楽天モバイルが、7月に新料金プランの「UN-LIMIT VII」を導入する。これまで、「UN-LIMIT」「UN-LIMIT 2.0」「UN-LIMIT V」「UN-LIMIT VI」と立て続けに料金プランを改定してきた楽天モバイルだが、いずれも基本的には好意的に受け止められていた。特に、UN-LIMIT VIは1GB以下が0円になる衝撃的な価格設定で、大きな話題を集めた。料金プランは、楽天モバイルが急成長する原動力になっていたといえる。

 ところが、新たに発表したUN-LIMIT VIIへの反響は、これまでとは様相が異なっている。ネットでは「改悪」との声が多く、料金プランが自動移行されることに対しても批判が集まっている。悪い意味で“常識を覆す”モットーを実行してしまった楽天モバイルだが、挽回のチャンスはあるのか。料金改定の理由や、反発が起こっている理由、同社の今後の見通しに迫った。

●1GB以下0円がまさかの廃止に、コスト削減が理由か

 UN-LIMIT VIIと銘打った料金プランではあるが、金額などの中身を見ると、UN-LIMIT VIとの違いは少ない。20GBを超えると無制限になり、金額も3278円(税込み、以下同)でUN-LIMIT VIと同じ。3GB超、20GB以下も2178円で変わっていない。料金プランとしての大きな差は、1GB以下の区分がなくなったことだ。

 UN-LIMIT VIでは0GBから1GBまでが0円、1GB超、3GB以下が1078円だったのに対し、UN-LIMIT VIIでは3GB以下がまとめて1078円になっている。0GBから1GB以下の0円が廃止されたというわけだ。見方を変えれば、契約すると最低1078円の料金がかかるようになったと言うことができる。UN-LIMIT VIIで大きな影響を受けるのが、データ使用量が毎月1GB以下に収まっているユーザーだ。

 サブ回線として維持しつつ、たまに1GB以上使ったり、通話中心で利用したりしていたユーザーにとって、事実上の“値上げ”になる。おきて破りともいえるのが、料金プランが自動で移行されることだ。通常、他キャリアの場合、新料金プランを導入すると、ユーザーが自ら申し込みを行って移行する。値下げされた場合でも、これは同じだ。仮に、新料金プランに移ると料金が上がってしまうとなれば、契約内容をそのままにしておくこともできる。

 これに対し、楽天モバイルの場合、全ユーザーの料金プランがUN-LIMIT VIからVIIへと、自動で切り替わる。移行措置として、7月と8月の2カ月は1GB以下の場合、1078円の値引きを行う他、9月、10月は同額のポイントバックを実施する予定だが、11月以降は既存のユーザーも最低1078円の料金が発生する。反発が集まっているのは、主にこの点だ。

 料金プランとしては改悪だが、楽天経済圏との連携は強化している。もともと、楽天モバイルの契約者は楽天市場などでのポイント付与李が1%上がっていたが、UN-LIMIT VIIでは、これが2%に上がる。さらに、楽天モバイル契約者でかつダイヤモンド会員の場合、ポイント付与率がもう1%上乗せされる。それぞれ上限1000円までだが、毎月何らかの形で楽天グループのサービスを利用するユーザーには、改善になっている。

 鳴り物入りで登場したUN-LIMIT VIの1GB以下0円を廃止したのはなぜか。これを問われた楽天モバイルの代表取締役会長、三木谷浩史氏は、新たに開始するキャリアメールや通話料が無料で使えるRakuten Link、さらにはエリアの広がりなどを挙げつつ、「サービスレベルもかなり上がった」と語る。エリアやサービスで他社に後れを取っていた分、料金でインパクトを出していたが、サービスが増え、人口カバー率も97%を超えた今、その必要がなくなったというわけだ。

 また、三木谷氏は、同日開催された決算説明会で「ぶっちゃけ、0円でずっと使われると困る」とも述べ、コストがかさむだけの“0円ユーザー”を減らしたかった本音ものぞかせた。確かに、会社として投資をし、多額の資金を投入したネットワークを0円で使い続けられるのは楽天モバイルにとっては負担になる。サービスに対してある程度対価を取るのは自然なことだ。0円プランに関しては、他社からも批判が集まっており、総務省の有識者会議では競争環境をゆがめる「価格圧搾」の疑いもかけられていた。

●なぜ批判が噴出したのか、プラン変更の進め方や金額も理由か

 反発が大きかったのは、そのやり方が強引に見えたからだろう。他社が新料金プランを導入するときのように、UN-LIMIT VIとは別にUN-LIMIT VIIを作り、移行したいユーザーだけが選択できるのであれば、ここまで批判は集まらなかったはずだ。楽天モバイルも、「当初は(料金プランを変えたくないユーザーは)UN-LIMIT VIのままでいいと考えたが、法律上ダメになった」(同)という。楽天モバイルによると、こうしたやり方は、電気通信事業法27条の3に反する恐れがあるという。

 電気通信事業法27条の3では、競争を妨げる不当な利益供与が禁止されている。具体的なルールは施行規則に記載されており、1年あたりの料金の値引き額の合計が、1カ月の利用料を超えないことが提供条件として定められている。これは、もともと、主に長期利用者を過度に優遇した結果、競争の流動性が下がることを防ぐために導入されたものだ。楽天モバイルによると、UN-LIMIT VIとVIIの差額を割引と見なした場合、その額が1カ月あたりの料金を超えてしまうため、既存のユーザーにUN-LIMIT VIを提供し続けるのが難しいという。

 ただ、UN-LIMIT VIの1GB以下0円は割引ではなく、あくまで正式な料金プランとして導入されていたもの。現行の料金プランより割高な新料金プランを導入した際に、その差額を割引と見なすのは、牽強付会(都合良くこじつけること)な印象も受ける。法令順守を盾に、もうからない“0円ユーザー”の排除に踏み切ったと捉えることもできてしまうからだ。過度な囲い込みを防ぎ、競争を促進することを目的とした法の趣旨に鑑みると、自動移行を正当化する理由として適切だったかには疑問符がつく。価格圧搾や不当廉売の疑いを解消するためとした方が、まだロジックとして受けやすかったかもしれない。

 三木谷氏は「常識的に考え、それほどの負担にならないということで判断した」と語るが、1GB以下の場合の料金が、0円から1078円へと一気に上がってしまうのも、UN-LIMIT VIIへの反発が大きかった理由といえる。大手キャリアのオンライン専用ブランドの場合、3GB程度のデータ容量はおおむね1000円前後。1GB以下の低容量プランはMVNOの主戦場で、日本通信が290円、NTTコミュニケーションズが770円で提供する。自社で設備を持つMNOが同程度の価格にするのは難しいかもしれないが、低料金を売りにする楽天モバイルであれば、1GB以下をもう少し安くすることはできたはずだ。

 三木谷氏が語っていたように、確かに新規参入当初と比べれば、エリアは広がり、Rakuten Linkなどのサービスも充実しはじめているのは事実だが、人口カバー率が99%を超えている既存キャリアとはまだ差も大きい。広さだけでなく、平均的な通信速度でも開きがあるのが現状だ。KDDIのpovo2.0は3GBトッピングを、ソフトバンクのLINEMOは3GBの「ミニプラン」をいずれも990円で提供しているが、こうしたキャリアとトータルで比較すると、楽天モバイルの低容量帯は割高に見える。

 1GB以下を0円にする大盤振る舞いぶりは、当初から継続が懸念されていた。これに対し、楽天モバイルは、楽天経済圏全体での収益を上げ、他のサービスで収益を補うビジネスモデルを描いていた。UN-LIMIT VI発表直後に行ったインタビューでも、同社のCMO(Chief Marketing Officer)を務める河野奈保氏は、「今まで楽天の他のサービスを使っていなかった方が、楽天モバイルから楽天エコシステムに入ることも数とはしては多い」とコメント。「このプランはアグレッシブすぎるわけではない」と語っている。

 先に挙げた「ぶっちゃけ、0円で使われると困る」という三木谷氏のコメントは、この戦略が思惑通りには回っていなかったことを示唆している。とはいえ、継続的に提供できるか少しでも不安があるのであれば、料金プランにすべきではなかった。料金プランとは、ユーザーとの契約、言い換えるなら約束にほかならない。約款上、金額を改定する自由は残されているものの、頻繁な改定は信頼を失う。反故(ほご)にする恐れが少しでもあるのであれば、まずはキャンペーンとしてトライアル的に導入した方が、リスクは少なくなる。この点は、楽天モバイルの経験の浅さが露呈した格好だ。

●ユーザーの流出は増える可能性も、黒字化の確度は上がる

 楽天モバイルの代表取締役社長、矢澤俊介氏は「離脱(解約)に関してはもちろんゼロではないが、ほとんどが残っていただけるのではないか。データ利用料が少ない方でも、楽天市場でのお買い物がものすごくあれば、ポイントを6倍(楽天カード契約などを含む)にしたのでトータルでのメリットがある」と語っていたものの、ポイント還元を理由に低容量のユーザーが本当にとどまるのかは未知数だ。先に挙げたように、3GB以下の場合、他社の方が金額的には安価になるため、楽天モバイルが草刈り場になる恐れもある。

 楽天モバイルへの対抗としてpovo2.0を基本料0円にしたKDDIにとっては、ユーザーを奪い返すチャンスが到来したといえそうだ。同日開催されたKDDIの決算説明会では、代表取締役社長の高橋誠氏が「povoでも0円スタートをやっているが、あの0円と楽天モバイルの0円では意味合いが違う」とコメント。「今のところ(0円を)やめる理屈がない」と継続的に提供する意向を表明した。

 povo2.0は基本料0円だが、そのままの状態だと通信速度は128kbpsに制限される。高速通信を利用するには、有料のトッピングを購入したり、「ギガ活」と呼ばれるキャンペーンを行っている店舗で決済をしたりして、クーポンコードを取得する必要がある。「0円から始まるが、その上でトッピングによる価値を提供している」(同)ため、楽天モバイルの1GB以下0円とはビジネスモデルが大きく異なる。サブ回線としてもしもの時のために無料で回線を維持したいユーザーは、ここに流れる可能性が高い。

 楽天モバイルのUN-LIMIT VIでユーザーを奪われたMVNOも、少なくない。例えば、mineoを運営するオプテージは、11日に開催された総務省の有識者会議で、同社からの転出先として最も多いのが楽天モバイルだとしつつ、「MVNOにとっては大きな脅威」だと語った。価格にセンシティブな低容量のユーザーが、この1年でMVNOから楽天モバイルに移ってしまったとみられる。こうしたMVNOにとっても、UN-LIMIT VIIの導入はユーザーを取り戻すチャンスといえる。

 一方で、収益性が改善されることなるため、楽天グループの株価は上昇している。同社の契約者数は、500万に拡大しており、収益基盤が固まりつつある。コスト面で重石になっているKDDIのローミングも自社エリアの拡大とともに減りつつあるため、黒字化を達成できる確度は上がったといえる。0円で利用していたユーザーをどの程度つなぎとめておけるのかにもよるが、もともと、コストにしかなっていなかったため、解約されても収益面ではプラスになるからだ。ただ、もう少しスマートに料金プランを移行する術はなかったのか。信頼を取り戻すには相応のコストがかかるだけに、今回の料金プラン変更のやり方は禍根を残しそうだ。