2021年12月にドコモのエコノミーMVNOに参画したトーンモバイルだが、サービス内容はその後も矢継ぎ早に進化させている。2022年2月には、当初iPhone用だけだったサービスをAndroidにも拡大。トーンモバイル自身が手掛ける端末を、取り次ぎ販売で提供することで、もともと同社が得意としていた垂直統合型のサービスを実現した。そんなトーンモバイルが、新たに投入したのが5G対応モデルの「TONE e22」だ。

 TONE e22は、6.67型のフルHD+ディスプレイを搭載したミッドレンジのスマートフォン。プロセッサには、MediaTekの「Dimensity 700」を採用しており、レスポンスも向上させた。メインカメラのセンサーは4800万画素。ワイヤレス充電にも対応する。トーンモバイルが得意とする独自のソフトウェアも、TONE e22に合わせてアップデートしており、同社の端末をハブにしてファイルを交換できる「OneDrop2.0」を内蔵した。

 さらに、「5G時代のスマホ生活を先取りできる実証実験」として、「TONE Labo」を開始。これは、医師などに健康相談ができる「TONE Care」や、ブロックチェーンを活用したポイントシステムの「TONE Coin」などをパックにしたもの。実証実験のため料金は無料で、加入すると1万円の端末割引を受けられ、2万1780円(税込み)で購入できる。トーンモバイル初の5G端末を開発した狙いはどこにあるのか。フリービットで代表取締役社長CEO兼CTOを務める石田宏樹氏に話を聞いた。

●TONE e22の予約件数は過去一番よかった

―― 6月1日にTONE e22が発売になりました。直後のインタビューですが、発表後からの反響も含めて現状の動向を教えてください。

石田氏 予約件数は、過去一番よかったですね。Webでポンと跳ねましたが、店舗は週末(インタビューは6月2日に実施した)からだと思っています。ここまで作り込めるようになったのは初めてで、まずお店の方からの反応が全然違います。昨日も大きなドコモショップに行きましたが、特徴をきちんと分かっていただけていました。

 ただ、店舗によってはまだ前モデルが展示されています。基本的には週末(6月4日)に置き換えていきますが、ドコモショップの中には、まだトーンモバイルをあまりご存じでない店舗もあります。うちの母が田舎でドコモショップに行ったら、「トーンモバイルって何ですか?」と聞かれてしまい(笑)。ドコモのメカニズムで研修は相当やりましたが、まだそういうところも残っています。

―― 2400店舗もありますからね。3割減ってしまうようですが……。その影響はありますか。

石田氏 店舗が減ったとしても、もとの数よりは増えるので(笑)。エコノミーMVNOを始めて、100店舗から一気に24倍に増えましたが、そのインストールがまだ終わっていない状態です。中央部は対応が早いのですが、そうでないところに対しては、今からレクチャーをしていく形です。先日も、900人ぐらいのショップの方に対してレクチャーできる場を作っていただきました。ドコモにとっての繁忙期にAndroidを売り始めたこともあり、優先順位を取るのがちょっと難しかった。それを、今やっていただいています。それもあって、2400店舗のマックスパワーはまだ分かっていない状態です。

●TONE Coinをどう受け入れてもらえるかが一番難しい

―― TONE e22の話に戻りますが、この端末の特徴を教えてください。1世代前のモデルから、どういう点を主に進化させたのでしょうか。

石田氏 ベースのところで言うと、CPUを上げてバランスを取り、5Gに対応しました。日本のスペックとして入っていないのは、防水とFeliCaぐらいです。TONE Coinを動かすという戦略があったため、それに基づいてメモリなりストレージなりを最適化していきました。

―― ブロックチェーンを動かすことをベースにスペックを決めていったということですね。

石田氏 端末は3年なり、4年なり使う方が多い。5Gや5G SAでどういうアプリや利用方法があるかを考えた中の1つとして、ブロックチェーンがありました。今回は実験段階として使えるようにしていますが、チップセットにはセキュアエレメントに準ずるものが入っています。チップセットメーカーともいろいろとやりとりをして、その中で使えるものを実装しました。そこは普通とは違うところですね。

―― その1つがTONE Coinです。

石田氏 あれは7年ぐらいかけてやってきたプロジェクトで、やっと世に出せるようになりました。実際、あれをどう受け入れてもらえるかが一番難しいところです。割引を入れたのもありますが、初日の申し込みで言うと、100%がTONE Laboに加入しています。

―― コインの使い道として、dポイントとの変換ができるとリアルな店舗でも使えて面白いなと思いました。

石田氏 さあ、どうでしょう(笑)。エコノミーMVNOに参画した意義として、ブロックチェーンのようなことは試してみたいというお話は(ドコモと)していました。これからどうなるかは分かりませんが、そうなればすごくいいと思っています。

―― 初期設定だと充電状態のみ、コインがたまる仕組みですが、常時動かすとどのぐらいバッテリーを消費するものなのでしょうか。

石田氏 そこまで(の消費)はありません。ブロックを生成するタイミングなどの最終調整をしていますが、それによってもバッテリーの持ちが大きく変わってきます。発表会では1時間あたり3%ぐらいと申し上げていましたが、今時点で1〜2%ぐらいです。ただし、そのときに接続しているのがWi-Fiなのか、4Gなのか5Gなのかでも、バッテリーの消費量が違います。フルに5Gで動かすと3%ぐらいですね。それもあり、チャージ中だけにするか、フルで動かすモードにするかは、お客さまが選べるようにしています。

―― コインはどの程度たまるのでしょうか。

石田氏 人数によります。母数がどのぐらいかによって、中のアルゴリズムが変わる構造で、少ない時には取得する量が減ります。ただ、少なくともトーンモバイルの支払いでたまるdポイントよりはたまります(笑)。そこは結構ビックリするところだと思います。

―― 収益はどう上げていくのでしょうか。

石田氏 ポイントシステムは、もともと分散型の仕組みで動いています。カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のCIO(チーフ・イノベーション&インフォメーション・オフィサー)をやっていたのでよく分かりますが、ポイントシステムは巨大で、セキュアにするのはコストがかかります。それだけを考えても、(TONE Coinは)採算が合います。その上で、ブロックチェーンのプロジェクトを動かし、いろいろなことができます。

 ブロックチェーンは産業用に使われていかなければならないと思いますが、今までは仮想通貨やNFT以外の使い道がありませんでした。原因として同じことをオンプレ(オンプレミス、自前運用の意)でやった方が安いということもありましたが、そうでない使い道としてポイントシステムがあります。

●MVNOがeSIMを使えるようになったことはすごく大きい

―― 5G SA対応をうたっていますが、ドコモはまだコンシューマー向けのサービスを開始していません。ハードウェアとしては対応しておき、ドコモが始めた段階で対応するということでしょうか。

石田氏 基本的にはそういった可能性を含めて考えています。TONE e22にはeSIMが入っていますが、そのとき(5G SA対応するとき)にはOTAでeSIMのプロファイルを入れて対応するということもできます。ファームウェアのアップデートは必要になりますが、ハードウェア的には対応しています。

―― eSIMはそのためだったんですね。とはいえ、現時点ではまだトーンモバイルとしてeSIMを提供していません。これはいつ頃の予定でしょうか。

石田氏 機種変更した場合や、端末が壊れて再購入した場合のフローを含めて考えていかなければなりません。われわれのユーザーに、それがどこまで分かるかというのもあります。今、EIDの仕組み(ドコモのeSIMは、MVNOも含め、EIDと呼ばれるeSIMの識別番号をユーザー側が登録する必要がある)も含め、全てZEN(トーンモバイルの端末を自動設定する仕組み)の中でやろうとしていますが、ドコモと接続するAPIの中で、調整しなければいけないことが残っています。その辺まで自動化できれば、最もスムーズになります。

 MVNOがeSIMを使えるようになったのは、すごく大きなことです。われわれも準備はしていました。われわれにとってSIMカードの在庫がなくなるのはすごくありがたい。2300店で店頭在庫を持つのは、結構厳しいところがありますからね。

―― MVNOとして、5Gのメリットはどのようなところにあると見ていますか。

石田氏 われわれは低レイテンシ(遅延)に特化しています。アプリケーションとしては、IP電話やメッセンジャーがあり、TONE Careという遠隔健康相談のサービスでも、低遅延が生きてくると思います。

―― MEC(マルチアクセス・エッジ・コンピューティング)を入れないと、無線区間だけではあまり低遅延にならないという話もありますが、いかがですか。

石田氏 ただ、IP電話を見ていると、結構違いがあります。小さなUDPのパケットがたくさん流れるものは違いが出ていて、通話がよりスムーズになる。5G SAになって、スライシングのようなものが入ってくるのは楽しみです。IP電話では、広帯域の電話というようなものもあり得ると思います。YouTubeで中継する方や、Instagramでライブをする方も増えていますし、スマホのマイクもどんどん性能がよくなっています。電話というとちょっと違うのかもしれませんが、そういったものもあると思っています。

●TONE e22は2万1780円だとほぼ利益は出ない

―― TONE Laboは無料で提供していますが、この狙いを教えてください。このサービスは、無料で続いていくものなのでしょうか。

石田氏 将来、実証実験が終わった段階で有料にする可能性はあります。ただ、あれがそのまま有料になるのではなく、有料サービスとして別のものを立ち上げていきます。

 ただ、TONE Laboの中にも、今後、いろいろなものが加わっていきます。例えば今は健康相談ですが、保健医療までやりたいという話もあり、そこまでいければと考えています。われわれが目指しているのは、健康相談が来たときにセンサーで取った情報を使うことで、ある程度の予測ができるというものです。今はシニアやお子さんのゲーム依存に特化していますが、これもデータがあるだけで全然違う。移動情報も、どのぐらいの強度で移動したかというような情報は、健康相談の際にパーミッションを得て取得しています。

―― とはいえ、端末の割引まで提供しています。これは採算が取れるのでしょうか。

石田氏 割引は実証実験に参加していただける母数形成が目的で、フリービット全体としては、インキュベーション(事業の立ち上げ支援)のゾーンに入っています。1モニターの獲得コストだと考えれば、十分採算に合います。

―― 逆に言えば、2万1780円だと端末としての利益は出ないということですね。

石田氏 定価であれば利益は出ますが、2万1780円だとほぼ利益は出ないですね。ここはドコモも本当に驚いていたところです。

●ドコモショップでもiPhoneよりAndroidの契約が多い

―― 現状だとトーンモバイルの端末だけですが、iPhone用のSIMカードにもTONE Laboを提供していくことはありますか。

石田氏 次はiPhone(用のネットワーク)を5G化する準備をしていますが、TONE Careのようなものは全部iPhoneでもできます。ただし、TONE Coinはちょっと難しいかもしれない。アプリが前面に出ていないと動かなくなってしまうので、これはAndroid中心になるかもしれません。個別のサービスに申し込めるようになるのは、早い段階でできると思っています。

―― エコノミーMVNOでAndroidの販売を始めましたが、全比率として、iPhoneとAndroidはどのぐらいの比率になりましたか。

石田氏 iPhoneが1、Androidが3で1:3ぐらいですね。昔はこれが1:7ぐらいで、Androidの方が圧倒的に多かったのですが、差が縮まっています。iPhoneは、端末が一緒に買えることもあり、エコノミーMVNOに絞りましたが、それでも1:3でAndroidの方が多い。これは、われわれの特徴を完全に生かせるのがAndroidだからだと思います。ただし、エコノミーMVNOの開始に合わせて、iPhoneの管理機能が確実に動くところには持っていきました。

―― ドコモショップでの取り次ぎ販売はそれなりに数が出ているということでしょうか。

石田氏 取り次がれている店舗と、そうでない店舗があり、これが均等ぐらいになれば期待していた通りになります。まだムラがあるので、そこは丁寧に回していきます。

―― 取り次ぎ販売という形態が想定外で驚きましたが、一部店舗に限って在庫を置くようなことはしないのでしょうか。

石田氏 そうすることも想定はしていましたが、今の状況を見ると、なくても大丈夫そうです。(店舗ですぐに受け取りたいという)声はほとんど挙がっていません。実はドコモもそこを心配していて、重要店舗には置きましょうか? という話はしていましたが、今のところ問題なくできています。今は店舗でのお勧めというより、指名買いが多いからかもしれませんが。

●今後の新機種投入ペースは?

―― 今回はドコモの夏モデルと時期も非常に近く、説明会では一緒に扱われていました。今後も時期はある程度合わせていくのでしょうか。

石田氏 商戦期に合わせるのはいいと思います。ドコモ側の機種数もそんなに多くはないので、取り上げられ方を見てもよかったと思います。

―― 今後も、このペースで新モデルを投入していくのでしょうか。

石田氏 2019年ぐらいから年1回ぐらいのペースになっていますが、今回のTONE e22は結構スペックが高い。どうなるかは、これからの販売状況次第です。もう1つ重要な要素としてあるのが、半導体不足です。円安もあり、30%ぐらい値段が変わってしまうこともあります。その辺も含めて、今(後継機の投入をどうするかは)考えているところです。

―― 最後に、楽天モバイルの0円廃止の影響を伺いたいのですが、MVNOによっては新規契約が増えているところもあります。御社はいかがですか。

石田氏 さすがに倍増というのはないです(笑)。確かに10%から15%ぐらい増えてはいるのですが、その要因かどうかは分かりません。(他より増えていないのは)対象がまったく違うのかもしれないですね。

●取材を終えて:ユーザー層に合わせた5Gサービスを同開発していくか

 TONE e22は、トーンモバイルが5Gならではのサービスを実現するために開発された端末という位置付けだ。eSIMに対応したのも、5G SAの開始を見越してのものだった。MNOから借りた帯域をユーザーがシェアするMVNOでは、5Gになったからといってスループットは出しづらい。そのため、5Gの中でも低遅延に特化したサービスを、TONE e22の上に投入していく形になる。

 とはいえ、こうしたサービスは、“Labo”と銘打たれているように、あくまで実証実験の段階。子どもやシニアの多いトーンモバイルのユーザー層と、TONE Coinのようなサービスがどうマッチするのかが見えづらいのも事実だ。5Gを生かしたうえで、ユーザー層に合わせたサービスをどう開発していくのか、同社の次の一手にも期待したい。