ここ最近、スマートフォンの特価販売が復活してきました。この連載でも、その模様を数回に分けてお伝えしました。

 特価販売の復活に伴い、春商戦では最新の「iPhone 13シリーズ」を始め、人気モデルが「一括1円」「一括9800円」「実質23円」など、大幅な割引が行われました。店舗によっては、割引の総額が税込みで10万円近くになるモデルもあたようです。立て付けは異なるものの、電気通信事業法の改正前に戻ったかのような価格でスマホを買えた格好です。

 5月に入り、春商戦は実質終わりましたが、店舗によっては「連休特価」「月末特価」といった形で同様の割引販売は続いています。そうでない店舗でも、エントリーモデルやミドルレンジモデルを“活用”した値引き販売が積極的に行われています。

 このような値引き販売によって、携帯電話販売店(キャリアショップや併売店)はもちろん、家電量販店の携帯電話コーナーも活気を取り戻しつつあります。販売店のスタッフも大喜び……と思いきや、新たな悩みを抱えてしまったようです。

 今回の「元ベテラン店員が教える『そこんとこ』」では、特価販売の復活の“裏”で生まれた新たな問題について、販売店スタッフに聞いていきます。

●忙しさは戻ったけれど……

 最新のiPhoneが一括1円――数年前なら“当たり前”の光景でしたが、2020年1月までに完全施行された現行の電気通信事業法の規制によって、売り場から特価が“消滅”してしまったことは記憶に新しい所です。

 法改正の結果、携帯電話販売店や家電量販店における携帯電話回線や端末の販売ボリュームは激減。ちょうど新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい始めたこともあり、店舗が閉鎖されたり、そこまで行かなくても1店舗当たりの人員削減を進めたり、売り場面積を縮小したりという動きも多く見られました。筆者がかつて働いていた代理店でも、店舗の統廃合をかなり進めたと聞いています。

 そんな中、昨今の端末販売施策は、販売台数の急増につながっているようです。前回の記事でも触れた通り、端末の販売増加は売り場の活気付けに一役買いました。春商戦が落ち着いた後、複数人の販売店スタッフから話を聞いてみた所、こんな声が寄せられました、

 3月末までと比べると、施策の数は減って割引総額は減りました。それでも、まだまだ現役で使える高性能モデルを安く販売できるので、特に週末は法改正以前のようににぎわうようになりました。

 このコメントだけを聞くと、「ショップにお客さんが戻ったのか。良いことなのかな」という感想を持ちます。実際、程度の差はありますが、話を聞いたスタッフが勤める店舗は「売り上げはおおむね好調」のようです。

 しかし、この好調の裏で、スタッフは新たな不安や不満を抱えることになりました。「買い回り」や「転売前提の端末購入」をする「お客さま」の出現です。このような「お客さま」が、店舗スタッフの新たな“頭痛のタネ”になりつつあります。

 スタッフからはこんな声が挙がっています。

 このような割引施策を長らくやっていなかったこともあってか、契約後にすぐ端末を売ってしまいそうな「お客さま」がまた増え始めました。「どこから来たの?」「わざわざ来たの?」と思わず聞いてしまいそうないきおいで……。 (割引に厳しい制限のかかった)法改正後はしばらく見かけなかったこともあって、ちょっと面食らっています。まあ、またすぐ慣れてしまうんでしょうけども……。

 「プランの説明とかはいい! 分かっているから早く契約を完了させてくれ!」という感じ慌てた感じで契約を進めようとするお客さまが本当に増えました。プランの内容や端末購入に関する注意事項を“本当に”分かっているなら、それでも大丈夫とは思うのですが、万が一契約に当たってトラブルに遭遇した場合、お客さまの責任とされてしまう可能性が高まるので急ぎの契約はお勧めしていないのですが……。 契約に当たって、重要事項を確認したという証跡として、お客さま自らに書面への「レ点チェック(注意事項を確認したことを示すチェック入れ)」と「本人署名」をしていただいています。なので、店舗側の抱えるリスクは限定的ではあります。それでも「何だかなぁ……」という気分になってしまいます。

 開店前から長蛇の列を作って、詰め寄るように「一括1円のiPhoneをすぐくれ!」みたいな「お客さま」が有意に増えているんですよね……。

 端的にいうと、普通に買い換えるために相談に来た来店客よりも、値引き施策の入った特価機種を“指名”して買っていく「お客さま」がとにかく増えたということです。店舗スタッフの立場からすると、このような「お客さま」への感情は複雑のようです。

 僕らの立場からすると、普通の一般のお客さまであっても、転売前提で買って行く「お客さま」であっても、販売実績としては同じ“1台”です。販売台数が伸びれば、(キャリアから支払われる手数料に影響する)販売成績にはプラスになります。正直にいうと悔しいのですが、販売台数が振るわなかった時期がそこそこ長かったこともあって、転売目的であっても買ってくださって「助かる」面もあります。 ただ、自分で使うことを目的としない端末販売が目立つようになると、法律かガイドラインによって規制が入るのではないかと危惧しています。総務省の会合の議論を見ていても、何らかの規制を入れたいという意図が見え隠れしていますし……。 そのことを踏まえると、端末だけを購入しようとする「お客さま」が増えるのは手放しで喜べない状況です。

 現状において一番安く購入できるのは、やっぱり「乗り換え(MNP:携帯電話番号ポータビリティ)」です。昔と比べると「(MNPでない)新規は10万円、MNPなら1円」とかいう極端なものではなく、割引額は少なめかもしれませんが新規や機種変更でも適用できる割引も増えました。「新規や機種変更は少し、MNPではそこそこの割引」といった感じでしょうか。 でも、昔と比べて現在が違う所は、懐を痛めずに乗り換え用の弾(※2)を用意しやすくなったことです。特にMVNOは弾として使いやすい事業者が多いですから、SNSなどを見てみると「MVNOの音声プランを新規契約→大手キャリアへMNPして端末の割引をゲット→端末を売った後に解約」みたいな遷移をする「お客さま」を見かけることもあります。 これ、総務省でなくても「競争としておかしい」という声が出てきそうですよね……。

(※2)弾(たま):他キャリアへのMNPを行うことを前提に契約する携帯電話回線を表す隠語。特性上、契約解除料や最低契約期間の設定のないキャリアやプランが好まれる

 キャリアが携帯電話販売店を“評価”する仕組みにはいろいろあります。昨今の法令改正に伴い仕組みの見直しが一部で行われてはいますが、端末の販売台数が有力な指標の1つであることに変わりはありません。売れ方はさておき販売台数が増えるとありがたい――これは多くの販売スタッフの“本音”です。

 ただ、現行の法令における値引きの制限は、同じ端末を使い続けている人の買い換え(機種変更)よりも、利用目的のない契約を使っている人の乗り換え(≒弾を使って端末を安く買って、その後すぐ解約する人)が“優遇”されている状況を是正することが目的の1つ。組み立てが違うとはいえ、最近の割引にも「使わないユーザー」が群がってしまっています。ゆえにこの値引き手法は長く続けられないと思われます。

 とはいえ、端末の値引き販売は、店舗の活気を生んでいることも事実です。これが封じられてしまうと、少し前までの「冬の時代」に逆戻りするでしょう。もっといえば、「販売店」の在り方(売り上げや利益を得るための構造)を抜本的に見直さざるを得なくなります。

 あるスタッフの言葉を借りると「売れるのはうれしいけど、(これで規制強化されてしまう可能性もあるので)うれしくない」というのが、現在の状況のようです。

●転売前提の「お客さま」への対策に対する販売店の対策

 販売スタッフのモヤモヤの原因の1つでもある、転売前提の「お客さま」の来店。店舗、あるいはキャリアはもちろん、販売店も転売に対しては一定の対策を講じています。

 特価販売の端末には「お1人さま1台限り」という制限を設けています。もし5台同時に契約したいといわれた場合でも、ご来店のお客さま1人につき限り販売台数を1台に限ることで、転売目的でのまとめ購入を防げます。 転売目的の「お客さま」は同じ端末を何台も買おうとする傾向にありますから、意外と効果はあります。

 契約手続きの完了時に、端末の動作確認を必ず行うようにしています。パッケージを開封して、電源を入れて、架電の確認までが一連の動きです。 端末をすぐに売却する前提だからか、「SIMカードは別の端末で使うから端末の箱は開けないでくれ」と言われることもよくあります。買い取り業者によっては、開封すると査定額が下がることもありますからね……。

●転売抑止をするには「システム」が必要

 まとめ買いや買い取り時の査定額が下がるような「対策」を講じている販売店ですが、「買う」側も無策ではありません。上記の対策では防げない購入もあるといいます。

 「『1人1台』なら『2人2台』だ」ということで、家族を連れて「買い」に来る「お客さま」もいます。で買いに来ればいいと、家族を連れてくる人も多いです。家族連れであれば、普通の「利用目的の契約」との見分けは難しいですからね。 家族まで使うのか……と正直驚いてしまうのですが、そこまでやってでも転売したいという人もいるのです。

 一部で「買い回り」と呼ばれているようですが、うちだけじゃなく他店でも同じ端末を買っているという人がいるんですよね。手続きを進めている際に「他店はもっと早くやってくれた」とか「今日はここ(他店)の方が安い」とか、よそでも買っている話を堂々とする人も少なくないです。 本当であれば、その話を聞いた時点で販売を断ればいいのかもしれません。しかし、システム上「契約不可」とならない限り、そうも行きません。顧客管理システムで「買い回り」を検知できるようになっていればいいのですが……。

 「買い回り」という呼び方もある通り、最近は複数のお店を巡って特価品を購入するような人もいて、SNSでその様子を“披露”する人もいます。1店舗だけでは防ぎようがありませんし、システムを使って未然にはじくことも困難です。

 以前、この連載でも取り上げていましたけど、キャリアの顧客管理システムで確認できる契約情報には限りがあります。私たちのような一般の販売店では、買い回りを検知できるような情報は確認できません。 一般販売店の場合、契約を承認するかどうかの判定を上位の代理店やキャリアが運営する「審査センター」が行います。その判定過程で「過去90日以内に機種変更をしている」「最近新規契約を行った」といった情報は提供されますが、1人(1名義)1台限り適用できる施策を適用済みかどうかという情報は提供されません。

 システムベースで買い回りを抑止する仕組みがないので、現状では店頭での「約束」「お願い」ベースでしか転売を防ぐ術がありません。台数を限定したり、購入後の開封を実施したりと、店としてできる対策はしているのですが、さすがに他店で買えてしまう“穴”までは防げません。 1日の来店が少ない店なら「さっきも来てましたよね」「先週も来てましたよね」とお客さまの顔は覚えられるかもしれません。しかし大規模な店は、来店客が多いのはもちろんですがスタッフも多く配備されています。「前に買ったお客さまだ」と認識せずに再び案内する可能性はゼロではありません。 繰り返しですが、現在はシステムで不適正な購入者を検知することに限界があります。システムでアラートを出すなど、仕組みを整備しないと「健全な販売」の実現は難しいと思います。

 販売店としては健全な契約/販売を実現したいと苦心しているものの、システム面で限界があるという悩みを抱えている様子が伺えます。

●規制は必要 でも厳しすぎると自らのクビを締めるジレンマ

 法規制や競争の進展によって、携帯電話料金はここ数年で安くなりました。一方で、ハイエンドモデルを中心に端末価格が高騰しています。端末が高いとなると「買い控え」が起こるのは当然です。

 ここ数カ月の店舗の様子を見れば、端末の割引販売が店舗にとっての「カンフル剤」として有効なのは明らかです。しかし、そのことに目を付けて転売目的でやって来る「お客さま」も再び増えてしまったことも事実です。「利用するユーザーに対して適切な還元を行う」という観点に立つと、現状は決して健全とはいえません。

 この現状について、あるスタッフの言葉が印象に残ります。

 現在の法令が携帯電話販売店の苦境を深めたということについて、総務省はどう考えているんでしょうね……。自分たちの政策が各方面にどのような影響を与えたのか、負の側面も含めてしっかり検証してほしいと思います。 総務省の有識者会議の様子を見ていると、法律やガイドラインで転売を規制したいという意図を感じます。しかし、先の改正法令の検証をすることなく、法令改正によって販売に関する規制をを強化してしまっては規制にがんじがらめになった携帯電話販売店が余計に窮地に陥る可能性もあります。 「新しい稼ぎ口を見つければいい」とか「そんな商売はやめてしまえばいい」という人もいますが、それでもやっていける販売店(代理店)は一握りだと思います。何より、オンラインに順応しきれない人の受け皿としての販売店を無くすのはかなり難しいと思います。ITmedia Mobileの読者の皆さんは「若い人なら何とかなる」と思っているかもしれませんが、インターネットをうまく使いこなせない若い人も思った以上にいるんですよ。特に地方部ではそれが顕著です。 総務省は、携帯電話を持っている人を支える存在としての販売店をなくしてもいいと考えているんでしょうかね……? 法令改正で右往左往させられるのは、もうウンザリです。

 この声を、総務省や有識者はどのように考えるのでしょうか……?