに慣れてしまったのかもしれません。ワクチン接種が進んで、感染対策としてのマスク着用なども当たり前になりました。スーパーマーケットに行くのと同じような感覚で、携帯電話ショップに寄る人は増えているんじゃないでしょうか。

 おととし、去年と「自粛だ!」ということで端末を買い控えた人も少なからずいるようです。実際、ここ最近スマホを買っていったお客さまのことを思い返してみると、3年以上同じ機種を使っている人が多かったです。 話を聞くと「『外出を控えないと』っていう気持ちもあって、今の機種が使えるので買い替えを見送った」なんていう人もいらっしゃいました。

 確かに2020年春や2021年春の店舗の様子を思い返してみると、春商戦とは思えないほどに“ガラガラ”な状況が珍しくありませんでした。かといって、大手キャリアのオンラインショップで機種変更する人は、読者の皆さんが思うほどには多くありません。

 外出自粛を含めて「買い替えを控える理由」があって、おおむねそれを“解消”できる状況になったために、買い替えにやって来る人が増えた――話をしてくれたスタッフが言うような状況は確かにあるのです。

●新たな“特価商材”が売場を盛り上げる

 販売台数が回復したのは、単に客が戻ってきたことだけが理由ではないようだ。とある「キャンペーン」の効果が少なからず出た結果なのだという。

 iPhoneシリーズを中心に、この春は本体価格が安くなるキャンペーンを実施しています。旧モデルの一括特価販売だけではなく、残価設定型の分割払い限定ですが、最新のiPhone 13シリーズも条件を満たすと23回の分割払いを大幅に値引く取り組みもやっています。 残価の支払いを始める前のタイミングで端末を返却するかどうかの選択を迫られますが、2年間は本体代金の負担がほぼゼロになるケースもあります。「2年で返却すれば支払いはほとんどないですよ」とお客さまには話しています。2年以上使う場合でも、通常価格よりも大きく値引きされていることには変わりないので、さまざまなお客さまにお勧めしやすいです。

 特価キャンペーンを実施すると、機種変更をする予定のなかったお客さまも“おっ”と気が付いて売り場にやってきます。売り場ににぎわいが生まれて、雰囲気もあってか「じゃあ買うか」と買って帰るお客さまも少なくないです。 春商戦といえば、子どもとご両親が一緒に店へとやってくる光景もよく見かけます。子どもにスマホを買うためにやって来るわけなのですが、特価商品を見たご両親が「ついでに買うか」と機種変更していくということも久しぶりに多くなっています。

 買い替えるタイミングを逃して「使えるからしばらくこれでいいや」と思っていたお客さまが、子どもやご家族の付き添いで来店した際に特価端末を見て急きょご購入、というケースが今年は多いです。

 この連載を毎回読んでいる人なら察するかもしれませんが、この「キャンペーン」は、iPone SE(第2世代)など特定の機種を対象にしている値引きのことです。

 よくよく話を聞くと、転売目的など「自分で使うわけでもないのに買っていくお客さまの対応が大変だ」という声も結構ありました。ただ、ハイエンドスマホや定番ブランドのスマホを手頃な価格で買える「キャンペーン」は、春商戦の“盛り上がり”に大きくプラスに働いたことも事実ではあるようです。

●いつもの「学割」が表に出ない春商戦 影響は?

 端末の値引きもあって盛り上がりをある程度取り戻した春商戦ですが、今までの盛り上げ役の1つであったはずの「学割」が目立たなくなったという変化も見逃せない所です。というのも、2021年の夏ぐらいから、「15歳以下」「22歳以下」「30歳以下」といったように、若年層を属性ではなく年齢で区切る割引施策が充実したので、以前のように学生に特化した割引(販売)施策を取らなくなったことが背景にあります。

 実は、このことが販売現場では“意外と”影響を及ぼしているようです。

 今シーズンは、TVCMとかでも“ハッキリと”学割だというアピールする感じではないですよね。今の30歳以下の割引なんかも、15歳以下だと追加で割引などの特典もあるんですが、あまり強くアピールしていないように思います。 そのせいかもしれませんが、例年と比べると学割(若年層の割引)を目当てにした来客は少ない印象があります。

 お客さまから「今年は学割ないんですか?」という問い合わせを受けることはたまにありますね。 今の年齢を区切る割引施策は、春商戦に限らず行われるので、お子さま連れや若いお客さまの集客には強力なツールです。その点では助かっているのですが、この時期に限っていえば「学割やってます!」的なプロモーションにした方が良かったのではないかと思わなくもありません。

 期間を区切る学割としなかったことで、特に30歳以下の集客には一定の効果があるようです。一方で、それゆえに「学割」をきっかけにした来店や集客にはつながりづらくなったという現実が見えてきます。

 もっとも、学割であることはアピールしていないものの、15歳以下や22歳以下を対象とする学割“相当”の追加特典はあります。過去の学割の記憶もあり「この時期だから学割はあるだろう」「さすがに学生ならおトクだろう」と、一種の“勘”に基づいてやってくる家族連れはいるようです。

●久しぶりに盛り上がっている春商戦だが……

 複数店舗のスタッフに春商戦の状況について聞いてきたが、直近2年と比べると忙しくなっているそうです。そういう意味では「春商戦らしい」状況なのですが、その原動力は先述のように端末の特価販売です。

 春商戦が盛り上がる理由は、進級、進学や就職といったライフステージの変化に伴い、携帯電話を新たに契約したり買い換えたりする人が増えるからです。ただ、小学生でもスマホを持つことは珍しくない今のご時世を考えると、春にこだわってキャンペーンを行う必要もないことも事実ではあります。キャリアが若年層向けキャンペーンを事実上通年化したのは、そのような事実を踏まえた動きなのだと思います。

 長く続くコロナ禍の中、店頭へ出向けず「オンラインショップ」で新規契約や機種変更をしたり、店頭で契約や購入手続きに対応しない手頃な「オンライン専用プラン(ブランド)」に移行したりと、店頭に出向かずとも簡単に携帯電話を買えて、料金も抑えられるということに気が付いた人も多くいるでしょう。そうなると、店舗に出向かなくなる人はジワジワ増えてくるでしょう。

 今後、店頭“ならでは”のメリットを打ち出せない限り、以前のような春商戦の盛り上がりは期待できません。「春になったら安い」だけではない、新しい“切り口”で商戦期を作る取り組みが求められるのではないでしょうか。