楽天モバイルが7月から提供する新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」は、1GB以下の「月額0円」が撤廃されることが話題を集めていますが、既存ユーザーにも自動で適用されます。その理由について、楽天モバイルの三木谷浩史会長は「当初は既存ユーザーは0円を継続する方針でいたが、電気通信事業法により“ダメ”だと分かった」と述べています。

 続く説明にて、電気通信事業法第27条の3が規定する「行き過ぎた囲い込みの禁止」という規制により、「既存ユーザーは0円を維持したまま、新規ユーザーは1078円(税込み、以下同)から」という条件でのサービス提供が不可能だと判明した、とのことです。

 今回は、この「電気通信事業法第27条の3」について、その成立の経緯から詳しく振り返ってみたいと思います。

●そもそもの電気通信事業法とは?

 電気通信事業法第27条の3を見ていく前に、電気通信事業法とは何かを簡単にご説明しましょう。電気通信事業法は1985年に施行された法律です。この頃、日本では中曽根内閣の元で行政改革が推進されており、三公社と呼ばれた「日本国有鉄道」「日本専売公社」そして「日本電信電話公社」(電電公社)の3社がいずれも民営化しました。

 三公社のうちの電電公社は、「公衆電気通信法」という法律に基づき設置・運営されていた国有の電気通信事業者で、日本国内における公衆電気通信(「公衆電話」、すなわち街中に設置された公共の電話機のことではなく、商用で使われるパブリックな電話網のことをこのように称します)の独占的な事業を認められていました。

 この「公衆電気通信法」が廃止となり代わりに施行されたのが「電気通信事業法」です。1985年は、日本における電気通信の民営化元年とされ、電気通信事業法に基づき、電電公社を承継した日本電信電話株式会社(NTT)以外の電気通信事業者への公衆電気通信の門戸の開放が行われました。それ以来、37年に渡り、電気通信事業法は電気通信事業者にとっての「基本法」として、累次の改正を経て現在に至る、ことになります。

 電気通信事業法は全部で6つの章からなっており、順に「第一章 総則」「第二章 電気通信事業」「第三章 土地の使用等」「第四章 電気通信紛争処理委員会」「第五章 雑則」「第六章 罰則」となります。このうち第二章を見ると、利用の公平や重要通信の確保といった電気通信の大原則をまとめた「第一節 総則」、電気通信事業者としての登録や届け出といった手続きを規定した「第二節 電気通信事業の登録等」に続き、電気通信事業者が守るべきルールの中でも特に重要なルールがまとめられた「第三節 電気通信事業者の業務」があります(その後は略)。この「第二章 第三節」に、今回のポイントである「第27条の3」が含まれています。

 さて、「第二章 第三節」はそれだけでも非常に多岐にわたりますが、より細かく見ていくと、その中でも第26〜27条に利用者との間のルール、すなわち消費者保護に関連するルールが集中してまとまっていることに気付きます。一瞬、「たった2つの条文?」と思われるかもしれませんが、第26条と付く条文が5つ、第27条と付く条文が4つの、合わせて9つの条文が消費者保護に関連するルールとなっています。

 これは、近年、消費者保護の重要性が認識されルールが拡充している中、大幅に条文の番号をリナンバリングすることなく、法典の1カ所に関連する条文を集中させるための手であると思われます。「第27条の3」とは、第27条と頭に付く4つの条文のうちの3番目、ということになります。そして、この条文についたタイトルは「移動電気通信役務を提供する電気通信事業者の禁止行為」、すなわち(消費者保護の視点からの)携帯電話会社がしてはいけないルール、ということになります。

●電気通信事業法第27条の3の規定の詳細

 この第27条の3は1つ1つの文が長く、また括弧書きが多くて大変読みづらいのですが、簡単に内容をまとめると、以下の通りになります。

電気通信事業法第27条の3

1. 総務大臣は、次項の規定の適用を受ける携帯電話事業者を指定する

2. 前項により指定された携帯電話事業者は次の行為をしてはならない

一. 通信と端末を併せて契約した利用者に対し、そうでない利用者に比べて通信料金を値引きすること、その他競争を阻害する恐れのある利益の提供をしたりすること(一号禁止行為。青のマーカー部分は詳しくは総務省令で規定)

二. 利用者に対し、解約を妨げるなど競争を阻害する恐れがある料金その他の提供条件を約すること(二号禁止行為。詳しくは総務省令で規定)

3. 1項の規定による指定は告示によって行う

 問題はこの中に出てくる「総務省令」で、具体的には「電気通信事業法施行規則」と呼ばれるものですが、こちらの関連規定はさらに長く複雑なものです。

 若干不正確になることを承知で省令の一部(電気通信事業法施行規則第22条の2の16〜17)を書き下してみると、以下の通りになります。

電気通信事業法施行規則第22条の2の16

 青の総務省令で規定される禁止される利益の提供は以下の通り

1. 通信役務の継続利用を条件とする場合

 イ. 端末を割引して販売すること

 ロ. その他のサービス等を値引きすること

 ハ. 中古の買い取り価格を上乗せすること

 ニ. その他経済的利益の提供

2. 通信役務の継続利用を条件としない場合、2万円(ただし2万円以下の端末の場合はその価格)を超える端末値引き(詳細は省略)

(以下略)

電気通信事業法施行規則第22条の2の17

 緑の総務省令で規定される禁止される料金その他の提供条件は以下の通り。

一. 2年を超える縛り

二. 縛り付きのプランに対応する縛りなしのプランを提供していない場合は1年を超える縛り

三. 縛り付きのプランと、対応する縛りなしのプランを提供している場合、その差額が1月あたり170円を超えること

四. 違約金の額が1000円を超えること

五. (略)

六. 契約を一定期間継続した利用者に対する、1年あたりその1カ月分の料金を超える利益の提供

 一見、消費者保護とはあまり関係なさそうな(むしろ逆行しそうな)ルールが並んでいますが、これはどういうことなのでしょう。

 この第27条の3が加えられた2019年の電気通信事業法改正については、過去にこの連載でもその経緯や目的をまとめた記事を執筆しています。

 端的にまとめるなら、この条文の目的は「通信と端末の分離、行き過ぎた囲い込みの禁止」です。このときは、安い端末や2年縛り、長期利用者に対する大き過ぎる特典で事業者が利用者を囲い込むことは、競争を阻害し真の意味での利用者のためにならない。そのためにも通信料金収入からの端末の値引きを禁止・規制し、2年縛りのような提供条件を排除すべき、という議論がなされ、その結果として新たに電気通信事業法に追加されたのがこの第27条の3、というわけです。

●Rakuten UN-LIMIT VIIと電気通信事業法第27条の3の関係

 それでは、この規律のどこが、三木谷氏の発言「行き過ぎた囲い込みの禁止、という規制により、既存ユーザーは0円を維持したまま、新規ユーザーは1078円から、という条件でのサービス提供が不可能だ」につながるのでしょうか。

 電気通信事業法第27条の3は、既にご説明したように、その第2項が「一」「二」に分かれて規定されています。「一」が「通信と端末の分離」で、「二」が「行き過ぎた囲い込みの禁止」に対応しますから、三木谷氏の意図はこのうちの「二」に規定されたものと読み取れます。

 「二」の詳細を規定する電気通信事業法施行規則第22条の2の17の中で、期間拘束や違約金(これらは楽天モバイルにはありません)に関連する規定以外を読み、あり得そうなのはその中の「六」、すなわち「契約を一定期間継続した利用者に対する、1年あたりその1カ月分の料金を超える利益の提供」の部分でしょう。

 想像するに、Rakuten UN-LIMIT VIとUN-LIMIT VIIの差額(特に月間1GBまでの料金)について、UN-LIMIT VIIで規定されている月額1078円に該当するデータ量(0〜1GB)を、UN-LIMIT VIの利用者に引き続き0円で提供し続けることを、「契約を一定期間継続した利用者に対する利益の提供」とみなしたと推測されます。

 さて、この条文はこれまで見てきた通りかなり複雑なため、総務省による法律の適用に関するガイドラインが整備されています(もっとも、このガイドラインも十分に複雑なのですが……)。ガイドライン(※PDF)のP.62「6 不当な期間拘束 (8)契約を一定期間継続して締結していたことに応じた利益の提供」に、総務省令のうち該当する電気通信事業法施行規則第22条の2の17の第六号に対応するガイドラインが掲載されています。

 改めてガイドラインのその部分に目を通すと、4つある細目のうち、「(1)概要」には総務省令の条文がほぼ近い形で引用されており、「(2)規律の対象とする利益の範囲」には、「料金の減免その他これと同等の利益」として、料金の減免に加え、追加的なデータ量の付与、ポイントの付与、商品券の配布が例示されています。また「(3)継続利用割引による1年あたりの利益の額の上限である1月当たりの料金」には、総務省令が定める「1月の料金」の考え方として、「割引が適用される前の料金」「通話やデータのオプションを含む」などの考え方が示されています((4)は細かいので省略)。

 ところが、改めてガイドラインに目を通しても、このガイドラインがRakuten UN-LIMIT VIの利用者にUN-LIMIT VIIへの変更を強いざるを得ないものであるとは読み取れないように感じられます。まず、この条文では新しいUN-LIMIT VIIの料金と、それまでのUN-LIMIT VIの料金の、プランをまたがる差額が、当該ガイドラインが規定する「利益の提供」であると直接的に読める記載はありません。

 一般化して考えたときに、当該ガイドラインの(2)の定める利益の範囲としての料金やデータ量(このガイドラインではデータ量の付与も「利益」)の異なるプランAとプランBを1つの事業者が同時に提供することは当たり前の話です。Aの料金が高い場合であれBが高い場合であれ、あるいはAのデータ量が多い場合であれBが多い場合であれ、その料金の差額やデータ量の差がガイドラインにおける「利益」の提供であると解釈可能であれば大きな問題ですが、ガイドラインがそのようなことを、少なくとも現時点で想定して書かれていないことは明らかです。

 それに加え、そもそもこのガイドラインはRakuten UN-LIMIT VIやUN-LIMIT VIIの段階制料金プランすら想定しておらず、(3)にはどの段階を「1月の料金」として捉えるべきなのかについて全く記載されていない、すなわち、法令の適用判断である「利益」と「1月当たりの料金」の大小関係の把握すらこのガイドラインからはできないのです。

 お断りしておきますと、あくまでここに書いたことは筆者の現在のガイドラインへの理解に基づくものに過ぎません。ITmediaの当該記事によれば、同社の矢澤社長は「関係各所に相談した」と発言されていますので、ガイドラインの解釈については総務省との間で十分な議論がなされていると想定されます。また、ガイドラインの解釈論ではなく、楽天モバイルとして望む料金プランの在り方についても筆者の知るところではありません。

 本ガイドラインの別紙1には、ガイドラインの解釈に関する電気通信事業者から総務省への質問とその回答については、公正な競争環境を確保する観点から他の電気通信事業者に共有し、また次回ガイドライン改正のタイミングでガイドラインに反映する運用が規定されています。

 今回の一連の経緯において、どのようなガイドラインの解釈が生まれ、今後ガイドラインに盛り込まれるのか。次回のガイドライン改正に着目していきたいと考えています。

●著者プロフィール

佐々木 太志

株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) MVNO事業部 ビジネス開発部 担当部長

 2000年IIJ入社、以来ネットワークサービスの運用、開発、企画に従事。特に2007年にIIJのMVNO事業の立ち上げに参加し、以来法人向け、個人向けMVNOサービスを主に担当する。またIIJmioの公式Twitterアカウント@iijmioの中の人でもある。